アンリツ株式会社は、1895(明治28)年に創業。有線・無線通信機器のパイオニアとして情報通信の発展を支えてきた歴史を有しています。現在は、スマホの開発・製造に欠かせない通信用計測器や食品・医薬品の品質保証用検査機器などを開発・製造し、幅広い分野で安全・安心で快適な社会づくりを支えています。今回は、事業活動を通じた持続可能な社会への貢献だけではなく、地域貢献にも意欲的な同社人事総務部濱広宣さんにお話を伺いました。
スマホの開発・製造を支える通信計測を柱にグローバルに事業を展開
御社は126年の歴史をお持ちで、日露海戦で「敵艦みゆ」と打電した無線機が御社製という、歴史的な場面でお名前を拝見し、感動しました。現在は情報通信の分野だけではなく、さまざまな領域で事業展開をされているということですが、具体的な事業内容についてお聞かせください。
濱
弊社の事業の大きな柱が通信計測事業で、スマホの開発・製造に欠かせない通信用計測器を主力製品としています。
スマホなど携帯電話の電波は基地局を経由して通信されます。スマホが正常に基地局に接続するかどうかを出荷前にもテストする必要があるのですが、出荷前の端末は稼働中の基地局につないでテストすることはできません。弊社の測定器には擬似的な基地局があり、端末がつながって仕様通りに動作するのかを試験できます。また、海外でもつながるのか、新しいアプリを入れたら消費電力が増えてすぐに電池が切れてしまうことがないかどうかなど、携帯電話メーカーさんなどは 弊社の計測器を使って試験をしています。
通信計測事業に次ぐ柱がプロダクトクオリティ・アシュアランス(PQA)事業です。食品・医薬品の分野において、X線や金属検出などの技術を使い、異物が混入されていないのかをチェックする品質保証用の検査機器を開発・製造しています。
さらに、通信品質向上ソリューションや映像監視ソリューションを提供する情報通信事業、通信や医療をはじめさまざまな産業のコアとなる光デバイスや超高速電子デバイスを提供するセンシング&デバイス事業があり、4つの事業をグローバルに展開しています。
アンリツのサステナビリティ社会の実現に向けた取り組み
御社が毎年発行されている「サステナビリティレポート」は大変充実しています。なおかつわかりやすく、投資家だけではなく一般の人にも伝わりやすい内容です。幅広いステークホルダーを念頭に情報開示に力を入れていると感じました。
濱
おほめいただき、大変うれしいですね。 弊社 のサステナビリティレポートは、サステナビリティ推進室が所管していますが、制作には社内の全部門、グループ会社が関わっています。それによって、持続可能な社会に向けてどう取り組むべきか、ステークホルダーにどう向き合うか、社内全体で意識する効果も生まれていると感じています。
私自身も執筆メンバーの一人であり、事業継続を担当しました。さきほどお話ししたように、 弊社は情報通信システムの進化、円滑な運用、食品・医薬品の生産など、社会インフラの維持に関わる事業を展開しています。さまざまな災害発生時においても、社員の安全を確保した上で、事業を継続することは重要な課題です。
事業継続といえば新型コロナウイルスの影響も大きかったのではないでしょうか。
濱
これは本当に難題でした。 弊社 は、2020年1月末に、社長をトップとする対策本部を立ち上げ、社員の安全の確保を最優先にしながら事業継続に取り組みました。テレワークや臨時自動車通勤の実施、マスクの配布、オフィスや会議室、社員食堂でのアクリル板の設置など、接触機会の低減、飛沫感染防止対策の徹底に取り組んでいます。職域接種も行い、社員の安全・安心に手を尽くしています。
レポートを拝見すると、マスクは自社で製造されていますね。
濱
弊社は製品の生産ラインの一部においてマスクを着用していますが、新型コロナウイルスの影響で国内のマスク需要が急激に増加し、調達が困難になるという事態になりました。さらに社員が感染予防のためのマスクを買えない状況にもなりました。そこで自社で不織布マスクの設備を調達し、製造しています。
このマスクは、衛生マスクの安全・衛生自主基準を定めている全国マスク工業会の厳格な審査により安全性が認められていることから、社員だけではなく取引先さまやお客さま、厚木市などにもご提供し、利用していただいています。
科学とスポーツを通じて未来世代に意識をつなぐ
社員をはじめ、ステークホルダーの皆さまを大切にされていることが伺えます。御社の社会貢献について、もう少しお話しをお聞かせください。
濱
「青少年教育の連携」「地域社会への貢献」「環境推進活動」を3本柱として地域密着の取り組みを行っていますので、その中から代表的なものをご紹介したいと思います。
