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株式会社地圏環境テクノロジー

https://www.getc.co.jp/

東京都千代田区神田淡路町二丁目1

03-5297-3811

見えない水の動きを、科学で見える化。地圏環境テクノロジーが支える、企業と地域の水

サステナブルな取り組み SDGsの取り組み
ステークホルダーVOICE 経営インタビュー
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株式会社地圏環境テクノロジー田原康博代表取締役社長
株式会社地圏環境テクノロジー、田原康博代表取締役社長(撮影:綿引誠)

降った雨は、川となって流れ、あるいは地面に染み込み、地下水となって、ゆっくりとめぐっていく。川の水は目に見えても、それが地下でどうつながり、どこへめぐっているのかまでは、ふだん、私たちの目には入ってこない。株式会社地圏環境テクノロジーは、この見えない水の流れを、科学の力で見える化する会社だ。

地上を流れる川の水と、地下深くを流れる地下水。学問の世界では別々に扱われてきたこの二つを、一つに繋いでシミュレーションする。世界でも稀なその技術で、渇水や洪水、水資源の枯渇といった、社会が抱える水の問題の実態を解き明かしてきた。代表取締役社長の田原康博氏に、その仕事と、水をめぐる思いを聞いた。

 

見えない水を、見える化する

地圏環境テクノロジーの事業の中心には、一つのソフトウェアがある。「GETFLOWS(ゲットフローズ)」。水の流れを、コンピューターの中で再現するシミュレーションシステムだ。同社は、この独自のシステムを使い、企業や自治体が抱える水の課題に、答えを出してきた。

このシステムの最大の特徴は、川の水と地下水を、同時に扱えることにある。田原氏が、その要点を説明する。

株式会社地圏環境テクノロジー田原康博代表取締役社長

田原氏
「降った雨は、地面に染み込んで地下を流れ、やがて地上に出て、川となって流れていきます。地下水と地上の水は、切れているわけではなく、本来つながっているものなんです。この、切れ目のない水の流れを、まるごとシミュレーションできる。そこが、このシステムの一番の特徴です」

言われてみれば当たり前のことのように聞こえる。だが、これが世界的にも稀な技術だというのには、理由がある。川の水と地下水は、これまで、まったく別のものとして研究されてきたのだ。

流れる速さが、あまりに違う。川の水は、目の前を勢いよく流れていく。一方、地下水は、地層の中を、時に何年もかけて、ゆっくりと進む。この二つは、扱う数式からして異なる。川を研究する人は地下のことをあまり考えず、地下を研究する人は川のことをあまり考えない。学問の分野が、はじめから分かれていた。地圏環境テクノロジーが成し遂げたのは、この別々だった二つの水を、一つに繋いで解くことだった。

繋いでみると、これまで見えなかったものが見えてくる。その上、このシステムが追えるのは、水そのものだけではない。水に溶けた物質や、雨で濁った水に混じる砂、さらには水が運ぶ熱まで、水を乗り物にして流れていくものを、まとめて捉えることができる。物質が変われば、それは汚染の広がりを追うことになり、栄養の流れを見ることにもなる。

この技術は、社会の切実な問いに、数字で答えてきた。半導体工場が進出すれば、地域の地下水は足りなくなるのか。山にトンネルを掘れば、麓の湧き水は枯れてしまうのか。目に見えないだけに、こうした不安は、憶測や感情に流されやすい。地圏環境テクノロジーは、その水の実態を科学で解き明かし、企業や自治体、そして地域住民が、確かな根拠に基づいて判断できるよう、支えてきた。

同社は、2000年の創業以来、このシステムを磨き続けてきた。これまでに手がけた実績は、国内外で1000事例を超える。目に見えない水の流れを、数字として描き出す。その積み重ねが、この会社の土台になっている。

 

繋がっているのに、分かれていた

では、この稀な技術は、どのようにして生まれたのか。その源流は、2000年の創業までさかのぼる。地圏環境テクノロジーは、東京大学の研究から生まれた、大学発のベンチャーである。

