株式会社シー・シー・アイが「パーパスエンゲージメント」を高めるセミナーを開催!
社員のメンタルダウンと離職者に悩む企業が増加している昨今、社員一人ひとりのエンゲージメント向上が不可避の経営課題となっています。
ただ、ビジョンの揃った強い組織を実現するには、個人のエンゲージメント向上だけでなく、組織開発本来の強みである「組織内の間主観(かんしゅかん:主観と主観の違いを話し合い、統合していくプロセス)」の強化も不可欠です。
株式会社シー・シー・アイ(以下、CCI)は2月13日、「『パーパスエンゲージメント』を高めるためのセミナー -キャリアコンサルティングと組織開発をワンストップで行う意味―」と題して、個人のエンゲージメント向上と強い組織づくりを同時に実現するための重要なポイントを解説するオンラインセミナーを開催しました。
登壇者は、CCIでキャリアコンサルティングチームリーダーを務める仲村賢氏と、同社の代表取締役社長の平尾貴治氏。
キャリアコンサルティング技能士1級及び公認心理師の資格を有する仲村氏と組織開発コンサルタントの平尾氏が、パーパスエンゲージメントを高める方法を個人と組織の両面から紐解きます。
セミナーではショートセッションも行われ、現場の声を交えつつ、「企業と個人の価値向上」について討議しました。
〈登壇者〉
仲村 賢
株式会社シー・シー・アイ キャリアコンサルティングチームリーダー
キャリアコンサルティング技能士1級、公認心理師
平尾 貴治
株式会社シー・シー・アイ 代表取締役社長
組織開発コンサルタント/ODNJ(ODネットワークジャパン)会員
ドラッカー学会会員/社会保険労務士(社労士ダイバーシティー研究会)
いま企業でこんなことが起きている
日本はやる気のない社員であふれている
CCIの平尾貴治さんは冒頭、組織開発に取り組むなかで企業から寄せられたこんな悩みを紹介しました。
- 変革戦略のスピードアップが進まない。
- 離職者とメンタルダウンが止まらない。
- 優秀な部下ほど組織に見切りをつけてしまう。
- 組織構造は変えたが組織内の「意識枠組みの変化(パラダイムシフト)」が起こらない。
- 管理職が個人の思い込みでマネジメントしている。
総合すると、「パーパスエンゲージメント」つまり組織目的へのコミットメントが低下しているという悩みです。
2023年1月23日付の日経新聞には、転職・就職情報プラットフォーム上に寄せられた上場企業3399社の評価と口コミの分析結果についての記事が掲載されていました。
評価上位5%の会社の口コミには、「徹底」「バリュー」「ミッション」「前向き」「支援」「自由闊達」「支援」といった「共感」を感じさせるワードが多く、逆に下位5%の会社の口コミには、「イエスマン」「疲弊」「機嫌」「昭和」「ノルマ」「ワンマン」など「旧弊」を感じさせるワードが多かったそうです。
この対比から連想するのが、社員が成果を出し続けるための3要素「組織理解、貢献実感、キャリア成長」です。
「組織理解」は、自身の属する組織にどのような価値があるのか、組織の仕組みや風土も含め理解していること。
「貢献実感」は、自身が所属する組織に対して意味のある貢献ができている実感。「キャリア成長」は、組織の出す価値に貢献することで自分自身も成長できることです。
3要素が満たされていれば、働く個人の貢献感も組織のパフォーマンスも上がります。逆に3要素が欠如していると、社員は後述する「学習性無力感」に陥ります。
なかには「ビジネスなのだから『従業員満足』なんて甘いことをいうな」という声もあるかもしれません。しかし、従業員のエンゲージメントスコア(ES)と営業利益率との間、ESと労働生産性の間には、相関性があることが分かっています。
日本には、やる気のない社員があふれていることを示すデータも出ています。
2017年、米国のギャラップ社が世界各国の企業を対象に従業員のエンゲージメントを調査したところ、「熱意あふれる社員はわずか6%」という世界最下位レベル(139か国中132位)の結果が明かされました。ちなみに米国は32%、世界平均は13%です。
