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「なぜ、フィンランドは高い幸福度と経済を両立できるのか?」幸福の国・フィンランドからの提言【cokiウェビナーレポート】

イベント


世界幸福度ランキング4年連続1位。高い幸福度と経済を両立する国がフィンランド。勤務時間は8時から16時まで、残業はほとんどなし。有給消化率100%でありながら、一人あたりGDPは日本の1.25倍。その効率的で生産的な働き方は、サスティナブルな企業運営、ウェルビーイング型経営の観点などから日本でも高い注目を集めています。

企業のサステナビリティや公器性が評価される社会づくり」に取り組むcokiでは、2021年5月26日、フィンランドのタンペレ応用科学大学主任講師を務めるシニ・ヨキニエミ(Sini Jokiniemi)氏を迎えてのオンラインウェビナー「なぜ、フィンランドは高い幸福度と経済を両立できるのか?」を開催しました(主催:サステナビリティをステークホルダーの声で可視化するcoki、共催:セムコ株式会社)。

フィンランドの歴史、経済、文化、ライフスタイル、人々の気質。多方面からフィンランドの幸せと働き方を解き明かすシニ氏の講演は、日本人のこれからの働き方と、日本文化が育んできた「ステークホルダーを大切にする経営」の源流にも通じる示唆に富む内容となりました。今回は、本ウェビナーの模様をレポートします。

■講師:シニ(Sini Jokiniemi )氏

プロフィール

経済学博士、認定ビジネスコーチング。フィンランド最大の金融機関でCRMおよびHRDマネージャーとして12年間勤務したのち、大学教員に。現在はフィンランドのタンペレ応用科学大学で主任講師を務める。シニ氏と日本との関わりは、1992年に広島女学院の交換留学生として1年間来日したことに始まる。トゥルク大学に在籍中の2019年に広島経済大学の客員研究員として再来日。この時にシニ氏と知遇を得たセムコ株式会社代表取締役の宗田謙一朗氏のご尽力で今回の講演が実現した。

■共催:セムコ株式会社

代表取締役 宗田謙一朗氏

「今回の講演の直接のきっかけとなったのは、『フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか』という本を読み、フィンランドの生産性の高い働き方に衝撃を受けたことです。そして、ここをしっかり学んでいくことが日本の将来の発展につながるのでは、との思いを強くし、フィンランドの方に直接伺いたいと考えました。シニさんとは2年前に神戸でお目にかかり、日本の『おもてなし』や『察する文化』など、さまざまなお話をさせていただきました。マーケティングの学位をお持ちのシニさんは、日本の文化と日本のビジネスにも高い関心をお持ちです。充実した内容の講演を最後までお楽しみください」

講演内容

1) フィンランドの基本情報~歴史、経済、日本との比較
2) なぜフィンランドは幸福世界ランキング1位なのか~フィンランド人にとっての幸福とは
3) フィンランドの文化や考え方
4) フィンランド人の働き方
5)Q&Aセッション

 

■イントロダクション~ご挨拶、文化や考え方を比較する際の留意点

シニさんの名刺

日本の大学で顧客満足のためのコミュニケーションを研究

まずは自己紹介をしたいと思います。私はフィンランド人で現在46歳です。ファーストネームがシニ、ファミリーネームがヨキニエミです。漢字では「佳丹江見 紫仁」と書きます。これは、高校生の頃に交換留学生として広島で暮らしていた時にホストファミリーが考えてくれました。現在はフィンランドのタンペレ応用科学大学で教員をしています。マーケティングの博士号をとる前は金融機関で働いていましたので、ビジネスを研究する時にその経験が役に立っています。

2年前に4カ月間広島に滞在し、広島経済大学の客員研究員として、顧客満足度を高めるために何が必要かを研究しました。日本のビジネスでバイヤーとセラーがどんな形でコミュニケーションをとり、どんなすぐれた交流をしているのかを知りたかったからです。そのためには日本人の視点を理解することが必要でした。

