ログイン
ログイン
会員登録
会員登録
お問合せ
お問合せ
MENU

最先端の科学技術に対する企業家の役割|株式会社ブロードバンドタワー代表取締役会長兼社CEO・技術経営士 藤原洋

コラム&ニュース 有識者VOICE
リンクをコピー
株式会社ブロードバンドタワー代表取締役会長兼社CEO・技術経営士 藤原洋さん
藤原さん写真 Zoomのスクリーンショット。2022年4月1日には、仙台市のCDO補佐官に就任。総務省では情報通信政策に関わる政府有識者会議委員を35年間務めている。

インターネット黎明期から今日にかけて、IT業界を牽引してきた大御所と聞くと、どんな人を想像するだろうか。その人はビル・ゲイツとも繋がりがあり、3回の上場を経験し、今なお国の要職についている。

多くの人が想像するのは、株主至上主義な思考を持つ、経営者の姿ではないだろうか。

ところが、その人の名を冠したホールが、慶應義塾大学にある。東京大学の天文台や京都大学の3.8M天体望遠鏡プロジェクトも、この人の寄付があったから、スタートしたと大学のサイトに明記されている。

どんな人なのだろう。

いい会社とは何か。社会の公器を探るシリーズ。

その人の名は、藤原洋。株式会社ブロードバンドタワー代表取締役 会長兼社長 CEO・技術経営士という肩書だ。

岸田総理が所信表明演説で、「デジタル田園都市国家構想」を「新しい資本主義」の実現に向けた成長戦略の第二の柱と位置付けたことは記憶に新しい。

大胆なIT投資で地方振興を図る同構想には、総額5.7兆円の予算が投じられるという。藤原さんは、この流れに呼応するように、産学官連携の新しいプラットフォーム「一般社団法人デジタル田園都市国家構想応援団」を立ち上げている。

取材は、株主至上主義の否定から始まった。「デジタル田園都市国家構想」時代に求められる技術経営戦略とテクノロジーマネジメントの要諦を伺いながら、社会の公器とは何かを探る。

社会を変えるのはテクノロジー、企業競争力の源泉は技術経営戦略

現代社会はデジタル情報革命の進展に伴い、世界中であらゆる産業の構造変化が加速している。この流れをどう見ているか。

藤原

私は起業前の10年間、情報通信分野の国際標準化活動に関わる研究開発リーダーを務めていたため、海外の10カ国以上の産官学の立場の人々と交流する機会があった。

そこで痛感したのが、「インターネットの登場後、日本だけが負けている」ということだ。端的に表れているのが、世界時価総額ランキング。

平成元年にはTOP5を日本企業が独占し、上位50社中32社は日本企業だった。しかし、2022年には50位以内の日本企業は1社のみ。

低迷の理由は所与の条件が複雑に絡み合ってということになるが、少子高齢化が加速する日本では、国家予算の大部分が医療や福祉領域に投下され、デジタル技術への投資が後手に回ったという財政構造の問題に起因している点は大きいだろう。

株主資本主義経営の弊害

藤原

企業サイドで見れば、欧米のアングロサクソンキャピタリズムである株主資本主義に大きくシフトし、ROEなど短期的利益と時価総額の極大化を追求してきたことも無視できない。

日本企業も影響され、短期的利益を追求せざるを得ず、中長期的な研究開発への投資を怠ってきた。

株主資本主義は利益を最大化するため、仕入れをできるだけ安く抑えるので、下請けの中小企業は搾取される構造に陥りがちだ。いや、下請けとして仕事があれば良い方というのが、この30年の実情だろう。

事実、製造業では、生産コストを下げるために海外に工場を移転する流れが、日本の各地域を弱めていった。周辺の商店街はシャッターが下ろされ、東京一極集中が加速した。

一部の大企業の社員には良い給料が与えられ、株主には良い配当が出せたかもしれないが、これらは全くもって持続可能ではなかった。

行き過ぎた株主資本主義がもたらしたものは、サプライヤーに皺寄せのいく構造であり、日本の国内産業が総じて没落していった。

同時に、財務諸表ばかりを重要視し、数字でしか企業価値を見ない経営が主流になり、この流れを加速させていったと言える。

技術で未来の企業価値を見る技術経営にシフトせよ

日本企業低迷の最大の原因は株主資本主義であったと。

藤原

現在の歪な構造がおかしいということは誰しも気づいている。それゆえ、新しい資本主義が必要であり、ステークホルダー資本主義のような考え方が求められている。

私は今こそ日本企業は財務諸表にはあらわれない未来の企業価値や、技術で企業価値を見る経営、つまり「技術経営」にシフトすべきだと考えている。

これはいまなお進化し続けている実学で、「技術が分かる経営者」と「経営が分かる技術者」を養成する手法のことを指す。現在の企業経営には、技術と経営の両輪が必要なのだ。

2030年へ向けて企業の技術経営環境は大きく変化した。どの産業セクターでも、質的・量的に異なる技術経営戦略の相違について理解する必要がある。

現在必要となっている技術経営戦略とその実戦的手法(企業間・産業官連携や資金調達戦略、人材開発等)を身につけることが求められる。

歴史的に見ても、社会を変えるのはイデオロギーではなくテクノロジーだ。企業にとって
真の競争力の源泉は技術経営戦略にあるといっても過言ではない。

技術革新がもたらす産業構造の変化に対応可能な技術経営を意識し、技術革新の本質を理解し、次の時代を読んで、的確な技術経営戦略を立案できることが重要だ。

未来の財務価値を生む非財務情報を見抜く

では、技術経営の視点が不足した経営者とは?

