
園庭を持たない保育施設が増えるなか、子どもたちは自然や植物とどう出会えばよいのか。志のぶ幼稚園は、第二園庭「志のぶセンス・オブ・ワンダーランド」を舞台に、アニメーション「Wonderland Story」を発信している。ファンタジーを入口に、実在する植物と子どもたちをつなぐ取り組みを追う。
園庭を知らない子どもたちが、校庭に出会う前に
子どもにとって、園庭はただ遊ぶ場所ではない。植物を見て、匂いを嗅ぎ、触り、ときには千切ったり、食したり、加工したり、おままごとに使ったりする。そうした何気ない体験の積み重ねが、幼児期の感覚や人間関係、社会ルールの習得にもつながっていく。
しかし、志のぶ幼稚園が向き合っているのは、その園庭体験が失われつつある現実だ。目黒区では待機児童問題への対応策として保育施設の急速な整備が進められた結果、私立保育所の70.8%が園庭を保有していない状況にあるという。そこには、「園庭を知らない子どもたち」が「小学校の校庭に飛び込む時代」が来ている、という課題認識がある。
東京都目黒区平町にある学校法人久光学園 志のぶ幼稚園は、1911年5月15日に設立された幼稚園だ。同園がいま力を入れているのが、第二園庭「志のぶセンス・オブ・ワンダーランド」を舞台にした取り組みである。そこには、レイチェル・カーソンの言葉として紹介される「知ることは感じることの半分も重要ではない」という考えが重ねられている。
知識として植物を教えるのではなく、まず感じる。触れる。好きになる。そのための入口として生まれたのが、アニメーション「Wonderland Story」だ。
ファンタジーから、実在する植物へ
「Wonderland Story」は、志のぶ幼稚園の第二園庭「志のぶセンス・オブ・ワンダーランド」を舞台にしたアニメーションである。実在する園庭をsumikaにする9人の植物の精霊たちと、その仲間たちがキャラクターとして登場する。
精霊たちは、それぞれ異なる名前、特技、好きな食べ物、将来の夢を持っている。ローズマリーの精霊マリーは、歌って踊ることが好きでアイドルを目指す。モッコウバラの精霊ばらおうじは、みんなの王子として平和を夢見る。ブラックベリーの精霊ブラックはスーパーヒーローに憧れ、ブルーベリーの精霊ブルーはお笑い大会の優勝を目指している。
ここで重要なのは、キャラクターが単なる空想上の存在で終わらないことだ。精霊たちのモチーフとなった植物は、実際に園庭に存在している。子どもたちはアニメーションで精霊に愛着を持ったあと、その精霊の姿となった植物を園庭で探す体験へと導かれる。
ファンタジーの世界で親しんだ存在が、リアリティーの世界で植物として目の前に現れる。そのとき、植物は初めて見る対象でありながら、すでに子どもにとって「愛おしい友人」になっている。志のぶ幼稚園が目指しているのは、まさにその接点づくりだ。
この取り組みは、失われてはならない子ども文化を再構築するためのものでもある。自然を一方的に学ぶのではなく、物語を通じて近づき、実在する植物に興味を持ち、植物を愛し、大切な友達として感じていく。そこに、情操教育とエデュテインメントを融合させる狙いがある。

3つの発信拠点で、物語と園庭をつなぐ
「Wonderland Story」は、単一のメディアで完結するものではない。ランディングページ、YouTubeチャンネル、Instagramという3つのプラットフォームで構成され、それぞれが異なる役割を担っている。
ランディングページは、プロジェクト全体の世界観を伝えるハブだ。物語の全体像に加え、各キャラクターの詳細なプロフィール、園庭の植物情報、インタラクティブなコンテンツへアクセスできる場所として設計されている。
YouTubeチャンネルは、物語のアーカイブであり、図鑑的な役割を持つ映像ライブラリである。ショートアニメーションが継続的に蓄積・配信され、ランディングページとも連動する。子どもたちは何度も物語を見返すことで、精霊たちとの関係を深めることができる。
Instagramは、日常との接点であり、保護者へのダイレクトな発信の場だ。最新アニメーションの配信に加え、季節ごとの植物情報、園庭での実際の活動風景、精霊たちの日常を描いたコンテンツなどを発信する。家庭内でもプロジェクトへの関与が促され、園庭での体験が日常の会話にもつながっていく。
このように、物語、映像、日常発信を組み合わせることで、志のぶ幼稚園はファンタジーとリアリティーを行き来する仕組みをつくっている。子どもがアニメーションを見る。キャラクターを好きになる。園庭で植物を探す。保護者も発信を通じて取り組みに触れる。その流れが、自然との出会いをより身近なものにしていく。
園庭を地域資源として開く「園庭シェア」
志のぶ幼稚園の取り組みは、アニメーションだけにとどまらない。同園では現在、園庭がない保育所に向けて園庭シェアを実施している。
背景にあるのは、超高速少子化が進む現代において、幼稚園の園庭を在園児だけのものに限定しないという考え方だ。園庭を地域資源として捉え、園庭がない保育所の子どもたちにも開放する。園庭を体験してほしい、感じてほしい。その思いから、取り組みが始まっている。
園庭は、四季折々の植物との多様な関係性を築く場であると同時に、人間関係の構築、社会ルールの習得、伝承遊びの継承など、人生の土台を育む幼児期に重要な環境でもある。志のぶ幼稚園は、園庭を知らない子どもたちがいなくなることを目指している。
そのためには、他の幼稚園にも園庭が地域資源であるという認識を広げていくことが必要だという。また、園庭がない施設を量産した事実を自治体が改めて認識することも求められる。園庭体験格差をなくす解決方法として、幼稚園の園庭を保育所との垣根を越えて、地域に住む就学前の子どもたちへ開放する。志のぶ幼稚園が見据えるのは、そうした園庭シェアの広がりである。
SDGsの先を見据えた幼児向けESDモデルへ
「Wonderland Story」は、志のぶ幼稚園にとって、SDGsの先を見据えた幼児向けESDモデルプロジェクトでもある。
同園では、幼稚園におけるESD実践として、①ソマティック実践(皮膚接触コミュニケーション)、②わくわくオンライン(異文化交流)、③センス・オブ・ワンダー、④地域との連携という4つの切り口で取り組んできた。そのうち、②わくわくオンライン(異文化交流)の実践をまとめたレポート「幼児のグローバル感性を育むサスティナブルなオンライン異文化交流の取り組み」は、2021年世界OMEP ESDアワードを受賞している。
今回の「Wonderland Story」は、③センス・オブ・ワンダーと④地域との連携を融合した幼児向けプロジェクトだ。開発には、志のぶ幼稚園4代目の岡秀樹園長と、独自の感性を持つアニメーターPmats9 studioが携わった。これにより、単なるエンターテインメントではなく、環境教育を内包したESDの要素を組み込んだコンテンツが実現した。
岡園長は「人は楽しいところに集まる」と考えているという。だからこそ、まずは子どもたちを含めた地域社会に向けて、エデュテインメントの手法を用いた「Wonderland Story」を入口として提示していく。
大切なのは、ファンタジーで完結しないことだ。物語の世界と、地域に実在する場所を行き来する。その手法は、保育におけるESD “think globally, act locally”の実践として位置づけられている。志のぶ幼稚園は、「Wonderland Story」を、子どもたちが自然との共生を楽しみながら感じるためのきっかけにしようとしている。




