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一般社団法人フードネクサスジャパン

https://foodnexusjapan.my.canva.site/

東京都港区新橋5-32-7 FIビル

退院後に途切れる食をどう支えるか。フードネクサスジャパンと有識者が語る栄養管理の壁

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一般社団法人フードネクサスジャパン 理事長 中村 仁彦氏(富士産業株式会社 代表取締役社長 撮影:綿引 亮介、以下同)
一般社団法人フードネクサスジャパン 代表理事 中村 仁彦 氏(富士産業株式会社 代表取締役社長 撮影:綿引 亮介、以下同)

超高齢社会を迎え、医療が病院中心から医療と在宅の連携を重視するあり方へと移行しつつある中、退院後の食(栄養管理)が途切れてしまう問題が浮き彫りになっている。医療・介護給食や配食事業者が抱える現場の切実な課題を解決し、持続可能な食のインフラを構築するために立ち上がったのが、一般社団法人フードネクサスジャパンだ。

本記事では、同法人の代表理事であり、富士産業株式会社の代表取締役社長でもある中村仁彦氏へのインタビューと、2026年3月11日に一般社団法人大学病院栄養推進連携機構と共同開催されたフォーラム『Creating the Future of Nutrition Forumシームレスな栄養管理を求めて』を通じ、給食業界の最前線と今後の展望に迫る。

 

現場のリアルな声を国へ。法人設立の背景

一般社団法人フードネクサスジャパンは、2025年7月に設立された新しい団体だ。富士産業やグリーンハウス、東洋食品など、給食業界を牽引するトップクラスのオーナー系企業に属する30〜40代の若手経営者たちが中心となって発足した。

現在、業界にはすでにいくつかの団体が存在している。しかし、給食業界を取り巻く環境が激変する中で、従来の枠組みだけでは解決が難しい構造的な課題も浮き彫りになってきている。そこで、「未来の給食業界を担う若手経営者たちが集い、共に学び合うための勉強会」という位置づけで立ち上がったのが同法人だ。

一般社団法人フードネクサスジャパン 理事長 中村 仁彦氏(富士産業株式会社 代表取締役社長)

特定の企業が利益を追求するのではなく、公明正大に業界全体の課題を共有し、本質的な環境改善や国に対する政策提言を行うための新たなプラットフォームとして、その役割に期待が寄せられている。

 

法律と現場の乖離を埋めるための闘い

フードネクサスジャパンが最も注力しているのは、国が定める法律やルールと、給食現場の過酷な実態との間にある乖離を埋めることだ。
例えば、障害者雇用の問題。国は企業に対して一定の法定雇用率を求めている。しかし、いざ学校給食などの現場で雇用しようとすると、自治体側がリスクを恐れて受け入れを拒むという本末転倒な事態が発生している。

さらに深刻なのが、大量調理施設衛生管理マニュアルという分厚い壁だ。この中には「調理終了後から2時間以内の喫食をする望ましい」といった厳しいルールが存在する。数食ならともかく、病院や施設で何百食ものアレルギー対応や個別対応(刻み食、ペースト食など)を求められる現場において、このルールを厳格に守ることは物理的に不可能に近い。現在、同法人はこうした規制の緩和や改定に向け、厚生労働省とのワーキンググループを立ち上げ、現場の実情に即したルールの再構築に挑んでいる。

中村代表理事
「給食は社会性が高い仕事でありながら、『安くて美味しいのが当たり前』と思われがちです。しかし、一人ひとりの食事には多くの人の手がかかっており、その裏には現場で働く人々のギリギリの努力があるのです。このままでは、働く人たちを持続可能な形で守ることができず、結果として、本当に食事を必要としている人たちを見捨てざるを得ない状況に陥ってしまいます」

中村代表のこの言葉には、給食業界の現場に対する強いリスペクトと、日本の食のインフラを途絶えさせてはならないという切実な危機感が込められている。単なる価格転嫁の要求ではなく、持続可能な形で働く場所を提供し、利用者に安全で良い食事を届け続けるための土台作り。これこそが、フードネクサスジャパンの活動の根底に流れる確固たる信念なのである。

