持続可能な開発目標(SDGs)の8「働きがいも、経済成長も」では、2030年までに、障がい者を含む全ての男女が、生産的で働きがいのある人間らしい仕事と、同一労働同一賃金を達成することが目標とされています。
社会全体で障がいを持つ方の雇用を見直す動きが高まっている中、「障がいを持った⽅が経済的に⾃⽴できていない社会状況を変⾰したい」という思いで、障がい者と企業をつなぐ仲介事業を行っているのが、金沢QOL支援センター株式会社の代表取締役、岩下琢也さんです。
今回は実際に金沢QOL支援センターのサービスを体験した由屋るる犀々(ゆうやるるさいさい)の藤橋由希子さんに障がい者の方々と一緒に働いた感想や、金沢QOL支援センターへの今後の期待などを伺いました。
金沢の流々を感じる旅館、由屋るる犀々
-はじめに、由屋るる犀々について教えてください。
由屋るる犀々は、金沢市は清川町で営む旅館です。清川という地名通り綺麗な犀川のほとりに建つ当宿では、館内どこにいても川の流れを感じることができます。金沢の有名観光地や中心街にも近いですが、宿の周りはとても静かなので日常から切り離された特別な時間を過ごしていただける宿となっています。
-由屋るる犀々について金沢QOL支援センターの岩下さんから以下のようなコメントを頂いているのでご紹介させてください。
岩下さん)由屋るる犀々さんには、2020年3月、4月のコロナ禍の大変な時期から弊社施設の障がい者さんたちが日々働かせていただいて、感謝の気持ちで一杯です。女将の藤橋さんは、もともと福祉への思いがあって、コロナ禍で時間もある今だからやってみようと快く受けてくださいました。ベッドメイキングや部屋の掃除など旅館のお仕事を障がい者さんたちが担当させていただいています。旅館側の方でも、障がい者さんのマンパワーをいかに戦力としてシフトに貢献してもらえるかを考えてくれているので、スムーズに障がい者さんの力が発揮できていてとても感謝しています。
金沢QOL支援センターの記事はこちらからも読むことができます!
障がいを持つ人たちだから提供できる価値
-金沢QOL支援センターの岩下さんからは上記のメッセージに加えて、「障がいを持った方たちが旅館 由屋るる犀々で働かせていただくようになって、どのような価値を提供できていますか?」というご質問も預かっています。
障がいを持った方たちが発揮してくれた価値は本当に素晴らしいですよ。まず、仕事が非常に丁寧なんです。コロナで休館の間、私たちは「ピカピカ大作戦」という旅館中を綺麗にするプロジェクトを立ち上げて、障がい者の方と一緒に大掃除を始めました。
庭園の草むしりや床のタイル磨きといった作業は障がい者の方は驚くほど上手なんですよ。これくらいまでやったら十分というレベルを超えて、徹底的にやってくださるのです。あまりの綺麗さに感動した従業員が、撮った写真を私にわざわざ見せにきたくらい(笑)。私たちも普段から心がけてきたことですが、「由屋るる犀々史上ここまで草むしりが綺麗にできたことはない!」というほどピカピカにしてもらいました。
作業を覚えるのに時間がかかったり、作業ペースが少し遅かったりする点を差し引いても、隅々まで磨き上げることで、これまでもご評価いただいてきた、旅館にとって大切な「清潔感」という価値にさらに磨きをかけてくださったと思います。
そして障がい者の方が発揮してくれた価値がもう一つあります。それは「刺激」です。
皆さん窓拭きやタイル磨きなどの単純な仕事を本当に楽しそうに一生懸命してくれるんですよ。「ここがこんなに綺麗になった!」と報告してくれて、「凄いね、ピカピカやん」と褒めるとニコニコと本当に嬉しそうなんです。
私を含めその様子を見ていた従業員みんなが、その場に流れる優しい空気にとても癒されました。しかもそれだけでなく、あれだけ楽しく、純粋に、一生懸命働く姿に刺激を受けて、従業員からも「私たちも負けていられないね!」 と励みになっていたようです。
-障がいを持つ方の楽しく一生懸命に働く姿勢が良い刺激になったのですね。
そうです。皆さん本当に頑張り屋さんなんですよ。
ベッドメイクを教える際に、その場ではマットレスの角まで綺麗にシーツをかけられなかったのに、次に来た時は前回より上手くなっていたので何でかな? と思っていたら、「家で練習した」というんですよ。家は布団なので練習しづらかったから、わざわざティッシュを折ってマットレスにみたてて練習したと。
別の子は、入居しているグループホームから通っているんですけど、ホームの清掃員さんに、「私も清掃の仕事をすることになったから、トイレ掃除を手伝わせてほしい」と言って、教えてもらっていたらしいんです。
