
金融庁が2月25日に公表した、上場企業のルールブック「コーポレートガバナンス・コード」の改訂案 。夏までの改訂に向けた第2回有識者会議(令和7年度)の資料として示されたこの原案は、産業界に激震を走らせる内容となっている 。
細かなルールが半減して一見「負担軽減」に見える裏で、実は高市早苗首相の強い意向が色濃く反映された劇薬が仕込まれていたのだ。
内部留保への包囲網
市場関係者の間で今、「巨大な高市マネーが動く」と囁かれている。その最大の理由は、長年指摘されてきた日本企業の「内部留保(現預金)」への切り込みだ。
高市首相は昨年の自民党総裁選時から、企業内に溜まる現預金の活用に強い関心を寄せ、「コードを改定し、内部留保の使途を明示させるべき」と主張してきた。今回の改訂案は、まさにその高市ドクトリンの体現である。
改訂案では、取締役会に対し、持続的成長や企業価値向上に繋げるための適切なリスクテイクとして、「現預金を投資等に有効活用できているかを含め、不断に検証を行うべきである」とプレッシャーをかけている 。こうなると企業側はもはや「不測の事態に備えて現金を積んでおく」という言い訳ができなくなる。
金庫で眠っていた巨額の資金が、半導体やAI、人的資本といった国策に沿った成長投資へと強制的に引きずり出される。これこそが「高市マネーが動く」と言われる所以である。
項目半減のカラクリ。「スリム化」の裏にある本気度
今回の改訂では、これまで83項目にまで膨れ上がり、企業の対応負担となっていた細かな項目を削除する方針のようだ。
改訂案の文書でも、形式的な対応にとどまらない実質化を図る観点から「『プリンシプル化』・『スリム化』が行われた」と明記されている。具体的には、会社が特に注力すべきガバナンスの中核となる箇所を原則に格上げする一方、可能な限り要点を簡潔に記載し、メリハリをつけた文書とされている。
しかし、これは決して手抜きを許すものではない。「細かく指示しなくても、本質(プリンシプル)を理解して自ら動け」という、金融庁からの高度な要求なのだ。
迫り来るサイバー攻撃と地政学リスク。経済安保も明記
さらに、現代の企業経営において避けて通れない有事への備えも新たに盛り込まれた。取締役会がリスク管理体制を整備する際の考慮事項として、具体的なリスクへの対応が含まれ得ると規定されたのだ。サイバーセキュリティリスクや国際的な経済安全保障を巡る環境変化等の地政学的要因によるサプライチェーン途絶リスク、技術等の情報流出リスクなどだ。
これらが単なるリスク管理ではなく、「収益機会にもつながり得るもの」として位置づけられている点も見逃せない 。これはまさに、序文で宣言されている「『守りのガバナンス』にとどまらない、いわば『攻めのガバナンス』の実現を目指す」という姿勢の表れだろう。
「消えたルール」の波紋。買収防衛策などの削除が意味する本当の狙いとは?
今回の改訂で波紋を呼んでいるのが、一見すると「緩和」に見えるルールの削除だ。
例えば、「いわゆる買収防衛策」(原則1-5)や、「公開買付け」への対応(補充原則1-5①)といった項目がコードからごっそり削られた。さらに、増資やMBOなど「株主の利益を害する可能性のある資本政策」(原則1-6)も削除対象となっている。「買収防衛策の手続きが緩くなるのか?」と色めき立つ企業もあるかもしれないが、それは大きな勘違いだ。
金融庁の狙いは明確である。これらの項目が削除された最大の理由は、「有価証券上場規程上で適時開示が必要とされている」ことや「金融商品取引法上の義務がある」など、他の法令等との重複を省くために過ぎない。
改訂案の序文には恐ろしい一文がある。「当該改訂後にはその重要性が失われたと考えることは適切ではなく、会社は、このようなプリンシプル化・スリム化の趣旨を十分に理解した上で、本コードの各原則への対応の実質化に取り組むことが期待される」。
現場の担当者にとって、これは「コードに書いてあるからやる」というチェックリスト方式が通用しなくなり、「自社の状況に合わせて、本質的にどう対応すべきか」を自律的に考えなければならないことを意味する。真のガバナンスが機能している企業と、そうでない企業の「格差」は、この夏を境に一気に広がるだろう。
「手取り足取りのルール」が消え去り、企業に高度な自律を求める今回のガバナンス・コード改訂 。夏に控える本改訂までに、各企業は「溜め込んだ現預金をどう成長投資や経済安保対策に回すか」という重い宿題を突きつけられている。
日本企業が真の意味で「稼ぐ力」を取り戻せるか、経営トップの手腕が問われる夏になりそうだ。



