「健全な企業活動をするためには市場へのアプローチが必要。子どもの教育でもそう。大人へのアプローチが重要」
今回対談を行っていただいた株式会社植松電機の代表取締役である植松努さんとキーパーソン21代表理事の朝山あつこさんは、実際に若者や子どもと触れ合い、ワクワクの芽を引き出し、自分の力で生きていく自信と可能性を与える達人です。
そんな二人に今の子どもを取り巻く大人の問題点から、旧態依然の日本の教育、幸せへのロードマップについて語っていただきました。
「テストに関係ないからやめろ」不勉強な親の一言が子どもを潰す
朝山
教育NPOキーパーソン21の代表理事の朝山あつこです。
私たちは、動き出さずにはいられない原動力のようなもの、人生を自分らしく生きるための軸を「わくわくエンジン®」と呼んで、これを発見するための多彩なワークショップや、個別サポートを主に子どもを対象に提供しています。
独自開発した教育プログラムを受けてくれた子どもたちは5万人以上にのぼり、地域・行政・企業・団体を巻き込みながら、子どもたち一人ひとりが自分らしく生きる力を育むための様々な活動を日々模索しています。
植松
株式会社植松電機の代表取締役、植松努です。
植松電機は、北海道でリサイクル機械の製造を行う会社です。経営者として企業活動を行っていますが、「利益をあげるためにはしょうがない」という企業の一般的な言い訳からできるだけ離れた活動をしている少し変わった経営者かもしれません。
最近注力しているのは、「まともな市場作り」です。企業がエコに配慮した製品を作っても、市場から「エコはいいからもっと安いものを作れない?」と言われたらせっかく意識の高い企業でも何もできなくなってしまいます。
そんな現状をおかしいと思い、市場にアプローチする大切さを感じて、良き仲間、良き市場、より良いことを求める人を増やす活動に注力し、講演を行ったり、ロケット開発を行ったりしています。
健全な企業活動を行っていくためには、企業だけでなく、市場も変える必要性があると。
朝山
興味深いことに、同じことが親子関係にも当てはまります。私たちの団体はもともと子どもを対象とした活動からスタートしたのですが、近年は親や学校の先生にもアプローチしなければ、らちが明かないと感じています。
親も先生も、子どもの興味関心を理解して強みを引き出し、可能性を広げていく関わり方が分からなくて困っているんですよね。フラットに子どもを見ることが苦手で、変に褒めてしまったりしています。
植松
褒めることは評価なので、変に褒めると評価ばかり気にする大人に育つ可能性がありますね。僕は昔プラモデルが好きで、1人で作っていたところ、友達に「凄い!コンテストに出した方が良いよ!と言われて、実際に出したら褒めてもらえたんです。
すごく嬉しかったのですが、気がついたら良い評価を受けることが目的になっていて、全然面白くなくなっていました。そういう経験があるので、会社の子たちには褒めるのではなく、感謝の気持ちを伝えるようにしています。
朝山
褒めるというのは自分のエゴに引き寄せることになりかねないので、枠にはめることに繋がってしまうのでしょうね。褒めるより、認めることを意識した方が上手くいく気がします。
そういうことを親や教師が理解していない風潮があると。
朝山
親も教師もいっぱいいっぱいなんです。でも、行政や企業といった周りの大人は、「子育てや教育は親や教師がやるものだ」と知らん顔。
私たちのプログラムを通して子どもが「わくわくエンジン」を見つけても、周りの大人が同じように元気でなければ、せっかくのワクワクが萎んでしまうので、非常に問題だなと思いました。
植松
大人が応援しないといけないのに、真反対のことをしている大人が多くないですか?子どもが「わくわくエンジン」に沿って色々調べた時に、大人が「テストに関係ないからやめろ」と言うとか。
僕は大学生から進路や就職の相談を受けますが、みんな「親が知っている会社にしか入社できない」と言うんです。今の子どもたちは優しいので、自分がワクワクする道ではなく、親が嫌な顔をしない道を選んでしまう。
朝山
分かります。私の息子は虫や生き物が大好きなので、自然を守る道に進みたいと考えて農学や生命科学系を学べる大学に進学したのに、いざ就職の時になると人材派遣の企業に行こうとしていたんです。