 

新たな支援の形。キッチンカー貸出サービス

フードネクサスジャパンの具体的な取り組みの一つとしてスタートしたのが、厨房機器を完備したキッチンカーの貸出サービスだ。

フードネクサスジャパン キッチンカー
キッチンカー(画像提供:富士産業株式会社)

これは、病院や介護施設で厨房の改修工事が行われる際や、災害などの有事によって厨房が使用できなくなった場合に、現地にキッチンカーを派遣する仕組みである。従来であれば、厨房が使えない期間は外部の弁当に頼らざるを得ないケースが多かった。しかし、キッチンカーを活用すれば、現地で普段通りの温かい食事や、患者一人ひとりに合わせた治療食・個別対応食を提供できる。

このサービスの背景には、参画企業の一つである富士産業が長年培ってきた、徹底した衛生管理と危機管理のノウハウがある。これまで自社の顧客向けに限定した運用してきた仕組みを、フードネクサスジャパンという公的な窓口を通すことで、より広く外部の病院や施設にも提供できるようになった。
保健所の視点や衛生基準を熟知した管理栄養士が運用に関わっているからこそ、あらゆる状況下でも安全な食のインフラを維持できる。こうした実践的な支援も、現場の課題解決を目指す同法人の重要なミッションの一つとなっている。

さらに、このキッチンカーの活躍の場は有事や改修工事の際だけに留まらない。各種イベントや合同訓練への参加といった形での貸し出しも行っており、平時から広く活用・認知してもらうことで、いざという時の実効性を高める取り組みも進められている。

 

途切れない食のインフラを求めて。共催フォーラムレポート

現場の課題解決に向けて歩みを進めるフードネクサスジャパン。3月11日には、仁木博文・厚生労働省副大臣ら国会議員も招き、一般社団法人大学病院栄養連携推進機構との共催でフォーラム『シームレスな栄養管理を求めて』が開催された。本フォーラムでは、医療と介護、そして在宅をつなぐ食のあり方について、多角的な視点から熱い議論が交わされた。

病院から在宅へ。浮き彫りになる栄養管理の分断

第1部「栄養を取り巻く現状と課題(入院医療)」では、大学病院栄養連携推進機構の理事長である幣憲一郎氏が登壇し、「傷病者における栄養管理の実際と課題」をテーマに急性期病院における栄養管理の現状を語った。

一般社団法人大学病院栄養連携推進機構 理事長 幣 憲一郎氏
一般社団法人大学病院栄養連携推進機構 理事長 幣 憲一郎 氏

幣氏は、DPC(診断群分類包括評価)制度の影響により入院期間が短期化している現状を指摘。入院早期からの栄養介入が医療の質向上と効率化に直結する一方で、急性期病院の中だけで患者の栄養管理を完結させることが難しくなっていると警鐘を鳴らした。

この課題を克服するためには、ICTやAI、ロボティクスといった最新技術を活用して栄養管理業務の効率化を図り、管理栄養士がベッドサイドで患者と関わる時間を増やすとともに、退院後の地域との栄養情報の連携体制をいかに構築していくかが急務であるとした。

続いて登壇したフードネクサスジャパンの中村代表理事は、「病院給食と在宅配食サービスの現状と課題」というテーマで、給食事業者の立場から現場のリアルな声を代弁した。

一般社団法人フードネクサスジャパン 理事長 中村 仁彦氏(富士産業株式会社 代表取締役社長)
一般社団法人フードネクサスジャパン 代表理事 中村 仁彦 氏(富士産業株式会社 代表取締役社長)

食材費や燃料費の高騰という逆風の中、配食サービスが直面しているのは、単なるコストの問題だけではない。最大の問題は、病院に入院している間の治療の一環として診療報酬でカバーされる栄養管理と、退院後に自宅で受ける生活支援としての配食サービスの間に制度的・情報的な大きな壁が存在していることだ。病院側で蓄積された患者の精緻な栄養データが、退院先の配食事業者には十分に共有されない。その結果、せっかく病院で改善した栄養状態が在宅で悪化してしまうという、栄養管理の分断こそが持続可能な食のインフラを脅かす深刻な問題なのである。

