
料理の現場で捨てられていた食材に新しい光をあて、これまでにない価値を生み出す動きが広がっている。
老舗の厨房から生まれた犬猫のための新しいごちそう
1952年に創業した茨城県つくば市の老舗「鰻と炭火焼とよ長」が、新しい犬猫用レトルト食品「うなぎの頭だし」を売り出した。使っているのは、これまで調理の過程で捨てるしかなかった国産うなぎの頭だ。そこに焼津産のかつお節だけを合わせ、じっくり煮込んでいる。
着色料や保存料などの余計なものは一切入れない。未開封なら常温で長期間保存できるため、日々の食事にはもちろん、災害時の備えにもなる一品だ。老舗の技と食材へのこだわりが、これまでになかったペットフードを生み出した。
捨てる部位の活用と災害への備えという独自の切り口

この取り組みが面白いのは、使われていなかった食材の再利用と、災害への備えという二つの視点を組み合わせた点にある。一般的なペットフードでは、材料の安全性や栄養の高さが注目されやすい。
しかし本商品は、うなぎ屋で毎日出ながらも使い道のなかった「頭」に着目した。栄養が詰まったこの部位を、ペットにとってのごちそうに生まれ変わらせたのだ。
さらにレトルト加工を施すことで、常温でそのまま保存できるようにした。日常的に使いながら非常時に備えるローリングストックとしても役に立つ。環境への配慮と暮らしの中での使いやすさを両立させたことが、他にはない強みになっている。
職人の技と飼い主としての思いが重なる場所
この挑戦の根底には、食材を無駄にしたくないという思いと、大切な家族であるペットへの温かい視線がある。
「毎日たくさんの頭を捨てながら、ずっともったいないと感じていた」
そう語るのは、店の三代目であり開発を手がけた豊嶋英之氏だ。豊嶋氏はうなぎ職人として腕を磨く一方で、「犬の管理栄養士」の資格を取り、自身も保護犬や保護猫と暮らしている。
「安心できるごはんをあげたいという飼い主さんの悩みに触れ、手元にあるうなぎの頭が使えるのではないかと気づいた」職人としての確かな技術と、飼い主としての実感のこもった思い。その二つが組み合わさったからこそ、妥協のない商品が出来上がった。
小さなお店の工夫が教えてくれるこれからの商売のかたち
この取り組みは、地域に根を張る老舗がこれからの時代にどう歩んでいくべきか、大きなヒントを与えてくれる。
大がかりな設備や無理な事業拡大に頼る必要はない。自分たちの商売の中で当たり前に出ていたゴミや副産物に、もう一度向き合ってみる。そこに独自の技術や現代の悩みを掛け合わせることで、新しい価値は十分に生まれる。
商売としての成り立ちと社会への貢献をどちらも諦めないこの試みは、これからの地域ビジネスにおける一つの素晴らしいお手本と言えるだろう。



