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特定非営利活動法人 キーパーソン21

http://www.keyperson21.org/

〒211-0004 神奈川県川崎市中原区新丸子東2-907-25 ハイツ武蔵小杉704

日本を変える3つのNPOと考える〜尊重しあえる社会づくりとは〜|キーパーソン21 朝山あつこ、農家のこせがれネットワーク 宮治勇輔、グッド・エイジング・エールズ 松中権

サステナブルな取り組み イベント
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左から木村則昭氏、松中権氏、朝山あつこ氏、宮治勇輔氏
左から木村則昭氏、松中権氏、朝山あつこ氏、宮治勇輔氏

グローバルで活躍するサステナビリティのリーダーが集うコミュニティ・イベント「サステナブル・ブランド国際会議 2022 横浜」が2月25・26日に開催されました。

メインテーマ「REGENERATION(再生)」に基づき、日本の「再生」に不可欠な尊重しあえる社会づくりに取り組む3つのNPOの代表がセッションを行いました。

オルタナ総研フェローの木村則昭氏をファシリテーターに、認定NPO法人キーパーソン21代表理事の朝山あつこ氏、特定非営利活動法人農家のこせがれネットワーク代表理事の宮治勇輔氏、認定NPO法人グッド・エイジング・エールズ代表の松中権氏が登壇。

それぞれのプレゼンテーションとディスカッションの様子をお伝えします。

◎プログラム
1.プレゼンテーション
・認定NPO法人キーパーソン21代表理事 朝山あつこさん
・特定非営利活動法人農家のこせがれネットワーク代表理事 宮治勇輔さん
・認定NPO動法人グッド・エイジング・エールズ代表 松中権さん
2.パネルディスカッション


◎子どもたちの生きる原動力になる「わくわくエンジン®」の引き出し方

認定NPO法人キーパーソン21代表理事 朝山あつこさん

認定NPO法人キーパーソン21代表理事 朝山あつこさん

子どもたちの主体性を失わせる「呪いの言葉」

朝山

キーパーソン21代表理事の朝山です。私のテーマは「教育からはじまるわくわくする未来をつくろう」です。

私たちは「やりたいことが何もない」「学校は窮屈。毎日がつまらない」、日本中にたくさんいるそういう子どもたちが、自ら動き出したくなる「わくわくエンジン」を引き出す活動を20年前から行っています。

現場の先生方は、「うちの生徒たちはみんないい子で、勉強もそこそこできる。でも、積極性や主体性が足りない」と皆さんおっしゃいます。

これはどういうことでしょうか。人間は生まれた時には積極性や主体性をもっているはずなのに、それが失われてしまうのはなぜでしょう。

大人たちは子どもに呪いの言葉をかけてしまうんですね。「何をやっているの、ちゃんとしなさい」「そんなことじゃ通用しない」「あなたのためよ」「夢みたいなこと言っていないで」。

お決まりの言葉です。私もかつてはそういう声をかけていたかもしれません。そして「結局あなたはどうしたいの」と詰め寄ってしまう。

そんな呪いの言葉をかけられた子どもたちは、「親が言うから」「先生が言うから」「おれってどうせそんな感じだから」と、あきらめモードになり、全然わくわくしていない。

自分の人生なのに他人事のように生きている子どもたち。突然親や先生に反発して登校拒否になる子もいます。

それを変えるのが「わくわくエンジン」です。わくわくして動き出さずにいられない原動力を子ども1人ひとりから丁寧に引き出していく。

「わくわくエンジン」がわかると、自分のエネルギーの行き先がわかるようになります。自分の活かし方、大切にしたいものがわかり、人がより深く理解できるようになる。そこから生きる勇気がわいてくるんです。

1人ひとりの「わくわくエンジン」が生きる原動力になる

朝山

わくわくには、「何が好き」という名詞的なわくわくと、「何々することが好き」という動詞的なわくわくがあります。私たちが取り組んでいるのは動詞的なわくわくを引き出すことです。

