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株式会社INDUSTRIAL-X

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〒105-0003東京都港区西新橋3丁目25-31愛宕山PREX11F

「データ駆動型農業」が農業ビジネスを拓く。高知県の“農業DX”最前線

サステナブルな取り組み ESGの取り組み
ステークホルダーVOICE 地域社会
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八子知礼さん(左)岡林俊宏さん(右)
写真左から「高知県IoPプロジェクト」に参画したINDUSTRIAL-X社 代表取締役CEOの八子知礼さん。高知県農業振興部 IoP推進監の岡林俊宏さん。

全国に先駆けて農業のDX に取り組んできた高知県では、2021年より施設園芸に「IoP(=Internet of Plants)クラウド」を導入。

農業ハウス内の環境や作物の状態、集出荷の成績などを見える化し、生産効率を高めてきた。

従来の農業とはかけ離れたAI・IT技術を活用したスマート農業は、どのようにして多くの農家に受け入れられ、どんな変化をもたらしたのか。

施設園芸産地として全国トップクラス。高知県が取り組む「データ駆動型農業」

IoPクラウドのメインエンジンとなる生理生態AIエンジン等の開発をおこなう高知県農業技術センター

なす、ししとう、しょうが、みょうがなどの生産量全国1位を誇る高知県。その生産を支えているのが、ビニールハウスなどを利用する「施設園芸」だ。そもそも高知県は県土の約84%が森林で占められており、農耕地面積の比率は全国のわずか0.6%にすぎない。限られた面積で農耕地を増やすことはできない状態から始まったのが、施設園芸だった。

ハウス栽培を中心とした施設園芸によって、高知県は同じ面積ながら収量を大幅に上げることに成功。耕地面積あたりの生産効率で全国トップ(※令和3年時点)を誇るなど、全国屈指の施設園芸産地として農業ビジネスを躍進させてきた。

昨今、そんな高知県が全国の自治体から大きな注目を集めているのが、産学官連携で推進する“データ駆動型農業”だ。これは、農業ハウス内の環境や光合成量をはじめとした作物の生育状態、集出荷の実績(毎日の出荷量、等階級毎の割合等)、全国の市況(価格、他の地域との価格差)などを見える化し、データ連携基盤を構築する取り組みである。

農作物の生産から流通まで、IT技術によって多様なデータを集積・活用できるのが魅力となっている。

高知県農業振興部 岡林俊宏さん
高知県農業振興部 岡林俊宏 IoP推進監は、農薬を使わないサステナブル農法、「天敵農法」を世に広めた人でもある。天敵農法とは、例えば、害虫のアブラムシを減らすために、天敵のテントウムシをハウス内で一緒に育てるという農法。

高知県農業振興部の岡林俊宏さんは、このデータ駆動型農業によって「“勘と経験”に頼る農業が大きく変わる」と強調する。岡林さんらが中心となり、高知県では生産や流通に関するデータをリアルタイムで集約する営農支援サービス「IoP(=Internet of Plants)クラウド」の実証運用を2021年にスタートした。

このIoPクラウド、通称『SAWACHI(サワチ)』では、クラウドに集約されたデータをわかりやすいグラフや数値で可視化。農業ハウス内の温度や湿度、日射量のデータも、スマホやPCで確認できる 。

IoPクラウド
SAWACHIに集約されたデータはスマホからも確認できる。提供:高知県

こういったデータの可視化によって、生産者が自身の“勘と経験 ”の答え合わせをするとともに、憶測に頼らない客観的かつより正確な生産管理が可能になった。実際、このIoPクラウドを導入したほとんどの農家で約20%の生産量向上を実現。

さらにデータ駆動型農業に合わせたより高度な次世代型ハウス設備に更新した農家においては約50%の向上となり、その効果が実証されることとなった。

IoPクラウド「SAWACHI」が新規就農者の“近道”に

農業ハウス内の環境情報や機器の稼働状況、作物の生育状態、集出荷の実績やランキングまで、営農に必要な情報をスマホやPCでさっと確認できる『SAWACHI』。

実証期間を含め運用開始から2年が経った現在、加入農家は750戸以上、出荷データ等の共有同意農家は2200戸以上にのぼり、ししとうの生産部会では約6割、なすやきゅうりの生産部会では約7割の農家がデータを活用している。