技術の核をつくったのは、地下のシミュレーションを専門とする研究者だった。もともと、この分野で最も進んだ技術を蓄えていたのは、意外にも、石油の業界である。石油は、地下の深いところに眠っている。それを掘り出すために、地下がどうなっているかを精密に読み解く技術が、長い年月をかけて磨かれてきた。地下の水を解き明かす技術も、その延長線上にあった。

地下を知り尽くした目から見たとき、一つの素朴な違和感が浮かんだ。地下水と川の水は、本来つながっている。地面に浸み込んだ水は、やがて地上に出て、川になる。それなのに、なぜ、地下の水しか扱えないのか。なぜ、地上の川が、そこに繋がっていないのか。

この違和感が、技術を前へと進めた。すでに確立していた地下のシミュレーションに、地上を流れる川を、後から乗せる。分けて考えるのではなく、一つのものとして解く。こうして、地下水と川の水をシームレスに繋ぐ、GETFLOWSの原型が形づくられていった。

興味深いのは、この発想が、川の専門家からではなく、地下を見つめてきた側から生まれたことだ。もし、川だけを、あるいは地下だけを研究する分野の中にどっぷり浸かっていたら、二つが別々であることを、当たり前として受け入れていたかもしれない。地下という一方の側から水を見ていたからこそ、繋がっているのに分かれているという不自然さに、気づくことができた。分野の境目に立った者だけが見つけられる、答えだったのだ。

大学で生まれたこの技術を、事業として世に送り出し、四半世紀にわたって磨き上げてきたのが、地圏環境テクノロジーである。生まれたときの思想は、いまも変わらない。水を、切れ目のない一つの流れとして捉える。その一貫したまなざしが、同社の技術を、他にはないものにしている。

地圏環境テクノロジー・コンピュータールーム
同社ビル1階にあるコンピュータールーム
 

対策の前に、実態を知る

地圏環境テクノロジーが手がけるのは、水のシミュレーションだ。だが、その根っこにあるのは、技術そのものよりも、一つの考え方である。問題を解決するには、まず、その実態を正しく知らなければならない、という信念だ。

何か問題が起きると、人はすぐに、どうすればいいかと、対策を考えがちだ。だが、田原氏は、その前にやるべきことがあると言う。

田原氏
「問題が起きると、どうしたらいいか、という解決策を考えがちです。もちろん、それも大事なのですが、その前にやらなければいけないのは、なぜそうなっているのか、という実態を把握することです。それができると、次にどうすべきかという対策も、自然と浮かび上がってくる。順番が、逆なんです」

田原氏はこれを、人間の悩みにたとえる。悩みを解決するには、なぜ悩んでいるのか、その根本を理解しなければならない。表面的な対処だけでは、悩みは消えない。水の問題も、それと同じだ。なぜ地下水が減っているのか。なぜ川の水が濁るのか。その理由を、科学的な根拠に基づいて、数字で明らかにする。そこから初めて、確かな対策が見えてくる。

医療にたとえるなら、症状に薬を出すだけの対症療法ではなく、なぜその病気になったのか、原因まで探る診察に近い。目に見える問題の、その奥にある実態を捉える。それが、地圏環境テクノロジーの仕事の流儀だ。

この流儀は、同社に相談を持ちかける顧客の顔ぶれにも、表れている。近年、企業は、財務以外の情報を統合報告書などで開示するようになった。気候変動や自然環境へのリスクを、どう捉えているか。そうした情報を、社会に示すことが求められる時代だ。だが、田原氏によれば、そうした情報開示のためだけに来る顧客は、あまり多くないという。

田原氏
「情報を開示するためだけ、というお客様は、実はあまりいらっしゃいません。どちらかというと、開示した後に、本当にここは大丈夫なのか、この地域は実際どうなっているのかを、もっと知りたい。そういう、一歩踏み込んだお客様が、私たちに頼んでくださっている感覚があります」

見栄えのために、体裁を整えるのではない。自分たちが立つ土地で、水が本当はどうなっているのかを、正面から知ろうとする。そうした、実態に向き合う覚悟を持った相手と、地圏環境テクノロジーは仕事をしてきた。目に見えない水の実態を明らかにするこの技術は、真剣に課題と向き合う人たちにとって確かな拠り所になっている。

 

