
FIFAワールドカップ北中米大会は、日本時間6月15日に開幕する。日本代表は同日、グループリーグ初戦でオランダと対戦する予定だ。その大一番を目前に控えた6月12日、主将の遠藤航が負傷のため代表を離脱し、日本代表からの引退も表明した。さらに追加招集されたのはボランチではなくFW町野修斗。大会直前に起きた一連の決断は、森保ジャパンの準備と構想に大きな議論を呼んでいる。
遠藤航離脱は、単なるアクシデントでは済まない
初戦まで、あと3日。W杯の緊張感が一気に高まる時期に、日本代表は主将を失った。遠藤航は負傷のためチームを離脱し、自身のXで日本代表からの引退も明かした。森保ジャパンの中心にいた選手が、大会本番を目前にしてピッチを去ることになった。
遠藤は2月の負傷後、手術とリハビリを経てW杯出場を目指してきた。5月31日のアイスランド戦で実戦復帰したものの、左足に違和感を訴えて前半のみで交代。その後も別メニュー調整が続いていた。本人がどれほど大会に懸けていたかは、ここまでの経緯だけでも伝わってくる。
ただ、代表選考は美談だけでは動かせない。遠藤の献身を知っていれば、最後まで待ちたい気持ちはあっただろう。だが、W杯は情を汲んでくれる場所ではない。間に合うかもしれないという期待と、間に合わなかった場合の備えは、同時に用意しておくべきものだった。
結果として、日本代表は初戦直前に主将と中盤の軸を同時に失った。これは不運だけで片づけるには重すぎる。遠藤ほどの存在を抱えながら、その不在が現実になった瞬間、チームの輪郭が急にぼやけて見える。そこに今回の怖さがある。
町野修斗追加招集、なぜボランチではなかったのか
さらに引っかかるのは、追加招集の人選だ。遠藤の代わりに呼ばれたのは、FW町野修斗だった。町野は前回カタール大会でも追加招集を経験しており、高さ、前線からの守備、ロングスローという武器がある。チームに別の選択肢を加えられる選手であることは間違いない。
それでも、遠藤が抜けた場所は中盤である。相手の攻撃の芽を摘み、セカンドボールを拾い、試合終盤に落ち着きをもたらす。その仕事を考えれば、なぜ同じポジションの選手ではなかったのかという疑問は消えない。守田英正が招集されていないこともあり、藤田譲瑠チマや佐野航大を求める声が出るのは自然だ。
森保監督には、外から見えない計算があるのだろう。瀬古歩夢を中盤で起用する構想かもしれないし、鎌田大地、田中碧、佐野海舟らで乗り切る判断かもしれない。町野を加えることで、前線の高さや守備時のはね返しを厚くしたい狙いも考えられる。
だが、ファンが知りたいのは、町野が使えるかどうかだけではない。遠藤が抜けた中盤をどう設計し直すのか。そこが見えないままだから、疑問が残る。W杯本番では、説明の不足はピッチ上のほころびになって表れる。
板倉滉新主将に渡された、重すぎる腕章
遠藤の離脱を受け、新主将には板倉滉が就いた。板倉は主将就任を伝えられた後、遠藤の部屋を直接訪れたという。出発まで時間がない中で、それでも言葉を交わしておきたかった。その行動に、今回の離脱の重さがにじんでいる。
遠藤は、ただ腕章を巻いていた選手ではない。球際で基準を示し、苦しい時間帯に体を張り、W杯優勝という言葉をチームの中で浮いた理想にしないよう支えてきた。派手ではない。だが、遠藤がいることで、日本代表の中央には一本の芯が通っていた。
その役割を、板倉は初戦直前に引き受けることになった。守備の要としての経験はある。欧州での実績もある。それでも、W杯の開幕直前にチームの動揺を受け止め、空気を整える仕事は簡単ではない。
オランダ戦で問われるのは、立派な言葉ではない。最初の競り合いで負けないこと。危ない時間帯にラインを押し上げること。中盤が苦しくなったとき、後ろから声を飛ばすこと。板倉がどれだけチームを締められるかで、遠藤不在の重さは変わる。
森保ジャパンは遠藤不在を想定していたのか
今回の焦点は、遠藤の離脱そのものよりも、遠藤がいない場合の準備がどこまでできていたのかにある。遠藤は負傷明けで、実戦復帰も十分とは言えなかった。アイスランド戦で違和感を訴えた段階で、リスクははっきり見えていた。
それでもメンバーに残したのは、遠藤が代えの利かない選手だったからだろう。だが、代えの利かない選手に頼るチームほど、その選手がいない試合の設計を詰めておかなければならない。強みだったはずの遠藤依存が、ここにきて弱点として表に出たようにも見える。
町野の追加招集を失敗と決めつけるのは早い。ただ、遠藤の離脱から町野の招集までの流れを見れば、中盤の穴をどう埋めるのかという疑問は残る。オランダに押し込まれたとき、誰がボールを奪い返すのか。セカンドボールを拾えない時間帯に、誰が流れを切るのか。リードして迎えた終盤、誰が試合を眠らせるのか。
遠藤が当たり前のようにやっていた仕事は、失って初めて大きさが見える。だからこそ、森保ジャパンは遠藤の不在を感情ではなく設計で埋めなければならない。
オランダ戦が森保ジャパンの準備を映し出す
もう、説明だけでは追いつかない。遠藤を待った判断も、町野を呼んだ選択も、守田英正を招集しなかった構成も、オランダ戦が始まればすべてピッチ上に出る。中盤が耐えれば采配になる。押し込まれ、拾えず、落ち着けられなければ、それは準備不足と呼ばれる。
W杯は、選手の思いや監督の信念を丁寧にくみ取ってくれる場所ではない。遠藤航が背負ってきたものは大きい。だからこそ、その不在をチーム全体で埋められなければ、日本代表が掲げてきた高い目標は言葉だけで終わる。
感傷に浸る時間は、もう過ぎた。遠藤のために、という美しい言葉だけではオランダの中盤は止まらない。森保ジャパンに残されたのは、勝つための冷たい現実だけだ。