どういうことかと言いますと、「野球が好き」という子どもがいると、大人は「じゃあ将来は野球選手だな」と職業につなげてしまいます。

その時子どもは、自分の「好き」と野球という職業がつながったことでわくわくする。でも、あるとき自分は野球選手になれないことに気づくと、1本の糸がぷちんと切れて「どうせ」「別に」となってしまう。

私たち大人がすべきことは、子どもたちが「野球が好き」と言った時に「野球の何にわくわくするの」と理由を問うことです。

そうすると同じわくわくでも、A君は作戦や戦略を立てることがめっちゃ面白い。B君はチームで役に立つことがうれしい。C君は筋トレや素振りをして日々成長できるのがうれしい、と好きな理由が異なることがわかります。

そして、好きな理由を掘り下げることにより、子どもがもっている本質を明確にし、可能性を広げることができる。

たとえば、A君なら作戦を立てることは世の中にたくさんあります。家族旅行の計画やクラスの騎馬戦の戦略、地域のお祭りでの人集め。野球という興味の対象からさまざまな経験へと発展させることができるのです。

このように、わくわくエンジンを引き出し、その子にあった経験につなげることにより、子どもは自らの可能性を広げ、そこから自分にあったアクションへとつながっていきます。

それは自らの原動力に基づく主体性を引き出す、キャリア教育の一つの形だと考えています。

大人に必要なのは教えることではなく、子どもたちのわくわくを引き出す力

夢!自分!発見プログラム
キーパーソン21「自分!発見プログラム」の紹介ページ(https://www.keyperson21.org/activity/program)。「自分で選んだ道を歩んでいると、その道が険しかったり、ささやかであっても『ああ、楽しいなあ。充実しているな。生きてるな。』と感じます。一所懸命になって頑張れる、お金では買えない力(=エネルギー)を持つことができる。誰かのためになっていたり、誰かが喜んでくれていたり。おおげさかもしれませんが、自分の使命や役割に気づいて、心震えることがあります。子どもたちにもそんな感動をもって生きてほしい(朝山さん)。
朝山

私たちは「わくわくエンジン」を見つけるための汎用性のあるプログラムを開発しました。それが「夢!自分!発見プログラム」です。

プログラムを学校・学習支援の現場・地域の施設などに提供し、保護者とPTAや先生たち、地域のコミュニティと連携しながら実践するほか、子ども応援プロジェクトとして、多くの企業にもご協力いただいています。

大学や文部科学省とも連絡してイベントの開催も行っています。

教育は親や先生だけではなく、あらゆる立場の人がごちゃ混ぜになって一緒に作っていくことが大切です。

子どもたちはさまざまな大人との出会いの中で将来の仕事や生き方を考え、本当に大切にしたいことに気づき、主体的に人生を選択して動き出す力を育むことができるからです。

関わる大人に必要なのは教える力ではなく、ファシリテーターになることです。子どもたちの中にあるダイヤモンドの原石を引き出し、認めて伴走することです。

目標は、すべての人が生き生きと暮らせる社会を作っていくこと。全国の仲間たちとともに子どもたちの「わくわくエンジン」を引き出し、誰もが自分も、人も尊重できる社会づくりに取り組んでいきます。

◎イノベーションと伝統の継承。後継者ネットワークが家業の未来を作る
特定非営利活動法人農家のこせがれネットワーク代表理事 宮治勇輔さん

宮治勇輔さん

一次産業を「かっこよく、感動的で、稼げる3K産業」に

宮治

農家のこせがれネットワークの宮治です。代表理事をしながら藤沢市で家業の養豚業を営んでいます。

もともとは後を継ぐ気はなく、企業に就職したのですが、自分にしかできない仕事は何かと考え始めた時に一次産業を「かっこよくて、感動があって、稼げる3K産業」にしたいと考え、退職して家業を継ぎました。

