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一般社団法人農福連携自然栽培パーティ全国協議会

http://shizensaibai-party.com/

農福連携自然栽培パーティ全国協議会磯部竜太さんに聞く|常識を覆す自然栽培-SDGsの取り組みを紹介

ステークホルダーVOICE 経営インタビュー
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「障害者の働く場の確保」「農薬の安全性への不安」「耕作放棄地」「地方の衰退、人の繋がりの希薄化」。こうした社会問題を解決する方法として期待されているのが、自然栽培における農福連携です。

「自然栽培」とは、農薬や化学・有機肥料を使わずに作物を育てることであり、「農福連携」とは、障害者が農業に取り組む活動のこと。

今回はこの2つを掛け合わせることで、地域社会に大きな変化をもたらしている「一般社団法人農福連携自然栽培パーティ全国協議会」を取材しました。第4回グッドライフアワード 環境大臣賞 最優秀賞を受賞するなど社会からの注目度も高い農福連携や、自然栽培の魅力を、理事長の磯部竜太さんにお伺いしながら紐解いていきます。

 予想外に「良いことずくめ」だった自然栽培

 農福連携自然栽培パーティ全国協議会について教えてください。

 自然栽培パーティは、福祉施設で自然栽培を実践していた佐伯康人さんの活動をきっかけに始まりました。佐伯さんはこの業界ではカリスマ的存在です。農薬も肥料も使わない自然栽培を成功させ、脳性麻痺や脳梗塞で障害が出た人や、重度の知的障害、精神障害、うつ病になった人に栽培を任せることで、社会で生きづらいとされている人たちの雇用を創出しました。まさに農福連携を実践し、見事に軌道に乗せたパイオニアといえます。

そんな佐伯さんの活動が、障害者の自立を支援するヤマト福祉財団の目にとまりました。非常に素晴らしい取り組みのため全国に広げようという話になったのですが、自然栽培は当時全く新しい概念でしたので、「本当に自然栽培で野菜が育つのか?」「本当に障害者がきちんと農作業をできるのか?」といった懸念事項もありました。これらを検証するために、全国から5つの福祉施設が集まり自然栽培の検証がスタートしました。この取り組みが農福連携自然栽培パーティ全国協議会の前身です。私が事務局長を務める社会福祉法人無門福祉会はそのうちの1つでした。

開放感のある畑や田んぼ働く障害者や近隣の農家さん

開放感のある畑や田んぼで生き生きと働く障害者や近隣の農家さんと一緒に田植え

 

当初は、障害者による自然栽培が上手くいくか検証することを目的としていたのですね。検証の結果はいかがだったのでしょうか?

 私たちは農業のド素人でしたが、佐伯さんの指導のもと、自然栽培できちんと野菜や米は育ちましたし、障害を持つ方も非常に楽しんで農業に取り組んでいました。そして予想外の成果もありました。地域住民との繋がりです。

私たちの活動は、近所の人にとっては休耕地の有効活用になりますから「使ってくれてありがとう」と非常に喜んでいただけました。また、開放感のある畑や田んぼで生き生きと働く障害者を見た近所の人や地域の農家の人たちが、彼らを家に招き入れてお茶を出してくれたりしたんです。

その様子を見て、「きっと昔の日本ってこういう感じだったのだろうな」としみじみ思いました。農業の楽しさや大変さを知っている者同士が、困った時には助け合い、知恵を出し合い、お互いをねぎらう。そんな田舎の古き良きコミュニティが垣間見えたような気がしたんです。

地域の人との繋がりが生まれ、障害者が積極的に働くようになり、福祉施設職員も仕事が楽しくなるといった嬉しいことずくめだったうえに、自然栽培自体の魅力に私たちはどんどんはまっていきました。これは全国の仲間にもっと伝える価値があると分かったので、自然栽培を通した農福連携を広げるべく農福連携自然栽培パーティ全国協議会を初期のメンバーで立ち上げたんです。

