
長野県上田市を拠点に、50年以上にわたり工業用潤滑油の販売を手がけてきた新進商事株式会社。近年では、自動車用エンジンオイルや使用済みオイルのリユース、現場でのメンテナンスへと事業領域を広げ、地域のものづくりを多方面から支えている。その歩みは決して平坦ではなく、現社長の福澤祐樹氏は経営危機に直面した会社を約3年で黒字化へと導いた経験を持つ。そこから見えてきたのは、人とのつながりを大切にしながら、地域とともに歩む会社のあり方だった。事業を変化させながら50年を歩んできた新進商事の強みと、再建を通して福澤氏が気づいた組織のあり方について話を伺った。
オイル販売からリユース、メンテナンスへ。変化と共に歩んだ50年間
長野県上田市を拠点とする新進商事株式会社は、1974年の創業以来、ものづくりの現場に欠かせない工業用潤滑油の販売を事業の柱としてきた。2025年5月には、自動車用エンジンオイル事業部を立ち上げ、新たな販路の開拓を開始。加えて、同時期より使用済みオイルを再生するリユース事業も本格稼働させた。
リユース事業では、クライアントが使用したオイルを回収し、自社で再生処理を施したうえで、再び同じクライアントへ届けている。使用済みのオイルを廃棄するのではなく、再び使える状態にして循環させる仕組みだ。この取り組みはクライアントから高い評価を得ているという。
さらに同社は、オイルの入れ替え作業や現場でのメンテナンス工事にも注力している。以前は従業員が営業活動に追われ、平日に現場作業へ十分な時間を割くことが難しい時期もあったというが、現在は5名の女性スタッフによるフォロー体制が整ったことで、男性営業陣が平日の日中も現場作業に集中できるようになった。役割分担の見直しが、同社の新たな強みを生んだようだ。

およそ50年間続いてきた事業は、決して平坦な道ではなかった。オイルショックや新型コロナウイルス、ホルムズ海峡情勢の緊迫化など、様々な国際情勢により、国内でのオイル調達が一時的に困難になった時期もあったという。
「それまで頼っていた仕入れルートが軒並み使えなくなり、正直かなり厳しい状況でしたね。それでも、日本が厳しいようであればアジア、それさえ厳しいようであれば異なる地域へと調達範囲を広げて、これまで取引のなかった国にも直接声をかけていきました」(福澤氏)
2026年のホルムズ海峡情勢の緊迫化では、マレーシアなど複数の国とのやり取りを重ねた末、最終的には地政学的な影響を受けにくいアメリカからの直接買い付けというルートにたどり着き、供給の危機を乗り越えたという。
脱炭素や資源循環への関心の高まりも、事業を見直す契機となったそうだ。リユース事業の本格展開に踏み切った経緯としては、従来型の販売モデルのままでは将来的に立ち行かなくなるという危機感があった。この転換により、クライアントからは「こんなサービスがあって嬉しい」との声が寄せられるようになった。単なるオイル販売にとどまらない存在として、地域を支えるインフラとしての価値を高める結果につながっている。
今後は、工業用潤滑油の販売を事業の基盤としながら、自動車用オイルやリユース事業へと領域を広げていく。さらに、現場でのメンテナンス体制を強化することで、サービス全体の品質向上を図る方針だ。
会社と従業員の運命が変わった、死に物狂いの3年間
父親の事業を引き継ぐ形で社長を務める福澤氏だが、もともとそのつもりはなかったという。高校卒業後、就職先として決まっていたのはガソリンスタンドだった。しかし、入社直前になって事情が変わり、就職の話は白紙に。そこで父親が経営する新進商事株式会社に入社することとなった。
入社後の4〜5年間は、オイルの充填や配送など、現場での業務に従事。日々の仕事を一つひとつこなしながら、事業の現場を経験していった。
「正直、その頃はまだ仕事に真剣に向き合いきれていなかったと思います。若い頃の私に今、声をかけられるなら『もっとまともに生きろ』と言いたいですね(笑)」(福澤氏)

転機が訪れたのは、社内の体制が大きく変わる出来事があったときのことだった。それまで営業を担っていた社員たちが入れ替わることになり、配送としてクライアント先の場所を把握していた福澤氏が、なかば必然的に営業を任されることになったのだ。
「オイルに関する知識はほとんどありませんでした。メーカーの担当者に同行しながら、1年ほどかけて商品知識を身につけ、名刺交換の基本から一つひとつ手探りで覚えていきました。最初はお客様に質問いただいても何も答えられず、その場で何もお答えできなかったこともありました。それでも一件一件足を運ぶうちに、少しずつ信頼していただけるようになりました」(福澤氏)
この経験をきっかけに、福澤氏の仕事への向き合い方は大きく変わっていった。その後、30代後半で専務に就任し、40代に差しかかった頃に父親から社長の座を引き継いだ。
しかし、社長に就任したとはいえ、当初から福澤氏が経営のすべてを担っていたわけではない。父親は会長として引き続き会社に関わり、実質的な経営の舵取りを担っていたほか、財務や経理については長年勤める担当者が把握していた。そのため福澤氏自身は、会社の経営状況を十分に知らなかったという。
「肩書きは代表でしたが、実際に会社がどのような状況なのか、自分の目で確かめられない状態だったんです」(福澤氏)
そんななか、財務体制を見直す必要に迫られる出来事があった。これを機に福澤氏は、会社の経営を自らの責任で担うことを決意。父親も経営の第一線から退き、福澤氏が本格的に会社の舵取りを担う体制へと移行した。
資金繰りの知識がほとんどないところからのスタートで、最初のうちは取引先からの督促の連絡が1日に何件も入るような状態だったという。