フィンランドではトゥルクという地方都市に住んでいます。この街には桜の樹があり、私たちは花見も楽しんでいます。

幸福とは定性的で主観的なもの

本日の講演では、皆さんにフィンランドという国を知ってもらえるよう、フィンランドの基本情報に触れて、日本との比較も少ししたいと思います。その後に幸福指数とフィンランド人がどんなことに幸福を感じているのか、フィンランドの文化についてお話した後、フィンランド人の働き方に触れていきたいと思います。

では、本題に入る前に、幸福についての私の考えを示したいと思います。フィンランドはこれまでに4回「世界で最も幸せな国」に選ばれています。ですが、私個人は幸せの度合いを客観的にはかることは不可能だと思っています。人が幸せだと感じる時は本当にハッピーな状態だと思いますが、これは定性的で主観的なものだと考えるからです。指数をもとに他国よりも幸福とされているのですが、実際には比較するのは難しいものです。

いずれにせよ私や仕事の同僚がこの状況をどうとらえているのか、そしてフィンランドで仕事のプロとしてハッピーと感じるのはどういうことなのかをお話ししたいと思います。その後でフィンランドの文化と考え方についてお話しします。こういったことを知ってもらうことがフィンランドの働き方を理解する上で大切だと思うからです。

冒頭で宗田さんからもお話がありましたが、フィンランドではできるだけ効率的に働けるよう努めていますし、休暇もしっかりとっています。本当に効率的に働けているかはわかりませんけれども、その秘訣も少し話したいと思います。それによって皆さんにアイデアが生まれてくればうれしく思います。

フィンランドの文化、日本の文化。それぞれの独自性

ただ、強調したいことはさまざまな国々や文化を比較する時にはステレオタイプ的な考え方に陥ってしまいがちということです。外国に住んでいると、日本人はこういったタイプしかいないと思いがちですが、実際には日本人にはいろいろな人がいます。フィンランド人も日本に住んでいますし、世界にはたくさんの異なる文化があります。だからこそすばらしく興味深いのです。2年前に広島に住んでいた時は、神楽を楽しんでいました。今は「一期一会」「わびさび」という、日本の文化に関するわくわくする本を読んでいます。

ですから、フィンランドでどんな生き方や生活をしているのかをご紹介しますが、皆さんがすべて同じようにする必要はありません。フィンランドではフィンランドの文化があり、日本には日本の文化があり、それぞれがハッピーであるべきだと思っています。

1)フィンランドの基本情報~歴史、経済、日本との比較

フィンランドの地図

フィンランドは、西にスウェーデン、東にロシアに接し、独立後100年の小さな国

■強国の統治下でも自国の文化を守り続けた誇り高い人々

フィンランドはスウェーデンとロシアの間に位置する北欧の国です。長きにわたってスウェーデンの統治にありましたが、200年前にスウェーデンとの戦争に勝利したロシアの統治下に入り、第一次世界大戦でロシアと戦い、独立を勝ち取りました。独立してわずか100年ですが、2つの国の統治下でも完全に支配されていたわけではなく、自身の文化や言語はきちんと保持し、通貨も官僚システムもありました。100年前にロシアからもスウェーデンからも完全に独立したことを私たちは大変誇りに思っています。

私たちはロシアに対して長い戦争の歴史があります。ですから、フィンランドにとって他の国々と連携をとることは「戦略」でした。ロシアは非常に強大な国です。国土も広大で、それに対してフィンランドは小さな国です。そして独立を果たして、小さいながらも強い国になったのです。

フィンランドはEU加盟国で通貨はユーロです。フィンランド語とスウェーデン語の2つの公用語があり、95%がフィンランド語、5%がスウェーデン語を母国語としています。宗教はキリスト教といくばくかのギリシャ正教徒がいます。なお、世界で最も有名なフィンランド人といえば、サンタクロースでしょうか(笑)。

■人口は500万人。社会のあらゆるところが男女平等

フィンランドと日本との時差は6時間、冬時間は7時間です。東京からフィンランドの首都ヘルシンキまでは10時間のフライトです。人口は日本が1億2686万人なのに対し、フィンランドは約500万人です。人口ピラミッドは似た形をとっており、少子化傾向も同様です。日本との大きな違いは、人口密度です。日本の人口はフィンランドの23倍ですが、国土の広さは日本が1.2倍とほぼ同じです。