冒頭で紹介した「企業から寄せられた悩み」に立ち返ると、悩みを抱える企業は「個人のパーパス」と「組織のパーパス」の明確化ができていない状態です。
そして、その両輪に対するエンゲージメントがないため、「組織理解、貢献実感、キャリア成長」の3要素が薄らいでいます。その結果、社員の「学習性無力感」があふれているのが、日本の現状です。
企業に必要な「パーパスエンゲージメント」
では、今回のテーマ「パーパスエンゲージメント」とは何を意味するのでしょうか。当社は、「エンゲージメント」と「パーパスエンゲージメント」を、それぞれ次のように解釈しています。
エンゲージメントは、社員が組織や自身の人生に対して持つ思い入れやコミットメントであり、従業員と企業が一体となって成長し合うイメージです。
重要な点は、「(下から上に対して)忠誠心を持つ」という意味合いでの“ロイヤリティ”とは異なるということです。
一昔前は忠誠心が重んじられていましたが、いま求められるのは、対等な立場で思い入れを持つエンゲージメントなのです。
そして、パーパスエンゲージメントとは、組織として実現したいことや価値が、個人のそれと重なっている状態を表します。
また、パーパスエンゲージメントの軸は、「外圧」の反意語である「内在的価値」にあるという点も、押さえておきましょう。
企業が抱える問題のなかには、業績や革新に関する「経営面の問題」と、「離職者やメンタルダウンが多い」などの「人事面の問題」がありますが、経営面(組織のパーパス)の問題も人事面(個人のパーパス)の問題も原因は同じです。
どちらも、エンゲージメントの欠如によって発生しています。
ただ、「上からの変化」だけでエンゲージメントを高めようとすると、下は変化を疑います。一方、「下からの変化」だけでアプローチすると、上は継続を試そうとします。
したがって、エンゲージメントを高める際には、「両面アプローチ(個人と組織両方に対して働きかける)」と「時間差アプローチ(一度で終わらせないこと)」が重要になるのです。
個人のパーパスを明確にして、エンゲージメントを高める
まず、「両面アプローチ」のうち個人面のアプローチについて、仲村賢さんが解説しました。
仲村さんは、約13年にわたり、企業分野からメンタル分野、学生支援分野まで、幅広い分野で4,000人以上の相談に対応してきた実績があります。
自身もかつてメンタルダウンを経験し、退職後、公認心理師と1級キャリアコンサルティング技能士の国家資格を取得した経緯があります。
仲村さんはまず、相談現場で得られた、ある「気付き」を紹介しました。
相談現場からみたメンタルヘルス・離職についての気付き
企業で働く方々の相談を受けるなかで、メンタルダウンは必ずしも個人の問題ではなく、仕事との向き合い方や人間関係といった「関係性」から発生しているようだと分かってきました。
例えば、こんなケースがありました。
〈事例1〉
不眠症といった睡眠障害があり、認知症のような言動と嚙み合わないコミュニケーションが見られる相談者。症状が緩和した後に原因を探っていくと、次のような特徴が見えてきました。
- 自分で自分を否定している。
- 遅れや失敗を取り戻そうと頑張り、空回る。
- 自分を責める。
これらの特徴は、見方によっては「頑張る人」の特徴でもあります。
ただ、その頑張りが、この環境に噛み合いませんでした。「心の病気になる人」と「成果を出す人」の違いは、環境に噛み合うかどうかの違いなのかもしれません。
この仮説を裏付ける、次のようなケースもありました。
〈事例2〉
大手通信会社に勤務するAさんは、仕事の進め方が寛容な上司のもとで働いていましたが、あるとき上司が異動。
新しい上司は、仕事のやり方にこだわるB上司でした。B上司は、違う進め方をするAさんを叱責し「無能」呼ばわりします。
Aさんは心の病気になり、休職することに。1年後、他部署にて復職し、リハビリ出勤を経て通常出勤するようになったAさん。新しい上司との相性も良く、業績を伸ばします。
