三菱UFJ銀行の貸金庫から金塊約20キロ(時価総額約2億6000万円)が盗まれていた事件で、警視庁捜査2課は14日、窃盗容疑で同銀行の元行員、今村由香理容疑者(46)を逮捕した。これまで元行員の名前が報じられていなかったが、今回の逮捕を受け、TBSなど一部報道機関が氏名を公表した。
今村容疑者の背景と銀行での役職
関係者によると、今村由香理容疑者は1999年に当時の東京三菱銀行に入行した。東京都内の私立短期大学を卒業し、事務や窓口業務を補助する一般職として採用された模様だ。当初は勤務態度が良好で、仕事ぶりも評価されていたという。一般職から、倍率の高い面接試験を突破して総合職に転向し、マネジメント業務に就いた。その後、練馬支店や玉川支店で支店長代理や営業課長を歴任し、順調にキャリアを積んでいるように見えた。
しかし、貸金庫の鍵の管理業務を任されるようになると、その立場を悪用し、顧客の貸金庫から金品を盗む行為に手を染めた。
同行によると、窃盗行為は2020年4月、練馬支店で勤務していた時期から始まったという。今村容疑者は貸金庫から盗んだ現金を別の貸金庫に移し、その詳細をメモに残していたほか、金塊を売却せず質入れする手口を取っていた。関係者は「投資でもうけて、いつかは返そうともくろんでいたのではないか」と見ている。
また、今回の事件では同行が管理する予備鍵が悪用されたとみられている。同行では、予備鍵は専用の封筒に封入し、定期的に点検していたという。しかし、今村容疑者による窃盗被害は約4年半もの間、気付かれることはなく、顧客からの指摘によってようやく発覚した。別の金融機関関係者は、「貸金庫の管理体制は銀行によって異なるが、2支店で同じ手口が続いたのは管理体制に大きな落ち度がある。通常の管理であれば、不正を見抜けたはずだ」と批判している。
今村由香理容疑者の人となり
一部の報道によると、今村容疑者の自宅は練馬区とのこと。週刊文春の報道では閑静な住宅街で266坪もの広い土地に義父と夫(離婚済み?)の3人で住んでいると伝えらえている。詳しくは文春の報道をご覧いただきたいが、近隣住民とのトラブルも起こしたり、性格のキツい人として認知されていたようだ。
巧妙な手口と動機
今村容疑者は、貸金庫の解錠に必要な2本の鍵のうち、顧客用のスペアキーを無断で使用し、銀行の鍵と組み合わせて貸金庫を開けていた。警視庁によると、昨年9月、練馬支店の貸金庫室で男性顧客2人が預けていた金塊19.5キロを盗んだ疑いが持たれている。
取り調べに対し、今村容疑者は「9月ごろに盗んだことに間違いない」と容疑を認めている。また、盗んだ金塊の大半は都内や千葉県内の質店7か所に持ち込まれ、現金化されたとみられる。警視庁は、得た現金約1億7000万円が他の顧客の貸金庫から盗んだ現金の補填に使われた可能性があると見ている。
今村容疑者は、長年にわたってFX投資や競馬などにのめり込み、少なくとも5年間で約10億円の損失を出していたという。消費者金融からの借金も返済困難な状況に陥り、貸金庫の中身を盗むことで損失を埋め合わせようとしたと供述している。
被害の全容と銀行側の対応
警視庁の捜査によれば、今村容疑者は2020年から2025年までの間に、練馬支店と玉川支店で、現金約10億円以上、金塊などの貴金属約7億円相当を盗んでいた疑いがある。顧客約60人が被害に遭っており、被害総額は時価で十数億円に上る見込みだ。
三菱UFJ銀行は事件が発覚した2024年10月末、今村容疑者を懲戒解雇し、警視庁に相談していた。同銀行は14日、「お客さまをはじめとしたご関係者の皆さまにご迷惑とご心配をおかけしており、改めて心よりお詫び申し上げます。弊行はこれまでと同様、警察の捜査に全面的に協力して参ります」とのコメントを発表した。
銀行の管理体制への疑問と社会的影響
今回の事件は、金融機関の内部管理体制の脆弱さを浮き彫りにした。特に、貸金庫は顧客が大切な資産を預ける場所であり、その安全性が揺らいだことで、銀行に対する信頼が大きく損なわれる事態となった。被害者の補償や信頼回復に向けた対応が、銀行側に求められる。
金融業界における不正行為の再発防止策として、貸金庫管理の厳格化、内部監査の徹底、従業員の不正検知システムの導入が急務である。特に、長年にわたり不正行為を見抜けなかったことは、銀行内部での監視体制に問題があったことを示している。
捜査の今後の行方
警視庁は今村容疑者の余罪についても調べを進めており、押収した資料や関係者からの聞き取りを基に、事件の全容解明を目指している。金融業界における同様の犯罪抑止につながるよう、今回の事件の詳細な解明と情報公開が期待される。
今回の逮捕で氏名が公表されたことにより、社会的な透明性が確保されたと言える。今後、同様の不正行為が再び発生しないためにも、銀行側および金融当局による管理体制の強化が求められる。