
保健調査票への手書き回答、受診勧告書の配布と回収。学校保健の現場に残る紙の手続きをデジタル化する実証実験が東京都町田市で行われ、「小児科オンライン」を運営する株式会社Kids Publicが小児科専門医の知見を提供する専門家として参画した。
保護者の手続き時間は1人あたり平均9分25秒短縮され、学校の事務作業は99.9%以上削減されるなど、具体的な効果が確認された。
学校・保護者・医療機関、三者を縛る紙の手続き
同社によると、本実証は国が推進する学校保健DXの取り組みとして、医療機関と自治体などをつなぐデータ連携基盤PMH(Public Medical Hub)を学校保健分野へ拡張するものだ。現在の学校保健分野では、保健調査票の手書き回答や健康診断後の受診勧告書の配布・回収など、多くの手続きが依然として紙媒体で行われている。
その結果、学校現場での事務負担の増大、保護者の記入負担、医療機関との連携不足といった課題が生じてきた。町田市はこれらを解決するため、校務支援システムや医療機関システム、マイナポータルなどとの連携を想定して国が構築した実証用プロトタイプ「PMH-Web」を活用し、令和8年度以降の本格実装に向けた有効性の検証を進めている。学校保健は学校・家庭・医療の三者にまたがるため、どこか一か所のデジタル化では完結しない。基盤側から三者を同時につなぐ発想が、本実証の出発点にある。
小児科専門医がつくる「現実に即したペルソナ」
Kids Publicの役割は、システム開発そのものではなく、実証の質を左右する臨床的リアリティの担保にある。代表で小児科専門医の橋本直也氏が、一般社団法人こどもDX推進協会の推薦を受けて専門家として参画し、実証用の「児童生徒ペルソナ」を構築した。
実証で使うダミーデータが実際の診察現場で違和感のないものとなるよう、プロフィール、過去の診察・薬剤履歴、学校生活管理指導表の履歴、問診内容、各種検査など、医師が診断・指導を行ううえで不可欠な情報を網羅して設定した。デジタル化の実証は、データが本物らしくなければ検証にならない。専門医の知見が実証の土台を支えた形だ。
保護者は9分25秒短縮、学校の配布業務は99.9%減
実証実験は2026年2月から3月に実施された。藤の台小学校と鶴川第二中学校の養護教諭2名、保護者役の町田市職員50名、町田市民病院の小児科医3名が参加し、事務負担や所要時間の軽減効果、利便性、満足度、情報共有の質の向上を検証した。デジタル化による負担軽減と、医療機関へ渡る情報の質という二つの観点を同時に測る設計である。
結果は明確だった。保護者側では、予防接種歴などの転記負担が軽減されたこともあり、手書きの書類作成に比べ1人あたり平均9分25秒の短縮を実現。79.2%が業務負担の軽減を実感し、81.2%が今後の利用意向を示した。学校現場では、案内発行や配布準備に相当する業務が削減率99.9%以上と大幅に減少したほか、児童生徒の帳票持ち帰り忘れや保護者の提出忘れ、回収遅延のリスク低減も定性的効果として確認された。
相談30万件の蓄積を、子どもを支える社会基盤へ
Kids Publicは2015年に小児科医の橋本氏が設立し、2016年にオンライン遠隔健康医療相談「小児科オンライン」を開始した。その後「産婦人科オンライン」や「日中助産師相談」も展開し、24時間365日テキストで医療者に相談できる窓口などを通じて、累計相談件数は30万件以上、自治体への導入実績は230以上にのぼる。4万件超の相談事例と医師・助産師による回答を検索できる「みんなの相談検索」など、相談窓口の形も多様化させてきた。 妊娠期から子育て期まで切れ目のない支援をICTで実現することを掲げる同社にとって、学校保健DXへの参画はその延長線上にある。紙の書類に費やされてきた時間が、子どもと向き合う時間に置き換わっていくか。町田市の実証は、全国の学校保健の景色を変える一歩となるかもしれない。