日本とフィンランドの人口ピラミッドの比較

日本とフィンランドの人口ピラミッドは同様の傾向(左:日本、右:フィンランド)

フィンランドだけではなく、北欧全体の特徴ですが、男女平等は社会のあらゆるところで進んでいます。首相は女性のサンナ・マリンさんで、2年前の就任当時は世界でもっとも若い首相(34歳)でした。3歳の娘さんがいます。内閣や各党の党首として女性が活躍しています。

フィンランドの世界最年少34歳の女性首相と閣僚の面々

世界最年少34歳の女性首相が誕生、フィンランドは女性が活躍する国

 

■経済や社会は日本と近似する部分も。社会保障はすべて高い水準

日本とフィンランドのいくつかのデータを示します。まず、経済成長率について。日本とフィンランドの経済成長率は非常に似ています。2008年に一度低下し、その後回復しています。一人あたりのGDPは、両国は同じような傾向であることが見てとれます。ほかの基本的な情報では、今年3月のデータでは一人あたりの平均月収はフィンランドが少し高めです。失業率はフィンランドが約8%、日本が2.6%。寿命はフィンランド82歳、日本84歳と似たような数字を示しています。自殺率はフィンランドが10万人あたり13.6人、日本が10万人あたり16.7人で、両国ともに高いですね。

日本とフィンランドの1人あたりGDPの推移

1人あたりGDPの推移は、日本(赤)とフィンランド(青)は同様の傾向を示す

それ以外のデータも見てみましょう。地理的には、山の数ではフィンランドは0ですが、日本は2万近く存在します。フィンランドは国土の森林被覆率は高いのですが、高い山はありません。その替わり200万もの湖があります。文化面では、フィンランドにサウナは一人あたり一つくらいある見当。そして犬の数も多いですね。

フィンランドでは教育、医療、社会保障はすべて高水準です。所得税は30%で、これで社会保障システムを賄っています。国は高度に工業化されており、世界的に有名な製紙工場、世界最大の造船所もあります。ノキア、イッタラ、アラビアなどのブランドは日本でも知られていると思います。また、近年DX(デジタル・トランスフォメーション)が進んでおり、テクノロジーを重視した経済になりました。経済でもっとも大きなセクターはサービス業で、GDPのおよそ70%を占めるほどのサービス立国です。

2)なぜフィンランドは幸福世界ランキング1位なのか~フィンランド人にとっての幸福とは

■フィンランド人の幸せの感じ方とは?

幸福指数は各国で1000人が調査に回答して測定されます。生活を点数化したり、ポジティブな感情とネガティブな感情をはかったりするほか、経済的な指標、健康、社会的支援、個人の自由度、GDP、汚職の程度などといった項目で測定します。これは幸福をはかる一つの方法です。これらの指標もとづいてフィンランドはもっとも幸福な国として4回選ばれました。

では、実際にフィンランドの人はどのように幸福を感じているのか、いくつかの例からご紹介します。

「私たちの幸福の源泉は日々のバランスのとれた生活です。それを支えているのがすぐれたガバナンス、信頼、安寧、平等です。こうした永続的な基盤はコロナによるパンデミック下でも変わっていません」。(インターネットより引用)

「多くの機会が恵まれていると思う。幸せな生活を築けるかどうかは自分次第」

「医療制度はすばらしく、教育は無償。有給休暇は毎年5週間、病欠は有給扱い。母親の出産休暇は保証され、父親の育児休暇は奨励されている」

「フィンランドは平等の国としても有名。皆が無償の公立学校に通う。有料の私立は認められていない。つまり幼稚園から博士課程まですべての教育は無償。教育に対して一切お金を払っていません」

(以上、ニュースより引用)

■ハッピーなプロフェッショナルであることの意味とは?