栽培初年度からししとうなどの生産管理にIoPクラウドを導入しているAitosa株式会社

今でこそ、農家が他の生産者に「これ使った方がええよ」と薦めるほどの支持を集める『SAWACHI』だが、当初はデジタルへの苦手意識から敬遠されることも多かったそう。それでも生産者の心を動かしたのは、IoPクラウドならではの特性だった。

「自分でやる農作業は1年に1回しか経験できませんが、2000軒の農家さんと繋がれば、1年で2000回分の知見や経験値が溜まります。
さらに『こうした方がええやろ』とこれまで体感でやってきたことをデータで数値的(客観的)に確認できる。収量も伸びる。それをメリットに感じてもらえたようです」(岡林さん)

スピード感を持って圧倒的な経験値を積めることは、農業参入へのハードルを下げてくれるため、新規就農者にとっての利点でもある。特に新規就農者は、色眼鏡で見ることなくデータと向き合いやすい。そのためIoPクラウドの活用によって、栽培の習得スピードが非常に早まるのだという。

過去には約200人が在籍するきゅうりの生産部会で、栽培開始直後からデータ駆動型農業を導入した新規就農者4人が収穫量TOP10入りを果たした事例もある。

Aitosa株式会社ファームマネージャー・菊池功一さん
Aitosa株式会社ファームマネージャー・菊池功一さん

データ駆動型農業の導入は、特に、農業経験のない新規就農者にとってメリットが大きい。高知県では、施設園芸への新規就農者のほぼ100%がデータ駆動型農業を実践している。

高知県南国市の高知県南国市のAitosa株式会社でファームマネージャーを務める菊池功一さんも、IoPクラウドを活用している新規就農者のひとりだ。

「ダイレクトに結果が出るのは、農業ならではの面白さですね。以前営業をしていた頃と違って植物は無反応ですが、手をかけた分の結果がそのまま返ってくるので、コミュニケーションを取れているなと感じます(笑)」(菊池さん)

そんな彼が会社員から農家へと転身したのは2021年のこと。にも関わらず、菊池さんは新規就農して初年度で、高知県内の94戸のシシトウ農家のうち、年間トータルでの収穫量第5位に輝き、かつシシトウの単価が最も高くなる厳寒期の1月~2月の収穫量は堂々1位を達成している。

昨年の成績について菊池さんは「IoPクラウドがなければ全く違う結果になっていた」と語る。

「農業で“勘や経験 ”を身につけて一人前になるには、長い修行が必要なんですよね。そういう意味で、僕のような新規就農者にとって、IoPクラウドは結果を出す近道です。もしデータがなければ、この収量を出せるまでにはもっと時間がかかったでしょうし、苦労も多かったと思います」(菊池さん)。

産学官連携の成功事例となった「高知県IoPプロジェクト」の軌跡

高知県が進めてきた農業DXを語るうえで外せないのが、産学官連携による「高知県IoPプロジェクト」の存在だ。これは、最新の施設園芸機器やIoT・AI技術を普及させ、農家所得の向上や産地のブランド化に繋げることを目指すというものだ。

同プロジェクト(“IoP”が導く『Next次世代型施設園芸農業』への進化)は、2018年の内閣府の「地方大学・地域産業創生交付金」の交付対象事業のひとつとして採用。IoPクラウドの普及を大きく後押しすることとなった。

高知県農業振興部 岡林俊宏さん
「行政と大学と企業、それぞれの立場を越えて繋がることができた」と同プロジェクトを振り返る岡林さん

産学官連携プロジェクトにはなかなかうまく進まない事例も少なくないが、「高知県IoPプロジェクトは、間違いなく産学官連携のいちロールモデルになったと感じています」と岡林さん。プロジェクト成功に至った背景には、県内にとどまらない“第三者の存在”があると分析する。

「それまでは“自前主義”な傾向があったのですが、そこに第三者の目を入れたのが大きかったですね。全国各地の大学教授や専門家にいろいろな角度からアドバイスをいただくことで、視点を補いながら課題を解決していくことができました」(岡林さん)

以前より高知県産学官民連携センター(ココプラ)で講座を持つなど高知と繋がりがあったINDUSTRIAL-X代表・八子知礼さんも、発足当初からプロジェクトに参画。クラウドのアーキテクチャや、ビジネスモデルの策定、人材育成、広報戦略まで幅広く携わり、プロジェクトの推進と知名度獲得に貢献した。