そしてなんと、休職の翌々年、社長賞を受賞したのです。
「心の病気」と「個人の能力」に、果たして関連はあるのでしょうか。
大手企業で社長賞を受賞するほど能力の高い方でも、やはり病気になる。ということは、個人の能力のせいで病気になるのではなく、個人が環境によって潰されてしまっているだけだといえそうです。
退職相談を経て、離職を留まったケースもありました。
〈事例3〉
大手不動産販売の会社で課長をしているCさんは、退職を考えて相談に来ました。理由を聞くと、次のように話します。
- 業績が厳しい状況で、部長からの厳しい要求がある。
- 改善の手立てはなく、部下もついてきてくれないと感じている。
- 自分に課長は向いていないと落ち込む。
そこで、一緒に「意味の発見」に取り組みました。働く人にとって、自分がその組織に存在する「意味」は重要です。この相談者は当初、「自分には意味がない」と感じていました。
そこで、「なぜ課長になれたのでしょうか」、「部下から感謝された出来事はありましたか」など、強みに気付けるような問いを投げかけるうちに、徐々に「意味」を思い出してきました。
また、「なぜ課長職を外されていないと思いますか」、「もし部長の要求に応えられるとしたら、どんなことができますか」など、存在意義も共に探っていきました。
その結果、思い込みを手放し、「まだまだ自分にはできることがあるかもしれない。もう一度頑張ろう」と、離職を留まる決断をされました。
課長になって「辞めたい」と考えるようになったこのケースを見ても、単に福利厚生や給料といった待遇だけでは、離職を阻止できないことが分かります。必要なのは「存在意義」なのです。
メンタルヘルス・離職が企業に与える甚大な影響
では、社員が存在意義を感じられないと、企業にどんなことが起きるのでしょう。
まず、休職者が発生すると周囲の従業員の負担が増え、生産性が低下します。例えば年収600万円の30代社員が半年休職した場合、周囲の従業員の残業代は422万円増加するといわれています。
次に、退職者が発生すると、人材採用コストをはじめとする人員補充コストがかかります。例えば年収1000万円の管理職が退職した場合、人員補充コストは350万円にのぼります。
採用コストや教育コストだけでも、概ね退職時の年収程度の費用がかかるといわれていますが、採用コスト、教育コスト、退職金などの直接的なコストに加えて、間接的な悪影響も甚大です。
周囲に与える悪影響、組織に与える悪影響が、株価にも数字として表れています。
個人のパーパスが下がる要因、「学習性無力感」を生む環境。
次に、個人のパーパスが下がる要因について説明します。
そもそも「個人のパーパス」とは何でしょう。「パーパス」とは一般的に「目的」とか「存在意義」という意味があります。
そして「個人のパーパス」とは、「個人が存在意義を感じながら、生活(仕事・日常)を過ごせる状態」です。
したがって、社員が「個人のパーパス」を感じられている状態というのは、職場において「自分はここに居ていい、ここに居る意味がある」と感じられている状態を指します。
また、人によって存在意義を感じる瞬間が異なるという点も重要です。
「責任ある仕事を任され、成果を出す」ことに存在意義を感じる人もいれば、「人を支え、チームで働ける良好な人間関係」のなかに存在意義を見い出す人もいます。
よって、人それぞれの特徴や特性を考慮する必要があります。
ただ、共通するのは、人は自分の考えや行動が認知され、フィードバックがあるときに存在意義を実感できるという点です。
では日本で何が起きているのか。それを知るには、マーティン・セリグマン博士が提唱する「学習性無力感(学習性無気力)」というキーワードがヒントになります。
学習性無力感とは、長期間にわたりストレスの回避が困難な環境におかれた人や動物は、その状況から逃れる努力すら行わなくなる現象のことです。
ここで、学習性無力感が悪化する関わり方をいくつか紹介します。「自分の会社で起きていないだろうか」と振り返ってみてください。
〈学習性無力感が悪化する関わり方〉