さらに、この制度の壁は事業者に重い負担を強いている。退院した患者の栄養状態を把握し、個別の食事を提供するためには、病院や施設へのヒアリングなど実質的な医療行為に近い作業が発生する。しかし、在宅に戻った時点で診療報酬は発生しないため、これは完全な自己負担となる。企業がコストを負担した上で、適正な価格(1食1000円以上など)を提示すればユーザーは離れてしまうため、値上げも難しい。手を離せば彼らの食事がなくなってしまうという人道的な思いから、事業者は赤字覚悟で慈善事業のようにサービスを続けざるを得ないのが現状だ。国からの控除や支援がなければ、この地域包括ケアの仕組みは早晩立ち行かなくなるという、危機感に満ちた提言がなされた。

 

低栄養は死に至る病気。在宅医療が目指す笑顔の食支援

第2部は「栄養を取り巻く現状と課題(在宅医療)」をテーマに掲げ、一般社団法人日本在宅ケアアライアンスの業務執行理事である太田秀樹氏が登壇。「在宅療養者の栄養ケアの現状とこれから -医薬品ONSの活用-」と題した講演を行った。

一般社団法人日本在宅ケアアライアンス 業務執行理事 太田秀樹氏
一般社団法人日本在宅ケアアライアンス 業務執行理事 太田 秀樹 氏

太田氏は、「在宅医療は、病院でやっている医療を自宅で再現するものではない」という力強い言葉から講演を切り出した。在宅ケアにおける「ライフ」を、いのち・くらし・生きがいという3つの視点で捉え、特に人生の最終段階において「生きがい」を「食べること」と置き換える重要性を強調。かつての病院完結型医療が救命・治癒を目的としていたのに対し、これからの地域完結型医療は、病気や障害(がい)と共存しながらQOL(生活の質)の維持・向上を目指す、治し、支える医療へと変わらざるを得ないという。

その中で突きつけられたのが、在宅療養者の約3割が低栄養状態にあるという現実だ。低栄養の背景には、口腔機能や炎症性疾患といった医学的要因だけでなく、独居による孤食、買い物弱者、経済的困窮、さらには多剤併用(ポリファーマシー)による食欲低下といった複雑な社会的要因が絡み合っている。太田氏は「低栄養は生命予後を著しく悪化させる。もはや単なる状態ではなく、死に至る疾病(病気)である」と断言し、国際疾病分類(ICD-11)にも「Undernutrition in Adults(5B72)」として病名コードがついたことを紹介。治療の対象としての認識を求めた。

太田氏が提唱する食支援は、食べるモノ、食べるチカラ、食べる意欲、そして想い・願い・希望を叶えるという4つの領域で構成される。評価指標は体重や血液データといった科学的指標だけでなく、本人が笑顔になったか、幸せを感じているかという、文化的指標を同等に重視する。たとえ病院で「終末期」と判断された高齢者であっても、自宅に戻り、多職種によるきめ細やかな食支援(テクスチャーの工夫や環境整備)を受けることで、再び食事を楽しみ、2年以上元気に過ごす例もしばしば経験するという。

「死んでもいいから食べたいという人の願いを、誤嚥の危険があるからと切り捨てるのではなく、どうすれば安全に食べさせてあげられるかを多職種で考える。上から目線の指導ではなく、暮らしに寄り添い、共に考える。それが在宅における栄養ケアの本質である」という言葉は、会場に集まった多くの栄養専門職の胸に深く刻まれたことだろう。

太田氏の講演後、ディスカッションへと移る前に、第2部の司会進行を務めた日本在宅ケアアライアンス副理事長の武田俊彦氏から、現場が直面するもう一つの切実な課題が投げかけられた。