それから3年後に結成したのがこのNPOです。ミッションは「都心で働く実家が農家の人をそそのかして会社をやめさせ、実家に帰す」。現在は農業の枠を超え、すべての家業の後継者のための場づくりをしています。

活動の中心である「家業イノベーションラボ」についてお話します。後継者には悩みがたくさんあります。自分しか後を継げないと意気込んでも先代とぶつかる、相続や昔からの従業員との関係も難しい。

家業だけだと視野が狭くなるという問題も。そこで、志を同じくする仲間が集まって悩みを話し合い、解決策を考える場を作っています。老舗企業の知見や新しい技術を学ぶこともできる場です。

現在ラボでメインとしているのはイノベーションと事業承継です。イノベーションについてはビジネスモデルの賞味期限切れ問題と言っていますが、先代が何十年も経営していて、社会の変化に対応できていないケースがたくさんある。

それをどうするのか。さまざまな業界の後継者で、イノベーションに成功している「家業イノベーター」とともに考えていきます。その実践を2020年に白書にまとめました。

家業は日本の伝統や歴史の継承を担う重要な存在

家業イノベーションラボのHP
家業イノベーションラボのHP(https://kagyoinnovationlabo.com/)。「家業が生まれたとき、先代は事業を発明した。今度は、先代のDNAを受け継いで、私たちが家業を再発明する番だ。あたらしい人と、技術と、考え方とつながることで生まれる化学反応が、その出発点になる。100年後に、日本で、世界で、語り継がれるような出会いを、このラボから生み出したい」(宮治さん)
宮治

家業はこれからの日本で重要なプレイヤーになると考えています。日本は世界一の家業大国で、創業200年以上の会社がダントツに多く、そうした会社が地域の歴史や文化、伝統を担っています。

そういう会社がなくなると日本の伝統・歴史が途切れてしまう。グローバル化ももちろん大事な視点ですが、いかに日本の家業が長く残っていけるかを考えていかないといけない。

一プレイヤーとして変化する世の中に適応し、会社を存続させる努力をするとともに、伝統や歴史の承継について、家業の後継者だけではなく日本人ひとりひとりが考えていける取り組みも必要だと考えています。

コロナ禍の今はオンラインコミュニティが活動の中心です。たとえば食系の企業が集まって商品開発はどんな風にしているのか、情報交換やノウハウをシェアする。

経営相談会を開いて課題の解決を巡って意見交換したり、全国の地域コーディネーターと連携して家業と伴走する仕組みづくりを行ったりしています。

株式会社星野リゾートの星野佳路社長を招いてのセミナーも開催しました。

家業の後継者とビジネスパーソンをつなぐ取り組みも行っており、海外での商品開発にも乗り出しています。活動に興味を持たれた後継者の方の参加を広く募っています。ぜひわれわれのウエブサイトを訪れてみてください。

◎さまざまな性のあり方で生きられる社会づくりを目指して
認定NPO法人グッド・エイジング・エールズ代表 松中権さん

松中権さん

LGBTQ+は人口の1割。可視化されずに生きにくい社会を変えたい

松中

グッド・エイジング・エールズはLGBTQ+の活動をしています。

LGBTについては今9割の人が知っています。では、Qと+はどうでしょう? Qは2つの意味があり、ひとつはクエスチョニング(Questioning)。性のあり方に迷っている、決めたくない人たちです。

そしてクイア(Queer)の頭文字。変わっているという意味を性的マイノリティーの人たちがポジティブに転換した言葉です。

LGBTの4つの人たち以外にも人と違うが方いて、さまざまな性のあり方がある。その方々も含めて広がりをもつために、+をつけています。

LGBTQ+の人は人口の5~10%と言われています。AB型が1割。佐藤・鈴木・田中・高橋のトップ4の苗字の人たちは5%です。それくらい身近にいるのに知らないのはカミングアウトしていないから。

なのでLGBTQ+の人が何につまずいているか、困っているかが知られていません。車イスの人なら段差が困るように、可視化され、平等に生きていくことができるようにすることが活動の目的です。 

