
神奈川県箱根町の高級温泉旅館「箱根強羅 白檀」で、従業員が食材を使ってふざける様子を撮影した動画が拡散し、炎上している。人気YouTuberのコレコレが配信で取り上げたことをきっかけに問題が表面化し、運営会社は10月11日に謝罪。「客には提供していない」と説明した。しかし、高額な宿泊料金に見合う上質なサービスを売りにする旅館で、なぜこのような行為が起きたのか。
米粒を指に、キャラメルソースを腕に
「箱根強羅 白檀」は、神奈川県箱根町二ノ平にある高級温泉旅館だ。約3700坪の敷地に客室は16室のみ。全室に自家源泉掛け流しの露天風呂を備え、地元の海や山の食材を生かした懐石料理を提供している。2017年に開業し、有限会社シンクロス・リゾートが運営する。
今回の問題を取り上げたコレコレは、視聴者から寄せられた情報をもとに、芸能人やインフルエンサーの疑惑、企業の不祥事などを生配信で扱う人気YouTuberだ。ユーチュラによると、問題の動画には、撮影者が指に米粒を付けたり、腕にキャラメルソースを塗ったりする様子が映っていた。もともとは非公開アカウントに投稿された動画で、関係者を通じてコレコレに情報が寄せられたという。料理を提供する厨房で食材を遊び道具にする様子が、コレコレの配信を通じて広く知られることになった。
旅館に動画を送付するも連絡途絶 コレコレが公開に踏み切った理由
コレコレは問題の動画を紹介するだけでなく、撮影したとされる人物とも通話した。相手は自身の行為について説明し、翌日の出勤時に旅館へ報告する意向を伝えたという。勤務先から処分を受けることも覚悟している様子だった。
コレコレは旅館側にも問題を知らせようと電話で連絡を取り、公式メールアドレスに動画を送付した。しかし、その後は旅館側とも撮影者とも連絡が取れなくなったという。コレコレは、問題が発覚したにもかかわらず、旅館から謝罪や説明が公表されていないことを批判。こうした対応への不満から、動画の公開に踏み切ったと説明している。一方、運営会社は10月5日に問題を把握していたとしており、当時の社内対応とコレコレ側への連絡状況については、両者の説明に違いが残る。
「食材は廃棄予定だった」運営会社が10月11日に謝罪
シンクロス・リゾートは10月11日付で謝罪文を公表した。会社側によると、問題を把握したのは10月5日早朝。動画で使用された食材は就業後に廃棄する予定だったもので、宿泊客の料理として提供された事実はないという。
会社は調理場での不適切な行為や撮影・発信について謝罪し、関係者の処分を含めて厳正に対処すると説明した。衛生管理と服務規律の強化も表明している。ただ、問題を把握してから謝罪文を掲載するまでには6日間が経過した。この間の詳しい対応経緯や、具体的な再発防止策については公表情報が限られている。
1泊20万円の高級旅館 客が買っているのは「料理」だけか
コレコレの関連動画では「一泊20万の高級旅館」という言葉が使われている。実際の料金は客室や人数、宿泊時期によって異なるが、白檀は全16室の客室露天風呂や懐石料理、自然に囲まれた静かな環境を売りにする高級旅館だ。
運営会社は公式サイトで、素材や仕込みにこだわった料理、顧客の期待を上回るサービスを掲げている。宿泊客が高額な料金を支払うのは、豪華な客室や料理のためだけではない。食材が丁寧に扱われ、目の届かない厨房でも適切な管理が行われているという信頼も、宿泊体験の一部だ。廃棄予定の食材だったとしても、それを使ってふざける様子が撮影された事実と、旅館が掲げるおもてなしの姿勢には大きな落差がある。
従業員の悪ふざけで終わるのか 厨房の管理体制にも疑問
食品を扱う厨房では、食材や調理器具の衛生管理に加え、従業員の行動や作業環境の管理も欠かせない。今回の動画では、撮影が行われた際に周囲に誰がいたのか、管理者が把握していたのかといった詳細は明らかになっていない。従業員への教育や監督がどのように行われていたのかも、再発防止策を考えるうえで重要になる。
シンクロス・リゾートは白檀のほか、箱根の「玄」や湯河原の「阿しか里」などを運営する。公式の会社概要によると、従業員は133人、2025年4月期の売上高は23億円。複数の宿泊施設を抱える企業にとって、現場で規則が守られているかを確認する仕組みは欠かせない。従業員個人への処分とともに、こうした行為を防ぐ管理体制の整備も問われる。
「客には出していない」で信頼は戻るのか 白檀に残された課題
運営会社は問題の食材を宿泊客に提供していないと説明した。衛生面での不安に対する重要な回答である一方、今回の騒動で明らかになったのは、厨房での従業員の行動と旅館が掲げるサービス理念との隔たりだ。非公開アカウントへの投稿だった動画が外部に伝わり、コレコレの告発を経て謝罪に至った経緯も、企業としての情報管理や初動対応を考える材料になる。
今後の焦点は、従業員への処分と再発防止策の具体化だ。厨房での撮影や食材の取り扱いに関するルールをどう徹底するのか。日常の業務の中で管理者がどのように確認するのか。宿泊客にとっては、現在の厨房が安心して食事を任せられる環境にあるかどうかが最も重要だろう。
高級旅館の価値を支えるのは、豪華な設備や美しい料理だけではない。宿泊客が見ることのできない場所で、どこまで丁寧な仕事が行われているか。白檀が失った信頼を取り戻すには、その部分を具体的な行動で示す必要がある。