一般社団法人日本在宅ケアアライアンス 副理事長 武田 俊彦 氏
一般社団法人日本在宅ケアアライアンス 副理事長 武田 俊彦 氏

同氏は、医薬品の経腸栄養剤(ONS)を保険適用から外そうとする国の動きに対する強い危機感を表明したのである。在宅での栄養管理において重要な役割を果たしているONSが全額自己負担となれば、患者や家族の経済的負担は計り知れず、必要な栄養ケアが途絶えてしまう恐れがある。現場の実態を度外視したような制度変更の議論に対し、武田氏が危機感も露わに熱弁を振るう一幕は、会場全体にこの問題の深刻さを強く印象付けた。

 

ディスカッション:現場の悲鳴とこれからの役割

続くディスカッション「課題解決に向けて」では、多職種の専門家からさらなる提言がなされた。

幣氏は、急性期病院が在宅や介護の現場へ情報を十分に提供できていない体制を痛感していると述べた。特にONSについては、主理医から提供されても患者がその必要性を理解していなければ押し入れの中に山積みになってしまう現状があるという。これを防ぐためには、単なる情報提供に留まらず、患者の生活に根ざしたフォローができる体制を全国の栄養部門と連携して整えていく必要があるとした。

また、ファーマライズ株式会社の松浦氏は、薬局を地域の健康拠点として再定義する取り組みを紹介した。

ファーマライズ株式会社 代表取締役社長 松浦 惠子 氏
ファーマライズ株式会社 代表取締役社長 松浦 惠子 氏

同社では管理栄養士の専門チームを立ち上げ、薬剤師とタッグを組んで在宅訪問を行い、衛生管理や食生活の指導にあたっている。さらに、地域住民が気軽に相談できるサロン「カフェにゃーまらいず」を運営。ベジチェック(野菜摂取量の測定)や、手軽に塩分制限ができるレシピの提供、フレイル予防の運動など、予防・未病の段階から地域に密着した食支援を展開している。

これに対し武田氏は、残薬問題と同様、栄養剤が家庭で余ってしまう問題の解決に薬剤師が貢献することは、患者のためだけでなく医療費の適正化にも繋がると期待を寄せた。

一方、太田氏は栄養介入の評価の重要性を指摘。栄養士の介入によって療養者の7〜8割が改善するというデータがある一方で、改善しない約3割の背景には医療的な側面だけでない根深い問題がある。この解決には、医師、栄養士、薬剤師がそれぞれの専門性を超えて、より幅広く深く患者の背景を捉える視点が不可欠であるとした。

最後に、中村代表から紹介された株式会社ベストの斎藤氏は、創業40年の歩みと現在の苦境を吐露した。7食のお客から始まった同社の配食サービスは、かつては電球交換まで請け負う地域の便利屋として信頼を築いてきた。しかし、現在は食材・燃料費の高騰に加え、大手企業との激しい競争、さらには保険適用外・自治体助成なしという厳しい制度の壁に阻まれている。利用者から「安くならないのか」と求められつつも、赤字ギリギリの状態で踏みとどまっている現場のリアルな叫びは、聴衆に強い衝撃を与えた。

フォーラムを締めくくるにあたり、武田氏は「病院と業者が共存共栄していかなければこの仕組みは持たない」と強調した。食事は栄養補給だけではなく、地域の繋がりを生み、最終的にはその人を笑顔にするものである。地域の多職種が手を携え、孤立を防ぎながら、誰もが笑顔になれる高齢社会を支え続ける。フードネクサスジャパンの活動は、まさにその持続可能な食のつながりを構築するための、大きな希望のうねりになろうとしている。

キッチンカー貸出について
※ご不明点や詳細条件(利用料金、貸出期間、設備仕様、申込方法など)については、お気軽に下記までお問い合わせください。

【お問い合わせ先】
一般社団法人フードネクサスジャパン 事務局
TEL:03-3436-1700  MAIL:info@fnj.or.jp

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ライター:

Sacco編集・ライター。企業に直接出向く取材が中心。扱う記事はサステナビリティ、エンタメ関係が多め。

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