アウティング事件に衝撃。会社を辞めてNPO専念を決意

松中

自分自身についてお話します。金沢出身で東京の大学に進学し、卒業後はオーストラリアへ。海外に行ったのは日本で暮らしにくかったからです。ぼく自身もLGBTQ+、ゲイの当事者で、日本では差別・偏見がありました。

その後日本に戻って広告会社で働くのですが、しばらくはカミングアウトをしない「クローゼット」に戻って自分らしくない生き方・働き方をしていました。

やっぱり自分らしく生きたい。そこで、グッド・エイジング・エールズを立ち上げ、二足のわらじをはいてきました。

具体的な活動はさまざまな場づくりです。

いろいろな人たちがいることを受け止められる職場環境に変えていくためにカンファレンスを開いたり、不動産屋さんと一緒にシェアハウスを開発したり、自分らしく居られるサードプレイスづくりも行いました。

転機となったのが2016年です。会社で首相官邸の担当になり、リオのオリンピック・パラリンピックに行き、日本の文化や技術を届ける仕事をしました。とても楽しい体験でした。

LGBTQ+であることをカミングアウトし、東京大会が決まり、多様性と調和がオリンピックのテーマになることも決定していて、ものすごく高揚していました。

そんな時に飛び込んできたのが一橋大学のアウティング事件のニュースでした。アウティングとは、本人の了解を得ずに、他の人に公にしていない性的指向や性自認等を暴露する行動のことです。

ロースクールに通う学生が友だちにカミングアウトすると、その話が流布され、偏見の目にさらされた。学校に相談しても適切な対応が得られなかった。そして校舎6階から転落して亡くなった。

一橋大学はぼくの出身校です。会社をやめようと思いました。

自分自身は超ラッキーに働けているが、社会はそうではない。いや、自分もたまたまラッキーだっただけで、日本に暮らすLGBTQ+の人たちは、常に綱渡りの人生なのだ。そういう社会を変えていこうと考えたからです。

居場所づくりや相談窓口でLGBTQ+のユース世代を支える

グッド・エイジング・エールズのHP
グッド・エイジング・エールズのHP(https://goodagingyells.net/)。「LGBTQ+がより良く歳を重ねていける世の中を、という思いからこのプロジェクトは始まりました。LGBTQ+が住みやすい社会はみんなにやさしい社会だと信じています。ひとりでも多くの人が、自分の性のあり方に誇りを持って生きられる場を増やしていきたい」(松中さん)
松中

LGBTQ+のユース(若者)の子たちは、そうではない子に比べて6~10倍自殺を考えたり、トライしたことがあるという数字があります。自分がLGBTQ+ではないかと気づく世代です。その子たちの居場所を作ることが大きな目的となりました。

LGBTQ+の活動・団体は全国にありますが、皆二足のわらじで疲弊している。そこでセンターを作り、情報を集めて無料で提供する場所にしました。それが、東京2020を契機に設立した「プライドハウス東京レガシー」です。

プライドハウスは大きな国際スポーツ大会に合わせて各地のNGOが主体となって設立・運営され、スポーツとLGBTQ+というテーマで情報を発信する場です。

プライドハウス東京の特徴は、企業や自治体などと一緒に作りあげ、世界で初めての公認プログラムとしたことです。そしてユース世代に向けて常設にしました。

コロナの発生でユースの約4割が自分の性のあり方を安心して伝えられる場所を失い、家族と生活している人の7割がその生活に困難を抱えていることがわかりました。

そこで、大会よりも前倒しの2020年10月でオープンし、情報発信やさまざまな方のカミングアウトのお手伝いもしてきました。現在は5つの相談窓口を設けていつでも誰でも訪れられる場所になっています。

