美容整体ベンチャーFilamentの川島悠希社長が、株主である坂井秀人氏から横領を告発された騒動は、1月4日に川島氏が自身のYouTubeチャンネルで謝罪動画を公開したことで新たな局面を迎えた。SNSで拡散され波紋を呼んでいるこの騒動。
本稿では、川島氏の謝罪動画の内容と動画を見て会計処理に関する疑問、騒動の背景を探る。
急成長Filamentとカリスマ経営者、その光と影
2019年創業のFilamentは、独自技術「骨膜整体®︎」と川島氏のカリスマ性で急成長を遂げた。メディアへの露出も積極的で、YouTubeチャンネル登録者数は72万人を誇る(1月6日現在)。川島氏は、30分1万円の施術が予約数ヶ月待ちとなる人気整体師であり、複数の著書を出版するなど、まさに時代の寵児であった。しかし、その急成長の裏で、経営の脆弱性も見え隠れしていた。
坂井氏の告発、そして明らかになった放漫経営の実態
12月30日、坂井氏はX(旧Twitter)で川島氏による横領を告発。Filamentへの投資後、川島氏の浪費癖に気づき改善を要求したが、状況は改善しなかったという。高級時計やブランド品購入、家族への高額な給与支払いなど、私的に会社資金が使われていた実態が次々と明らかになった。
坂井氏によると、川島氏は会社の財政状況が悪化しているにもかかわらず、月額170万円、初期費用1000万円の高額物件への引っ越しを進めていたという。
謝罪動画公開、しかし疑惑払拭には至らず
1月4日、川島氏は自身のYouTubeチャンネルで謝罪動画を公開。動画内で川島氏は、まず横領の事実を否定。問題となった高級時計やブランドバッグの購入資金の出所について、Filamentから自身に渡った2億円を原資とした個人資産からの支出であると説明した。この2億円は、坂井氏らによるFilamentへの出資に伴い、川島氏が保有株式50%を売却した際に得た資金であるという。
そのうえで、動画では時計やエルメスのバーキン等の購入資金はすべてFilamentではなく、個人あるいは個人の資産管理会社として購入したものと説明。ようは株式売却時の2億円で散財したと。そして時計やバックなどは現在既に売却し、お金は個人から資産管理会社に戻し、資産管理会社からFilamentにという形で返済・精算を済ませたと主張。家族やベビーシッターへの給与支払いについても、Filamentではなく個人の資産管理会社から支払っていると説明した。
また、従業員の給与減額については、高騰する人件費を抑制するための措置であり、インセンティブ制度によって平均給与は高く維持されていると説明した。
一方で、経営の甘さを認め、「社長としてかっこいいものを持った方がいい、社員に夢と希望を与えられると思った」と釈明。Filamentの社長続投を希望する一方で、経営については専門家への協力を仰ぎたい意向を示した。
原点回帰を宣言、真意を問う声も
川島氏は動画内で自身の経営の無知を認め、原点回帰として整体師としての現場復帰の意向を示唆した。週5日、青山のサロンで無料施術を行うとし、「体の悩みがある方は是非」と呼びかけた。この行動は、騒動で失墜した信頼を回復するためのパフォーマンスと見る向きもある。
動画を見ての疑問、株式売却益の税務処理が不明確
川島氏の言い分が正しいとすると、会計処理は無茶苦茶で色々バックデートする必要がでてきて、経理担当、税理士は頭の痛い話だろう。株式2億円を会社に貸し付けていたとのことだが、資金の流れについて、会計処理上の不備が疑われる。
株式売却で得た2億円は、譲渡所得に該当するのではないか。個人に帰属する資産であれば所得税の確定申告が必要だろうし、これをFilamentに「貸し付けた」とも読み取れる説明がされている。この場合は、貸付金の契約書や利息の設定が必要になるが、なければ税務上の問題が生じる。また、2億円が個人ではなく資産管理会社の収入である場合、法人税の申告が必要だろう。この区分が曖昧な場合、税務調査で否認される可能性があるだろう。
ようは、2億円を「個人資産」として処理した点について、法人と個人の資産区分が曖昧であり、譲渡所得の申告漏れや、法人への貸付金が事実上の役員貸付と見なされるリスクがあるのではないか。
また、高級時計やバッグの購入を個人資産管理会社経由で行い、その後、資産を売却して法人に返済したとする処理についても、記録が不透明であり、税務上は経費否認のリスクを伴う。さらに、家族やベビーシッターへの報酬支払いを個人会社から行ったとする点は、実態が伴わなければ経費の私的流用と見なされる可能性が高い。
これらの説明が事実であれば、法人資金の私的利用や帳簿処理の不備が指摘される余地があり、税務調査や法的リスクにつながる懸念がある。
と、ここまで見て、普通の企業であれば、およそ税理士から怒られるあり得ない話だが、川島氏は人気YouTuberでもある。私生活を切り売りするYouTuberの場合、かなりの範囲で経費扱いになるなんて噂も聞くが、はたしてどうなのか。
SNS上の反応、揺れる世論
SNS上では、川島氏を擁護する声、批判する声、そしてFilamentのサービスに対する疑問の声など、様々な意見が飛び交っている。「技術は確か」「経営陣が刷新されれば」といった擁護の声がある一方で、「謝罪になっていない」「経営者としての資質を疑う」といった批判の声も少なくない。また、Filamentのサービスを受けた顧客からは、技術のばらつきや急な店舗拡大によるサービス低下を指摘する声も上がっている。
「令和の虎見る限り、完璧な経営者だと思ってました。 足りないところは別の方にサポートしていただいて続投してほしいです。 フィラメントは驚異的だと思ってますので株主の方とも上手くやりながら、頑張ってください! 引き続き応援しております」
「これだけ技術に真摯に向き合えるなら、必ず復活できると思います。復活劇楽しみです。応援してます!」
「通ってたけど、サービス自体もイマイチで、回数券買ったの後悔した。 先生によって技術に差がありすぎるのに料金は同じだし、自分の担当の先生が他の人の対応のために抜けたりするし(その分の時間は補填されない)、当初の希望と実際の施術メニューに差があったし、、急な店舗拡大で教育やら色々追いついていない感じで残念だった」。
放漫経営の果て、そして我々が学ぶべき教訓
今回のトラブルを公開した坂井秀人氏は、謝罪動画公開翌日の1月5日の夕方に「数日中にFilamentの進捗状況のご報告できると思います」とXに投稿。今後の展開が注目される。
放漫経営をしていたベンチャー企業の経営者が、50%の株式を持つ株主から告発されるという今回の騒動。放漫経営をしたいのであれば、また社長を続けたいのであれば、株式の過半数を確保し、経営の自由度を高めるべきだったと言える。議決権の3分の2以上を確保しておかないで勝手気ままに経営しようとしても無理がある。せめて、後1%、51%もっていればとも思う。
50%の株式売却で経営権を事実上譲渡した状態では、もはやオーナーであってオーナーではない。自由な経営は難しく、今回のように思わぬ形で窮地に立たされる可能性がある。また、このような経営状況では、税務署の税務調査が入った際に厳しい追及を受けるリスクも孕んでいる。
川島氏は謝罪動画のなかで10億の売上を1年で30億に急拡大させたことを言っている。経営者として、事業を伸ばすことは本当に長けた人なのだろう。自身の動画でも述べているが、イチからやり直す気になれば、この難局も乗り越えられると思う。「利他的になる」と動画で話していたように聞こえた。期待したい。
今回の騒動は、急成長ベンチャー企業が抱えるリスク、そして経営者の倫理観、情報公開の重要性について改めて考察を促すものとなった。