老舗ホテルを運営する株式会社龍名館(東京・千代田)は、法人契約の宿泊を対象に、電力消費に伴うCO2排出量を実質ゼロにするサービスを10月1日から開始する。
対象は、法人契約サービスを提供している「ホテル龍名館東京」(東京・中央)と「ホテル1899東京」(東京・港)。企業のESG経営への意識が高まる中、出張時の環境負荷を削減できる点を訴求し、顧客獲得につなげたい考えだ。
再エネ100%でCO2排出量を実質ゼロに
今回のサービスは、宿泊客が客室で使用する電力を、実質的に100%再生可能エネルギーで賄うことで、CO2排出量を実質ゼロにするというもの。再エネとは、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスなどの自然エネルギーを利用して発電した電気を指す。
これらのエネルギーは、発電時に化石燃料を使用せず大気中の二酸化炭素を増加させない「非化石電源」であることが特徴で、地球温暖化対策に有効な手段として注目されている。
龍名館では、この再エネ電力の利用を促進するため、発電情報などを紐づけた「トラッキング付きFIT非化石証書」を活用する。これは、再エネで発電された電力の環境価値を取引する仕組みで、証書を活用することで、龍名館の客室利用分の電力が再エネで賄われたことを証明する。
このサービスに伴う宿泊料金の値上げは行わず、法人契約の宿泊プランの基本仕様とする。また、希望する企業や利用者には、再エネ100%のホテルに宿泊したことを示す証明書を発行する。
スコープ3削減ニーズの高まりに対応
企業が自社の事業活動に伴い排出する温室効果ガスは、「スコープ1」「スコープ2」「スコープ3」の3つに分類される。
企業内部の直接的排出量であるスコープ1、電気など他社から間接的に排出するスコープ2までは、各社も比較的取り組みやすい内容だが、組織におけるCO2排出量を示すスコープ3は、サプライヤーの状況、社員の通勤によるCO2排出量など、15ものカテゴリーがあり、多くの企業は対応を模索している段階だ。
そして、サプライチェーン全体で排出される温室効果ガスの中には、社員の出張に伴う移動や宿泊なども含まれる(カテゴリー6)。近年、企業の間では、このスコープ3排出量の削減が強く求められており、今後は、環境対応を意識した出張先を選ぶ企業も増えてくると予想される。
「現時点では、取引先とのやりとりの際に、弊社の環境配慮への取り組み状況を確認されることは多くありません。しかし、サプライチェーン全体での排出量算定・開示を求める時代になれば、企業にとってサプライチェーン上のCO2排出量削減は喫緊の課題となり、ホテル選びの基準も大きく変化する可能性があります。
いずれ来るそういった時代にいち早く対応しておくために、今回のサービス開始は重要な布石となると考えています」と専務の濱田裕章さんは危機感をにじませる。
法人顧客の獲得目指す
龍名館は、本サービスの開始により、現在は135社の法人契約企業数を将来的に10%増加させることを目指す。
「今回の取り組みを足掛かりに、環境に配慮したサービスをさらに拡充し、持続可能な社会の実現に貢献していきたい」と濱田さんは語り、法人顧客獲得に向けた更なる施策展開に意気込みを見せる。
また、社員一人ひとりのサステナビリティ意識向上にも注力し、宿泊客からの質問にもスムーズに答えられるような体制を整えていく方針だ。
これまでの環境負荷低減の取り組み
龍名館は、2023年1月に「再エネ100宣言 RE Action」に参加したほか、同年6月には脱炭素の国際的な認定機関「SBTイニシアチブ」の認定を、国内のホテル・レストラン業態で初めて取得している。グループ全体のCO2排出量を2021年度比で2030年度までに42%削減する目標を掲げ、省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの利用拡大などに取り組んでいる。
「今回のサービスを通じて、出張する皆様に、環境への負荷を気にせず、安心して龍名館をご利用いただきたい」(濱田さん)。