次に、「LinkedIn」というビジネスプロフェッショナルのオンラインフォーラムでの調査を紹介します。本ウェビナーのために、私がフォーラムの参加者に「ハッピーなプロフェッショナルであることはフィンランドでどういう意味をもつのか」と質問し、得た回答からいくつか引用します。

監査のスペシャリストの女性

「自然は健康のもとになるものでとても重要です。そして馬や犬と一緒にいること、家族、自分でリフォームした家、友人、趣味も大事です。職業人として幸せなことは、プロフェッショナルであるとともに母であることです。社会や雇用者はさまざまな方法で仕事と家庭生活の統合をサポートしてくれています。小さな成功や職場での評価が人生に柔軟性をもたらしてくれます」

カナダで暮らし、フィンランドに帰国している女性

「フィンランドでは自然体であることや本物志向が幸せをもたらしています。ここでは何も見せかける必要がありません。自分は自分のままでよく、好きな時に好きなものを楽しめます」

BBA(経営学士:Bachelor of Business Administration)の学生

「今の人生の段階では、無償で大学で学べることが私にとっての幸せです。教育の質は高いレベルにあり、政府が大学で学ぶことを経済的にサポートしています。学生は月に500ユーロを受給できますが、ローンではなく、返済の必要はありません。フィンランドの税率は高いのですが、このような保障が充実しています。そして、家族、友人、美しい四季の自然が私に幸せをもたらします」

3) フィンランド人の文化や考え方

■クリスマスには本物のツリーを飾る。毎日の楽しみはコーヒー

ビジネスプロフェッショナルがフィンランドでの幸せについてどのように考えているのかを考察する際に大切なのが、フィンランドの文化や考え方です。写真①~③でご紹介していきます。

  • フィンランドのクリスマス
    我が家のクリスマスの光景です。大きなジンジャークッキーは私が15歳の娘と一緒に焼きました。3メートルあるツリーは森林からとってきたものです。ほとんどのフィンランド人は本物の樹を飾ります。
    コーヒーとシナモンロール
    私たちは非常にたくさんコーヒーを飲みます。年間消費量は世界でいちばん。コーヒーを飲む理由はいつでも見つけることができます。コーヒーのおともに最高なのがシナモンロールです。

■パーソナルスペースを大切にし、自分にも他人にも正直

フィンランドの国民的マンガのキャラクターはマッティ。フィンランド人男性に多い名前で、典型的な人物像です。マンガではマッティがフィンランド人にとってのさまざまな「悪夢」に直面します。

・例えば、マッティは飲むコーヒーが残っていなくて大変がっかりしています。

・フィンランドではパーソナルスペースをとても大切にする文化があります。マッティがバスに乗ると2人がけの席が空いていなく、誰かの隣に座らなくてはならない。バスが満員というのが彼にとっての悪夢です。もちろんこれはブラック・ユーモアです。また、マッティは人が近づきすぎると非常に落ち着かないんです。近づかれるとフィンランド人は後ずさりし、軽く触られると小さなショックを受けます。知らない人に触るという行為はあまりしませんので。

・ちょっとした会話にマッティがごく短く答えています。フィンランド人は気軽に会話にのってこないので、外国人の方は冷たい印象を感じるようです。でも、そうではなくて、特に語る内容がない時は話さないんです。沈黙が流れても気にしないんですね。フィンランドでは「最高」「すごい」という言葉を連発すると信用されません。フィンランド人はできるだけ正直でいたいと考えるので、「最高」を気軽に口にする人はあまり信用できないという考え方になります。

独立性を重視し、自由・平等を尊重する文化

フィンランドで特筆すべき文化が個人主義です。個人主義とは、自分自身の独立性を重視すること。正直さであり、自分の意見をはっきりと表明することです。自己主義とは違います。法律には個人主義が強く反映されており、同じルールや法律がすべての人に適用されます。

個人主義の考え方の好例が、3年前にヘルシンキで行われた米トランプ大統領とロシアのプーチン大統領の首脳会談時のことです。両大統領が自由な報道を抑制しようとした時、有力新聞社のヘルシンギン・サノマットは「プーチン大統領、自由報道の国へようこそ」と書いた看板を街にいくつも立てました。このように、個人の自由、平等、表現の自由を尊重し、意見を表明することをおそれません。