そうした自主練の成果を見せてくれようと、「常務!」と私を呼ぶ姿がもう愛しくて、可愛らしくて…。一つひとつの行動がほっこりさせてくれることばかりで、彼らのことが大好きになっちゃいました。
彼らと一緒に働いていた期間は本当に嬉しいことばかりだったんです。こんな素敵な機会をくれた金沢QOL支援センターさんには本当に感謝しています。コロナの状況が落ち着きましたら、すぐにでもまたお仕事をお願いできればと思っています。
障がいを持つ人と一緒に働くことを当たり前に
-金沢QOL支援センターと取引を始めたきっかけについて教えてください。藤橋さんはもともと福祉分野に関心があったと聞いております。
甥に障がいがあるので、福祉分野には以前から興味を持っていました。2017年くらいから、知り合いの女子大学生が立ち上げた福祉関連の学生団体のサポートを個人的にしていたのですが、彼女が卒業後の就職先として選んだのが金沢QOL支援センターだったんです。
挨拶に来てくれた彼女から、金沢QOL支援センターが障がいを持つ人の就職にむけた支援・職業リハビリテーションを行っていると聞いて、私も何かできることがあるのでは?と思い、紹介してもらったのが取引を始めたきっかけです。
2020年3月から障がい者の方の受け入れを行いました。
-ちょうど新型コロナウイルスが広まっていた時期ですね。
そう、未知のウイルスの出現に旅館としてどう対応したらよいのかと悩んでいた頃でした。結局、うちは従業員とお客さまを守るために4月23日から7月20日まで完全休館したのですが、その期間ただ休んでいるのではもったいないので、先ほども申し上げた通り、「ピカピカ大作戦」を障がい者の方と一緒に行うところから始めたんです。
一時営業再開時も含めると20代後半から60代後半まで様々な年齢層の男女を合計で数十名程度受け入れました。先が見えない不安の中、いつも一生懸命な彼らの存在は本当に励みになりました。
-障がい者の方と働くことについて懸念点などはありましたか?
以前にキャリア教育支援の一環として、支援学級の生徒を職場体験として受け入れた経験があったので、障がいを持つ人と働くことは全く未知の領域ではありませんでした。
といっても、大人を受け入れたことはないので不安に思うこともあったのですが、金沢QOL支援センターでは指導員の方々が付き添ってくれるという話だったので、挑戦してみようと思えました。
-金沢QOL支援センターの指導員さんの存在は大きかったですか?
そうですね。指導員の皆さんがとても優秀な方ばかりで非常に助かりました。どうすれば障がい者の方たちが効率的に作業を覚え、ミスのないように実施できるかを一生懸命考えてくれるんです。チェックリストを作成したり、当番制にしたり、写真でわかりやすく説明したりと様々な工夫をされていました。
指導も上手で、特に言葉のチョイスがさすが! と感じました。「綺麗にしよう」とやることをただ伝えるのではなく、「こっちの方がピカピカになっているよね、きちんとしてかっこいいよね」とわかりやすく伝えるんです。
優しく丁寧に指導する一方で、妥協を許さない厳しさもきちんと持っていることも印象的でした。私たちが、「ここまででいいんじゃない?」と言っても、「いいえ、ピカピカにするって自分で決めたんだからちゃんとやろう」と喝を入れる場面もありましたね。そういった指導員さんと障がい者さんとの関わりから学ぶこともたくさんあったんです。
-実際に障がい者さんの受け入れを行った経験を踏まえ、金沢QOL支援センターへ期待することを教えてください。
何度も言いますが、紹介してくださった方は素晴らしい人たちばかりでした。ひたむきで健気で、楽しんで仕事をする姿勢が本当に良い刺激になったんです。ですから金沢QOL支援センターさんには、あんなに素晴らしい方々が社会で活躍できる場やチャンスをもっとつくってほしいと思います。
実際に受け入れてみて、旅館やホテルの仕事内容は障がいを持つ方でもできることが多いと感じました。私は同じ業界の人たちに、障がいを持つ方たちができる仕事の領域やそのクオリティの高さについてできるだけお伝えするようにしています。私も頑張りますので、障がいを持つ方たちと一緒に働くことが早く当たり前になる世界にしていただきたいです。
金沢QOL支援センターは、ずっと挑戦したかったけど方法がわからないでいた領域に飛び込むチャンスを与えてくれた存在で、本当に感謝しています。
<企業情報>
由屋るる犀々