効率化・合理化が生んだ現代社会の歪み

磯部さんたちがその魅力にはまったという「自然栽培」について詳しく教えてください。

私たちも驚いたのですが、農薬や肥料を与えなくても植物はどんどん育つんですよ。特に農薬は高額で健康への影響もあるから皆さん本当は使いたくないのですが、害虫が来るので仕方なく使っていました。しかし、そもそも野菜が元気に育てば、病害虫にやられにくいのです。肥料は野菜を大きく育てるメリットがありますが、養分過多で弱ってしまうデメリットもあります。土には養分がすでに備わっています。その養分をきちんと吸収できる状態にする栽培方法が大事な点だったんです。私も最初は無農薬・無肥料なんて無理だろうと思っていましたが、できるんですよ。

自然栽培は、「農薬や肥料を使うのは当たり前」という常識を覆してしまうのですね。

「なぜ農薬や肥料を使うのか?」というと、農業は自然を相手にする仕事ですので、より均質な農作物を、より早く効率的に収穫できるようにしないと、国民に食料を安定的に供給することができず、農家さんも労働に見合った収入が得るのが難しいからなのです。

農薬や肥料によって自然をコントロールした結果、確かに生産性の向上と収量アップが実現しました。しかし一方で、それが行き過ぎてしまうと、食の安全、環境への負荷、コスト高といった懸念が生じかねません。今後は、より安全で質の高い農産物を、できるだけ安価に、自然と共存しながら作る農業にシフトしていく必要があると思うのです。

私たち福祉団体でも同様のメカニズムで問題が生じているように思えます。学校運営の効率化を目指した結果、障害を持つ子どもたちは特別支援学級へと送られます。その子のペースに合わせた教育を提供するという理由ももちろん理解できますが、私の目には人との違いが認められずに均一化を目指す社会に映ってしまう。多様性が許されない社会では、生きづらい人が出てきてしまうのではないでしょうか。

合理化を追求しすぎた結果、様々な歪みが現代社会に生まれてしまっているのかもしれません。

 そうした農業と福祉における歪みを回復させる手立てになるのが、自然栽培における農福連携だと思っています。農業はたくさんの作業から成り立っているので、障害者が力を発揮できる作業が必ずあります。例えば、特定の作業に抜群の集中力を発揮する特性は、種をまく作業に適しているかもしれません。そうした農業の懐の深さや、色々な生物が共存する自然栽培の田畑は多様性の象徴のようにも見えます。持続可能な社会を実現するためにも、自然栽培を全国に広げていくことが重要と考え日々活動を行っています。

全てを自然のリズムに任せて進行させていく

農福連携自然栽培パーティ全国協議会では、どのような活動を行っているのでしょう?

まず、自然栽培の初心者の方に向けて、栽培のバックアップや指導を行う機会を設けています。といっても自然栽培自体まだ生産者も少ないので、ノウハウを積み上げる必要があります。みんなで挑戦と失敗を繰り返しながら知識を積み上げる必要があるので、勉強会は会員同士が「今度これをやってみようと思うんだけど」「いや、それはやめな。この前うちが失敗したから!」みたいに率直に意見交換し合う場となっています。

あまりにノウハウをオープンにしているので農業関係者から驚かれることもしばしばですが、私たちの軸はあくまで「社会を良くすること」「みんなが幸せになること」なので、出し惜しみする必要がないんですよね。

なるほど。では、全国に自然栽培を広げるための取り組みはどのように進めていますか?

ビジネスをバリバリやっている方からすると、「ド素人だな」と怒られてしまうかもしれませんが、私たちは自然の力を信じているので、普及活動も自然のリズムに任せたいと思っています。

自然栽培は今の常識を覆す画期的な方法なので、マーケティングなどを工夫すれば全国に一気に広げることもできるかもしれません。しかし、ここで私たちが急いで発展させようとすると、本来の目的とは変わってきてしまい、大切なものを失いかねません。今の農業みたいに農薬や除草剤を使う必要も出てくるかもしれません。自然の摂理に反したかたちで物事を進めるのは良くない気がするというか…。自然栽培のロジックだけが広がり、実の部分が置き去りにされるのも困りますしね。

