2021年1月、2度目の緊急事態宣言が政府によって発出され、各企業は対応を迫られています。働き方改革としてテレワークが推奨されている中で、変わらず毎日出社しているサラリーマンが多いのも現状です。そんなコロナ禍において、精神的な悲鳴をあげている方は少なくありません。
精神科病院で作業療法士として働き、地域医療の課題に気付いて起業をされた金沢QOL支援センター株式会社の代表取締役を務める岩下琢也さんに、起業までの経緯とステークホルダーに対するお話をお伺いました。
障がい者が活躍できない社会の方が問題である
起業を決意したある患者さんとの出会い
-金沢QOL支援センターは、どのような経緯で起業されたのですか。
私はもともと精神科の病院で作業療法士として働いていました。そこで出会った障がい者さんとの出会いがきっかけです。その障がい者さんは、40代の統合失調症の患者さんで、幻聴や被害妄想、引きこもり、コミュニケーション障害のある患者さんでした。
患者さんの活動性を向上させたいという思いで、色んな治療法を行っていった中で、農業を治療の一環に取り入れると、少しずつ活動性が上がっていったんです。
実はこの患者さんが入院したのは20年前の20代のとき。20年間入院というのは、精神科医療では珍しくなく、入院している60代の患者さんは、実に40年間も入院生活を送っている方もおられました。
障がいがあっても退院をして地域に帰り活躍できるかというのは、その地域のサポートや支援が整っていることが大前提。しかし生活環境が整っておらず退院できない方、つまり“社会的入院”せざるを得ない患者さんとたくさん出会いました。ここが業界の課題だなと感じたんです。
患者さんの言葉がすごく嬉しかった反面、憤りを感じた
このままこの病院で働き続けても、患者さんを本当の意味で幸せにしてあげられないと感じ、この病院を2年勤めて辞めることにしました。
病院を辞める時にその障がい者さんに挨拶をしたら、こんなことを言われたんです。
「岩下さんがこの病院に来てくれて、いろんなことをしてくれて、入院生活が楽しくなりました」
この言葉を聞いて私はすごく嬉しかった反面、同時に憤りを感じました。私は、この患者さんの入院生活を楽しくしたかったわけではなかったんです。もっと可能性のある患者さんだったので、次の人生というか、地域でしっかり生活して社会の一員として自立させてあげたかった。
障がい者が障がいを持っているから問題だという考え方ではなくて、“障がい者が活躍できない社会”の方が問題だなと強く感じました。全ての人が自立して幸せに生活していける社会にしたい、そのために自分が理想とする治療・サービスを地域で展開したい。
こういう思いで起業しようと決意しました。
障害者も高齢者もすべての人が自立して幸せに生活できる社会を作りたい
-金沢QOL支援センターが設立当初に立ち上げた事業内容について教えて下さい。
最初に立ち上げたサービスは「訪問看護」です。
入院していた患者さんたちの最初のハードルになるのは“家に帰ること”。そして、家に帰るために一番必要なことは、“家でも必要な医療を受けれるということ”です。
そうして行き着いたのが、看護師や理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が自宅に訪問して医療を提供する「訪問看護」でした。
また、私自身が幼少期に先天性の心室中隔欠損症や小児喘息で何度か入院をしていて、1日でも早く退院して家に帰りたかったという思い出もあり、まさに「訪問看護」は病院で出会った患者さんへの思いと、自分の幼少期の時の思いから創りたいサービスでした。