不妊治療は、晩婚化やライフスタイルの変化に伴い、近年ますます注目を集めている医療分野の一つである。しかし、治療には時間的、経済的、そして精神的な負担が伴い、多くの夫婦にとって容易な道のりではない。そうした中、大阪・心斎橋にある春木レディースクリニックは、高い妊娠率と患者に寄り添う診療方針で、多くの支持を集めている。
今回は、同クリニックの院長である春木篤医師に、不妊治療の現状とクリニックの取り組み、そして医師としての信念について話を聞いた。
増加する不妊、早期治療の重要性
現在、日本で不妊に悩む夫婦は5.5組に1組と言われている。かつては10組に1組と言われていた数字が、近年増加傾向にある背景には、晩婚化、女性の社会進出といった社会構造の変化に加え、卵管因子や子宮内膜症といった婦人科疾患の増加、男性の精子状態の悪化なども指摘されている。
春木医師は、「不妊治療は早期に開始することが重要」と語る。
「年齢を重ねるごとに妊娠率は低下しますし、治療の選択肢も狭まります。年齢だけで可能性を決めつけるのではなく、まずは相談だけでもいいので、少しでも早く専門医の門を叩いてほしい」と、春木医師は早期受診の重要性を訴える。
不妊治療の3つの方法
不妊治療には大きく分けて、タイミング法、人工授精、体外受精の3つの方法がある。
タイミング法は、超音波検査で卵胞の大きさや状態を確認し、排卵日を予測して性交渉のタイミングを指導する方法だ。自然妊娠に近い方法だが、排卵のタイミングを正確に把握することが重要となる。
人工授精は、採取した精子を調整・濃縮し、カテーテルを使って子宮内に直接注入する方法。タイミング法よりも妊娠率は高くなるが、それでも1周期あたりの妊娠率は7~8%と決して高くは無い。
体外受精は、女性の卵巣から卵子を採取し、体外で精子と受精させ、受精卵を子宮内に戻す方法。体外で受精させる方法の一つとして、顕微授精がある。顕微授精とは、顕微鏡下で1つの精子を卵子に直接注入する高度な技術だ。体外受精は、他の2つの方法に比べて妊娠率はかなり高いが、費用や身体的負担も大きくなる。
春木医師は、「どの治療法を選択するかは、患者様の年齢、不妊の原因、そして治療に対する考え方などによって異なります。それぞれのメリット・デメリットを理解した上で、ご夫婦でよく話し合って決めることが大切です」とアドバイスする。
春木レディースクリニックの強み:エビデンスとナラティブ
春木レディースクリニックの治療方針は、「エビデンス(根拠)にはじまり、ナラティブ(対話)に終わる医療」をコンセプトにしている。「100人の患者がいれば100通りの治療がある」という春木医師は、患者一人ひとりの状況、そして治療に対する想いを丁寧に聞き取り、最短距離で妊娠というゴールを目指す治療計画を立てている。
「患者様にとって何が最善なのかを常に考え、寄り添う医療を心掛けています。不妊治療は、医学的な根拠に基づいた治療はもちろん重要ですが、それ以上に患者様との信頼関係が大切だと考えています」と、春木医師は語る。
2013年5月に大阪・心斎橋で開業した同クリニックは、不妊治療専門クリニックとして、当初20名ほどだった職員が現在では100名を超える規模にまで成長した。診療エリアは約240坪を誇り、年間1600人以上の新規患者を受け入れている。1日あたりの診療数は午前午後合わせて200名前後に及ぶ。これは大阪ではトップクラスの規模であり、特に年間妊娠者数は1300人を超え(2024年実績)、全国でもトップクラスの実績を誇っている。
クリニックの強みは、高い妊娠率にある。体外受精において、全国平均が約38%と言われる中、春木レディースクリニックでは50%を超える実績を誇る。その背景には、独自のデータベースシステムに基づいた治療法の選択、卵の質を改善させるノウハウ、そして高度な顕微授精技術など、様々な工夫が凝らされている。
「私たちのクリニックでは、最新の技術とエビデンスに基づいた治療を提供することで、一人でも多くの患者様に希望を届けたいと考えています」
また、タイミング法や人工授精の妊娠率を向上させるため卵管鏡下卵管形成術(FT)といった外科的治療にも注力しており、FT後の妊娠率も高い。「卵管鏡下卵管形成術は身体への負担が少ない低侵襲な治療法であり、特に体外受精以外で妊娠を希望される患者様にとって大きなメリットがあると考えています」と春木医師は語る。
費用負担軽減への取り組み
