「倫理法人会に入り、人生において大切なものに気づきました」と穏やかに語るのは、今秋、愛知県倫理法人会 会長に就任予定の株式会社オオツカ 代表取締役社長 大塚祥吉さん。
愛知県名古屋市を拠点に、住宅型有料老人ホームやデイサービスセンター、訪問介護、ケアマネージャーによる居宅介護支援、介護タクシーなど、事業の輪を広げる。
同会と歩んだ18年。経営者としてだけでなく、「市民・父親・息子・夫」など様々な役割を通した苦悩があったと振り返る。
倫理を学び、実践を重ねて乗り越えた今、「人生において大切なもの」とは何か。大塚さんの鮮明な記憶をもとに、実体験から出た答えと次世代への思いをうかがった。
自社紹介
平成8年 (1996年) 設立の当社は、現在12の事業所で約120名のスタッフとともに、地域に根ざした介護サービスを提供しています。
「させて頂けるだけでありがたい」これは創業時からの思いです。高齢者時代によろこばれる仕事を模索し、介護タクシー事業へ参入。
当時は規制が強く、名古屋に100社あった同業者からは、「大塚さん、絶対ムリだよ」と言われました。
2年かけて免許を取得するも、周りの予想どおり中部運輸局に却下されます。必ずできると信じて協力者を募り、最終的に地域の方々の支援のおかげで認可がおりました。
初仕事の売上は2,890円。それまでの苦難を胸に秘め、ご利用者様に「ありがとうございます!」と伝えると、「なに言ってるの。私こそ『ありがとうございます』よ!」と想像以上に感謝されました。
そのとき感じた「こんなにありがたい仕事があるのか」という思いは、当社の創業の精神(させて頂けるだけでありがたい…)に引き継がれています。
あれから28年。経営危機の度に、ご利用者様やスタッフの声に寄り添い、社会の公器にふさわしい健全な経営をめざしてきました。
また、創業時から感謝の気持ちをもって仕事ができる人材の育成を心がけています。
介護の仕事は人が好きでないと務まりません。介助の仕方によっては、ご利用者様やスタッフ自身に負担を強いることもあります。
相手を思い、学び続け、お役に立てることを喜びに働いてくれるスタッフがいる。オオツカの強みは何より「人」だと自負しています。
倫理法人会に入会した経緯
正直に話しますと、当初は「経営のため」ではなく、「子どもたちの前で胸を張って生きたい」という思いでした。
娘が小学4年生のとき、PTA会長に推薦されました。何度もお断りしましたが、最後は引き受けることに。以前は飲食業を経営しており、「お金儲けがしたい」という私欲が強かったと自覚しています。
小学生のキラキラした瞳の前に立ち、「自分の生き方を問い直したい」「保護者の代弁者となり、地域全体で子育てをしたい」と心が開いていく過程で、倫理法人会に出会いました。
娘には、「なんで親が毎日学校に来るのよ」と言われましたが(笑)、倫理法人会での学びは経営のみならず、地域社会と関わる中でも実践できました。
倫理法人会での学びについて
平成17年 (2005年) に入会し、今年で18年目。そのうち12年以上は「後継者倫理塾」で倫理経営ができる後継者の育成に携わってきました。
その活動や倫理の実践を通じ、私にとって大切なものは、「親子の絆」や「夫婦の愛」であることに気づきました。
「親子の絆」については、ある塾生との出会いが印象的です。塾生の多くは経営者や両親との確執、夫婦の不仲などを抱えており、彼も親との関係に苦しむ1人でした。
ある日彼から電話があり、「塾では親子の絆が大事だと言うけれど、2〜3歳のときから実の父親は家にいなかった。
今の社長であり父親は、家に入ってきた男。大っ嫌いで繋がることなんてできない」と言うのです。
私には離婚歴があり、当時3歳の子を手放しています。その息子が目の前に現れたかと思いました。
彼には私の過去を対面で話し、「今日は会いに来てくれてありがとう」「1日も忘れたことはなかったよ、幸せに暮らしてほしいとずっと願っていた」「いつか会える日のために、一生懸命やってきたよ」と実父の気持ちを代弁しました。
二人で大泣きした日を境に、彼は塾での学びを通して変わっていきます。終了式では養父の前で感謝を伝え、後継宣言をしました。
塾生のみなさんが倫理を実践し、苦悩を乗り越える姿から教わることは多い。
