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ニセコと白馬に見る住民主導の「観光SDGs」【SDGs新時代を読む第4回】

サステナブルな取り組み SDGsの取り組み
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新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着きを見せる中、日本へ再びインバウンド(訪日外国人)が戻り始めている。岸田文雄首相は訪日外国人の旅行消費額5兆円の達成、日本人の国内旅行消費額20兆円の回復を早期に実現する考えを示す。日本の人口が減少し、経常黒字が急減する中、サービス収支を支える観光産業は日本経済にとって光明の1つとなっている。

一方で課題もある。キャパシティーを超えた観光客の増加で住民生活に支障が出る「オーバーツーリズム(観光公害)」現象だ。長期的な観光産業の育成には、経済、環境、地域社会のサステナビリティー(持続可能性)の観点が欠かせない。インバウンドの先進地である世界的なスノーリゾート、「ニセコ」と「白馬」のSDGsの取組は、どちらも住民自らが率先して、行政や事業者を巻き込んでいくスタイル。持続可能な観光産業の実現に向けたモデルケースとなるかもしれない。

観光事業者が自らの強み「パウダースノー」の大切さを理解

北海道・ニセコ町の観光事業者に対し、観光庁が実施したアンケートでは、「持続可能な取組を重要だ」と回答した理由の中で、「自然・景観・歴史・文化などを守るため」が95%超に達した。「観光客に観光地として選ばれるため」「地域から観光業に対する理解や信頼を得るため」「オーバーツーリズムを抑制するため」のいずれの回答も50%未満。ニセコの有する自然やパウダースノーは代え難い重要な無形資源であることを観光事業者自らが認識していることを示した。

では海外からの旅行者はどうか。2022年にBooking.comが行った「サステナブル・トラベルに関する調査」によると、「今後1年でよりサステナブルな旅を心がけたい」と回答したのは世界全体の旅行者は71%。一方で日本の旅行者では46%にとどまった。日本より海外の観光客の方がより環境に関する意識が高いことが伺える。

観光事業者も訪日観光客もサステナブルに関する意識が高まる中、製品製造・販売を行う「ミルク工房」(北海道ニセコ町)の高井裕子さんを中心に、有志が集い、住民と行政、事業者を巻き込んだプロジェクトが進められている。

このプロジェクトでは、ホテルのアメニティの脱プラスチックや使い捨てカップの抑制を推進。ニセコ町や倶知安町の食材を用いたサステナブルクッキーやフェアトレード認証を受けたTシャツなどの売り上げの一部を植樹などの活動資金に充てるなど、次世代へ引き継いでいくアクションが実施されている。このような発信はニセコ町職員によってnote(ブログ)で行われている。ブログの執筆担当は移住者だ。もともと地元に住んでいる人だけでなく、「ヨソモノ目線」も取り入れ、情報発信を強化しようというわけだ。

こんな未来、自分たちは嫌だ!と声を上げた高校生たち

北アルプスの麓に位置する長野県白馬村は、冬はスキー、夏はパラグライダーなどのアクティビティがさかんで、年間250万人が訪れる観光地である。近年では、春から秋の「グリーンシーズン」の観光客数が非常に伸びており、全国のスキー場関係者が注目している。

一見、順調に見える白馬の観光産業だが、グリーンシーズンの観光客誘致に力を入れる背景には「降雪量の減少」という深刻な事情がある。2016年は記録的な小雪によって、スキー場が休場せざるを得ない日もあったという。

「当たり前ではない未来に向かっている」―その状況に、最初に声を上げたのは、2019年、白馬高校の高校生たちだ。同年9月に有志が集って「いつまでもパウダースノーの白馬であってほしい」と、気候非常事態宣言の発令を呼びかける署名を集め、村長に要望書を提出した。足元の降雪量の減少の原因が地球温暖化とは断定できない。しかし、温暖化対策が白馬の環境保全につながることは間違いないだろう。その後、長崎県壱岐市、神奈川県鎌倉市に続き、白馬村は日本で3例目となる気候非常事態宣言を発令した。

サステナブルな白馬を目指す手段として白馬村が取り組んだのが、「サーキュラーエコノミー」である。原料から生産し、消費した後、廃棄ではなくリサイクルする、いわば循環型経済だ。これまで4回にわたり、共創型カンファレンスを実施し、150社200名超が参加するコミュニティが形成されている。

ニセコも白馬も目指すは同じ

白馬村の取り組みは「サステナブルを、遊ぶ、企む、つくる」がコンセプトだ。観光局事務局長の福島洋次郎氏は生まれも育ちも白馬村。「白馬の自然は、海以外は全てあるんですよ。湘南の人たちは、朝出勤前に波が良ければサーフィンしたりしますよね。白馬でも今日は朝スキーやスノーボードしてから仕事もできる。白馬村のライフスタイルそのものを楽しみに来てもらいたいんです」と、少年のように語った。

2023年3月までニセコリゾート観光協会事務局長を務めていた山口浩史氏は、今後のニセコについてこう語った。

「泳がない人もハワイやマリンリゾートに行きますよね?ビーチで寝そべってアロハミュージックと波の音を聞きながらトロピカルドリンクやカクテルを楽しむのと、深々と降る雪を眺めながら、暖炉の前でロッキングチェアに揺られながらスコッチウイスキーを傾ける・・・これ、本質は同じですよね?なのに、何故スノーリゾートにはスキー、スノーボードをする方々しか訪れないのか?だからスキー、スノーボードだけではない、スキー、スノーボードをしない『冬のニセコの魅力』を創出しようと取り組んでいます」

自分たちのサステナブルなライフスタイルと雄大な自然。それこそがニセコと白馬の圧倒的な無形資産なのだ。その無形資産を自らの手で守っていくことは、自分たちと将来の世代を守ることに直結する。皆が理解して、手を取り合って進んでいる。それこそが彼らがインバウンドを含めた多くの観光客を魅了する要因の1つなのである。

<以下資料>
Trip.com調査
Booking.com調査

<参考>
年間175万人(2019年度実績)の観光客が訪れるニセコ町は内閣府の環境モデル都市(※1)」「SDGs未来都市(※2)」に選ばれており、近年は、持続可能な観光の分野でも、Green Destinations「世界の持続可能な観光地100選(2020・2021年度)」での表彰や観光分野における地球温暖化対策「グラスゴー宣言」への署名、国連世界観光機関(UNWTO)の2021年「ベスト・ツーリズム・ビレッジ」での選出など、サステナブル観光への取り組みに力を注いでいます。

ニセコ町SDGs(note)
白馬SDGs
気候非常事態宣言

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ライター:

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植田 聡子 (PRコンサルタント)

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全日本空輸株式会社、株式会社福武書店(現:ベネッセコーポレーション)、株式会社ベルシステム24を経て、東京都庁に入都。広報部署をメインに、文化事業、東京2020組織委員会広報局などを経て、2020年独立。外資系OTAにおいては官公庁や自治体の渉外窓口として、インバウンド誘客などの事業を実施。 現在はスタートアップや中小企業をクライアントとして広報・PRサポート、地域観光振興支援、講演・セミナー等を行なっている。 関心領域は観光による地域再生、官民連携、アート、スポーツ、社会課題解決、食、パラレルキャリア、セカンドキャリア。 2017年より神楽坂と相模湖の二拠点生活を実施中。国家資格キャリアコンサルタントとして、公務員のキャリアや個人のコンサルティングにも対応。

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