公益財団法人やまなし産業支援機構の手塚伸理事長は、「茂呂製作所は県内の製造業にとって頼りになる欠かせない存在」と語ります。山梨県庁職員時代から長年にわたり県の産業振興に深く携わってきた手塚理事長は、地域密着型のモノづくり支援と積極的な海外進出のハイブリッドな事業展開で、「グローカル」に活躍する株式会社茂呂製作所をどのように捉えているのでしょうか。
「このままではダメだ」という強い危機感に共感
ー株式会社茂呂製作所 代表取締役 茂呂哲也さんから公益財団法人やまなし産業支援機構手塚伸理事長に、次のようなメッセージをお預かりしてきました。
山梨県の産業界を縁の下の力持ちとして支えてくれている機構さまで現在、理事長をされている手塚さまにも感謝をお伝えしたいです。公的機関の役職の方々との討議の場に若輩(30代前半)ながら参加させていただいた時、モノ言わない我々とマイナスな発言をする公的機関の方々の中で一人気を吐いて「このままではダメなんだ!」仰っていたことを覚えております。
人生と経営の行く道に悩んでいた私は、その時「製造業で生きていくなら手塚さんの後をついていきたい、指導と支援をしてもらいたい」という思いを抱き、今でもそう思っております。以降、どんな時でも配慮いただいており新しい行動をするとお祝いメールとそれに対する支援策の提案、新しい政策がでると「こんなのあるけどやってみる?」と連絡をいただいたり、行動していると「こんな人いるけど繋がってみる?」などなど数え上げたらきりがない支援をこちらから何か言うわけでもないのにしてくれている方です。(もしもウチもそうだよ!って企業が10社いたら手塚さんはスーパーマンであり寝ていない方だと思います笑)
様々な経歴を持つ恐れ多い方なのに気さくで気取らない姿も私の見本となっています。ありえないことですが・・・全ての任を降ろした時は茂呂製作所に来ていただき羽を休めつつも茂呂製作所の大躍進にお力添えをいただきたく思っていますが無理でしょうね苦笑
茂呂哲也社長は「山梨県産業振興ビジョン」のタスクフォースを牽引する存在
ー茂呂哲也さんからこのようなご紹介をいただきました。このメッセージからもお二人の深い信頼関係が感じられます。当時、公的機関主催の会合に茂呂社長はどのような立場で参加されていたのでしょうか。
手塚:過分なメッセージをいただきました。私は県庁職員の時代に、山梨県の長期計画の策定に携わってきました。特に産業振興には力を入れ、県職員として当機構の専務理事として3年ほど出向していたことがあります。その時に山梨県のこれからの産業構造のあるべき姿を示した「山梨県産業振興ビジョン」(2011年3月)を策定しました。その中で、県としての新たな機関や制度を立ち上げるだけではなく、地域企業も一体となって取り組む「産業クラスター」を形成する必要性があると考え、タスクフォース事業を作りました。このタスクフォースには医療産業やクリーンエネルギーなど5つほどの部門があり、茂呂さんはクリーンエネルギー部門のタスクフォースを牽引してくれる存在でした。密接なお付き合いをさせていただくようになったのは、その当時からですね。
ー当時からすでに茂呂さんは県内で頭角を現しておられたのですね。当時、茂呂社長はまだ社長就任前の時期だったと思うのですが、若手経営者としてどのような印象をお持ちになりましたか。
手塚:私は2020年4月から現職に就いていますが、先ほどご紹介した「山梨県産業振興ビジョン」を策定した2011年以前から山梨県の産業に関わる方々とお付き合いする機会があり、特に県内の若手経営者を中心に意見交換をしていました。当時、茂呂さんは次世代の経営者として期待の人材でしたが、まるで役者を目指している若者といった雰囲気でした。喋り方も製造業の方という感じはしなかったですね(笑)。当時から県内の製造業の社長さんという枠に止まらない自由な発想で、タスクフォースの中でも勢いがある存在でした。
県産業支援機構は茂呂製作所の新事業の伴走者
ーその後、茂呂製作所さんは県内製造業向けの機械修理事業の本格化および海外での積極的な事業展開など、「グローカル」なフィールドで活躍されていています。現在のコロナ禍では、機構としてはどのような支援をされているのでしょうか。
手塚:茂呂さんがタイで仕事をされていた頃もメールのやりとりを続けていました。2020年にコロナ感染症拡大の影響で彼が帰国した折、すぐに連絡を受けました。「コロナの状況もあるので、リモートで機械修理ができる新事業を考えているのですが」とのご相談で、早速、新事業に対する支援を始めました。
ー現在、やまなし産業支援機構さんが支援しているのは具体的にどのような内容なのでしょうか。補助金や制度融資など資金的な手当をするといった内容なのでしょうか。
手塚:茂呂製作所さんの新事業を一言で言うと、ITグラスを利用して遠隔で機械修理をするという事業です。今回の支援スキームは、新事業のビジネスのやり方を一緒に考えるハンズオン(伴走)型の人的支援です。例えば、その事業に必要な技術要素は何か、販売にあたって売り方をどのようにするのが効果的かといったマーケティングの視点も含めて、伴走する人材と共に事業を立ち上げていくという支援スタイルです。当機構は10年以上前から、人のネットワークを生かして様々な産業セクターの中小企業の課題解決を支援してきました。
ここも重要な点ですが、こうした支援を通じてビジネスモデルが整ったところで、経産省の補助事業にトライしました。茂呂社長のご努力があり、採択に至り、現在新たな挑戦が始まっています。
茂呂製作所は県内製造業に欠かせない存在、3D技術等の新技術の活用にも期待
ーなるほど。やまなし産業支援機構さんは茂呂製作所にとって新事業を立ち上げる際の伴走者でもあるのですね。では、最後にお伺いしたいのですが、やまなし産業支援機構さんにとって茂呂製作所とはどのような存在だとお考えでしょうか。また、今後の取り組みとして期待することがあればお聞かせください。
手塚: 株式会社茂呂製作所さんが行われている事業は山梨県の製造業にとって重要かつ必要不可欠なものです。今、多くの企業は機械修理に困っています。その理由は大まかにお話しすると2つです。1つ目は、技術革新に適応して新しい機械・設備の導入がなされますが、これらの修理やメンテナンスができる、また、これらに必要な治工具をセットできる企業が少なくなっていることです。2つ目はその対極になりますが、日本のものづくり産業の特徴として、擦り合わせ技術を基底にした職人技の質の高さがあります。これは、機械・設備と職人の技が一体化することで保たれるものですが、多くのものづくり現場においてソフト・ハード両面で技術の継承が難しくなっている現実があります。
こうした現状から、茂呂製作所さんのような、メンテナンス、修理、治工具のセットなどに特化した企業が、日本のみならず東南アジアなどでも必要とされている状況があります。
このように、多くの製造業にとって茂呂製作所さんは困った時に本当に頼りになる存在だと思います。山梨県の製造業界全体にとっても存在価値のある会社ですね。実際に私も機械修理に困っている製造業者さんがあったら茂呂製作所さんを紹介しています。
今後は複雑な形状の治工具や部品が必要な修理も多くなってくると思いますから、3DプリンタやCAD、CAM、CATなどの新技術をどんどん導入していくことで、さらなる可能性が広がるのではないかと思います。ぜひ今後も積極的に新たな取り組みを進めて成長してほしい。さらなる飛躍を期待しています。
手塚伸
1959年、山梨県甲府市生まれ。大学卒業後山梨県庁に入庁し、主に地域計画や地域産業計画に従事。2020年4月より現職。また山梨県立大学の特任教授として学生や社会人の指導も行っている。
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