「当時は取引先からの電話が鳴るたびに緊張していて、背水の陣でした。ただ、お客様に一件ずつ事情をお話しし、支払いの見通しを正直にお伝えすることを続けていくうちに、少しずつご理解をいただけるようになっていきました。そして、最初は社内の誰もが不安や恐怖を感じていましたが、経営陣の意識が変わったことが彼らに伝わったのか、従業員の意識も変わったんです。一人ひとりが同じ目標に向かって動き始めると、会社は確実に変わっていく。そこからは、一年一年、会社が良い方向へ進んでいくのを実感しました」(福澤氏)
その結果、約3年で会社は黒字化を達成。従業員の意識も大きく変わり、クライアントからも「これまでよりも頼りになる会社になった」という声が寄せられるようになった。「変革という言葉では表せないほど、死に物狂いの3年間でした」と、福澤氏は当時を振り返る。この経営再建を通じて、福澤氏はかつて経営を担っていた父親から学んだことも多いという。
「父は昔ながらのトップダウン型の経営者で、良くも悪くも決断が早い人でした。物事を止めずに前へ進める姿勢や、事業の方向性を自分で決めて責任を持つという考え方は、今の自分の経営にも生きていると感じます。ただ、そのような父親を近くで見ていた自分としては、組織づくりの上で反面教師にする面も多かったのも事実です」(福澤氏)
会社の未来を描き、責任を持つ。それが「社長」という役割
――経営者として、組織を率いる上で大切にしていることを教えてください。
福澤:人をどう見るか、どう接するかという価値観ですね。社長だから偉いわけではない。社長というのは、会社の未来を描き、その未来に責任を持つ役割を担うことだと思います。
営業や事務など、社員にもそれぞれの役割があります。役割や責任の大きさは違っても、人としては対等です。だから、社長という立場を使って人を動かすのではなく、きちんと相手と向き合い、伝えていく。その姿勢はとても大切にしています。
――一人の社長として、組織づくりにおいてどのような価値観をお持ちでしょうか。
福澤:どれだけ時代が変わって、人が担う仕事が減っていったとしても、ビジネスの根本にある「人とのつながり」はなくならないと思っています。
AIがどれだけ整った言葉を並べても、言葉に感情を宿すことはできません。電話1本への対応や、現場に足を運んでのお客様との顔の見える直接的なやり取りなど、生身の人間同士の関係からしか、信頼は築けないと思います。ですから、人にしかできないことをこれからもさらに大切にしながら、つながりを深めていきたいです。
「日ノ本一の油屋」として、関わるすべての人がより良く過ごせる社会を目指したい
――信州の武将である真田幸村を称する言葉をもじって、「日ノ本一の兵(ひのもといち)の油屋」をビジョンに掲げられていますね。
福澤:やはり、夢や目標は大きく持っていないと実現できません。本当にそうなるかならないかではなく、「日ノ本一の油屋になるんだ」という強い勢いと高い目標をみんなで共有することで、働くメンバーの意識が引き締まり、行動が変わります。私たちの意識が変われば、その姿勢を見てくださっている周りの方々の意識も変わり、より強固な信頼の輪が生まれると信じています。

――事業を通してどのような社会を実現させたいですか?
福澤:極論を言えば、「自社と関わるすべての人が、幸せを感じられる環境を作ること」です。地域を活性化しながら、ステークホルダーの皆様から喜んでいただけるようなサービスを提供することが使命だと思っています。
よく、ある程度成功すると海外展開や急激な規模拡大に走る企業もありますが、私はそこにはあまり興味がないんです。まずは自分たちの足元、テリトリーを徹底的に整えていく。利益を自社を支えてくれる地域社会や雇用へしっかりと還元して、長野県を盛り上げていきたいです。
◎企業情報
会社名:新進商事株式会社
所在地:長野県上田市中之条741-7
設立:1974年
代表:福澤 祐樹
URL:https://shinshin-oil.co.jp/
◎インタビュイー
新進商事株式会社 代表取締役
福澤 祐樹
高校卒業後、父親が経営する新進商事株式会社に入社。オイルの充填・配送を経て営業を担当、専務を経て、代表取締役に就任。経営危機に直面した会社の再建に取り組み、約3年で黒字化を実現。現在は工業用潤滑油の販売を軸に、自動車用オイルやリユース、メンテナンス事業を展開している。



