
亡くなった弟と、もう一度並んで歩きたい。その願いから生まれたAI映像が、弟の親友たちから拒絶された。YouTube番組『令和の虎』に出演した実業家・青笹雅史氏が、故人をAIで再現するサービスを提案。生前の弟を知る桑田龍征氏は「死者に対する侮辱」と強く反発し、希望した500万円の出資はゼロに終わった。大切な人を失った悲しみから生まれた事業は、なぜこれほど厳しい評価を受けたのか。
青笹雅史が亡き弟をAIで再現 令和の虎で何が起きた?
10月10日に公開されたYouTube番組『令和の虎』。起業家が事業計画を説明し、経営者たちから出資を募る人気番組に、実業家の青笹雅史(あおささ・まさし)氏が志願者として登場した。提案したのは、亡くなった人の写真や動画、音声などをもとに、AIで新しい映像を制作するサービスだ。過去の映像を編集するだけでなく、生前には撮影していなかった場面も再現できるという。
青笹氏が披露したのは、2025年6月25日に29歳で急逝した弟・青笹寛史(ひろし)さんの映像だった。寛史さんは医師免許を持ちながら実業家の道を選び、動画編集スクール「動画編集CAMP」を全国に展開。『令和の虎』では出資者側の「虎」として活躍し、YouTuberのヒカルらとも親交があった。その弟が突然亡くなり、兄の雅史氏が会社の経営を引き継いだ。今回の事業は、弟の一周忌に制作したAI映像がきっかけだった。
「弟と一緒に歩きたかった」兄が再現したかった時間
番組で紹介された映像には、亡くなった寛史さんが『令和の虎』の出演者にメッセージを伝える姿や、兄弟が並んで歩く場面が収められていた。実際には撮影されていなかった兄弟の時間を、AIによって新たにつくり出したものだ。
雅史氏は、大人になると家族で写真を撮る機会が減り、弟と一緒にYouTubeの画面の中を歩いた経験もなかったと説明した。失って初めて、残しておけばよかったと思う写真や映像がある。その悔いをAIによって形にすることが、今回の構想につながった。
思い出を映像として残せるのであれば、同じように大切な人を亡くした家族にも届けたい。雅史氏はそう考え、500万円の投資を希望した。しかし、制作した映像を見た出資者たちの反応は、本人の期待とは大きく異なるものだった。
桑田龍征が激怒「だって青笹じゃないじゃん」
特に強い拒否感を示したのが、実業家で元ホストの桑田龍征氏だ。寛史さんとは『令和の虎』を通じて親交が深く、2026年7月に開かれた一周忌の送る会にも参加していた。桑田氏はAI映像を見て「だって青笹じゃないじゃん」と反発。亡くなった友人の姿が人工的に再現され、本人が実際には語っていない言葉を口にすることに、強い違和感を示した。
桑田氏にとって、寛史さんとの別れは約1年をかけて向き合ってきた現実だった。友人の死を受け入れようとしてきたところへ、本人そっくりの姿と声で新しいメッセージが届けられた。その衝撃は、再会を望んでいた兄の思いとは正反対のものだった。
ここに今回の騒動の核心がある。雅史氏にとっては、弟との思い出を増やすための映像。しかし、弟を知る友人にとっては、すでに別れを告げた相手が、本人の意思とは無関係に再び語り始めた映像だった。同じ人を大切に思っていても、その人の死との向き合い方は異なる。兄と親友の間に生まれた温度差が、番組で激しい議論を呼んだ。
岩井良明氏の妻も拒否 遺族が望むとは限らないAI再現
議論の中では、『令和の虎』の初代主宰で2024年に亡くなった岩井良明氏の妻・詠子氏にも意見が求められた。夫をAIで再現するサービスがあれば使いたいかと問われた詠子氏は、「ごめんなさい。使いたくないです」と回答。現在も夫との別れを受け入れる途中にあり、生前の映像を見ることさえつらいという心境を明かした。
亡くなった人にもう一度会いたいと願う家族がいる。一方で、生前の写真や動画に触れるだけで悲しみがよみがえる家族もいる。詠子氏の言葉は、AIによる再現が必ずしも遺族の慰めになるとは限らない現実を示していた。
司会の乙武洋匡氏は、再現映像を見て故人に会えたと感じる出資者が何人いるかを尋ねた。5人の答えはゼロだった。再現技術の精度と、人が感じる「再会」は別のものだった。顔や声がそっくりでも、そこに本人がいると感じられるかどうかは、見る人によって大きく変わる。
9万8000円から69万8000円 故人の再現を商品にする難しさ