数字で、不安を払拭する

この技術が最も力を発揮するのは、目に見えない水への不安を、確かな数字に変える場面だ。その代表例が、熊本での取り組みである。

近年、熊本には、世界最大手の半導体メーカーの工場が進出した。半導体をつくるには、大量の水がいる。しかも熊本は、水道水のすべてを地下水でまかなう、地下水の街だ。工場が大量に水を汲み上げれば、地下水が枯れてしまうのではないか。名高い湧き水に、影響が出るのではないか。住民の間に、そんな不安が広がった。

地圏環境テクノロジーは、熊本県とともに、この地域の地下水をシミュレーションした。そして、数字で答えを示した。この地域で通常使われている地下水は、およそ100億立方メートル。これは、地域全体が1年間に汲み上げる量の、およそ62年分にあたる。仮に工場が最大限に汲み上げても、その影響は局所的で、地下水位が下がるとしても、最大で1メートルほど。熊本市などの下流域にまでは、影響が及ばないとされる。つまり、心配するほどのことにはならない、という結論だった(*1)。

田原氏は、地下水の量を、家計にたとえて説明する。

株式会社地圏環境テクノロジー田原康博代表取締役社長

田原氏
「地下水の量は、家計でいえば貯金のようなものです。毎月、お給料という入金があって、支出がある。地下水も同じで、雨が浸み込むという入りが必ずあって、人間が使ったり出ていったりする。50万円の給料で50万円使えば貯金は減りません。地下水も、たとえば60年分の量がそこにあれば、それだけバッファになるということになります」

見えないものを、憶測で恐れるのではなく、実態を数字で捉える。そうすれば、根拠のない不安は、和らいでいく。地圏環境テクノロジーの技術は、企業が事業を進める後押しをするだけでなく、その地域に暮らす人々の不安を、分かりやすい形で解きほぐす役割も同時に担っている。

顧客の顔ぶれも、幅広い。水を大量に使う飲料メーカーにとって、地下水は事業の生命線だ。同社は、その地下水が将来にわたって持続的に汲み上げられるのか、気候変動で雨の降り方が変わっても事業を続けられるのかを評価する。変わったところでは、保険会社もいる。山間部に設けられた太陽光発電の設備が、豪雨で流されるリスクをどう見積もるか。その判断材料として、同社が持つ全国の災害リスク情報が役立てられている。ほかにも、建設、電力、鉄道、半導体、化粧品。水をよりどころとする産業は多く、その一つひとつに、同社の技術は関わっている。

活躍の場は、公共の分野にも広がる。停止していた原子力発電所の運転再開に向けた審査では、地下水の影響評価の一部を、同社の技術が支えた。山にトンネルを掘る大規模な鉄道建設では、工事で沢の水が枯れないか、生態系に影響が出ないかを、事前に予測した。都市の再開発で緑を増やせば湧き水が復活するか。海で魚が獲れなくなった原因は、海と陸のどちらにあるのか。水が関わるさまざまな問いに、同社は答えを出してきた。

こうした仕事を支えているのが、地下を読み解く力だ。地上の情報は、衛星をはじめ、豊富なデータがある。だが、地下は目に見えず、手がかりとなるデータも限られている。そのわずかな情報から、地下がどうなっているかを推し量る作業は、いまも人の手に頼る部分が大きい。ここには、簡単には真似のできない、長年の経験が求められる。

*1:熊本県「地下水量保全の取組(地下水の可視化編)」(熊本県 環境生活部環境局 環境立県推進課、2025年4月17日更新)。同地域のシミュレーションにはGETFLOWSが用いられている。
https://www.pref.kumamoto.jp/site/mizunokuni-kumamoto/225613.html

 

世界の水を、解き明かす

地圏環境テクノロジーが、いま力を注いでいるのが、海外への展開だ。その理由を、田原氏は率直に語る。

田原氏
「日本の市場は、これから少しずつ小さくなっていくことも見据えなければなりません。自分たちが事業を長く続けていくためにも、海外に目を向けていきたい。その上、水問題は、日本より深刻な国が少なくありません。私たちが貢献できる余地は、きっと大きいと思っています」