私は生後一週間で母親と離れ、中学2年生のときに父親をガンで亡くしています。自分の生い立ちを恨み、心に刃をもち、自ら数々の苦難を引き起こしてきました。
倫理法人会での学びは、母親を探して会いに行き、「産んでくれてありがとう」と伝えるまでの行動変容に繋がりました。
その後、有料老人ホームの立ち上げを機に母親が入居。会えたときには寝たきり状態で、言葉を交わすことは叶いませんでしたが、穏やかな7年を見届けました。
父親にそっくりな自分の拳を見て、父親にも守られ支えられていると感じます。
「夫婦の愛」には、経営判断を誤り資金が底をつき、人が離れたときに救われました。
倫理の実践の中に、「妻の美点100」があります。どん底にいた私は、妻へ誕生日の贈り物を用意できず、1日ひとつ書き留めていた妻の良い点を清書し手渡しました。
受け取った妻の顔は和らぎ、「最初は何もなかったんだから。もし会社がなくなったら、故郷に帰って一緒に暮らそう」と言ってくれました。飛び上がるほど嬉しかったです。
夫婦の愛こそ一番。大切なことを見失っていたと大いに反省し、夫婦で力を合わせたら、絶対絶命の状況は好転していきました。
倫理法人会で学んだことを経営にどのように生かしているか
心の乱れが苦難に繋がると学んでからは、創業時の思いを始め、生きる姿勢を次世代に伝えたいと考えるようになりました。
オオツカのスタッフへは、「原点に戻り、シンプルに明るい職場を作ろうよ」と話しています。
家に帰れば、みな父親や母親、娘、息子、孫の立場になる。あなたは家族にとって大切な人。仲間もその家族にとって大切な人です。
大切な人たちの集まりだからこそ、「1日終わってよかったね。明日もよろしくね」とお互いを労う明るい職場にしたい。倫理法人会で学ぶ「明朗・愛和・喜働」を仕事を通してみんなで磨いています。
それを象徴する出来事が、コロナ感染時にありました。恐れていた感染が施設内で起きたとき、感染を免れたスタッフは総出でご利用者様の介護に当たってくれたのです。
施設長から、「みんなで頑張るので、社長のビデオメッセージをください」と言われ、言葉に詰まりながら撮影しました。
看護師の1人から、「社長ありがとうございます。この職場で働けるのが幸せです」と書かれた手紙をいただき、翌日施設に飛んで行きました。
白い防護服を着たスタッフは、ひと部屋ごとに新たな防護服へ着替えます。着脱だけでも大変な中、感染の恐怖と戦い命をかけて働く姿を目にしました。
この経験からも、人を大切にし敬う心を経営に生かしています。
これから挑戦したいこと
これから挑戦したいことは、後輩の育成です。経営危機に陥り、どん底だったとき、救ってくれたのは倫理法人会の仲間でした。
モーニングセミナーに顔を出せずにいた頃、「大塚さん、たまには来たらどうですか」「夜の会なら来れますか」と声をかけ続けてくれました。
断りきれず出席した会で講師から、「みなさん朝起きはできていますか」と問われました。
倫理法人会で「朝起き」とは、喜んで起きることを意味します。できていないことに気づいた私は、倫理をあらためて学び、仲間に助けられながら再起しました。
9月に会長へ就任予定ですが、至らないことが多く、様々な失敗を経た経営者だからこそ伝えられることがあると感じています。
「倫理を学び実践を重ねて自分を磨けば、親子関係や夫婦仲は良くなるよ」「すると明るい心で苦難に立ち向かえるようになるから不思議です」「だから何があっても大丈夫」と伝えたいですね。
「倫理ってすごいね!優しいね!何があっても人生っていいものですね」そう言ってくれる後輩を育てることが私の使命です。
◎企業概要
・社名:株式会社オオツカ
・本社所在地:〒463-0072 愛知県名古屋市守山区金屋2丁目186
・TEL:052-791-1903
・FAX:052-791-1907
・設立:1996年1月12日
・代表者:代表取締役社長 大塚 祥吉
・資本金:4,000万円・事業内容:介護サービス
・HP:https://otuka-kaigo.co.jp/
◎プロフィール
大塚祥吉
飲食業を経営後、40歳で介護業界へ飛び込み「リフトタクシーオオツカ」を開業。創業時から「させて頂けるだけでありがい」を信条に、住宅型有料老人ホームやデイサービスセンター、訪問介護、居宅介護支援など事業を拡大。設立28年目となる現在も、ライフワークとして介護の現場を率いる。