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障害年金と児童扶養手当の併給はなぜ認められない?支援制度の限界と課題

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障害年金と児童扶養手当の併給

2025年6月10日、障害基礎年金を受給するひとり親に児童扶養手当が支給されないのは「法の下の平等」に反するとして争われた訴訟に対し、最高裁第三小法廷(渡辺恵理子裁判長)は原告側の上告を棄却した。これにより、障害年金を理由とした児童扶養手当の不支給は合憲との判断が確定した。

この判決は、制度の法的整合性を確認したにとどまらず、複数の困難を重ね持つ家庭に対して支援が届いていない現実を浮き彫りにした。障害年金と児童扶養手当という二つの制度の趣旨と運用を見直し、より実態に即した支援のあり方が問われている。

制度の根本的な意義――なぜ複数の制度が存在するのか

障害基礎年金、児童扶養手当、生活保護、医療費助成――これらの制度はいずれも、社会的に弱い立場にある人々を支えるための「公的扶助」である。
その根底には、「すべての人が生きるに値する尊厳を保てる社会をつくる」という共助の理念がある。

障害基礎年金は、病気や事故などにより労働による収入が得られない人に対し、最低限の所得を保障する制度である。一方、児童扶養手当は、主に離婚や死別などで配偶者のいないひとり親家庭に対し、子の育成に必要な生活費を支援する目的で設けられている。

両者は異なる制度目的を持ちながらも、結果として「所得保障」を軸とした構造を有しており、その重複や制度の線引きが問題となることがある。

 

障害基礎年金とは

障害基礎年金は、公的年金制度の一部として支給される所得保障給付であり、国民年金の被保険者期間中に所定の障害状態に至った場合や、20歳前に障害の原因となる病気・けがの初診がある場合に支給対象となる。

支給額は等級により異なるが、たとえば2級障害であれば、2025年度の基準では年額約78万円が支給される。扶養している子どもや配偶者の有無に応じて加算もある。

児童扶養手当とは

児童扶養手当は、18歳まで(または20歳未満で障害がある子)の子どもを育てるひとり親に対して支給される手当である。所得制限があるが、世帯の経済的困難を和らげ、子の育成環境を保障することが目的である。

ただし、障害年金や遺族年金など他の公的年金等を受給している場合には、児童扶養手当が支給停止となるケースが多く、二重給付の回避が制度設計上の原則となっている。

 

併給可能な主な手当

障害基礎年金や児童扶養手当は、それぞれ他の手当と併給できるものがある。以下に代表的な例を示す。

障害基礎年金と併給できる手当

手当名併給の可否備考
児童手当所得制限内で支給。
特別児童扶養手当子が中度以上の障害。本人の障害とは別枠。
障害児福祉手当20歳未満の重度障害児に支給。
特別障害者手当在宅の20歳以上の重度障害者。
生活保護年金を控除後、生活に不足があれば支給。
障害福祉サービス介護給付、訓練等給付等と併用可能。
自立支援医療(精神通院)所得制限内で助成対象。

児童扶養手当と併給できる手当

手当名併給の可否備考
児童手当中学生まで。併給可。
特別児童扶養手当子が障害を持つ場合に支給。
母子家庭等医療費助成自治体による支援制度。
就学援助学用品費・給食費等。審査で優遇あり。
保育料減免自治体ごとの制度。
住宅手当(自治体独自)家賃補助など。
生活保護他手当を控除後に不足分が支給。

現行制度の限界と判決の意味

今回の最高裁判決では、障害年金と児童扶養手当が「所得保障」という点で重なることから、重複支給を認めない制度設計は合理的と判断された。立法府の裁量の範囲内であるとし、「明白に不合理でない限り違憲ではない」との基準が適用された。

一方、行政法学者出身の宇賀克也裁判官は反対意見を付し、「ひとり親であることによって児童扶養手当を受けられないのは、憲法14条の平等原則に反する」と指摘した。

この判決は、法制度としての正当性を認める一方で、現行制度が実際の生活困窮者を十全に支えていないこともまた明らかにした。

 

今後求められる制度設計――「生活実態に即した支援」へ

制度の公平性を保ちつつ、実態に合った支援を行うには、以下のような視点が不可欠である。

● 合算的な支援設計

障害や家庭構成など複合的な困難を抱える世帯に対して、重複を排除するのではなく、加算的な支援を前提とした設計が必要である。

● 所得制限の見直し

わずかな年収超過で手当が全廃される「崖」型支援の見直しが必要であり、**段階的減額方式(逓減制)**の導入が望ましい。

● 申請支援と制度の一元化

情報格差や手続き負担が支援の受給を妨げている。アウトリーチ支援や、複数制度を一括で案内・支給する仕組みの整備が急がれる。

制度は「命綱」であり、「社会の意思」の表れである

障害年金や児童扶養手当は、個々人の努力だけではどうにもならない困難に対し、社会全体で手を差し伸べるための仕組みである。支援が届かない人がいるという事実は、その社会の「配慮の限界」を示しているともいえる。

支援制度の線引きが法的には正当でも、現実に「支えが足りない」と感じる人が存在する限り、制度は不断に見直されなければならない。すべての人が尊厳を持って生きられる社会の実現には、制度の内在的な再構築と、現場に根ざした柔軟な運用の両輪が求められている。

 

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SHOEHORN くつべらマン

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児童養護施設の職員。特に中学~新卒年齢の若者の生活・医療・福祉・自立支援に従事している。勤務時間外では、様々な職業の方へ取材活動を実施しており、大人になる若者たちへ情報を提供している。

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