パネルディスカッション
子ども、LGBTQ+。人の本質を見ることができない社会

木村則昭さん
木村

皆さんありがとうございました。では、パネルディスカッションに入らせていただきます。まずはそれぞれの発表について質問や感想をお聞かせください。

朝山

宮治さんも、松中さんも、どちらも本当に意義のある活動をされているなと思いました。一橋大学の後輩の出来事に衝撃を受けて会社をやめる決断をするところには感動しました。

松中

美談のように言われますが、すごくこわかったんです。アウティングがあったのはライングループの中で、亡くなった学生さんは「やめてくれよ」と抗議するのではなく、「へー、もしおれがそうだったらどうする?(笑)」という反応でした。

その後80分間誰の発言もなく、彼は「今度の憲法のテスト、同性愛者の人権出るかもね(笑)」という内容で答えた。

これはぼくが学生時代やっていたことと同じなんです。同性愛のネタが話題になると笑いに変えたり、ごまかしたり。ですから、そこにいたのはぼくかもしれないと思った。

誰かの命に関わることだと思ったら、もう会社の仕事をしていられないと思いました。

朝山

その課題が自分事としてアクションになったということですね。そこがすごいと思います。宮治さんも農家のこせがれであるということ、自分事としてそういう仲間たちと動いていらっしゃる。

宮治

だまくらかすではないですが、実家に帰って農家をやっても意外と食えるんだよ、と言っています。

農家を継ぐにはいろんなハードルがあって、いちばんは収入面。いい会社に勤めていれはいい給料をもらえる。

でも、実家に帰れば食費も家賃もただ。技術指導は親父がやってくれる。可処分所得が200万少なくなっても東京にいるより豊かに暮らせるよ、と。

今はそういう考えが結構当たり前になってきていて、この10数年で世の中がかなり変りました。

朝山あつこさん
朝山

奥さんがいたら反対されたりすると思うんです。あなたが農家の人だから結婚したんじゃない、と言われたり。

宮治

まさにそういう話はありますね。嫁さんの親から、農家に娘を嫁がせたつもりはないと言われたりする人もいます。

朝山

それは私たちの活動と共通すると思います。その人の本質を見ずに表面的なところ、条件だけを見て言っているんですね。

宮治

共通するテーマですね。

松中

ただ、今こういう話をしていても結婚している、大前提で異性愛者の話になっていくじゃないですか。そのことが、たとえば松中さんがやっている活動のユースたちのやりたいこと、そのもっと原点の「自分って何だろう」と思っても言えない苦しさにつながる。

また、田舎に帰れよ、と言われた時に田舎は東京以上に暮らしにくい。差別・偏見がありますから。だから全部リンクしている。

宮治

そうですね。農村や地方に行けば行くほどいい噂も悪い噂も早く広がる。なので遠くの関係というのは貴重で、地元の人には相談できないけど遠くの人にだったら話せるというのがあって、そういう場づくりをしています。

朝山

私たちも親子という関係性だとそのような呪いの言葉を容赦なくぶつける。先生もきびしかったりする。でも、第三者の大人はその子のいいところだけ見てくれるんです。

否定をしない。心理的安全性がその人の力を引き出す

サステナブル・ブランド国際会議2022
木村

農業も中小企業も後継者がいないということで廃業が問題になっています。宮治さんがおっしゃっていた親父の事業を継げるのはおれしかないという気概も後継者には重要ですよね。

宮治

これも親元から離れていたからそう思えたのかも。普通に就職してひとりで暮らし、親のありがたみも離れてわかるようになった。

松中

家業を継ぐのは男の子で、かっこいい。女の子はそうじゃない、という考え方もあるように思います。男の子でも、女の子でも、そうでなくてもかっこいいのですが、このあたりの意識ももうちょっと変えていかないといけないんじゃないかなと思いました。

宮治

確かに家業は男が継ぐべきというのが以前はありましたが、最近は男女関係なく、社長はいちばん情熱がある人間がやるべき、となっていますね。朝山さんの話を聞いて、子どもと家業の後継者はめちゃめちゃ共通点があるなと思いました。

