
地域社会のインフラ維持が深刻な課題となる中、東京・台東区に本社を構えるフロンティアマーケティング株式会社が注目を集めている。同社を率いる水嶋拓代表取締役は、元・保険業界のトップセールスマンという異色の経歴を持ちながら、「日本で唯一の公共工事コンサルタント」を名乗る。
公共工事という“官製市場”の世界に、あえて中小建設会社を導こうとする同氏の挑戦は、今、全国の地方都市で次々と実績を積み上げている。
営業保険マンから「未踏領域」への転身
水嶋氏は、AIU保険会社で新規獲得保険料全国1位を達成した元トップセールスだ。だが、その華々しい実績の裏で、次第に「顧客の本質的な経営課題に保険だけでは寄与できない」という葛藤を抱いていた。
転機は、ある地方建設会社からの一本の電話だった。年商2億円の会社が、同額の公共工事を受注したいという相談だった。建設業の専門知識を持たなかった水嶋氏は、その常識の外からの視点で、「中小企業は本当に公共工事に参入できないのか?」という問いを立て、徹底的に研究を始めた。
公共工事に新規参入するという逆転の発想
2017年、フロンティアマーケティング株式会社を創業。以来、公共工事の元請参入に特化した支援を全国で展開してきた。
とりわけ注目されるのが、売上10億円未満の中小建設会社を対象にしたコンサルティングだ。「公共工事研究会」や「公共工事イノベーションフォーラム」などを通じて、制度理解・戦略構築・入札業務代行などを一貫してサポートする仕組みを確立。受注総額約40億円(2024年実績)、入札件数1,155件、落札291件という成果がそれを裏付ける。
公共工事は“攻め”の経営戦略だ
中小企業が公共工事に参入する意義は、単なる売上確保にとどまらない。自治体という公共発注者との取引実績は、金融機関や取引先への“信用力”を高める強力な証左になる。
実際に、東北への本社移転を決断した企業や、赤字覚悟で受注した1件をきっかけに連続受注へとつなげた事例など、フロンティアの支援を受けた企業は、地方インフラの担い手としての実績を着実に積んでいる。
在宅ワーカーの登用で組織変革も
また同社のもう一つの特徴は、「公共工事×在宅ワーク」の掛け算だ。入札業務に必要なのは資格や経験ではなく、PCと手順。業界の外から来た人材のほうが、マニュアル通りに運用でき、受注率が高いケースもある。
とくに女性や地方在住の人材を積極的に登用することで、企業文化そのものに好影響を与えている。現場中心だった社内にリスペクトの連鎖が生まれ、従来とは異なる形での成長を実現した企業も多い。
「公共工事研究会」の全国展開と未来構想
現在、全国で200社超が参加する「公共工事研究会」では、地域別・専門テーマ別の分科会や、参加企業間の共創の場づくりも進む。今後は、施工管理技士などの資格者体制の強化や、M&A支援、地方自治体との協働体制の確立などにも注力する構えだ。
水嶋氏は、こう語る。
「公共工事を通じて、あきらめかけていた夢にもう一度火を灯したい。これは社会を変える挑戦です」
地方の中小建設業の未来を、行政と民間、そして新しい人材の力で塗り替えようとするフロンティアマーケティングの挑戦は、単なるビジネスモデルの話ではない。社会課題をビジネスで解決する、一つのロールモデルである。