本人の希望に合っているのは、どう考えてももう一つの内定先であるバイオベンチャー企業なのに、「バイオベンチャーは初任給が低いし、人材派遣会社に行った方が親は喜ぶと思った」とか言うんですよ。
親としては子どもが心から好きでワクワクする道に進んでほしいし、バイオベンチャーの方が活動内容的にもロマンがあるということを伝えたら、「そんな風に言ってくれるとは思っていなかった」って。
そういう実例があるので、親が子どもの「わくわくエンジン」を受け入れてあげなきゃいけないと思います。子どもは親が喜ぶことを予想以上に優先してしまいがちなので。
植松
親が「あの企業は優良企業だから」と勧めたところで、親の情報がアップデートされていないことも多いです。親が学ばないと子どもが潰れます。
僕は就職する時は親に一言も相談しなかったですけどね。勝手に名古屋行きを決めて、なかなか実家に戻らなかった(笑)。
朝山
私もキーパーソン21の立ち上げは、勝手にやりました(笑)。
植松
その方が人生は楽です。ロケット開発に着手した時も、小さな町工場が民間ロケット開発なんてできるはずがない、と散々否定されましたが、気になりませんでした。それは、ライト兄弟など既に成し遂げた人たちは本の中で肯定してくれたから。
反対してくる人というのは、自分でやったことがない人たちです。だから子どもたちは、やってみたことのある人と出会うことが必要だと思います。出会うためには、自分の夢を声に出すことが重要だし、それでも出会えなかったら本屋に行けば良い。
本当は身近な大人に経験があれば良いんですけどね。日本の大人はあまりにも経験値が少なすぎます。
日本の教育は「自分の頭で考えず、ルールに依存する人」を量産してしまう
子どもは親の顔色を伺い、親は子どものワクワクなんてお構いなしに頭でっかちの理想を押し付けてしまう。なぜこういった社会になってしまったのでしょう?
植松
教育が与えた影響は大きいと思います。今の人たちは考えないで済むように教育されているんですよ。大人だって何事も多数決で決めてしまうでしょう。
ロケット作りのワークショップを開催すると、小学生より大学生、大学生の中でも高学歴の人の方がスピードが遅いんです。
迷っている時間がものすごく長く、「どうしたの?」と聞いてみると、「分かりません」と言う。「やり方はここに書いてあるよ」と言えば、「はあ」という生返事しか返ってこない。
小学生は上手いやり方を見つけたら、他の人にも教えにいきますが、大学生はやりませんね。うちの会社では最近大卒を採用していません。高卒の方が伸びるんです。日本の「全部同じ」にして個人に考えさせない教育の悪影響だと思います。
朝山
全部同じって嫌ですね。枠にはめることが一番恐ろしいことなのに。枠にはまっている子どもたちを飛び越えさせてあげたいな。
植松
日本では「決まりを守る人」が「まともな人」で、守らない人は「変な人」扱いですよね。僕みたいな「変な人」が既存の決まりを飛び越える度に決まりの壁がどんどん厚くなっていって、「まともな人」がどんどんがんじがらめになってしまっています。
以前会社で就業規則を作り直したら当初の3倍の厚さになりました(笑)。パワハラとかセクハラとか、ギチギチに固めてくるんですよ。
「顔色悪いけど、大丈夫?」という声かけがアウトになったら、業務の話しかできません。実態に即していないということで、会社の若い子たちがまた3分の1に戻してくれましたが、似たような締め付けが至る所で起こっているのではないでしょうか。
朝山
私たちの団体でも大なり小なりありますね。枠を超えるのが私たちNPOの仕事のはずなのに、その枠の中に自らはまっていく感覚というか。組織が大きくなると硬直化していくジレンマがあります。
植松
自分で判断できない人は、決まりに従って動くようになります。そういう人は決まりの良し悪しで物事を判断してしまう。うちの会社の子たちも勝手に上下関係や決まりを作りたがるんですよ。
特に真面目な子ほど、勝手に先輩を尊重して、「意見が言えない」と言う。学校で叩き込まれたヒエラルキーが染み込んでいるのだと思います。僕はそれを叩き壊して歩いているんだけど(笑)。
「やりたいことがない子」は考えていないだけ
自分の頭で考えられず、既存のルールに依存してしまう人が多い現代社会はどう変えていけるのでしょうか?
