世界60ヵ国の発電所に100万台以上のバルブを納めてきた岡野バルブ製造株式会社(以下、岡野バルブ)は、発電用高温高圧バルブ製造の高い技術と専門的かつ機動的なメンテナンス対応を強みに、バルブメーカーとしてのニッチトップを走り続けてきた。
創業から1世紀近くが経った今、同社は自社のモノづくり部門におけるDX推進に乗り出し、未来型ものづくり企業へと成長を遂げようとしている。
株式会社INDUSTRIAL-X(以下、IX)は、そんな岡野バルブの伴走者として、共に「ありたい姿」を描き、実態を可視化し、ソリューションを実装する。改革の先に両社が見据えるのは、日本の設備産業全体の底上げだ。
日本のものづくりの競争力回復と新たな価値創造を目指して一歩を踏み出した両社に、ステークホルダーとしての関係について聞いた。
本記事は、岡野バルブ取締役の石田仁さん、システム課主任の大庭智さん、生産技術部の小久保達也さん、IXのプロジェクトリーダー鳥居さん、マーケティング担当の石塚さんにヒアリングしている。
100年企業の伝統と革新+岡野バルブとIXの互いへの想い
IXとのパートナーシップで改革が本格始動したところですが、「革新」的な側面とは逆に100年企業として守り続けたい「伝統」、岡野バルブの軸となるような部分はあるのでしょうか?
もともと当社は、社是として「先進一歩」を掲げています。社長も常々、口癖のように「現状維持は衰退と同じだ」と言っています。
革新的なことに挑んできたからこそ、100年生き残ってこれたのだと思います。変化を恐れて保守に走ってしまうと、次の100年はないでしょう。
革新に向けて一歩を踏み出すことこそが、当社の軸だと思います。
なるほど。それでは、「日本の設備産業全体を底上げする」という共通のゴールに向かって歩みを進めている両社にとって、お互いの存在はどのようなものでしょうか?
最初にお会いしたときから、IXの皆さまとは「仲間」という感じがしていました。今ではもはや「運命共同体」のような存在です。岡野バルブの新たな100年を作っていくために欠かせない仲間ですね。
大庭
2021年4月に勃発した当社へのサイバー攻撃をきっかけに社内システムの再構築を始めたが、「新たにどのような社内システムを構築すべきか、疲弊していたところに、こうしてIXさんとの協働が実現して、「強い味方を得た!」と心から感謝しています。
一緒にプロジェクトに取り組めることが、今の私のエネルギー源です。
以前から生産技術部で自分たちなりにDX、IoTにトライしてきましたが、社内のリソースだけではIT関連の知識にも乏しく、大きな壁にぶつかった状態でした。
ちょうどその頃にIXさんとの協同の話をいただいて、「壁が取り払われて前に進めるチャンスだ」と思いました。
自分たち以外の力を借りて成長できるので、かなり心強いです。ここから一歩前進することができます。
鳥居
私も、岡野バルブさんには「仲間」という感覚を抱いています。
これまでも、大手企業を含めコンサルとしての仕事に取り組んできましたが、正直、「コンサル」という感覚が好きではなくて。「やってあげた」感で終わってしまうのが嫌いなんです。これは、代表の八子も同じです。
岡野バルブさんで感じる熱意と主体性は、私のこれまでの経験でもあまり目にすることのなかったものです。
今回、製造業のプロジェクトを担当するのは初めてでしたが、毎回のワークショップもとても楽しく、いい意味でヒリヒリした感覚を味わっています。
今現在は、工場の稼働状況の可視化に取り組んでいますが、工場DXの先にあるテーマとして、ESG関連の話も今後していきたいですね。
石塚
「当社がお客様に提供する価値は何だろう?」「どんな存在であるべきか?」と、社内のメンバーで話し合ったときに、やはり主要顧客である岡野バルブさんのことも念頭にあり、「伴走型を大事にしたい」という点が、共通項として挙がってきました。
「仲間」という感覚もそうですし、「お客様をどう勝たせていくか」を考えたときに、お客様が「業界をけん引する未来」を描けるような向き合い方をしたい。そんな想いを確認しました。
日本の製造業全体に貢献できるまで伴走していくイメージですね。プロジェクトが進むにつれますます関係性を深められ、「DXで日本の設備産業の底上げする」というゴールを必ず実現されると確信しています。
本日は、ありがとうございました。
岡野バルブとは?
約100年前の1926年に、官営八幡製鐵所(現八幡製鐵)のお膝元、北九州市で創業した岡野バルブ。国内で初めて高温・高圧バルブの製造に成功し、世界的に知られる存在となった。
耐磨耗性・耐食性に優れるステライト合金の実用化など、持てる技術の粋を注いで生まれた同社のバルブは、その後も国内外問わず数々の発電プラントに採用されていった。
いわば、原子力発電所、火力発電所などの安定的稼働を下支えしてきた存在と言える。
だが、東日本大震災を機に、その安全神話が崩れて幾星霜。現在も、大型プラント向けバルブの製造・販売・メンテナンスなどを行う会社として名高い同社だが、シュリンクしていく業界のなかで「大きく変わらなければ、明るい未来を描くことは難しい」、そういった危機意識が同社全体にあったという。
岡野武治社長は以下のように語る。
岡野
「日本のものづくりの価値喪失に対する強い危機感があります。バルブ業界をはじめ、日本の設備産業の現場では、職人的、感覚的なものづくりが未だ主流です。かつては高度な技術と品質を誇った日本のものづくりも、安価に製造できる海外製品の品質が向上したいま、その価値は失われている」
発電所の高圧バルブを製造する業界のニッチトップとして走ってきた同社にとって、東日本大震災や気候変動を受けた外部環境の変化も、新事業創出を後押しする契機となった。
岡野バルブのものづくり人事統括を担当する石田取締役は、「このままでは、次の100年はおろか、10年後の存続すら危ぶまれる」と、危機感をつのらせていた。
岡野バルブが変態できるかそのハードルは高かった。
日本の競争力回復にはデジタル化と発想の転換が必須
既存システムが老朽化・複雑化・ブラックボックス化する中で新しいデジタル技術を導入したとしても、データの利活用や連携が限定的になりがち。
必然的に、効果も限定的なものに留まってしまう。岡野バルブ自身も例外ではない。
新たなミッションを掲げ、従来とは異なる領域への挑戦を始めてはいるものの、自社だけでDXを推し進めるのは、先読みの難しいVUCA時代には難しいという判断があったという。
そこで、このほど同社の伴走者として改革に加わったのが、DX推進のプラットフォーマーINDUSTRIAL-Xだ。両社は業務提携を結び、2022年から本格的にプロジェクトが動き出した。
八子社長が、日本の設備産業について岡野社長と同様の課題感を抱いていたこと、両者が見据える未来のカタチが一致していたことが理由という。
気になるプロジェクトの詳細は、INDUSTRIAL-XのWEBサイトより確認できる。
◎各自プロフィール
岡野バルブ製造株式会社:代表取締役社長 岡野武治さん
岡野バルブ製造株式会社:取締役 人事・ものづくり統括 石田仁さん
岡野バルブ製造株式会社:経営本部システム課 主任 大庭智さん
岡野バルブ製造株式会社:バルブ事業部生産技術部 小久保達也さん
株式会社INDUSTRIAL-X:代表取締役CEO 八子知礼さん
株式会社INDUSTRIAL-X:事業開発リーダー 鳥居大亮さん
株式会社INDUSTRIAL-X:CCO/マーケティングリーダー 石塚彩乃さん
株式会社INDUSTRIAL-XのWEBサイト:https://industrial-x.jp/