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ナイキ離れはなぜ起きたのか オン・ホカ・アシックスに流れる“スニーカーの新常識”

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スニーカー
PhotoACより

朝の駅前、改札へと急ぐ人々の足元は、驚くほど静かだ。革靴の硬い音は減り、代わりに柔らかく沈むような足音が続く。そのなかで、かつて圧倒的だったナイキのロゴは目立たなくなり、代わりに増えているのがオン、ホカ、アシックス、ニューバランス。いま起きているのは、単なるブランドの移り変わりではない。「人はなぜその靴を履くのか」という問いそのものが、書き換えられている。

 

 

スニーカーは「選択」ではなく「前提」になった

駅のホームに立つサラリーマンは、スーツにスニーカーという装いでスマートフォンを見つめている。ベビーカーを押す母親も、買い物帰りの高齢者も、同じようにスニーカーを履いている。

プレジデントオンラインによると、スポーツシューズ市場は拡大を続ける一方で、革靴やパンプスは回復していない。つまり、人々は靴を買わなくなったのではなく、「履く理由」を変えたのだ。

かつてスニーカーは「カジュアルな選択肢」だった。しかし今は違う。疲れないこと、歩きやすいことが前提となり、その条件を満たすものとしてスニーカーが選ばれている。
選択肢ではなく、基準そのものになったのである。

 

ナイキが失ったのは「性能」ではなく「理由」

1990年代、ナイキのスニーカーは象徴だった。エアマックスを履くことは、流行の最前線に立つことと同義だった。

だが現在、その優位は揺らいでいる。

その要因の一つとして、直販重視への転換による店頭露出の減少がある。しかし、それ以上に大きいのは、消費者側の変化だ。

いま人々は、「有名だから」では履かない。
「自分にとって必要だから」履く。

ナイキのスニーカーは依然として高性能であり続けている。それでも選ばれにくくなったのは、性能の問題ではなく、「履く理由」が生活のなかで見えにくくなったからだ。

 

オンとホカが支持される“体感”という価値

街で目立つようになったオンとホカは、それぞれ異なる背景を持つ。オンはスイス発、ホカはフランス発のブランドだ。いずれもランニングシューズから支持を広げてきた。

彼らが評価されているのは、見た目の新しさだけではない。足を入れた瞬間にわかる軽さ、地面を蹴るときの反発、長時間歩いても残らない疲労感。
それはスペックではなく、「体感」として理解される価値だ。

つまり、人はロゴを履いているのではない。
自分の身体が納得する感覚を履いている。

オンやホカが支持される理由は、ここにある。

 

アシックスとニューバランスが示す“寄り添う靴”

日本のアシックスは、長年培ってきたランニング技術を武器に、実用性の領域で信頼を集めている。一方、ニューバランスは「履き心地」を軸にブランドを再定義してきた。

とくにニューバランスは、大谷翔平との関係でも象徴的だ。同社は選手を広告塔ではなく、パートナーとして迎え入れる姿勢をとっている。

この考え方は、靴そのものにも表れている。
ただ売るのではなく、使う人に寄り添う。

いま選ばれているのは、「主張する靴」ではなく、「支える靴」だ。

 

人はなぜその靴を履くのか

夕方、公園を歩く高齢の男性の足元には、厚底のランニングシューズがある。かつては革靴を履いていたであろうその人が、いま選んでいるのは、足腰にやさしい一足だ。

若い女性は、見た目だけでなく「一日歩いても疲れないか」で靴を選ぶ。ビジネスマンは、出張や通勤の負担を減らすためにスニーカーを履く。

ここにあるのは、共通した動機だ。
「自分の一日をどう過ごしたいか」

つまり、人は靴を履いているのではない。
自分の生活の質を選んでいる。

ナイキが象徴していたのは「憧れ」だった。
いま選ばれている靴が象徴するのは「納得」である。

 

スニーカー市場の本質は「気分の変化」である

ファッションは常に「気分」に左右される。しかし、その気分は単なる流行ではなく、生活の積み重ねから生まれる。

働き方の変化、健康意識の高まり、長時間歩く日常。これらが重なり、「快適さ」が最優先の価値となった。

ナイキ離れとは、ブランド離れではない。
価値基準の移行である。

そして、その変化に最も早く適応したブランドが、いま支持されている。

 

それでも王者は戻るのか

スニーカーは、もはや一時的なブームではない。完全に生活に根付いた存在だ。

だからこそ、次の王者を決めるのはマーケティングでも流行でもない。
どれだけ人の生活に入り込めるかだ。

ナイキが再びその中心に戻る可能性はある。だがそれは、かつてのように「憧れ」を売ることでではない。
「日常の中で選ばれる理由」を取り戻したときに初めて実現する。

 

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ライター:

広告代理店在職中に、経営者や移住者など多様なバックグラウンドを持つ人々を取材。「人の魅力が地域の魅力につながる」ことを実感する。現在、人の“生き様“を言葉で綴るインタビューライターとして活動中。

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