青笹氏が提示したサービスの想定価格は、短編映像が9万8000円、中編が29万8000円、構成まで作り込む長編が69万8000円だった。年間の死亡者数をもとに、一定割合の遺族が利用すれば事業として成立するという収支計画も示した。この数字が意味するのは、個人的な追悼映像を、多くの遺族に販売するサービスへ発展させようとしていたことだ。兄弟の思い出として制作する場合と、第三者から依頼を受けて故人の姿や声を生成する場合では、考慮すべき問題も変わる。
例えば、亡くなった本人が生前にAIによる再現を望んでいたかという問題がある。家族の誰かが希望しても、ほかの遺族は反対するかもしれない。さらに、AIで生成した言葉や表情が、故人の本来の考え方と一致する保証もない。とりわけ難しいのは、亡くなった本人に確認できないことだ。故人の声で語らせる言葉を誰が決めるのか。生前の本人の意思と、遺族が聞きたい言葉が食い違った場合、どちらを優先するのか。
生成AIの技術が進歩するほど、本物と見分けがつかない映像を制作できるようになる。だからこそ、制作する人の判断や、利用者に対する説明の重要性が高まっている。
青笹雅史が明かした会社の苦境 弟の事業を守る重圧
雅史氏が今回の事業を提案した背景には、弟から引き継いだ会社の厳しい経営状況もある。2026年8月、雅史氏は自身のYouTubeチャンネルで、会社の売上が弟の生前のピーク時と比べて約3分の1に落ち込んでいると説明した。さらに、元Repezen FoxxのDJ社長への貸付金が兄弟合わせて1億円を超え、相続税の支払いも重なっていることを公表。「このまま何も変わらなければ、正直会社も年内危ないような状況」と経営への危機感を明かしていた。
弟が築いた会社を守る責任を背負いながら、自分自身の事業も確立しなければならない。雅史氏は『令和の虎』でも、動画編集スクールの事業がAIの普及によって影響を受けていることを語った。
今回のAI映像サービスには、弟への思いと、新たな収益源をつくろうとする経営者としての立場が重なっている。個人的な追悼と事業としての成功。その二つを同時に実現しようとしたことが、結果として出資者たちとの議論を難しくしたとも考えられる。
「もう一度会いたい」SNSでも賛否 出資は完全NOTHING
番組の最終判断では、5人全員が今回の出資を見送った。4人が「NOTHING」、桑田氏は将来的な可能性を示す「いずれ」を選択したが、希望額500万円の獲得には至らなかった。
動画公開後には、SNSやYouTubeのコメント欄でも意見が分かれた。故人との別れを受け入れることの大切さを訴える声や、残された映像を編集するだけで十分だとする意見がある一方、子どもや家族を亡くした立場なら利用したいと考える人もいた。また、4歳の息子を亡くしたという実業家の青木佑太氏は、残された写真や映像とAIが新たにつくったものには大きな違いがあると指摘。自身は利用を望まないという考えを示している。
雅史氏も動画公開後、Xで今回の説明を振り返った。自分が想定していたのは思い出を残すメモリアルムービーに近いサービスだったものの、番組では故人と会話できることが魅力であるかのように伝わってしまったと説明。自分にとって意味のある映像が、すべての人に同じ価値を持つわけではないとの認識も示した。
青笹雅史のAI再現が突きつけた「故人は誰のものか」
今回、雅史氏が再現したかったのは、弟と過ごせなかった時間だった。桑田氏が守りたかったのは、生前の寛史さんとの記憶。そして岩井詠子氏は、亡き夫の姿を今も直視することが難しいと語った。それぞれが大切な人を思っている。しかし、その思いから選ぶ行動は大きく異なっていた。
AIによって、撮影されていなかった家族の姿を新たに映像化できる時代が来た。遺族の悲しみを和らげる可能性がある一方、故人の意思を確かめられないまま、新しい言葉や行動を与えることもできる。今回の事業が厳しく評価された理由は、技術の完成度や収益性だけでは説明できない。生前の本人が望んだかどうか、残された家族や友人がその映像をどう受け止めるか。その答えが、人によって違うからだ。
青笹雅史氏にとって、弟と並んで歩くAI映像には大きな意味があった。一方、桑田龍征氏にとっては、友人との別れに向き合ってきた時間を揺さぶるものだった。大切な人を思う気持ちは同じでも、その人をAIでよみがえらせたいとは限らない。故人の姿や声をどこまで再現してよいのかを、生きている人だけで決められるのか。青笹氏の挑戦は、AIが人間の記憶に深く入り込む時代の難しい問題を浮かび上がらせた。



