
年間約20万トンが産業廃棄物となるホタテの貝殻を、歯ブラシという身近な日用品によみがえらせる。青森市の合同会社MintAndが、貝殻を素材にした歯ブラシを企業のノベルティとして展開し、売上の一部を子どもたちの環境体験学習につなげる「キーストーン活動」を本格始動した。地域資源・企業・子どもをつなぐ循環の仕組みだ。
活用しきれない年間20万トンの貝殻
同社によると、国内のホタテ漁業では年間約20万トンの貝殻が発生する。肥料や土壌改良材として一部地域で活用される例はあるものの、処理しきれず産業廃棄物として廃棄されているのが現状だ。豊かな海の恵みの裏側で、大量の貝殻が行き場を失っている。
MintAndはこの貝殻を地域資源と捉え、樹脂の開発や歯ブラシなどの製品開発・販売を進めてきた。2025年6月の販売開始以降、クラウドファンディングやメディアで反響を得ているという。青森県内のホタテ貝集積所には膨大な貝殻が積み上がる。この歯ブラシを起点に、地域・企業・子どもたちをつなぐ次のフェーズとして始動したのが「キーストーン活動」である。
「すべての子どもは社会のキーストーン」
活動名の由来は「キーストーン種」だ。これは生態系全体のバランスを支える特定の種を指す。ラッコがウニを捕食することで海藻林を守り、海全体の生態系を支えているような存在である。MintAndはこの構造を社会に重ね、子ども一人ひとりも誰かにとってかけがえのないキーストーンだと位置づける。
「その子がいることで、誰かの世界のバランスが保たれている」という考えを核に、同社は海岸清掃や植樹などの環境体験学習を自社で企画・運営する。自然や社会と直接関わる体験を通じて、子どもたちが自分の存在意義を感じ、自己肯定感を育むことが活動の目的だ。この活動を支えるのが、企業によるプロダクトの購入で、歯ブラシをノベルティとして導入した企業の売上の一部が体験学習の運営原資となる。
「買って終わり」ではないCSRの設計
この仕組みは、従来の環境配慮型CSRとは構造が異なる。多くの環境配慮製品が「購入すること自体が社会貢献」として訴求されるのに対し、キーストーン活動では製品を導入した企業が体験学習イベントでの企業名掲載やPRへの参加を通じてブランド露出を得られる。
体験を通じて子どもたちの記憶にブランドが刻まれることで、将来のファンや顧客層の獲得にもつながる。費用は広告費・販促費として経費計上も可能だという。同社は、子ども口座や金融教育に取り組む地方銀行・信用金庫、海の恵みとブランドが直結する水産・食品メーカー、環境活動と親和性の高いアウトドア・スポーツブランドなどを導入先として想定する。社会貢献と企業のマーケティングを両立させる設計に特徴がある。
地域資源が人をつなぎ、循環を生む
MintAndは2025年1月設立、青森市を拠点に、ホタテ貝殻を活用したバイオプラスチックの開発・製造・販売と、子どもの環境体験学習の企画・運営を手がける。代表の牧方咲良氏は「地域の資源が意味ある価値となり、それが人と人をつなぎ、社会の循環を生み出す世界を目指す」と語る。 廃棄物だった貝殻が製品になり、その売上が子どもの体験を支え、体験が子どもの自己肯定感を育てる。地域に眠る未利用資源を入口に、環境・企業・次世代をつなぐこの循環は、地方発のサステナブルなビジネスの一つの形を示している。誰一人として同じ存在はなく、誰一人としていらない存在もいない——その思いを起点に、すべての子どもが社会のキーストーンとして育つ環境をつくることを、同社は活動の核に据えている。