- 「余計なことを考えるな」と言われる。
- 「意見を出せ」と言われて意見を出すと「使えない意見を出すな」と言われる。
- 「質問して良い」と言われて質問すると否定される。
- 「新しいアイデアを出せ」と言われてアイデアを出すと、成功する根拠を求められる。
- 新規開拓しても、成果が出なければ否定される(新規行動の否定と既存行動の賞賛)。
- 打ち合わせなどから除外し、「遠ざけられている感覚」を与えられ続ける。
- 行動や提案を、根拠を示さず否定される(納得感の欠如)。
こうした関わり方をされた本人はもちろんのこと、その様子を見た周囲の先輩や同僚も「この職場では何もしないことが正解なんだ」と学んでしまいます。
その結果が、「熱意のない職場」です。先ほどのデータでは、日本で「熱意のある社員は6%」でした。
94%は熱意がない。心理学の世界では、95%まで証明された現象は法則になります。これはもはや、個人の問題を超えた環境の問題です。
主な改善サービスとその課題
では、この環境を改善するためにどのような方法があるのでしょうか。主な改善サービスとそれぞれの課題を紹介します。
〈ストレスチェック制度〉
課題:アンケート記入だけなので操作可能。高ストレス者への「残業を減らすアドバイス」に終始し、パーパスを高めたり学習性無力感を解消したりといった対策は講じられない。
〈コミュニケーション・管理系のセミナーや研修〉
課題:各スキルの習得が重視されるだけで、「大切にされている感覚」は醸成されない。学習性無力感に対するアプローチはできない。
〈心理カウンセリング〉
課題:本音を語ることでメンタル改善はできるが、エンゲージメントにはつながらない。むしろ「個人の生き方」にフォーカスすることで、仕事以外に意味を見い出し、職場を諦める可能性がある。
〈(一般的な)キャリアコンサルティング〉
課題:本人の望むキャリアを実現することを考えたり、過去の振り返りによって自己効力感を高めたりすることによって、個人のキャリアを高めることはできる。
しかし、対象はあくまでも個人なので、エンゲージメントを高め、学習性無力感を解消するための環境の改善とは切り離されている。
(※シー・シー・アイキャリアコンサルタントチームは、組織環境改善の考え方も含めた学びを50時間以上受講し試験にも合格した資格者のみで構成されています)
〈従業員支援プログラム(EAP)〉
課題:心理カウンセリングがメインなので、〈心理カウンセリング〉と同様の課題がある。
〈コーチング、自己啓発〉
課題:個人の望みに完結し、学習性無力感からの脱却やエンゲージメント向上には触れない。個人にアプローチするため、環境改善にもつながらない。
これらのサービスでは、学習性無力感を解消しエンゲージメントを高めるための環境改善は期待できません。
学習性無力感から脱するには、「自らの行動や存在に意味がある」、「自らの意見が尊重されている」と実感できること、強みを発揮できる適切なフィードバックがもらえること、忍耐や無関心が最善ではないと実感できること、そして自分たちの組織を信頼できると実感できることが必要です。
無気力に陥った社員を学習性無力感から脱却させるには、「行動」と「実感」が不可欠なのです。
まずは「ささいな行動」を促し、その行動をきっかけに「自分の行動は意味のあるものだ」と「実感」できるようなプログラムが有効です。
〈まとめ〉
- くの日本企業で学習性無力感が蔓延している。
- エンゲージメントを低める要因は、従業員の無気力を作り出す環境が存在していること。
- 改善には「学習性無力感からの脱却」が必要だが、ストレスチェック、研修、カウンセリングなどでは限界がある。
後編では、CCI組織開発コンサルタントの平尾さんが、「両面アプローチ」のうち組織面のアプローチについて解説します。
「組織開発とキャリアコンサルティングの融合」についても深掘りします。現場の声を交えたショートセッションの模様もレポートしていますので、ぜひお読みください。
後編はこちらから読むことができます。