2017年、ベトナムの水道局で日本システム企画の主力製品、『NMRパイプテクター』の実証実験が実現した。
赤錆を黒錆化することで配管を再生する『NMRパイプテクター』は、持続可能な資源利用に貢献するとして注目を集めている。
外国企業の参入ハードルを乗り越え、ベトナムでの実証実験を成功させた立役者が、公益社団法人ベトナム協会の常務理事の小川弘行さんだ。
20年以上にわたり日本とベトナムの友好関係構築に寄与し、ベトナムへの幅広い知識と人脈を有する小川さんに、実証実験の経緯や日本システム企画とのつながりについて伺った。
ベトナムの第一人者「困ったことがあれば小川さん」
小川
小川弘行と申します。現在は公益社団法人ベトナム協会(以後ベトナム協会)の常務理事をしています。
以前は三菱UFJ信託銀行(当時東洋信託銀行)で支店長をしていましたが、49歳の時に退職し、学生情報センターという会社の副社長・副会長をしていました。
ベトナムとは2001年、56歳のときから関わりを持ち始め、その間、財団法人学生サポートセンター、知的資産活用センターを文科省・経産省と交渉して設立させました。
65才の時に学生情報センター副会長を退職し、今ではベトナム一辺倒となりました。
小川さんと言えば、「ベトナムの第一人者」だと伺っております。
小川
私はベトナムの専門家ではありませんが、長年いろんなベトナム人との交流から幅広いベトナム知識と人脈はあるとは思います。
ベトナムに関する質問でしたら7割は自分で答えられますし、残りの3割は、専門家や現地のベトナム人などを含めた人脈でお役に立てると思います。
現時点(2023年2月)で106回ほどベトナムを訪問しており、ベトナム協会で実施する無料相談では、企業進出、貿易、人材、教育など、ベトナムに関するあらゆる相談をこの10年間で2,000件以上受け付けてきました。
ベトナムに関する相談とは、例えばどのようなケースがあるのでしょう?
小川
相談内容は様々ですが、ベトナム人技能実習生の受け入れや、現地から採用する会社の方々からいただくご相談の背景には、ベトナム人の文化・パーソナリティに対する誤解や理解不足がある場合が多いです。
一般的にベトナム人は「勤勉」と言われます。確かに勉強熱心で真面目な方が多いのですが、日本人のイメージする勤勉とは若干異なります。
例えば、ベトナム人技能実習生がビルクリーニングの仕事をする場合、まず受ける評価が「ベトナム人は(日本人よりも)仕事が早い」です。
なぜなら、ベトナム人たちは、綺麗な箇所は掃除しなくても良いだろうと自分で判断し、目に見えて汚いところだけ掃除する傾向があるからです。
一方、日本人は綺麗に見える箇所でも丁寧に掃除をするので時間はかかるけれど、仕上がりは美しい。
ベトナム人が合理的と言えばそうですが、指示された以上のことは行わない、察しないことが続くと、日本人の管理職や経営者の中には、言語化しづらい違和感が溜まっていきます。
そうした積み重ねがトラブルとなってしまうケースは多いですね。
ベトナム人の性格を知っていれば、事前にきちんと説明をするのでしょうが、日本人と同じように考えてしまうとトラブルにつながることがあります。
また、あまり知られていない事実として、特に地方出身のベトナム人は、インターネット情報よりも、身近な人が話す内容をより信用するという傾向があります。
この傾向は、技能実習生として来日したベトナム人が職場を逃亡し、犯罪に手を染めるケースの一因だと思います。
インターネットなどで数多くの注意喚起があるにもかかわらず、「もっとわりの良い仕事があるから、逃げてこい」という誘いを受けてしまいやすいのです。
国民性を理解しないまま、「ベトナム人=言語は異なるが日本人とかなり近い人材」と思って関わると、思わぬトラブルが発生してしまうのですね。
小川
そうですね。ただし、今までの話で誤解しないでいただきたいのですが、ベトナム人材が優秀であることに変わりはありません。