まずご紹介したいのは、おもしろ理科教室です。これは、厚木市教育委員会と地元の企業や大学がコラボして行っています。 弊社は将来の社会を担う小学生を対象に社員が先生役になって「人間電池」の授業を行っています。
濱
2つの異なる金属を持った生徒たちが手をつなぎ、発生した微弱な電圧でオルゴールを鳴らしたり、LEDを光らせたり。子どもたちにも大変好評で、「家で試して家族をびっくりさせたい」「大人になっていろんなものを作りたい、人の役に立ちたい」などの感想を寄せてくれています。
弊社はものづくり企業ですので、この授業を通して、ものづくりへの興味を持ってくれることを期待しています。
スポーツ支援では、アンリツ杯の名称で小学生のサッカー、ソフトボール、ドッジボール大会を主催しています。特に1995年に創業100周年の記念事業として始めたサッカー「アンリツ杯」は、近年は神奈川だけではなく近隣の都県からも参加し、2日間にわたって開催する大規模な大会に発展しています。厚木市の友好都市である韓国の軍浦市からも参加していただいたことがあるんですよ。メンバー紹介のカラー冊子を弊社で作成してお配りしているのですが、「卒業記念になる」とご好評いただいています。
また、昨年からサッカー県リーグの「はやぶさイレブン」のチームスポンサーになっており、Jリーグを目指すチームと一緒に弊社もますます飛躍できるようにこれからも支援していきたいと考えています。
「アンリツサンタ」が児童相談所にクリスマスプレゼントを
さきほど、厚木市にマスクを提供しているというお話しがありました。それ以外にも行っている活動があれば教えてください。
濱
弊社が創業120周年を迎えた2015年から厚木市の児童相談所にクリスマスプレゼントを贈る取り組みを行っています。「社会に対して社員がどう目を向けていくことができるのか」という問題意識から始めました。広報部門と連携した取り組みであり、社員に呼びかけ、子どもたちに贈る手袋や靴下、マフラーを募集したところ、たくさんの数が集まりました。
社内に設置したツリーの下に大きな袋を置き、そこに入れてもらうのですが、毎年300~500点が集まります。子どもたちが使うものだからと、わざわざ新品を購入して提供してくれる方が多く、本当に心が温かくなります。
濱
社会貢献は、特定の部署や社員が関わるのではなく、社内にそういう風土を育て、社員全員が意識し、継続して取り組むことが大事だと思っています。クリスマスのプレゼントは厚木の本社だけではなく、郡山のグループ会社にも波及しており、今後も継続していきたい活動の一つです。
人と人とのつながりを大切に共に未来を創造していく
今の学生は、ステークホルダーエンゲージメントや社員エンゲージメントを重視する企業に、非常に高い関心を持っています。この点で御社が学生に伝えたいことをお話しいただけますか。
濱
数十年働いてきましたので、思い出は本当に数多くあるのですが、一番感じることは、アットホームな風土があって人とのつながりを大切にする会社だということでしょうか。また、挑戦させてくれる会社でもあります。私は労働組合業務に従事した後人事総務部門に配属され、当時動いていた新本社棟建設というプロジェクトに加わりました。100年後を見据えた大事業にまさか携わることになるとは思ってもみませんでした。2015年に無事に竣工したのですが、誇りとなっています。一人ひとりが仕事を任され、責任感を持って互いに支え合って実現していく。こういう文化があるのが 弊社だと思っています。
企業の歴史と限界を超えて持続可能な社会づくりに挑戦する企業風土
御社の120年を超える歴史には、人と人とのつながりを大切に、共に未来を創造しようとする文化が宿っているのですね。では最後に、御社の今後の展開について、お聞かせください。
濱
弊社は今年、新たな経営ビジョン「『はかる』を超える。限界を超える。そして持続可能な未来へ。」を掲げました。これまでに蓄積してきたコンピテンシーである「はかる」を極めていくとともに、内外の異なる発想や技術をさらに掛け合わせ、従来の「はかる」を超えた価値や新領域を開拓していくことで次の事業の柱を成長させ、攻めの姿勢で今までのアンリツの限界を超えていくという意味を込めています。この経営ビジョンの下、すべてのステークホルダーとつながり、貢献しながら、持続可能で魅力的な未来を次世代につないでいけるよう、取り組んでいきたいと考えています。
◎会社概要
アンリツ株式会社 | アンリツグループ (anritsu.com)
https://www.anritsu.com/ja-jp/
設立年:1895年
〒243-8555 神奈川県厚木市恩名5-1-1
アンリツ サステナビリティレポート2021
https://www.anritsu.com/ja-jp/about-anritsu/sustainability/library