不妊治療は高額な費用がかかるというイメージを持つ人も少なくない。春木レディースクリニックでは、患者にとって大きな負担となる経済的な側面にも配慮し、大阪でも最も安いレベルに自費診療における治療費を設定している。
体外受精では、採卵数や受精卵の数に応じた成果主義型の費用体系を採用しており、結果が出なかった患者には胚移植前にあらかじめ受精卵の染色体検査を行う着床前診断が必要となることも多いが、この場合においても経済的な負担が軽くなるシステムを導入している。
食生活の改善、サプリメントの活用
不妊治療に取り組む上で、食事やサプリメントも重要な要素となる。春木医師は、食生活の改善、男性ではDHAやEPA、抗酸化作用のある亜鉛やコエンザイムQ10などの摂取、そして女性では葉酸やビタミンD、亜鉛などのサプリメントの活用を勧めている。さらに女性では子宮内フローラを整えることも非常に重要であり、乳酸菌製剤などを積極的に摂取することも有効だという。
消防士の家系から医師の道へ
春木医師は、消防士の家系に育った。人助けを志す家風の中で育ち、幼い頃に祖父を亡くした経験から医師を志すようになった。小学校2年生の時のことだった。「死を食い止めるにはどうしたらいいのか」という幼心に抱いたその疑問が、医師という職業を意識するきっかけとなった。
「祖父の死は、私の人生における大きな転機でした。幼いながらに、人の命の儚さ、そして尊さを実感しました」と春木医師は当時を振り返る。
産婦人科医としての原点
医学部卒業後、様々な診療科をローテーションで研修する中で、産婦人科医としての道を決意する出来事があった。研修医2年目の時、産後出血で重篤な状態の患者を担当することになった。たまたま指導医が不在の中、春木医師は集中治療室でお腹の奥で出血が続いていることを診断し、待機していた上級医師とともに緊急手術を行い、患者の一命を救った。出産前後にまつわる命の尊さを実感し、自らの進むべき道を見出した瞬間だった。
「目の前で苦しんでいる患者さんを助けたい。その一心で手術に臨みました。無事に手術が成功した時、産婦人科医として生きていくことを決意しました」。
絶望の淵にあった患者との出会い
春木医師は、数多くの患者との出会いの中で、特に印象に残っているエピソードとして、他院で「妊娠は不可能」と宣告された患者の話を挙げた。若いにもかかわらず閉経状態だったこの患者に対し、春木医師は独自の治療法で排卵を促し、体外受精により初診から3ヶ月後には妊娠へと導いた。
「妊娠は不可能と言われていた患者様が、新しい命を授かった瞬間は、医師としてこれ以上ない喜びを感じました。そして、諦めないことの大切さを改めて認識しました」。
患者に寄り添う医療、そして未来へ
春木医師は、「不妊治療は妊娠がゴールではない。幸せな家庭を築くことこそが最終目標」と語る。患者との対話を重視し、患者自身が納得のいく治療法を選択できるよう、寄り添う姿勢を大切にしている。そして、クリニックスタッフ全員が高いホスピタリティ精神を持ち、患者を支えていることも、春木レディースクリニックの大きな特徴だ。
「私たちは、患者様にとって、単なる医療機関ではなく、人生のパートナーでありたいと考えています。不妊治療という困難な道のりを、共に歩んでいく存在でありたいと思っています」
春木医師の言葉には、患者への深い愛情と、未来への希望が込められていた。
春木レディースクリニックは、不妊治療の最前線で、最新の医療技術と患者中心の姿勢で、多くの夫婦の希望を叶え続けている。そして、春木医師の挑戦は、未来の日本の少子化対策にも大きな光を投げかけている。小さな命の産声が響き渡ることを願いながら日々患者に寄り添うクリニックの挑戦を注視していきたい。
【プロフィール】
春木篤
1993年山梨大学医学部卒業後、1995年横浜市立大学医学部附属病院産婦人科に入局し、主に周産期医療で辣腕を振るう。2000年に横浜市立大学医学部附属市民総合医療センター助教を経て、2006年からは、地元である大阪で生殖補助医療に従事。2009年大阪で最も有名な不妊治療クリニックの副院長に就任。以後、数多くの学会で、排卵誘発に関するシンポジウム、ランチョンセミナーなど多数の講演を行い、注目を浴びる。2013年に大阪心斎橋で開業。趣味は筋トレ、ジョギング、スキューバダイビング(PADIアドヴァンスド・オープン・ウォーター・ダイバー)、ワイン(日本ソムリエ協会認定のワインエキスパート)など。