私は自然栽培に自然と賛同してくれた人たちが日々の農業に向き合うことを延々とやり続けることが、普及活動だと思っています。私たちパーティの役割は、地道に現地指導を行い、自然栽培の楽しさを目の前の人に確実に伝えていくこと。

今までずっとそのように活動してきた結果、自然栽培を深めれば深めるほど、人との繋がりもどんどん増えてきました。5団体から始まったパーティが、今や100団体以上が加盟する規模になったように、着々と、ほどほどに、コツコツと、というやり方が適しているのだと思います。徐々に認知が高まった結果、実はこんな活動をしているところが全国にこんなにあったんだと、とどこかのタイミングで気づいてもらえれば急激に広まるかもしれないですしね。

確かに。社会的意義のある取り組みなので、確実に広まっていくと思います。

社会的意義には自信がありますよ。ある大学の先生からは、パーティの活動はSDGs17の目標の全てをカバーしているのでは?と言ってもらえたこともあります。農薬を使わないので環境に良く、安全な食料の提供にもつながり、働きがいや福祉にも貢献する。そういった魅力が確かにあるからこそ、どんどん人や企業が集まってきてくれます。私の勤める無門福祉会ではトヨタ自動車さんに毎年ボランティアの募集をしているのですが、ありがたいことに、いつも60名くらいの応募が来ます。わざわざ有給を取得して手伝いに来てくださる方もいらっしゃるんですよ。「食べる」「作る」という活動を通してコミュニティが再生されていく、繋がっていくというのは本当に素晴らしい効果だと思いますね。

SDGS17のアイコン

農福連携自然栽培パーティの活動はSDGs17の目標をカバーしているのでは?と評価されるほど

では最後に、今後の展望についてお聞かせください。

私たちの活動は、現代社会に一石を投じるものだと思います。どんどん悪化する環境や様々な問題を抱える社会を、自然栽培における農福連携で健康にする。しかもその担い手は、今までは主要な労働力とみなされていなかった障害者たちです。日々地道な活動を行っている私たちに一瞬で世界を変えてしまうような飛び道具はないかもしれませんが、未来の社会や子どもたちのために地に足のついた活動を今後も引き続き頑張っていこうと思います。

農福連携自然栽培パーティ全国協議会のステークホルダーとの向かい方

取引先との向き合い方
農福師(障害のある方々)

私たちはパーティで活動する障害者を「農福師」と呼んでいます。農福師たちの存在なくして私たちの活動の輪は広がりません。農福師たちが楽しく働く様子を見て、私たちも楽しくなるので、まさに私たちの活動の中心にいつもいる存在です。農福師たちの生き方や農業への向き合い方こそが、自然栽培を楽しくする源であり、醍醐味だと思っています。

公益財団法人ヤマト福祉財団

心身に障害のある人々の「自立」と「社会参加」を支援することを目的に、1993年に設立された財団です。私たちの活動の魅力をご理解いただき、様々なサポートやチャンスを与えてくださっていることに心から感謝をしています。

株式会社ポタジェ

株式会社ポタジェは、「ハーブ農園ペザン -PAYSAN-」の運営や、農福連携における栽培指導を行っている会社です。代表取締役の澤邉さんは農福連携に非常に熱心に取り組んでいる方で、私もたくさん勉強させていただいています。勉強会では、ご自身の体験やノウハウを惜しみなく提供してくれたり、パーティを今後どのように運営していくべきかを積極的に考えてくださる澤邉さんには、いつも非常に感謝しています。
澤邉さんに聞いてみたいことは、今のパーティの雰囲気についてですね。お互いを仲間や友だちと思ってワイワイガヤガヤ運営していくスタイルなので、「今後もこのスタイルで良くない?楽しいよね?」と聞いてみたいです(笑)。

株式会社ポタジェ「農福連携」で障がい者と共に生きるハーブ農園ペザン

ハーブ農園ペザン -PAYSAN-を運営する株式会社ポタジェの記事はこちらからも読むことができます!

