
今、IT業界、とりわけエンジニアを他社へ派遣するSES(システムエンジニアリングサービス)業界をゆるがすスキャンダルが勃発している。火の手を上げたのは、ビジネスYouTube番組『令和の虎』の“虎”としても知られる株式会社テクニケーションシード代表の「にしけん」氏による怒りのSNS告発。
ターゲットとなったのは、グループ合計1000人規模を誇る新興SES企業「株式会社日本戦略ホールディングス(旧社名:株式会社エンジニアのミカタ)」と、そのトップである田代正義代表取締役である。ネット上には過酷な現場を物語る社内チャットのスクリーンショットが次々と流出し、業界内に大きな激震が走っている。
高還元率SESの寵児「エンジニアのミカタ」とは何者か
そもそも渦中の「エンジニアのミカタ」とはどのような会社なのか。同社は2020年に設立されたITベンチャーで、これまで「中間マージンが多く給料が上がりにくい」とされてきたSES業界の足元を見透かすように「還元率83%」という驚異的なハイリターンを掲げて急成長を遂げてきた。
頑張れば給与に直結するという甘い言葉で若手や未経験エンジニアの心を掴み、設立からわずか数年でグループ1000人規模へと登りつめた同社だったが、その輝かしい成長の裏側には、法をも軽視する凄惨な実態が隠されていたのである。
元公安トップを顧問に据えて「コンプラ強化」も……わずか10日で崩壊した鉄壁の守り

皮肉なのは、炎上騒動が勃発する直前のプレスリリースだ。同社は2026年9月25日付のプレスリリースで、元公安調査庁長官や広島高等検察庁検事長を歴任した刑事司法の重鎮・和田雅樹弁護士を自社の顧問に迎えたと華々しく発表していた。
「急成長している会社だからこそ、守りを先に固める」「コンプライアンスとガバナンス体制を強化し、取引先に安心していただける会社をつくる」と、田代代表自ら高らかに宣言していたのである。
しかし、日本の司法のトップ経験者を“後光”として掲げ、コンプラ強化を誇示していたその舌の根も乾かぬうちに、身内から法を無視した恐るべき不祥事の数々が噴出することとなった。
「魔改造」指示に「サクラ口コミ」強要!暴かれゆく組織的隠蔽の罪
流出した社内チャットによって露呈したのは、組織的な「詐称」と「捏造」のやり口だ。まず浮上したのが、顧客へ提出するエンジニアのスキルシート(経歴書)を偽造する「経歴詐称(通称:魔改造)」の直接指示である。
実際の経験やスキルを遥かに上回る偽りの経歴を作り上げて高単価で売り込んでいた疑いがあり、社内チャットには「田代さんから魔改造の指示があったのですが、本人にどう伝えていいかわからず……」と困惑する社員の悲痛な声が記録されている。
さらに悪質なのは求職者を欺くためのサクラ口コミ投稿の強制だ。田代代表自身が全社チャットにおいて、口コミを書かない者は容赦なく評価を下げると言い放ち、人事評価を盾にして虚偽の投稿を強要していたことが判明している。
「自宅突撃」と「皿洗い・金属加工」……若手を壊す惨状と暴走経営
被害は社外や求職者にとどまらず、社内のエンジニア自身にも及んでいた。内定辞退や退職を阻止するための行動指針として「自宅に突撃!!」という不穏な言葉がチャット上に連打されていたほか、未経験事業部でエンジニア志望として入社した若者たちが、実際にはプログラミングではなく「皿洗い」や「金属加工」の現場で稼働している実態を田代代表自らが明かしていた。
さらにSNS上では、退職勧告を社内で「ポア」と呼ぶといったおどろおどろしい隠語の存在まで取り沙汰されている。これら常軌を逸したやり方に抵抗を感じる社員に対し、田代代表は「評判を気にしてアグレッシブなアクションを取れない人は辞めてください」「嫌がられる基準でやる会社が大成功しています」と開き直り、暴走を加速させていったとされる。
「ぶっ殺したい」脅迫と「最終通告」!10月10日動画公開のカウントダウン
この暴走に対し、証拠を揃えて切り込んだのが告発者のにしけん氏だった。しかしリーク初期、田代代表は社内チャット等で自身に対し「ぶっ殺したい」「殺したい」と言及していたスクショが流出。強い脅威を感じたにしけん氏は全証跡を画面共有して解説する暴露動画を撮影し、公開されれば取引先も入社希望者もゼロになり再起不能になると断言した。その上で、在籍・退職社員およびSNS言及者への一切の訴訟放棄と、社内調査委員会へのにしけん氏または第三者の参画という2つの条件を10月9日金曜日の23時59分までに受諾するよう最終通告を突きつけたのである。
条件が満たされなければ、10月10日土曜日の昼に全暴露動画が公開されるという。追い詰められた田代代表は10月5日夜にSNS上で謝罪文を投稿し、ガバナンス不備やスキルシートの過度な誇張があった事実を認め、弁護士による調査委員会を発足させたものの、業界からの冷ややかな視線は消えていない。
SES業界に潜む悪質手口「2ヶ月食い逃げ」と「看板掛け替え」の実体
しかし、今回の騒動は一企業の不祥事にとどまらず、SES業界全体に根深く潜む悪質なビジネスモデルの存在を炙り出す格好となった。
ITエンジニアのしのゆ氏が自身のnote記事『SESの経歴偽装受注、ダメぜったい』(2026年10月3日公開)で解説している通り、業界には発注元が技術力を見抜けない構造的な穴を狙った悪質な手口が存在する。即戦力を求める発注元は面談時間が短く実技テストも行えないため、経歴書の文字を信じるしかない。未経験者を偽りの経歴で現場に送り込んでも、現場側は「慣れていないだけか」と様子を見るため、解約までに約2ヶ月がかかる。
悪質業者はこの様子見の2ヶ月間に発生する委託費を掠め取ることを最初から狙っているのだ。仮に1社が出入り禁止になっても、複数のグループ会社を用意しておき、社名という看板を掛け替えて別のグループ会社から同じクライアントへ再び未経験者を送り込むという手法で稼ぎ続ける。
こうした行為について過去には民事裁判で、未経験者に虚偽のスキルシートを作らせて派遣した企業に対し、東京地裁・高裁が「取引先に対する詐欺行為」と認定し、2026年2月に最高裁で賠償命令が確定した判例も存在する。司法もまた、経歴偽装を単なるマナー違反ではなく明確な違法・詐欺行為と断罪しているのだ。
真面目に教育する優良企業が「馬鹿を見る」構造を打ち砕け
こうした悪徳企業が一部で横行することに対し、SES業界の企業側や現場からは強い怒りの声が上がっている。発注元企業が一度でも経歴偽装の被害に遭えば「もうSESを使うのはやめよう」「外部委託はリスクが高すぎる」と警戒を強め、業界全体への発注を絞り込むようになるからだ。
その結果、自社でエンジニアを一から大切に教育し、誠実な技術力と人材を提供している優良なSES企業までが巻き添えを食らい、仕事が減っていくという「悪貨が良貨を駆逐する」最悪の事態が招かれる。真面目に人を育てて技術を支えている企業が損をし、目先の利益のために業界の信用を切り売りして逃げ切る会社が得をするような構造は、絶対に許されてはならない。
10月10日に予定される動画公開の行方はもちろんのこと、SES業界全体がこうした毒を排除し、健全な育成と取引の場を取り戻せるかが今まさに問われている。