私は、毎週ハノイ大学やフエ外国語大学の学生と、オンライン日本語会話を行っているのですが、若い人たちは語学も堪能で、日本の社会や経済、文化に対する理解を深めようと一生懸命に勉強しています。
コミュニケーションを通してお互いを理解し合うという当たり前のことを行えば、外国人雇用の恩恵を存分に受けることができると思います。
外国人雇用をする会社は、まず正しく国民性を理解することがポイントだと思います。
トントン拍子で実現したベトナムの水道局での実証実験
NMRパイプテクターについてお話を伺う前に、日本システム企画の代表取締役社長の熊野活行さんから、小川さん宛てにメッセージをお預かりしているので、代読します。
公益社団法人ベトナム協会の常務理事兼事務局長である小川弘行様とは、社会奉仕団体のライオンズクラブで14年程前に知り合い、以後度々お世話になっております。
小川様は、長年在日ベトナム人留学生のための支援活動をしており、毎年日本の伝統文化である蕎麦打ちの体験会の開催や、スポーツ大会を企画し、ベトナム人留学生が日本社会に融和できるように大変貢献しております。
配管内赤錆防止装置NMRパイプテクターが、ベトナムの水道管の赤錆による赤水問題を解決するために、ハノイの北西にあるビンフック省の水道局に導入された際には、水質検査機関の手配等で大変お世話になりました。
おかげさまで、ビンフック省の水道本管に1台NMRパイプテクターを設置する事ができました。NMRパイプテクターを水道本管に設置し、そこから3方向に分岐した枝管で250~500M離れた地点の全ての蛇口から、設置前は配管内の赤錆劣化のため真っ赤な水道水が出ていました。
NMRパイプテクター設置4ヵ月後には、赤錆が水に不溶性の黒錆化で、透明な水に改善しました。
小川様に手配頂いた水質検査機関での測定により、赤錆の影響で最大23.0㎎/ℓ(ミリグラムパーリットル)もあった鉄分値が、設置4ヶ月後では0.5~2.5㎎/ℓまで減少し、その2年後には鉄分測定限界値の0.03㎎/ℓ以下と、日本の水道水と同等の水質まで改善しました。
この結果により、東南アジアの水道水も日本と同様に飲める状態まで改善する事が可能である事を立証しました。
この貴重な実証導入は、小川様の協力無くしては出来なかったと大変感謝しております。今後とも日本とベトナムの友好関係増進に、ご活躍される事を祈念致します。
小川
まずは、お役に立てて良かったです。熊野社長と初めて出会った14年前と比較すると、ベトナムは随分変わりました。
ハノイやホーチミンなどの首都圏では成熟社会を迎え、システムやインフラなど様々なものの老朽化が始まっています。
成長が著しい国や都市では発展のための開発や研究には莫大なコストをかけますが、延命や防止は見落とされがちです。
そこに、配管内の赤錆による腐食を防止しつつ、黒錆で配管自体を再生できるパイプテクターという装置が登場しました。
社会をよりよくしたいという思いと、先見の明に長ける熊野社長率いる日本システム企画ならではという画期的な製品です。
ベトナムのさらなる発展に寄与する実証実験にお手伝いができたことを嬉しく思います。
お二人の出会いは14年前のライオンズクラブでということですが、そこで初めてパイプテクターを知ったときはどのように思いましたか?
小川
非常に興味を持った記憶があります。私は理系分野には無縁の人間ですが、銀行の支店長時代からアイデア機器や技術開発に関心をもっていました。
財団法人学生サポートセンターで「学生ビジネスアイデアチャレンジコンテスト」の審査員をしていたとき、金沢工業大学の学生が「海に浮かぶ風力発電」という面白いプランを出してきてワクワクしたことがあるのですが、同様の高揚感を日本システム企画のパイプテクターにも感じましたね。
実際に効果を立証した研究成果もあるということでしたので、熊野社長から「ベトナムのビンフック省でJICA事業の実証実験をしたいので協力してほしい」と言われたときは、喜んで関わらせてもらいました。
その後、どのような経緯でパイプテクターがビンフック省の水道局に導入されたのでしょう?