藤原

日本の一般的な企業経営者の姿だが、R&Dの軽視、さらに企業にはサステナブル対応が必須となった時代にもかかわらず、まだ財務諸表に現れるものしか考えない経営者を指す。

昨今声高に必要性が叫ばれるSDGsやESGもコストとしか考えず、非財務情報の重要性を理解できない会社のことだ。パラダイムが変わったのに、それを認識できていない。

企業競争力の根幹となるのは、財務諸表に現れない価値だ。自社が地域や地球環境にどのように貢献しているか、どのように社会の役に立っているかを俯瞰できていない企業は認識を改める必要がある。

非財務価値を生むために、企業は内部留保をするだけではなく、アカデミアへの活動支援や産学連携プロジェクトへの投資を行った方が良い。

一見遠回りに思えるかもしれないが、平たく言えば、中長期で考えると、自社の持続可能性を向上させていくはずだ。

R&Dや産官学連携への投資は、社会貢献であり未来への投資

日本は基礎研究では世界に先行しているにもかかわらず、実用化の段階や社会実装となると欧米に負けてしまう。昨今では、量子コンピュータなどがそうだろう。忸怩たる想いをもつ技術者も多い。

藤原

非常にもったいないことだ。経営者が財務諸表しか見ていないから、産学連携が上手く運ばないのだ。

藤原さんは慶應義塾大学創立150周年記念事業のひとつとして、20億円を寄付している。

藤原

官が主導するOSIと戦ってインターネットを発展させた慶應義塾大学に敬意を表して寄付させていただいた。1990年代当時、日本政府や通信キャリアは、インターネットの重要性を認識していなかった。

そのなかで唯一慶應義塾大学の村井純教授(当時は博士課程学生、内閣官房参与〔デジタル政策担当〕、現当社社外取締役)が、産学連携研究グループ(WIDEプロジェクト)を率いてインターネットの技術開発、国際標準化活動に従事していた。

政府も通信キャリアも手を出さない自発的な学術研究だが、私も1980年代から同活動に参加させていただき、インターネット・テクノロジーの研究開発と事業化に取り組んだ。

この先駆的な慶應義塾大学の功績に敬意を表したいということで、藤原洋記念ホールを寄贈させていただいた。

他にもアカデミアへの活動支援として、一橋大学ベンチャーファイナンス寄附講座、京都大学附属天文台のアジア最大の直径3.8m天体望遠鏡建設、東京大学附属天文台の世界最高標高のチリ・アタカマ天文台、東京大学数物連携宇宙研究機構、中部大学藤原洋記念超伝導・持続可能エネルギー研究センター、イスラエル工科大学(テクニオン)Hiroshi Fujiwara Cyber Security Research Centerなどへも寄付を行ってきている。

イノベーションの原動力となる熱量を未来につなぎたい

技術革新や藤原さんの社会貢献活動で大切にしていることは?

藤原

最後は「人」を見る。私の考える社会貢献活動は、チャリティではなくフィランソロピーだ。

社会の課題解決につながるようなイノベーションの原動力への貢献が重要だと考えているので、イノベーションの種になりそうな、志をもっている人であるかどうかを判断基準としている。

社会や会社には常に課題と問題が発生する。それらを解決するイノベーションをいかに起こせるか。私も引き続き、できるだけ多くの課題と問題を解決することを人生の目標としていきたい。

引退後も、後輩たちが同様に取り組み続けることを切に願っている。

科学者・エンジニア・起業家の「三刀流」への道

藤原洋さんを一言で表すと、科学者・エンジニア・起業家が融合する「三刀流のテクノロジスト系起業家」となるだろう。

科学者としてのルーツは、中学時代に読んだアインシュタインの『相対性理論』に衝撃を受けたことにまで遡る。世界を変える発見がしたいと科学者を目指して、京都大学に進学。宇宙物理学を専攻している。

宇宙物理学の研究は、天体観測望遠鏡と観測データを演算処理する大型コンピューターの性能が国際競争力に直結する分野だ。

大学進学後、藤原さんの好奇心は、宇宙の謎を探求する道具でもあり、国家間の競争優位性の源泉ともなりうる新たなテクノロジーであるコンピューターへと向かった。

「新しいものはコンピューターの分野で起きているらしい」という気づきから、宇宙物理学から一転、エンジニアの道を志し、東京大学電子情報工学の工学博士を取得するに至っている。