植松
解決策の一つとして、僕はキーパーソン21の「わくわくエンジン」は非常に注目しているんです。「わくわくエンジン」を探求するプロセスは、「何で?」の繰り返しです。
対話やゲームを通して、自分で問いを深掘りすることで考えを深めていく「思考プロセス」を実践できることが、キーパーソン21のプログラムの一番いいところだと思います。
朝山
ありがとうございます。最近は、「そもそもやりたいことがない」という子どもが多いので、「わくわくエンジン」が特に役立つと思います。
植松
朝山
そう!丁寧に思考方法を教えてあげたら、みんなキラキラと輝きだすんですよ。
植松
でも、そのまま放っておくと大人がわくわくを潰してしまう可能性があるから、大人を巻き込まないといけない。
朝山
その頼もしい大人が植松さんです。植松さんのワークショップに行けば、「やってみな!失敗しても大丈夫!どうすればいいか一緒に考えよう」と励ましてくれる大人たちがいて、植松さんはそれを誰よりも素敵に語っているし、実践しているんです。
私たちが子どもの心を耕して、子どもがワクワクの種を蒔いて、植松さんに水をあげてもらう。そういった連携が植松さんと協働する大きな意義だと思っています。
去年(2021年)の『わくわくエンジンEXPO』で、植松電機からわくわくエンジン搭載のロケットを打ち上げましたよね。あれは本当に感動的でした。私の夢は、子どもたちが自分たちでロケットを飛ばすことなんですよ。
植松
ロケットはけっこうな勢いで飛ぶので、1本飛ばすとあんなに飛ぶのかと驚いて、「自分には無理だ」と泣く子もいますが、やってみたらちゃんと飛ぶから自信がつきます。
「わくわくエンジン」とうちの「ロケット教室」が組み合わされば、子どもの自己肯定感がもっと高くなるんじゃないかな。
以前空港で、若い女性に「私のことを覚えてますか?」と尋ねられたことがあって。彼女は中学生のときに修学旅行で植松電機に来て、ロケットを打ち上げたんです。
「ずっと航空関係の職に就きたかったけど周りに反対されていて…。でも、実際に夢が叶いました!今でもロケットを持っています」と笑顔で言ってもらえた時は本当に嬉しかったですよ。
朝山
やっぱり子どもの夢を応援することに共感してくれる大人たちが地域に増えると、もっと子どもはのびのび可能性を伸ばせられると思いますね。
植松
「わくわくエンジン」を持つ子どもが親になれば、色々な問題は解決していくはずです。「わくわくエンジン」を常識として、広める大人が増えてほしいです。朝山さんと僕の活動のそれぞれが相互作用を生み出すことで、より効果的に目的を達成できると思います。
「好き」から始まる幸せへのロードマップ
幸せな人生を送るために、子どもたちに伝えたいことはありますか?