株式会社INDUSTRIAL-X 代表取締役CEO・八子知礼さん
株式会社INDUSTRIAL-X 代表取締役CEO・八子知礼さん

「2000戸もの農家さんからデータを集めてハウス内の環境を制御し、さらには収穫時期と市場のニーズをマッチングさせて需給バランスを最適化するのは、世界でも類を見ない取り組みなんです。ひとつの自治体が、国レベルでも発想し得ない領域に取り組んでいる。その観点からも、今後にすごく期待しています」(八子さん)

農家1軒1軒のハウスや作物のデータを、JAや企業でなく自治体が扱う。そんな斬新な取り組みを通して、岡林さん自身も行政がDXを進める意義を再認識したという。

「企業でもJAでもなく自治体が先頭に立つことで、大学や企業とwin-winの関係を築きながらデータを活かすことができる。自治体が担える役割は、自分が想像していた以上に大きいことを実感しました」(岡林さん)。

目指すは“全国版IoP”。他領域へと広がるデータ活用の可能性

IoPの今後の展望について、岡林さんは「まずはIoPで県内の農家5000戸を全て繋いでいきたい」と言葉に熱を込める。次のステップとして目指すのは、高知県の営農データの活用を他県に共有してIoPを全国版にすること、そして農業以外でのデータ活用だ。

「今やどの都道府県も農業DXに取り組んでいて、データの収集法や活用法などで同じ課題を抱えています。うち(高知県)は成功事例も失敗事例もどっさりあるので、そういった事例や知見を共有して切磋琢磨していけたらと考えています」(岡林さん)

2022年11月には、農業DXを意欲的に進める自治体が一堂に会する「IoPサミット」を高知県農業技術センターで開催。全国から13の都道府県が参加し、農業DXに向けて連携を強めた。さらに将来的には、日本国内にとどまらずIoPクラウドの海外提供も視野に入れているという。

八子知礼さん(左)岡林俊宏さん(右)
八子さん(左)は、昨年開催の「IoPサミット」でもファシリテーターを務めた

IoPクラウドによるデータ活用には、まだまだ発展の余地がある。たとえば農産物のパッケージに記載されたバーコードを読み込むだけで、ハウス内の環境をリアルタイムで見ることができる仕組みも設計可能だ。

「流通面でもデータを活かすことで、生産者と消費者をより繋げていきたい」と岡林さんは言う。

さらには企業と連携してデータ活用を他分野のビジネスに発展させる、リアルタイム性を高齢者の見守りといった福祉分野で活用するなど、今後の展開を検討中だ。

八子さんいわく、IoPプロジェクトは「一次産業における期待の星」。県内ではこれを漁業に応用にする構想も出ているという。

「IoPプロジェクトは、誰に紹介しても『ものすごく面白いね!』と言ってもらえますし、事例を見た方から『うちでもこんなDXをしたいです』と弊社に問い合わせが来ることもあり、大きな可能性を感じています」(八子さん)。

農業ビジネスの開拓で、新たな価値を見出していく

農業以外の領域でも活用が期待されているIoPクラウド。とはいえ、日本の人口減少を考えると、食を支える農業は成長産業とは言い難いだろう。

「食も農業も、実はまだまだ開拓されてない部分が大きく、新たな価値を提供できる可能性のある領域なんです。農業以外の分野とも繋がり、そこで生まれる付加価値を探っていける面白さがあります」(岡林さん)

高知県に限った話ではないが、農業人口は年を追うごとに減少し、若者離れと高齢化が進んでいるのが現状だ。 しかし、だからといって若者が農業を敬遠するのはもったいないと岡林さんは断言する。

「IoPに集積されているのは、まさに高知の農家さんたちの汗や涙、努力の塊でできたデータなんです」と八子さん。そのデータを統計処理して作られたアプリやサービスが全国に広がり、日本の農業を救う可能性があるのだ。そう考えると「農家や農業ビジネスに興味を持つ人は今後さらに増えるはず」と期待を寄せる。

IoPクラウドの活用によって、勘と経験だけに頼らない農業へと進化している施設園芸農業。この変化は、農業参入へのハードルを下げて新規就農者を呼び込むだけでなく、農業が持つ新たな可能性を見せてくれている。

活用事例も多数公開中 IoPプロジェクト

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