その足がかりとなるのが、日本全国を対象にしてきたデータの仕組みを、世界全体へと広げる取り組みだ。同社は、地球全体の水の流れをシミュレーションできるデータベースを整えつつある。どの国の、どの地域であっても、水がどう流れているかを描き出せる。それを示すことで、世界のどこを相手取っても仕事ができる、という土台をつくろうとしている。

具体的な動きも、始まっている。マレーシアでは、現地の水の研究機関と協力し、洪水を早く知らせるシステムの精度を高める取り組みを進めている。タイでも、日本で行ってきたコンサルティングを現地で展開できないか、模索を続けている。もっとも、こうした海外事業は、田原氏自身、山登りにたとえるとまだ2合目か3合目あたりだと語る。急がず、経験を一つずつ積み重ねていく段階にある。

海外に目を向けるうえで、日本での積み重ねは、無駄にはならない。むしろ、追い風になっている。気候変動が進み、日本の気候も、少しずつ東南アジアのそれに近づいてきた。夕方に激しく降るスコールのような雨は、いまや日本でも珍しくない。日本で培ってきた知見が、東南アジアの水問題に、そのまま生かせる場面が増えている。

田原氏
「日本もだんだん、東南アジアのような気候になってきました。そういう意味では、あちらの水問題も、私たちには想像がしやすい。日本で起きていることが、より大きな規模で起きている。そう捉えると、これまでの経験を、生かせる余地は大きいと感じています」

見えない水の流れを解き明かす技術は、国境を選ばない。日本で磨いてきたそのまなざしを、世界の水問題へと向けていく。地圏環境テクノロジーが見据えているのは、日本の一企業にとどまらない、その先の景色だ。

地圏環境テクノロジー・コンピューター
 

地名は、水を語っている

取材の終わりに、田原氏が語ったのは、大きな事業の話ではなかった。もっと身近な、私たちの足元の話である。

水は、暮らしのすぐそばにある。だが、都市に住んでいると、その流れは、すっかり見えなくなってしまった。川は地下に潜り、土地の高い低いも、意識することがない。田原氏は、その一例として、東京の地名を挙げる。

田原氏
「渋谷は、名前のとおり、実はとても低い谷なんです。銀座線に乗ると、一つ手前の表参道の駅はきちんと地下にあるのに、渋谷まで来ると、地上の三階あたりに出てしまう。同じ高さで進んでいるのに、それだけ渋谷の土地が低い、ということなんです。茗荷谷、四ツ谷、渋谷と、『谷』のつく地名は、みんなそういう場所です。地名は、その土地の地形と、密接に結びついているんです」

言われてみれば、坂も同じだ。坂は、自然にできるものではない。かつて、川などが土地を削って、初めて坂ができる。坂があり、低くなっている場所は、昔、水が流れていた跡なのだ。地形や地質は、そのまま、水の流れを物語っている。そして、水がかつて流れていた低い土地は、洪水にも地震にも、あまり強くない場所も多い。

昔の人は、こうしたことを、感覚として知っていた、と田原氏は言う。よく氾濫する場所には、家を建てない。そこは田畑にして、水を逃がす場所にする。土地と水との付き合い方を、暮らしの知恵として持っていた。だが、今の私たちは、水を見えなくしてしまったぶん、その知恵を、失いつつあるのかもしれない。

株式会社地圏環境テクノロジー田原康博代表取締役社長

田原氏
「自分の住んでいる地域が、どういう土地で、どういう水の流れをしているのか。それを知るだけでも、防げる災害があるのではないかと思っています。こういう技術があるということを、いろいろな人に知ってほしい。水はそれくらい、私たちの生活に深く関わっているものなんです」

目に見えない水の流れを、科学の力で描き出す。地圏環境テクノロジーの仕事は、企業や自治体の課題を解決するだけのものではない。私たちが、自分の足元にある水と、もう一度向き合うための手がかりでもある。降った雨が、どこをどう流れているのか。その見えない流れに目を凝らすことが、これからの暮らしを、少しだけ確かなものにしていくのだろう。

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ライター:

Sacco編集・ライター。企業に直接出向く取材が中心。扱う記事はサステナビリティ、ウェルビーイング関係が多め。

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