植松
僕は講演などで「好き」という気持ちの大切さを熱心に伝え続けているのですが、日本では「好き=ダメなこと」というイメージが根強く残っていると感じます。
遊びや趣味は好きだけど、勉強の妨げになる悪いこと。そして勉強や仕事は「我慢」することであり、「我慢は美徳である」と教えるんです。
だから大人になって趣味を持とうと思っても罪悪感があるし、仕事は苦しいものだと初めから思っている。それは不幸な人生だと思います。
朝山
「好き」という気持ちは、ものすごく大きなパワーになるのにもったいないですよね。もっと自由で緩やかで伸びやかな思考をしてほしい。
植松
昔は野球をする時、人数が少なければベースを減らして遊んだものです。今の子は9人いないと野球をやりません「ルールを変えればいいじゃん!」と言っても、「ルールは変えちゃいけない」という。
朝山
嫌なら変えれば良いし、無ければ作れば良いだけなのに。
植松
仕事だってそうですよ。雇われるだけじゃなくて、仕事を作る人になれば良い。飛躍して聞こえるかもしれませんが、戦争だって同じですよ。地球上の全ての人が幸せを求めているのに、戦争がある理由は「勝ちなさい」と言われるからです。
何かを得るためには、競争で勝者にならないといけないという思い込みがあります。本当は、奪い合うのではなく、共有できるように造り出せば良いだけなんですよ。
朝山
そこで「造り出す人」だけが凄いのではなく、それをサポートすることが好きという「わくわくエンジン」もあるので、本当に十人十色。幸せになるためにもっと「わくわくエンジン」を活用してほしいです。
植松
僕たちがどれだけ「幸せになれるよ!」と言っても、「結局年収はいくらなの?」と聞いてくる大人もいますけどね。「自分の在任中は変なことが起きないでほしい」という日和見主義の人もいるし、馬鹿馬鹿しいと思うような制度もまだまだ沢山あります。
朝山
でも、コロナの2年間で少しずつ変化しているようにも感じます。
植松
そうですね。日本は今後さらに不況になるでしょうから、不安に思って「してもらうことに依存する人たち」と、「自分で動いていく人たち」に二極化していくと思いますよ。
「依存する人」と「自分で動く人」への二極化とは
「してもらうことに依存する人たち」と、「自分で動いていく人たち」への二極化というのは?
植松
大学生に夢を聞くと、良い会社、良い給料、良い評価という言葉が出てきますが、全て誰かに「してもらうこと」ばかりなんです。
良い会社に入れてもらいたい、良い給料や評価を与えてもらいたいといった、「してもらいたい夢」はだいたい叶いません。
何故なら自分以外の他者が介在するから。反対に、「したい夢」だったら自分の努力で叶います。「してもらいたい夢」は対価が必要なのでお金が欲しくなりますが、「したい夢」は自分でやるのでそこまでお金もかかりません。
朝山
変にお金ばかりを重視する人っていますもんね。私たちの団体だって、最初は「ボランティア活動みたいなもんだから、お金無いんでしょ」と言われたり。役立つ活動をしていれば、身の丈にあったお金は入ってくるんですけどね。
植松
朝山
人の自信と可能性が奪われない世界をつくりたい
最後に、今後お二人が目指すことについて教えてください。
植松
うちに口径40cmの望遠鏡があるのですが、肉眼では何も見えない夜空でも望遠鏡を通すと沢山の星が見えます。
それがとても綺麗なので、この地上でも自分で光を放ち始める星のような人たちがどんどん増えたら嬉しいと思います。その輝きというのは、自信と可能性。人の自信と可能性が奪われない世界をつくりたいです。
朝山
私はやはり、子どもを取り巻く大人たち、行政、企業、団体にアプローチすることですね。大人がワクワクすれば、子どももワクワクするので。
私たちには志を同じくして各地域で奮闘する仲間がいるのですが、それぞれの力が「わくわくエンジン」を通して大きくなっていくパッチワークのような広がり方で発展していきたいと思っています。
各地域のオリジナリティをいかして、誰も枠にはめることなく、1人でも多くの人に幸せを感じてもらう活動ができれば嬉しいです。
◎プロフィール
植松努
株式会社植松電機 代表取締役
株式会社カムイスペースワークス 代表取締役
NPO法人北海道宇宙科学技術創成センター 理事
人の可能性を奪う「どうせ無理」という言葉を無くしたいと、北海道の町工場でロケットの実用化に向け挑戦し続け、また、企業・学校での講演やロケット教室を通し、夢を諦めない事の大切さを伝えている。 著書に『あきらめない練習―何をやっても続かない自分を変える』(大和書房/2017年)など。
朝山 あつこ
認定NPO法人「キーパーソン21」代表理事。わくわくして動き出さずにいられない原動力「わくわくエンジン®」の提唱者。 長男の中学校の学校崩壊がきっかけで、大人も子どもも、自分を活かしていきいきと仕事をして生きていってほしいと願い、2000年にNPO設立。「夢!自分!発見プロクラム」を開発し、学校、企業、行政、大学、PTA、などと連携し”一人ひとりのわくわく”から考えるキャリア教育を全国に展開している。