まわりから背中を押す存在が必要と聞き、後継者もそうで、親に新しいことを提案してもそんなのムリと言われてしまう。まわりが支援する必要があるんです。

朝山

「こうあるべき」「こうあらねば」。呪いの言葉が多すぎるんですよね。「べき」と「ねば」は世の中からなくしてほしいですね。

松中

職場環境で言うと心理的安全性という言葉があります。

LGBTQの人がカミングアウトしたとしても、「え!」ではなく、「あ、そうなんだ」という反応になれば、カミングアウトしようがしまいが働きやすくなってパフォーマンスが上がります。心理的安全性があれば、ネガティブになった時も攻撃されないと思えて安心感がある。

子どもたちの力を引き出す取り組みと似ていると思いました。

朝山

キーパーソン21が開発したプログラムをいつか皆さんにも体験していただきたいのですが、一切否定をしないこと、「そんなのだめだ」「やりたいことないのか」といった言葉を使わないことが決まりで、相手のいいところだけを見るトレーニングをします。

キーパーソン21が開発したプログラムをいつか皆さんにも体験していただきたいのですが、一切否定をしないこと、「そんなのだめだ」「やりたいことないのか」といった言葉を使わないことが決まりで、相手のいいところだけを見るトレーニングをします。

宮治勇輔さん
宮治

めっちゃいいですね。ぼくも親父にやりたいことを言ったら、おまえの言っていることは地に足がついていない、理想論だとさんざん言われましたからね。

朝山

否定的な言葉を跳ね返す力をつけるのが、「わくわくエンジン」だと思っています。自分の信念や大切にしたいものに気づくと強くなれて、批判されても「え、でもね」と言えます。

宮治

自分の軸ができるみたいなものですよね。

木村

それを自分自身で見つけるのはなかなか難しい。とくに小中学生だと言語化が難しいですから。このプログラムでは大人が伴走することで、子どもが言語化することができるようになり、そうなんだと気づいて腹落ちできます。

宮治

家業の後継者にもまさに必要なプロセスです。

後継者は先代がつくったレールをそのまま走るイメージがありますが、それは間違いで、親父が作った経営基盤をうまく活用しながら時代にあったビジネスモデルにしていく。起業家というよりも事業プロデューサーみたいな視点が必要です。

尊重しあえる社会づくりに求められるもの

サステナブル・ブランド国際会議2022 2
朝山

権さんと宮治さんの「わくわくエンジン」はなんでしょう。私の「わくわくエンジン」は名刺の裏にも書いているのですが、「ひとりひとり尊重しあうことから生まれる幸せの世界観を身近な人と作っていくこと」。これがエンジンです。

宮治

ぼくは、「一次産業をかっこよくて感動があって、稼げる3K産業に」が「わくわくエンジン」です。だから職業ではない。職業は豚農家ですが、かっこよくて感動があって、稼げる3K産業になれば職業は何でもいい。学校の先生でもいいし、政治家でもいい。

松中

ぼくはすごく好きな言葉があって、ガンジーが遺した「あなたが世界で見たいと思う変化があったらあなたがその変化になりなさい」です。その変化は大きな変化でなくてもよく、こういうのがいいなと思ったら一歩踏み出すといい。

ぼくは自分自身が変化になりたい、起こしたいという大それたことではなく、その人自身が社会を変えていく小さな変化になっていく、そのそばにいるのがすごくいい。一緒に変えていきたい。

松中権さん
松中

何かを変えるにはファーストペンギンだけではなく、二番目も三番目も大事なんです。

ファーストは変わった人に見られがちですが、それをいいじゃんと応援するのが二番目。そして三番目が大事で、三番目の人が出てくるとグループになる。あ、みんながやっているのなら、となっていきます。