小川
私の友人で、一橋大学卒業の元ベトナム人留学生のコン君に協力してもらいました。彼は、ビンフック省にあるホンダのバイク部品の下請け工場『COSMOS社』の社長一族の人です。
彼に連絡をとると、ビンフック省副知事(現 知事)Le Duy Thanhさんは、COSMOS社社長の同級生で、とても親しくしているということが判明しました。
小川
そこで私が早速ベトナムへ行き、COSMOS社を訪ねたところ、会社にThanh副知事(現知事)がいらっしゃったので、日本システム企画のパイプテクターについて改めて説明しました。
すると、実証実験をひとつ返事OKしてくれたんです。その日の午後に県庁舎に来るようにと言われ、担当職員を交えて詳しい説明をして、熊野社長の実験が可能になりました。
小川
私が本件で最初にビンフック省を訪問したのが2016年6月14日で、7月4日には関係者が勢ぞろいして実証実験の段取りを決め、1ヶ月も経たないうちにJICA実証実験の許可を頂きました。
トントン拍子に進んだのは、小川さんの人脈の賜物ですね!
小川
日頃、色々な人とコンタクトをとっており、「この課題ならこの人に相談しよう」とパッと思い浮かべることができたので、スムーズに事が運びました。
パイプテクターの商品力と、現地のニーズと、私の人脈が上手くかけ合わさったのだと思います。
私も人に説明できるように、熊野社長の説明を覚えて色々なところで話した記憶がありますが、パイプテクターの反響は非常に良かったです。
日本の技術力や開発力をもう一度世界に見せつけてほしい
10年以上のお付き合いがある小川さんから見て、日本システム企画や熊野社長はどういった存在でしょうか?
小川
熊野社長は、これからの社会に必要なことを常に考えているアイデアマンです。
パイプテクター以外にも、黒潮を利用した海流発電システムや、血管のサビを防止して健康寿命を延ばすなど、非常にユニークな発想や発明で固定概念を変えようという意識が強く、そんな研究熱心なところが魅力だと思います。
では最後に、日本システム企画に今後期待することを教えてください。
小川
今後、中国やベトナムを筆頭に、急速に発展し成熟社会を迎える国が世界中でどんどん増えていきます。急成長の裏には必ず反動があります。
インフラの老朽化、エネルギー、環境など様々な問題が存在します。日本も同様で、高齢化や人口減少、環境問題、経済低迷などマイナス要因を挙げればきりがありません。
日本の開発力は世界一だと思うのですが、残念なことに、新技術に懐疑的な面があります。
政府のお墨付きが無いと採用しない、業界自体が新規参入を難しくするなどによって普及や支援が遅れ、気づいた時には世界に大きく差をつけられていることも少なくありません。
日本システム企画には、そんなマイナス要因をプラスに反転する企画・開発力があると思います。
ただ、日本システム企画の製品は、その効果を簡単に説明することが難しいのですが、今後は製品作動の可視化が実現できれば、より迅速な普及が見込めるのではないかと思います。
日本システム企画が有する前向きな技術への理解が深まることは、日本の技術力や開発力をもう一度世界に見せつけるきっかけになると思います。
日本システム企画は成熟社会に必ず必要な会社です。今後の一層のご活躍を期待しております。
◎プロフィール
小川 弘行
1945年生まれ。東洋信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)横浜支店副支店長、宇都宮支店長、名古屋今池支店長等歴任。同社を退職後、株式会社学生情報センター代表取締役副社長・副会長等歴任。2001年から100回以上ベトナムを訪問し、2013年から、ベトナム協会常務理事として事業・企画・事務局を担当、「ベトナム無料相談員」として10年間で2000件近くのベトナムに関する相談に応じる。ベトナム多民族間平和-友好記章や、ベトナム外務大臣表彰などベトナムからの表彰歴多数。ベトナムコンサルタントOGAWA代表。