
愛知県長久手市で強盗傷害事件として捜査されていた通報は、24歳男性による自作自演だった。CBCテレビなどによると、刺された上、金銭を奪われたと説明していた男は、その後の警察の事情聴取で、包丁を自ら購入し、自分で左脇腹を刺したことを認めたという。警察は虚偽申告として立件を視野に調べている。
通り魔被害を自演
「男に刺されて、お金を取られた」と説明した男について、通報者は「遊歩道を見たら男性が座り込んでいて、スマホを貸してほしいと言ってきた。刺されたのはペティナイフみたいなものだと言っていた」と話しているとされる。夕方の住宅地を突然襲った「通り魔的強盗」として、事件はその夜のうちにSNSで大きく拡散された。
ところが翌7日、事件は一変する。CBCテレビの報道によると、防犯カメラの映像や聞き込みで男性の説明に矛盾が見つかり、警察が再び事情を聴いたところ、男性は包丁を自ら購入し、自分で左脇腹を刺したことを認めた。動機については「騒ぎを起こそうと考えた」と供述しているという。使った刃物は現場付近に捨てたと話し、警察が回収した。
虚偽申告で立件視野、警察の捜査にも影響
存在しない事件を警察に申告した場合、軽犯罪法違反にあたる可能性がある。さらに、虚偽の説明によって警察の捜査を発生させた場合には、偽計業務妨害罪が問題となる余地もある。警察は男性について立件を視野に調べていると報じられている。
実際、今回の「事件」には多数の警察官が投入され、現場保存、周辺の聞き込み、防犯カメラの解析、逃走犯の捜索が一晩にわたって行われた。近隣住民は「刺した強盗が逃走中」という情報に不安な夜を過ごした。虚偽申告が奪うのは、本来ほかの事件や住民の安全のために使われるはずだった捜査資源と、地域の安心だ。
「治安悪化」の物語に回収された一夜
発生当夜、この事件は「物騒な世の中になった」「間違いなく政治の責任」といったコメントとともにSNSで拡散。移民政策や外国人犯罪への懸念を結びつけるリプライも相次いだ。犯人像すら分かっていない段階で、事件は特定の政治的な「物語」の証拠として流通したのである。
しかし蓋を開ければ、加害者は存在せず、「被害者」自身が起こした騒ぎだった。訂正報道が出た後も、最初の「強盗事件」の印象だけが残り続けるのがSNSの常である。誤情報は訂正よりも速く、遠くまで届く。
事件報道の第一報は、あくまで「その時点で警察が把握した申告内容」にすぎない。第一報に接したとき必要なのは、即座に社会や政治への評価を下すことではなく、続報を待つ姿勢だろう。今回の長久手市の一件は、虚偽申告をした本人の責任もさることながら、未確定の情報を「治安悪化の証拠」として拡散してしまうネット民のリテラシーをも問うている。



