ログイン
ログイン
会員登録
会員登録
お問合せ
お問合せ
MENU

食品廃棄の削減へ国や自治体が本腰~不要食品を再利用した貧困支援も拡大【SDGs新時代を読む第7回】

サステナブルな取り組み SDGsの取り組み
リンクをコピー
依田翼宣材写真

国や自治体が食品の廃棄を減らす取り組みに本腰を入れ始めている。
日本で日々捨てられる食品は膨大な量にのぼる。SDGs(持続可能な開発目標)の考えが広がる中、少しでも無駄を減らして持続可能な社会作りにつなげようという狙いがある。外食での食べ残しを減らす取り組みや、不要な食品を集めて貧困家庭に配布するなど福祉と組み合わせた事業も広がっている。

食べられるのに捨てられる「食品ロス」 毎日茶碗1杯分

sdgswoyomuno7_foodloss
食品ロス内訳)(下段)農林水産省作成

まだ食べられるのに捨てられてしまう食品は「食品ロス」と呼ばれる。農林水産省の推計によると、その量は2020年度で年間523万トンに及ぶ。新型コロナウイルスの影響などで外食が減少し、それ以前に比べるとやや減ったものの、国民1人当たりに直すと年間およそ42キログラムの食品ロスがある。1日当たりでは114グラムとなり、毎日茶碗一杯分のごはんを捨てていることに相当する。

世界には栄養不足に苦しむ人も多数いる。食料の多くを輸入に依存している日本としては、食品ロスを減らすことは国全体で取り組むべき課題だと認識されるようになった。食品ロスのうち、外食産業での食べ残しや小売りでの売れ残りなど売り手(事業者)側の要因によるものが約半分、家庭側のロスが残りの半分を占める。この両方でロスを減らしていくことが問題解決のカギとなる。

このような状況を背景に、国は2019年には「食品ロスの削減の推進に関する法律」を制定した。国や自治体、事業者の責務などを定め、事業者への支援をうたっている。また事業系の食品ロスを2030年度には2000年度比で半減させる目標を立てている。自治体が取り組みを強化しているのも法律の制定と無関係ではない。

不要な食品、自治体が回収 貧困支援に供与も

sdgswoyomuno7_koutouku
回収窓口写真)江東区は民間施設内にも食品の回収窓口を設置している(無印良品東京有明、写真は江東区提供)

家庭側での食品ロスを減らすために広く実施されているのが、自宅や事業所にある不要な食品を持ち寄り欲しい人に配布する事業だ。特に食品を生活困窮者を支援する団体などに寄付する事業は「フードドライブ」と呼ばれる。

東京都の調べによると、都内では島しょ部を除く53区市町村のうち8割に当たる42区市が何らかのフードドライブ事業を展開している。区部では23区すべてが実施中だ。

例えば東京都江東区では区内17か所に常設の回収窓口を設置した。文化センターやスポーツセンターなどの区有施設内がほとんどだが、ショッピングモールの店舗の中に設けた回収窓口もある。「未開封」「賞味期限まで2カ月以上ある」といった条件はあるものの、缶詰から飲み物まで様々な食品を受け入れている。

受け入れた食品は、区内で生活に困窮する子供を中心に食事を提供する「こども食堂」などに送って活用してもらっているという。同区で食品回収を担当する清掃リサイクル課の担当者は「回収の一番の目的はごみの減量だ。その観点からは食品が集まらないほうが望ましいともいえる。ただ結果的に貧困支援にも貢献できているのは良いことだ」と話す。

国自身も食品の寄付者になっている。国の各省庁や地方の出先機関では防災のために備蓄している食料が多数ある。保存期限がすぎる前に、これらを困窮者を支援する民間団体向けに定期的に提供している。ウェブサイトを見てみると、地方検察庁、財務局、法務局、少年鑑別所などの意外な組織が缶詰を配布するなどと情報提供しているが目につく。

「小盛り」メニュー提供の推奨で食べ残し削減

sdgswoyomuno7_tabekiri
食べきり協力店写真)文京区は少量メニューなどを出す飲食店を推奨している(文京区役所の職員食堂)

外食や小売りなど事業者側で食品ロスを減らそうという取り組みも進む。外食では客の食べ残しは捨てざるを得ない。最初から客が小盛りメニューを選べるようにしたり、店内での食べ残しを持ち帰れるようにしたりした「食べきり協力店」を公表・推奨するような取り組みをしている自治体は都内で26区市に及ぶ。

東京都文京区では「ぶんきょう食べきり協力店」として71店舗を登録し、ウェブサイトで各店の取り組みを紹介している。通常より値引きして量が少ないメニューを選べるようにする例が多く、少食の人にとっては経済的なメリットもあるといえる。文京区の担当者によると「店側の利点が明確にあるわけではないが、食品ロス削減の理念に共感して取り組みを進めてくれているところが多い」という。

小売店で賞味期限の短い食品から先に買ってもらおうという運動も食品ロス削減を意識した動きだ。スーパーでは冷蔵食品の棚に、コンビニエンスストアなどではおにぎりやパンの棚に「『てまえどり』にご協力ください」というメッセージを掲げる店も目立つようになってきた。

「てまえどり」とは手前にある商品から取るという意味だ。農水省、消費者庁、環境省は小売りの業界団体である日本フランチャイズチェーン協会と組んで共通のメッセージカードを作成している。

小売店では手前に古い商品を、奥に新しい商品を並べるのが普通だ。一方で家で長く保存できるように、あえて後ろの方から商品をとる消費者も一定数いるようだ。ただそれが多数派になるといつまでも売れないままで廃棄につながる商品も出てきかねない。そこで「てまえどり」をマナーとして定着させようとしている。

廃棄食品の削減、消費者の意識向上がカギ

sdgswoyomu_temae
てまえどり写真)コンビニなどでは陳列した食品を手前から取るよう呼びかけている。

今後さらに食品ロスを減らすにはどうしたらいいのか。廃棄予定の食品を買い付けて販売したり生活困窮者に配布する活動をしているNPOである日本もったいない食品センター(大阪府摂津市)の高津博司代表理事は食品ロスが起きる理由について「消費者の理解不足」を指摘する。

例えば「賞味期限」の表示だ。期限を過ぎても風味が落ちるだけで直ちに食べられなくなるわけではないが、敬遠する人は多い。小売店もその点を気にして期限前の早い段階で返品や廃棄を進めてしまう現状がある。高津氏は「行政には消費者が『意識』と『知識』を高められるように、一層の普及啓発活動に力を入れて欲しい」と話す。

Tags

ライター:

依田翼宣材写真

依田 翼 (よだ・つばさ)

> このライターの記事一覧

1981年東京生まれ。日経新聞記者(2007~22年)を経てフリーに。 23年より文京区議会議員も務める。公式サイト(https://yodatsubasa.net/)

タグ