「謙虚をまとう」 一枚の服に込めた思い
東京都大田区を拠点に内装業を営む個人事業主・武江さんが、2024年に立ち上げたアパレルブランド「humility life」。その名に込めた意味は、“謙虚な人生”という生き方そのものだった。

武江さん
「私自身20代後半まで他人の注意や指摘を素直に聞く事が出来ませんでした。事あるごとに喧嘩や言い争いばかりでした。結果煙たがられる存在となり周りからみんな離れて行きました。その時は頭に血が上がっているのでどうでもよくなりますよね。でもほとぼり冷めると寂しくなるのが人間です。腹が立つ、言い負かしたくなる事、誰でもあるでしょう。
しかしそのような時こそグッと堪え謙虚に振る舞ってみてほしいのです。そこから人生は変わって行きます。そんな謙虚(humility)をこのブランドには込めてます」
第一作はTシャツとパーカー。どちらも胸元に控えめに刻まれた「humility life」の文字が印象的で、あえて目立たないデザインにしているという。
「着た人が謙虚になる、そんな願いを込めました」と武江さん。ネットで「謙虚」の英訳を調べ、「humility」という単語に出会った瞬間の高揚感が、すべての始まりだった。

当初は内装業のかたわら、構想から半年でブランドを立ち上げた。現在、販売は楽天市場を中心に展開し、humility ⅼifeとしてのオリジナルアイテムはTシャツとパーカーの2点。在庫は各100着ずつで、生産数は150着からスタート。
数字はまだ小さいながらも、ブランドの存在そのものが武江さんにとっての希望の象徴である。その他アパレルの販売もしているので是非チェックして欲しいです。
少年院からの再出発 「親に会えない」怖さを知った夜

ブランドの背景には、波乱の人生がある。武江さんは10代の頃、非行により少年院に送致された過去を持つ。2~3ヶ月家に帰らず久々に親に合うのは警察署の補導や非行のお迎えの時だった、好き勝手遊びほうけていました。社会にいる時はどうでも良かった両親しかし少年院に入ったことで初めて、親に会えない現実を突きつけられ、その存在の大きさに気づかされたという。
「留置所で2日間親に会えなかっただけで泣いてしまった。自分がこんなに弱い人間だったなんて知らなかった」と当時を振り返る。その後、少年院での集団生活では、夜中にトイレで人知れず涙を流した日々もあった。出所後、母親に「こんな自分でも迎えに来てくれますか」と手紙を書いた。母の「迎えに行くよ」という返事が、再出発の背中を押した。
出会いが変えた人生 「謙虚に生きる」ことを教えてくれた人
その後も職を転々としながら、内装業にたどり着いた武江さん。人生が本当に変わり始めたのは、内装業の“親方”との出会いだった。怒鳴ることなく、対話で若い職人たちを導くその人物に触れ、「謙虚に生きる」という姿勢を初めて知ったという。
「それまで、誰かに怒鳴られると反発していた。でも、この人は違った。ぶつかっても、最後までちゃんと話を聞いてくれた。そんな大人が世の中にいるのかと驚いた」
その出会いが、humility ⅼifeというブランドの根に流れる「謙虚」という哲学を形づくっている。服づくりは、かつての自分と同じように「やり直したい」と思っている人たちへのメッセージでもある。
武江さんは現在、4人の子どもを育てる父親でもある。家庭と仕事、そして新しいブランドの立ち上げと、日々は多忙を極める。それでも、服というかたちを通して「誰かの人生を少しでもよい方向へ導けたら」と語る。
「この服を着た人が、少しでも謙虚な気持ちで生きてくれたら。それがHumility Lifeの願いです」
かつて道を外れた少年が、人生の転換点に出会い、“謙虚”という美徳を胸に抱いて歩む再出発。その歩みは静かだが、確かな力を持って広がっていく。