個人主義と比較されるのが、共同体意識をもつ集団主義です。例えば、日本では「和」を大事にし、あからさまな対立は避けるべきとされています。

労使関係においては、フィンランドでは、2者間合意にもとづき、会社と個人との契約となります。一方、日本のような集団主義的な文化では上司と部下の関係は家族との結びつきに似た様態を示します。労使関係においては、フィンランドと日本とのかなり大きな違いだと思います。

■時間に正確、誠実、謙遜、信頼しあう文化が日本との共通点

日本とフィンランドの共通点は時間に正確なことです。先ほどのマッティの悪夢には、バスが2分遅れるというのもあり、フィンランドでは公共輸送機関は遅れてはいけないんです。これは日本との共通項ですね。誠実や謙遜、お互いを信頼しあうことを大切にするのもフィンランドと日本の共通点だと思います。

シニさんの講演風景

4)フィンランドの働き方

ここまでフィンランドについての基礎的な事実とフィンランド人にとっての幸せ、そして我々の文化や考え方についてお話しました。これらすべてひっくるめることで、フィンランドの働き方を理解していただけると思います。

それでは、最後のトピック「フィンランドの働き方」について項目ごとにご紹介します。

ヒエラルキーがなく、形式ばらない社会

フィンランドの社会はヒエラルキーが少なく、官僚主義の度合いが低いのが特徴です。そのため、柔軟で変化に対しての適応力が高い。形式ばらないことも、我々が社会やビジネスにおいてよい効果を発揮できる理由です。

誰に対してもファーストネームで呼び、気さくにかつ率直に話します。私は大学で教鞭をとっていますが、学生も私をシニ先生、ヨキニエミ先生ではなく、シニと呼びますし、私も上司をファーストネームで呼んでいます。さまざまなことを率直に話すことは、かなりの時間を削減することになります。お互いを信頼しあい率直に話すことができる関係があると考えています。

■柔軟で合理的な意志決定のスタイル

職場での意志決定はその仕事に関わりのある人々によってなされます。また、スタイルやプロセス、働き方を変えたい時には自分で決めることができます。もちろん、直接の関係者以外にも変更したことを伝える必要はありますが、自分でよりよいやり方をすぐに採用できます。これは社内会議にもあてはまり、会議はかなり最小限に抑えられています。

仕事は明確なゴールのために行う

仕事は明確に定められたゴール達成のためになされます。ゴールのためのプロセスに向けて働くわけではないのです。もし、自分が何をすべきかわからない、ゴールがわからない場合にはすぐに上司に確認します。「もっと具体的に話してください。ゴールは何ですか。いつまでにやらないといけないんですか」と尋ね、すぐに目標に向かって働くことができます。

目標達成はチームのコンセンサスをとることよりも優先されます。どのように目標を達成するかをいちばんに考えます。チームとしてどう動くか、皆を巻き込むにはどうすればいいのかといったプロセスにはあまり時間をかけません。それが日本との違いです。

■年齢や地位に関わらず平等がいきわたった職場

会議やチームミーティングでは平等性が尊重され、参加している人は誰でも発言することができます。年齢や性別、学歴、組織内の地位、勤続年数も平等に扱われ、提案や悩み、アイデアを誰でも口にすることができます。いちばん偉い人が最初に発言するように配慮する必要もありません。

上司が残業をしている時も、従業員は退社時間が来たら帰ることができます。週に何時間かはサービス残業もします。日本と比較する頻繁に同僚と出かけることはしませんね。2カ月に1回程度でしょうか。

このようなお互いを尊重しあう働き方を大事にすることで、職場の雰囲気はよく、皆が一緒にハッピーに働けています。

■充実した休暇制度と働く人の権利

労働組合は常に高い地位を占めています。労使間の契約はほとんど守られていて、休暇をとる権利が尊重されています。夏季休暇は4週間で、5月から8月の間にとります。冬期休暇は1週間、9月から4月の間にとることができます。私は教職ですが、年間12週間の有給休暇があります。多くの仕事はいつでもやめることができ、雇用主もいつでも解雇ができます。