卒業後はコンピューターをゼロから学べる環境を求め日本アイ・ビー・エムへ入社している。

ところが、3ヶ月半で退社。ハードウェア開発の中枢は米国にあり、「当時の日本はセールスが主体であるという企業組織の現実に直面した」と語る。

そこから、藤原さんは、大学時代の恩師のつてを頼る。そして、日立エンジニアリングに転職する。日立エンジニアリングでは、制御用コンピューター開発チームに配属となった。

だが、すぐに日立製作所に出向となり、当時最先端技術であったリアルタイム分散処理コンピューターの開発に従事することに。

CPUの設計を含め、ゼロからコンピューターを生み出す経験が、「エンジニアとしての基礎となった」と述懐している。

この頃、先輩エンジニアとしてプロジェクトに参画していた、後に経団連(日本経済団体連合会)の名誉会長を務めた中西宏明さん(2021年6月29日逝去)と出会う。

新幹線、発電所、製鉄所など社会インフラの制御用コンピューターの開発に8年ほど従事した後、極秘裏に開発を進め、自律分散型のネットワークの業界標準規格となるイーサネットLANの開発に成功した。

エンジニアとしての名が業界に知れ渡るようになると、アスキー創業者で日本マイクロソフト副社長だった西和彦さんに紹介され、ビル・ゲイツと出会ってもいる。

「国際標準は市場が決める」との考え方に共感したという。アスキーに転職後、インターネット時代の動画像圧縮規格(MPEG)の国際標準化の官民プロジェクトのリーダーに抜擢され、以降、数々の公職を歴任することになる。

テクノロジスト系の起業家として東証マザーズに第1号上場、時価総額1兆円に

起業家としてのキャリアのスタートは、1996年。通信事業者に向けてブロードバンドサービスを提供するインターネット総合研究所を設立し、同社代表取締役所長に就任。

正に時代を掴んだビジネスだったこともあり、1999年に東証マザーズに第1号上場を果たし、時価総額1兆円を達成するなど、インターネット黎明期におけるアントレプレナーとして脚光を浴びた。

16年後の2012年4月、株式会社ブロードバンドタワー代表取締役会長兼社長CEOに就任。ベンチャーキャピタリストとして後輩のアントレプレナーの育成や支援にも注力し、SBI大学院大学では学長を務め、技術経営戦略とその実戦的手法(企業間・産業官連携や資金調達戦略、人材開発等)などを教授する。

また、一般財団インターネット協会理事長、一般社団デジタル田園都市国家構想応援団代表理事、東京大学大学院数理科学研究科連携客員教授、京都大学宇宙総合学研究ユニット特任教授を兼務。

総務省・情報通信政策に関わる政府有識者会議委員を35年間務めるなど、多数の公職を歴任している。

藤原さん自身が技術をベースとした企業活動のキャリアを歩んできたからこそ、昨今の技術を軽視する経営に警鐘を鳴らすのだろう。

世界各地の巨大天文台は、大企業家たちが多額の寄附をしたからつくることができたと言われている。企業家には役割がある。

「一番の貢献は、人類の発展に寄与すること。私はそう考える」藤原さんはインタビューのなかで、そう語った。最先端の科学技術に対する企業家の役割。社会の公器とは何かを考えるうえで、示唆に富む話である。

プロフィール
藤原洋
株式会社ブロードバンドタワー代表取締役 会長兼社長 CEO
1977年3月京都大学理学部卒業。東京大学工学博士(電子情報工学)。日本アイ・ビー・エム、日立エンジニアリング、アスキーを経て、1996年12月、インターネット総合研究所を設立。同社代表取締役所長に就任、2012年4月、ブロードバンドタワー代表取締役会長兼社長CEOに就任。
公職:(一財)インターネット協会理事長、(一社)デジタル田園都市国家構想応援団代表理事、SBI大学院大学学長・教授、東京大学大学院数理科学研究科連携客員教授、京都大学宇宙総合学研究ユニット特任教授を兼務。総務省Beyond5G推進戦略懇談会など情報通信政策に関わる政府有識者会議委員を35年間務める。デジタル信号処理・コンピュータネットワーク分野に関わる研究開発技術者、国際標準化日本代表を経て、インターネット・テクノロジー分野の起業家。3回の上場経験。

◎会社概要
株式会社ブロードバンドタワー
https://www.bbtower.co.jp/
設立:2000年(平成12年)2月9日
本社所在地:〒100-0011東京都千代田区内幸町2-1-6日比谷パークフロント9F
TEL:03-5202-4800(代表) 
FAX:03-5510-3431
資本金:3,345百万円(2021年12月31日現在)
事業内容:コンピュータプラットフォーム事業、IoT/AIソリューション事業、メディアソリューション事業

Tags

タグ