
政府の楽観論 vs 現場の絶望 乖離の核心
高市首相は4月5日頃、Xで「少なくとも国内需要4ヶ月分を確保しています」「国民生活と経済活動に影響を生じることのないよう全力で取り組む」と強調した。
赤澤経済産業大臣も3月から4月の会見で「備蓄放出と代替調達により日本全体として必要量は確保できている」「ナフサについても川下在庫約2ヶ月分プラス代替輸入で化学品全体4ヶ月分を維持」と繰り返した。木原官房長官も現時点で需給上の問題はないと説明した。政府の理屈はシンプルだ。原油全体の国家備蓄は豊富で、燃料用と材料用の総量を基に「大丈夫」と判断。問題の本質を「流通の目詰まり」つまり卸や商社段階の供給偏りやパニック買いとし、4月10日頃に総理指示でタスクフォースを強化して供給共有要請を出したという。
しかしこの説明は現場では全く通用していない。日本塗装工業会は4月14日の要望書で「政府発表と現場のサプライチェーンに大きな乖離が生じている。死活問題」と国交省に直訴した。TOTOの受注停止は壁や天井のフィルム接着剤、浴槽のコーティング剤に必要な有機溶剤のナフサ由来原料が不足したため。LIXILも14日からユニットバスの納期を未定とし、通常を上回る駆け込み注文でさらに混乱を増幅させた。政府は「総量は足りている」との数字を武器に「目詰まり解消で問題ない」とするが、現場は「1つの特定グレードの溶剤が欠ければ製品全体が完成しない」と訴える。
民間在庫は薄く、ナフサ単体で約20日分程度。東南アジア生産拠点の影響も重なり、ボトルネックが連鎖している。
工務店・大工のリアルな悲鳴 「朝から電話で困惑」
大阪近郊の設備会社社長はXで「朝からパイプ・トイレ・ユニットバスの受注停止を知らせ、工務店から困惑の電話が殺到している」と投稿。似た声が全国から相次いでいる。
大工の男性は「政府の石油備蓄は燃料用なのに、メーカー側はナフサ不足で接着剤・プラ部品が作れない。TOTOやLIXILが受注停止。リフォーム中の人は工期遅延に要注意。現在も納期回答すら厳しい」と画像付きで警告した。
住まい創造研究所は「TOTOの緊急受注停止からLIXILへの発注が4倍に急増した連鎖」を指摘。ある投稿者は「メーカー代理店から受注は再開したけど納期はいつになるか分からんと言われた。ユニットバス発注決まってるのに」と実務の苛立ちを吐露した。ある工務店支援者は「断熱材・塩ビ管・接着剤も影響大。基礎ができても仕上げで止まる現場が出てきている」と現場の停滞を報告。
不動産関係者は「建築士の友人から今週だけで3件着工延期。設備が入らないで施主が泣いていた」と聞き、情報収集を呼びかけた。
これらの声に共通するのは「政府の数字と実感のギャップ」。受注再開の発表後も納期未定が続き、シンナーや塗料の高騰・品薄が塗装業にも波及。アンケートでは回答社の8割以上が工期遅延を懸念した。
ナフサ由来製品の深刻な実態 ユニットバスから塗料・断熱材まで
ナフサは原油精製過程で得られる基礎原料で、プラスチック、合成樹脂、接着剤、塗料、シンナーなどの元になる。住宅では特に以下の製品が直撃を受けている。
ユニットバス・システムバス:TOTOが4月13日から新規受注停止。再開後も見通し立たず。有機溶剤不足が原因で、LIXILも納期未定。パナソニックハウジングソリューションズも影響。
塗料・シンナー:日本塗装工業会が品薄・高騰を訴え。50から80パーセント規模の値上げや出荷制限の事例も。住宅塗装作業が滞り、工期全体に影響。断熱材:ウレタンやポリスチレン系がナフサ由来。40パーセント値上げの通知が工務店に届き、在庫が薄いため受注生産に近い形で価格が跳ね上がる。
塩ビ管・PE管・接着剤・防水シート:基礎工事から内装まで広範囲に波及。積水化学工業などが価格改定を決定。これらは「総量」ではなく品目別・工程別の逼迫。燃料用備蓄を材料用に即座に転用できない「使い道の違い」が、現場の混乱を加速させている。
結果として住宅価格が30パーセント上昇する可能性も業界で指摘されている。
なぜ政府と現場の感覚がここまでズレるのか
最大の理由は視点の違いだ。政府はマクロ統計「原油・ナフサの総量・在庫数値」を重視。代替調達(米国・南米など)の拡大や備蓄放出で「必要量確保」と楽観視する。
一方、現場はミクロの実働値「実際に工場で使える特定グレードの材料とタイミング」を重視する。サプライチェーンが細く、川上から川下のどこかで滞れば即停止する構造だ。過去の米不足時にも政府の「流通問題」説明が後から「生産不足」だった事例があり、不信感を強めている。
経産省は現在も「目詰まり解消」と主張するが、業界団体は品目別対策と情報開示を求め続けている。医療現場への波及(透析機器など)も懸念されるが、温度差がある。
住宅業界に迫る危機 今後の見通しと対策の必要性
状況は日々流動的で、一部メーカーで再開の動きはあるものの、納期未定や値上げの連鎖は続いている。中東情勢が長期化すれば、住宅着工の停滞や価格高騰が避けられない。工務店は契約時のスライド条項導入や施主への早期説明を迫られ、消費者も家づくり計画の見直しを強いられる可能性が高い。
政府は「解消見込み」とのスタンスを崩していないが、現場の一次情報との乖離を放置すれば信頼失墜は避けられない。総量だけでなく、どの部品がいつまでどれだけ不足するかの細かい実態共有と、石油化学産業の構造強化が急務だ。このナフサ不足は単なる一時的トラブルではない。日本の産業が抱えるサプライチェーンの脆弱性を露呈し、住宅という国民生活の基盤を揺るがしている。
政府の「大丈夫」宣言が現場の混乱を助長しないよう、早急な現実対応が求められる。