■デジタライゼーションと再教育システムの浸透

仕事はデジタルツールに大きく依存しており、ルーティンタスクが自動化されることで、秘書的な仕事はなくなりました。多くの業務がソフトウエアにとってかわられ、たとえばヘルシンキの主要な駅のチケットオフィスは自動発券機の導入で無人化されました。

デジタライゼーションやデジタルトランスフォーメーション(DX)で仕事がなくってしまわないよう、自分自身を再教育する必要性が認識され、浸透しています。再教育によってより高い職業的な知識を得るとともに、現在の仕事の意義はどのようなもので、誰に貢献し、社会にどのように寄与しているのか、ということを常に考えていきます。

コロナ禍とDXの加速

私は20年前から仕事の一部にリモートワークを取り入れてきましたが、コロナ禍の今は100%リモートワークです。コロナによって家で一人で仕事する人が増えていますが、仕事と自由時間の境界が明確ではなくなるという問題が発生しています。私の場合、今いる部屋に入ると仕事が始まり、部屋を出てリビングルームに行くと自由時間がスタートしますが、切り替えは簡単ではありません。フィンランド人の25%が仕事でストレスを感じていると言われていますが、コロナによってメンタルヘルスのケアはますます重要になっています。

今、ビジネスの変化が加速度を増しています。DXが加速し、サービス業が主体の経済になってきています。私たちは変化への柔軟性と対応するための回復力を維持し、プロフェッショナルとしての知識をキープするために継続的に学び続けなくてはなりません。

では、ここでQ&Aセッションに移りましょう。皆さまご清聴ありがとうございました。

シニさんの講演風景(2)

Q&Aセッション

では、ここからは質疑応答に入らせていただきます。

Q:すばらしい国だと思います。フィンランドの教育が進んでいると聞いていますが、子どもたちの成長にフィンランド文化がどう影響していると感じますか。日本の教育をどう思いますか。そして日本とフィンランドの家庭の違いはどこでしょうか。

A:シニさん 

まず家庭についてお話したいと思います。フィンランドの家は日本よりも広く、個人のスペースが確保されています。私の夫は家事もしています。皿洗いや自分のシャツのアイロンがけ、家じゅうの掃除機もかけます。家事の分担の考え方は、「彼は私の服のアイロンはかけない。同様に、私は夫の服のアイロンをかけない」というシンプルな考え方です。このように、家事も皆でわかちあっているから、フィンランドではエキサイティングで、幅広い多様な生活を送ることができます

 

Q:日本の場合かつての高度経済成長期に経験したものの豊かさの幸福を、今も追い求めているように感じます。そのため幸福感を得られてないように思います。フィンランドではそれとは違う幸福を享受しているように思いますが、これは日本とフィンランドの文化や考え方、どのような違いが原因になっていると考えますか。

A:シニさん

非常に興味深い質問だと思います。もしかしたら、答えは複数あるのかもしれません。講演の冒頭でもご紹介しましたが、フィンランドは独立してまだ100年なんです。それ以前はロシアやスウェーデンの支配下にあり、フィンランド人は小作人でした。フィンランドには貧しい人たちが住み、相続した富がなかったので、自分で自分の生計をたてなくてはならなかったのです。それでも人々はフィンランド人であることに誇りをもっていました。

1990年代初頭に経済が大きく成長し、生活が安定してきた我々はものを追求しました。1990年代の世界的な景気後退が起こる前にものの豊かさを経験しました。景気後退によってフィンランドは大きな打撃を受けました。ほかにも理由があるかもしれませんが、それがゆえに、人々はものではなく、「わび・さび」を大事にしようと考えたのではないかと思います。もしかしたら明日にでもまた景気後退が起きるかもしれませんが、それに影響を受けたとしても私の心は変わることなく、ここにあります。そして、大切な家族もいてくれる。だから、経済的な後退が起きても問題はありません。自分の内面が豊かでハッピーであればよいのです。