朝山

今日のテーマの「尊重しあえる社会づくりとは」ですが、どういう状態でも尊重しあえるのはすごいこと。

家業でもどういう風にやったらいいのかわからない人もいるのでは。子どもたちもどういう風にやっていきたいの、将来どうしたいと聞かれると答えられない、こわい。

だけど、好きなものは何? と聞かれると答えられて、そこからやりたい仕事につながり、未来につながっていく。自分のありたい姿が見えてくる、と子どもたちは言います。

松中

大人は子どもたちの発言を聞くとそんなことでは幸せになれないと言う。

でも、その幸せはあなたが経験してきたもの。自分の経験でのものさしで測ってしまうから、その幸せにあてはめるとゲイカップルは子どもがいない、そんな幸せじゃないのはダメ、と言われる。

そうではなく、それも幸せだね、と言えるようになれば互いにリスペクトできます。

朝山

尊重は、心から相手のど真ん中を見る力だと思います。その力が日本中の人に備われば尊重が広がっていく。私たちはそういうトレーニングをしています。

宮治

すばらしいですね。今日のテーマは尊重しあえるですが、後継者と先代との関係はなかなかそうならないことも。先代に言うと反対されることが多いので事後報告がいいことも多い。ちっちゃな成功事例を作って見せていくのがいいこともあります。

松中

人と人とのつながりとか1人ひとりが違っていい、という考え方は根性論になるきらいがあります。

テクニックやティップスがあれば。カミングアウトされた時にどう答えるかというロールプレイングはしています。

ティップスというよりは想像力を働かせるもので、普段使わない頭の筋肉を使い、カミングアウトする方の気持ちも想像していく。

朝山

私たちはあの手この手でやっていて、野球の何にわくわくするの? と聞くと子どもは最初ぎょっとします。でも、聞いていくと答えてくれる。

そこから「わくわくエンジン」を見つけて行動するようになり、失敗して帰ってきてもナイストライと声をかける土壌があればいいんです。

宮治

そのプログラムはしぶしぶ家業を継いだ人に受けてもらいたいと思いました。大人にもできますか。

朝山

もちろんです。私たちは子どもの「わくわくエンジン」を引き出す大人を訓練し、わくわくナビゲーターに育てています。相手のど真ん中を見る力はさまざまなフィールドで必要だと思います。

松中

三者は全然違うフィールドですが、共通点がありますね。子どもたちの中にも、事業後継者の中にもLGBT Q+の人たちがいることも、もっと知ってほしい。

当たり前にLGBTQ+ではないシスジェンダー(自分が思う性別と生まれ持った性別が一致している人のこと)やヘテロセクシュアル(異性愛)を前提に話しかけられるとたぶんシャッターがおりてしまう人がいる。

ですから、おふたりにも他のさまざまなNPOにもぼくらの取り組みに入ってほしいですし、ぼくらもそちらのフィールドで学びたいと思います。それが互いを「尊重しあえる社会づくり」につながっていくのではないでしょうか。

左から木村則昭氏、松中権氏、朝山あつこ氏、宮治勇輔氏

◎登壇者プロフィール
木村則昭オルタナ総研フェロー
1982年上智大学外国語学部卒業後、2021年5月まで39年間カシオ計算機株式会社に勤務。
初めの約27年間はシステム商品の海外営業を担当。その間オーストラリアに約2年、米国に約4年駐在。その後の約12年間はCSR推進室(後にサステナビリティ推進室)室長としてコンプライアンス及びCSR(サステナビリティ)のグループ内への浸透を推進。
グローバルコンパクトの原則に基づき、ISO26000をガイダンスとして、とくに「人権」を重点課題として取り組みを進めた。また、2015年にCSRリーダー組織を立ち上げボトムアップによるCSRのグループ内浸透を図った。
オルタナが主催するサステナビリティ(SUS)部員塾の講座「CSR検定3級試験過去問演習と解説」の講師を2018年度から、「CSR検定2級試験過去問演習と解説」の講師を2021年度から担当。2022年から主に中小企業向けの研修講師やCSR(SDGs)コンサルタントとしての活動を本格化させる。
認定NPO法人 環境経営学会 理事。

