
耐震診断は、誰が診ても同じ結果になる。そう思っている人は多いかもしれない。だが実際には、点数の付け方は診断する人によって変わりうる。この事実に、現場からの経験で向き合ってきたのが、さいたま市の株式会社田口住生活設計室だ。
床下や屋根裏に潜り続けて28年。同社は、耐震診断の結果をあらためて検証する「セカンドオピニオン」に取り組み、あいまいさの残る耐震診断に、信頼できる基準を持ち込もうとしている。
現場を28年見てきた、住まいの主治医
株式会社田口住生活設計室は、埼玉県さいたま市北区に本社を置く、耐震とリフォームを手がける会社である。従業員は10名。1998年に事業を始め、2014年に法人化した、地域に根ざした会社だ。自らを「住まいの主治医」あるいは「家守り」と位置づけ、住宅の安心・安全・快適を支えることを掲げている。同社を率いるのは、代表取締役社長の田口寛英氏である。
同社の強みは、机上ではなく現場で耐震を見てきた経験にある。耐震診断という言葉すら一般的ではなかった28年前から、田口氏は床下や屋根裏に潜り込み、住宅の構造を自分の目で確かめ続けてきた。狭く暗い空間に入り、柱や土台、基礎の状態を一つひとつ確認する。その積み重ねの中で、これまで1,000件を超える耐震相談に応じてきた。
近年、大地震が相次ぐなかで、自宅の耐震性への関心は高まっている。だが、耐震診断という言葉が広く知られるようになったのは、実は比較的最近のことだ。同社は、その言葉が浸透するはるか前から、地道にこの分野に取り組んできた。長く現場に潜り続けてきたからこそ見えてきたものがある。それが、耐震診断そのものへの問い直しだった。

耐震診断という、あいまいな領域
耐震診断とは、住宅が地震にどの程度耐えられるかを判断するもので、一般には「耐震スコア」と呼ばれる点数がつけられる。数値で示されると、いかにも客観的な結果に見える。だが同社は、そこに落とし穴があると指摘する。
というのも、その点数の付け方は、チェックする人によって大きく変わりうるからだ。近年は専用の診断ソフトを使えば、ある程度の数値を自動で算出できる。しかし、それはあくまで概算にすぎない。本来、建物の本当の構造を知るには、床下や屋根裏に入り、念入りに目視する必要がある。図面やソフトの上だけでは見えない劣化や施工の実態が、そこにはあるからだ。
問題は、誰が現地をどう診るかによって、診断結果が変わってくる点にある。耐震診断には、結果を一意に定めるような明確な基準があるわけではない。そのうえ、出てきた診断が正しいのか誤っているのかを、住宅の素人である施主が判断することは難しい。仮にいいかげんな診断だったとしても、その真偽を確かめる手立てがないのである。
診断の結果は、住む人の命や財産に直結しうる。にもかかわらず、その診断自体の質にばらつきがあり、しかも受け手はそれを検証できない。同社は、この構造こそが解くべき課題だと考えてきた。現場を長く見てきた経験が、その問題意識の土台になっている。

「セカンドオピニオン」という取り組み
こうした課題に対して同社が取り組んでいるのが、耐震診断の「セカンドオピニオン」である。医療でセカンドオピニオンを求めるように、すでに出された耐震診断の結果をあらためて検証する。診断の妥当性を第三者の目で確かめることで、受け手が抱えがちな「この診断は本当に正しいのか」という不安に応えようとする取り組みだ。
その背景には、点検商法やリフォーム詐欺という消費者問題がある。近年たびたび話題になるリフォーム詐欺のなかには、「無料で耐震診断を行います」とうたって不安をあおり、高額な工事を契約させる手口がある。地震で家が倒れるかもしれない、という恐怖心につけ込む手法だ。同社は、こうした点検商法やリフォーム詐欺をなくしたいという思いから、セカンドオピニオンに力を入れている。
同社は、業者を選ぶ際に確かめてほしい点も挙げている。長年にわたって地域に根ざして営業しているか。建築士などの有資格者が診断を行うか。そして、ソフトだけで済ませず、実際に現地へ足を運んでいるか。大切な命と財産を守るための診断だからこそ、信頼できる相手を見極めることが欠かせない、という考えである。
情報発信にも積極的だ。同社はYouTubeチャンネル「リフォーム百科事典」を通じて、消費者に役立つ情報を届けている。業界の内側を明かすことは、同業者を敵に回しかねない行為でもある。それでも、一人でも多くの人に正しい情報を届けたい。同社はそうした姿勢で発信を続けている。
命と財産を守るために
耐震の重要性は、災害のたびに繰り返し突きつけられてきた。2024年1月に発生した能登半島地震では、多くの木造住宅が倒壊し、耐震化の重要性があらためて浮き彫りになった。とりわけ、1981年に導入された「新耐震基準」より前の古い基準で建てられた住宅に被害が集中したことが報じられている。この地震を受けて、国や自治体は住宅の耐震化を促す補助金制度を拡充するなど、対策を強めている。
住宅の耐震化は、国全体として力を入れている分野でもある。国土交通省は、耐震性が不十分な住宅を今後数年のうちにおおむね解消することを目標に掲げ、所有者による耐震化を後押ししている。自宅の安全性に関心を持つ人は、確実に増えている。
だからこそ、と同社は考える。関心が高まるいまだからこそ、そこに便乗する不必要な工事の勧誘や、高額な契約を迫る動きも生まれやすい。地震は怖いけれど、どこに相談すればいいのか分からない。悪質な業者に騙されたくない。そうした不安を抱えずに、本当に安心できる住まいを実現するためには、信頼できる専門家による正確な診断が欠かせない。
質の良くない耐震診断を減らしたい。その願いの根にあるのは、診断が住む人の命に直結しうるという事実だ。耐震診断や補強は、防災において欠かせない取り組みの一つであり、大地震の際に倒壊の危険を大きく減らし、家族と住まいを守ることにつながる。床下や屋根裏に潜り続けてきた現場のプロが、診断そのものの信頼性を問い直す。田口住生活設計室の取り組みは、住まいの安全という土台を、足元から確かめ直そうとする試みである。