フィンランドの生活水準は十分高いので、一般的な医療制度や教育について私たちは心配する必要はありません。基本的に必要な事柄が満たされていればより高いニーズを求めるようになりますが、より高いニーズはより大きな目標の達成に関わっています。そのため、人生に意義を求めることにつながっていくのだと思います。回答は私個人の考えにすぎず、これが正しいのかどうかはわかりませんが、いただいた質問は本当にいい質問だと思います。

 

Q「幸福度が高ければ自殺率も低下すると思うのですが、相関関係はないのでしょうか」

A:シニさん

自殺率については、1994・95年頃が最も高く、幸いなことにその後は低下し続けています。自殺をされる方の多くは男性で、会社の倒産など高いストレスがかかっている人たちなどです。フィンランドの男性は自分の感情をあまり表に出さない傾向があります。悲しいことがあった時に自分だけにとどめておくと耐えられず、自殺に追い込まれることになりかねません。男性も女性も感情を言葉にしていくことが大切だと思います。

もう一つには、フィンランドに特有の季節的な要因があるのかもしれません。夏の白夜の季節はいいのですが、冬は太陽が出ているのは1日の4時間だけという地域もあります。そういう要因もあるのかもしれません。

 

Q私は今ミャンマーに住んでいて、クーデターで未来を失ったと落胆している若者がたくさんいます。政治的・経済的に厳しくても個々の幸せを見つけていくアドバイスを幸せの国・フィンランドからいただけるとうれしいです。

A:シニさん

私が思うのは、何かをよりよくするためには行動を起こすことです。考えを共有した個人がチームとして集まり、ほんのちょっとでもいいことをしていこうとする。その一歩を始める。アクションを起こすことがモチベーションを上げることにつながると思います。個人の力は小さくても集まることで大きな動きになり、それがモチベーションになっていくと考えます。

 

Sacco加藤 

ありがとうございます。時間の都合でいただいた質問にはすべてお答えいただけないのですが、シニさんにお渡しし、回答を後日共有したいと思います。

幸福度世界一の国フィンランドの経済成長を支えるものは、第1に、高度に体系化された福祉、医療、教育などの社会システムが、社会全体に安定感を生み出しているという点です。第2に、そのシステムを機能させる国民一人ひとりの意識の成熟度、個人が自立している点があるように思います。

家族と共に自然と暮らすライフスタイルを大切にしながら、個人がDXなどのイノベーションなどの環境変化に対しても前向きに適応しようと努力する柔軟さがあること。さらには、自分にも他人にも誠実に向き合い、より高い目的のために、お互いがゴールを共有して達成していこうという信頼を育む文化があるように思います。

シニさんのお話を伺い、個人主義、集団主義というアプローチの違いはあるものの、日本の三方よし(自分よし、相手よし、世間よし)というステークホルダーを大切にする日本的な経営思想の源流にも通じる共通点があるようにも感じます。

今こそ日本がこれまで大切にしてきた経営や商いの基本を大切にすることが、日本経済の復活、ひいては国民が幸せを実感できる社会づくりに貢献することに繋がっているのかもしれません。

シニさん、本日は大変貴重なお話をありがとうございました。また、大変お忙しい中、本ウェビナーにご参加いただいた皆さまに感謝を申し上げます。本日はありがとうございました。

講師プロフィール

■講師:シニ(Sini Jokiniemi )氏

プロフィール

経済学博士、認定ビジネスコーチング。フィンランド最大の金融機関でCRMおよびHRDマネージャーとして12年間勤務したのち、大学教員に。現在はフィンランドのタンペレ応用科学大学で主任講師を務める。シニ氏と日本との関わりは、1992年に広島女学院の交換留学生として1年間来日したことに始まる。トゥルク大学に在籍中の2019年に広島経済大学の客員研究員として再来日。この時にシニ氏と知遇を得たセムコ株式会社代表取締役の宗田謙一朗氏のご尽力で今回の講演が実現した。

■お問い合わせ
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Mail:kanri@sacco.co.jp
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