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第21回)日本におけるGX政策の現状と今後

サステナブルな取り組み SDGsの取り組み
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フリーランス 丸山篤

2050年のカーボンニュートラルに向け、企業で重要視されているのが、「GX」(グリーン・トランスフォーメーション)だ。GXは化石燃料をできるだけ使わず、再生可能エネルギーなどのクリーンなエネルギーを活用していくための変革やその実現に向けた活動のことだ。

そんな中、2月28日~3月1日に東京ビックサイト(東京都江東区)で「第4回 脱炭素経営 EXPO 春」が開催され、経済産業省 資源エネルギー庁 省エネルギー・新エネルギー部長の井上博雄氏が、日本におけるGX政策の現状と今後の見通しについて説明した。

カーボンニュートラルへの道筋

カーボンニュートラルへの道筋(政策の方向性)としては、全部門を通じた省エネの徹底、電力の脱炭素化、産業・民生・運輸(非電力)部門の電化を推進していくという。

電力の脱炭素化においては、再生可能エネルギーを最大限導入し、原子力は可能な限り依存度を低減しつつ、安全最優先で再稼働を行う。また、水素、アンモニア、CCUS(CO2を分離回収・有効利用・貯留する技術)/カーボンリサイクルなどの新たな選択肢を追求する。

非電力部門の電化推進においては、水素化やCO2回収で脱炭素化を目指すほか、脱炭素化が困難な領域では、DACCS(大気中のCO2を直接回収し貯留する技術)やBECCS(バイオマスエネルギー利用時に発生したCO2を回収・貯留する技術)など、炭素除去技術による対応も求められるとしている。

GX推進法で150兆円の投資

講演の中で井上氏は、GXを進めていく上で重要な法律は、昨年5月に成立した「GX推進法」(脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律)だと語った。

「今後10年間で、日本の中だけで150兆円を超える官民のGX投資を行っていく必要があり、そのために、政府としても世界初のトランジションボンド(脱炭素に向けたトランジションのための債権)を国として発行して、20兆円を準備します。その20兆円で頑張る企業を支援します。それを呼び水に、官民に合わせて150兆円(の投資)をやろうじゃないかという法律です」(井上氏)

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講演する経済産業省 資源エネルギー庁 省エネルギー・新エネルギー部長井上博雄氏

トランジションボンドの20兆円は、水素・アンモニアの需要拡大や再生可能エネルギーなどの新技術の研究開発に約6~8兆円。製造業の省エネ・原/燃料転換、抜本的な省エネを実現する全国規模の国内需要対策、新技術の研究開発など、産業構造転換・抜本的な省エネの推進に約9~12兆円。資源循環・炭素固定技術などの新技術の研究開発・社会実装で約2~4兆円を支出する計画だ。

これらの支援により、「成長志向型のカーボンプライシングの導入」を目指していく。具体的には、GXに先行して取り組む事業者にインセンティブが付与される仕組みを創設しようとしている。

「カーボンプライシング」とは、企業などが排出するCO2(カーボン、炭素)に価格を付け、それによって排出者の行動を変化させるために導入する政策手法だ。(出典:資源エネルギー庁Web

「あまりに過剰に経済に負荷をかけると、イノベーションを阻害する恐れがあるという考え方を持っています。20兆円は国際競争力やイノベーションに悪影響がないように、これから制度設計を深めて、来年の通常国会に必要な関連法案を提出するという検討状況になっています。20兆円でグリーンに向けた取組を後押しすると同時に、5年~10年後に新たに入ってくるカーボンに対する負荷制度に対して、今、投資をやっていただくと将来の負担が減るという形になります」(井上氏)

水素社会の実現に向けて

井上氏は講演の中で、水素社会の実現についても触れた。カーボンニュートラルの実現には、再生エネルギーへの転換とともに、CO2を排出しないエネルギーとして水素(アンモニア、合成メタン、合成燃料含む)の活用が期待されている。そのため、今後は水素の利用が急激に増えることが予想され、日本では、2030年に300万トン、2050年に2,000万トンを供給目標にしているが、業界団体からは、2050年の潜在需要は約7,000万トンであるとの見通しも出ているという。

日本は水素基本戦略を2017年12月に策定。2020年のカーボンニュートラル宣言を受け、エネルギー基本計画において、初めて1%程度を水素・アンモニアとすることを目指している。そして、 2023年には6年ぶりに水素基本戦略を改定。技術の確立を主としたものから、商用段階を見据え、産業戦略と保安戦略を新たに位置づけだという。

産業戦略では、「我が国水素コア技術が国内外の水素ビジネスで活用される社会」の実現を目指している。これは、どちらかというとこれまで日本は「技術で勝って、ビジネスで負ける」といった状況にあったため、「技術で勝って、ビジネスでも勝つ」となるように、早期の量産化・産業化を図るほか、水素コア技術(燃料電池・水電解・発電・輸送・部素材等)が活用される世界を目指す。政府は2040年に現状の6倍の1200万トンの供給目標を掲げ、15年間で15兆円の投資計画を検討中だという。この投資では、「水電解装置」、「脱炭素型発電」「燃料電池」、「水素燃料船」など9つの技術を「戦略分野」と位置づけ、重点的に支援する。

再生可能エネルギー政策

再生可能エネルギーでは、次世代ネットワークの構築、供給の波への調整力の確保、イノベーションの加速をやりながら、2030年に電源構成の再生エネルギー比率を36-38%にすることを目標にしている。

次世代ネットワークの構築では、例えば北海道から東京など、送電網のアップグレートを行う予定で、北海道から本州への海底直流送電を整備(200万kW新設(2030年度)する。

調整力については、EVに加えて定置用蓄電池の導入加速。イノベーションの加速ではペロブスカイト太陽電池や洋上風力に期待しているという。

ペロブスカイト太陽電池は、フィルム型であれば軽くて折り曲げられるため、ビルの壁面にも付けられる。また、材料がヨウ素で、これは日本が世界第2の産出国であるため、国産物材で作れるメリットがある。

「こうしたテクノロジーをやっていくと、もう1回太陽光でもいろいろなイノベーションが生まれるのではないかと思っています」(井上氏)

洋上風力は、今までは領海までしか利用できなかったが、EEZ(排他的経済水域)までに広げるための法案を準備しているという。

再生可能エネルギーでは、太陽光や洋上風力に対する期待が高いが、耐用年数を過ぎた太陽光パネルの廃棄という新たな問題も出てきている。2022年度に21.7%だった再生可能エネルギーの電源比率を、2030年度に36%以上にするためには、やはり、ペロブスカイト太陽電池や水素・アンモニアの活用など、新たな発電技術の導入が必要になるだろう。

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丸山 篤 (フリーランス)

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大学卒業後、SI企業のSEを経て、1996年よりマイナビ。マイナビでは、PC月刊誌、書籍、マイナビニュースで編集を担当。マイナビニュースではエンタープライズチャンネル編集長、マーケティングチャンネル編集長、企業IT編集長、IT編集部長を務める。2023年4月にマイナビを退職し、フリー。現在、ASCII.jp、マイナビ TECH+などの記事を執筆。

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