佐伯康人さん

まず何よりも、「活動のきっかけを作ってくれてありがとうございます」とお伝えしたいです。佐伯さんと出会ったのは2014年頃です。私が事務局長を務める社会福祉法人無門福祉会では、運営する農業での栽培に行き詰まりを感じていました。当時手弁当で全国へ栽培指導に行っていた佐伯さんに声をかけたところ、すぐに来てくださって自然栽培のノウハウを教えてくれたんです。ちょうど当施設と関わっている時期に、ヤマト福祉財団から先述した自然栽培でお米ができるかという検証事業の話があり、社会福祉法人無門福祉会も事業に参画することになりました。今私が農福連携自然栽培パーティ全国協議会で自然栽培に関われているのも、佐伯さんのおかげだと思っています。

木村秋則さん

「絶対不可能」と言われていたリンゴの無農薬・無肥料栽培を青森で成功させ、自然栽培を広めた方で、この業界のレジェンドです。この方なくして今の自然栽培の発展はありません。ちなみに前述した佐伯さんは、木村さんの著書『リンゴが教えてくれたこと』をきっかけに自然栽培を始められたのだそうです。自然栽培パーティフォーラムという私たちのイベントに青森から毎年来てくださっていることも本当にありがたく思っています。

サン・スマイルさん

埼玉県にある自然食のお店で、「自然栽培の流通といえばサン・スマイル」というくらい有名です。社長の松浦智紀さんは、売り先や業界のことなど全く分からない農業ド素人の私たちのため、流通に関わる仕事を一手に引き受けてくださいました。パーティの野菜セットを作ってくれたり、私たちの活動を広めるためにチラシを作ってくれたりとお世話になりっぱなしです。自然栽培は、野菜が美味しいだけではなく、畑で笑顔が生まれることが醍醐味なのですが、それを理解し、しっかりと伝えるかたちで商品化してくださっていることにいつも感謝をしております。

社員・家族との向き合い方
農福連携自然栽培パーティ全国協議会の事務局スタッフ

事務局スタッフは私を含め、ほとんどが別に本業を持っており、協議会での仕事はプライベートな時間を使ってボランティアでやってくださいます。共通の志や実現したい思いがあるからこそできることであり、今後も頑張っていきたいと思います。いつもありがとうございます、と伝えたいです。

地域社会との向き合い方
地域社会への思い

地域社会における様々な問題を解決するためには、「お金」ではなく「生きる」という本質を忘れてはいけないと思います。幸せのためには、自然や食や環境という自分たちが生きていくうえでのベースが非常に大事です。それらに対して、私たちは自然栽培の農福連携からアプローチしています。衰退する日本の農業を障害者が担うことで、地域の繋がりを生み出し、みんなが幸せに生きていくための新しい価値観を浸透させる。そうした思いで日々活動に取り組んでいます。

地球環境への思い

人間は自分たちの都合で自身の生活基盤である地球環境を揺るがしてきました。「もっともっと」という欲が、自然や生態系に与えた影響は計り知れません。今後必要となるのは、地球は人間だけのものではないと理解し、「ほどほど」に生きていくこと。この謙虚な心は自然栽培を通して学ぶことができます。
 
自然栽培は、自然の力を最大限に尊重した方法であり、虫、植物、動物、人といった全ての存在への配慮があります。自然栽培を行うなかで、利益追求・合理主義が徐々に変わり、自然をないがしろにするのではなく、多くの人が自然に沿った豊かな暮らしができるように変わることができるのではないでしょうか。
 
日本は気候に恵まれており、小さい種をまけばとっても大きい大根がとれます。自然栽培は農業の本当の楽しさを思い出させてくれます。自然栽培を通して、「生きる」ということにみんなが向き合っていければ良いなと思っています。

一般社団法人 農福連携自然栽培パーティ全国協議会理事長磯部 竜太

<プロフィール>

一般社団法人 農福連携自然栽培パーティ全国協議会

http://shizensaibai-party.com/

理事長:磯部 竜太

設立年月日:2016年4月1日

所在地:〒470-0376 愛知県豊田市高町東山7-43(社会福祉法人無門福祉会内)

Tel:0565-45-7883

Fax:0565-45-7886

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ライター:

1991年東京生まれ。中央大学法律学部出身。卒業後は採用コンサルティング会社に所属。社員インタビュー取材やホームページライティングを中心に活動中。

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