朝山あつこ
認定NPO法人キーパーソン21代表理事 
わくわくして動き出さずにいられない原動力「わくわくエンジン®」の発見提唱者。長男の中学校の学校崩壊がきっかけで、大人も子どもも、自分を活かしていきいきと仕事をして生きていってほしいと願い、2000年にNPO設立。「夢!自分!発見プロクラム」を開発し、学校、企業、行政、大学、PTAなどと連携し、一人ひとりのわくわくから主体的になるキャリア教育を北海道から沖縄まで全国に展開中。これまで、5万人を超える子どもたちにプログラムを提供してきている。
日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2005」クリエイティブ部門受賞。
神奈川県の大学における男女共同参画推進プログラム検討委員や、
企業のCSR教育プログラムアドバイザー、その他、多数の企業や教員研修を務める。
2017年 経済産業省主催 キャリア教育アワード 中小企業部門最優秀賞を受賞。
2018年 内閣府、文部科学省、厚生労働省、経済産業省の三省連携シンポジウムで基調講演。
2019年~ 相模原市総合計画審議会委員
著書:「ふつうの主婦が見つけたやる気のエンジンのかけ方」

宮治勇輔
特定非営利活動法人農家のこせがれネットワーク代表理事
1978年、湘南地域の小さな養豚農家の長男としてこの世に生を受ける。
2001年慶應義塾大学総合政策学部卒業後、株式会社パソナに入社。2005年6月に退職。
実家の養豚業を継ぎ、2006年9月に株式会社みやじ豚を設立し、代表取締役に就任。
生産は弟、自身はプロデュースを担当、独自のバーベキューマーケティングで2年で神奈川県のトップブランドに押し上げる。
みやじ豚は2008年農林水産大臣賞受賞。
2009年、農業の現状に危機意識を持ち、都心で働く農家のこせがれの帰農支援を目的に、NPO法人農家のこせがれネットワークを設立し、代表理事に就任。
2010年、地域づくり総務大臣表彰個人表彰を受賞。2015年より丸2年間、農業の事業承継を研究する、農家のファミリービジネス研究会を主宰。JA全農と『事業承継ブック』を制作し、全国のJAを通じて1万3千部を配布。2017年より家業イノベーション・ラボを立ち上げる。全国47都道府県で農業経営と地方創生における数百回の講演実績あり。
DIAMOND・ハーバード・ビジネス・レビュー「未来を創るU-40経営者20名」
著書に『湘南の風に吹かれて豚を売る』

松中権(まつなかごん)
認定NPO法人グッド・エイジング・エールズ代表 / プライドハウス東京代表 / 公益社団法人Marrriage for All Japan 結婚の自由をすべての人に 理事
1976年、金沢市生まれ。一橋大学法学部卒業後、電通に入社。海外研修制度で米国ニューヨークのNPO関連事業に携わった経験をもとに、2010年、NPO法人を仲間たちと設立。2016年、第7回若者力大賞「ユースリーダー賞」受賞。2017年6月末に16年間勤めた電通を退社し、二足のわらじからNPO専任代表に。LGBTQ+と社会をつなぐ場づくりを中心とした活動に加え、全国のLGBTQ+のポートレートをLeslie Keeが撮影する「OUT IN JAPAN」や、2020年を起点としたプロジェクト「プライドハウス東京」等に取り組む。 NHKドキュメンタリー番組「カラフルファミリー」が話題に。

◎イベント概要

サステナブル・ブランド国際会議2022 3

第6回 サステナブル・ブランド国際会議 2022 横浜
https://www.sustainablebrands.jp/event/sb2022/

サステナブル・ブランド国際会議は世界各地で開催される、グローバルで活躍するサステナビリティのリーダーが集うコミュニティ・イベント。持続可能性を議論し、ネットワークを広げる場として最も長い歴史を持つ会議のひとつ。

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