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M&A新資格で業界大掃除なるか。「一発アウト」試験も無資格でも業務可能なら何が変わるの?

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M&A業界に資格

4月25日、共同通信が「中小企業買収仲介に新資格 政府、悪質業者を排除」と報じ、話題を呼んでいる。中小企業庁が主体となり、高額な手数料や専門性を欠く助言でトラブルを招く悪質なM&A仲介業者を排除するため、新たな国家資格を創設するという内容だ。

本誌は、検討会で議論されている内部資料を読み解いた。そこから見えてきたのは、国が悪質業者排除へ向けて本気を見せる一方で、M&A業界が抱える構造的な闇と、現場の専門家たちが抱く新資格の実効性への冷めた見方だった。

 

買手と売手は「トレードオフ」。仲介が抱える利益相反の矛盾

資格の難易度や制度設計を論じる前に、そもそも現在の日本の中小M&A市場が抱える構造的な問題に触れておきたい。

大前提として、M&Aにおいて買手(安く買いたい・条件を厳しくしたい)と売手(高く売りたい・条件を緩くしたい)の間には、明確な「トレードオフ」の関係が存在する。双方の利益を同時に最大化することは、論理的に矛盾しているのだ。

にもかかわらず、日本の中小M&A市場では、1つの業者が双方の間に立つ「仲介(両手取引)」が一般化し、公認状態となっている。世界的に見れば、利益相反を引き起こす両手取引が許容されている状況は異端であり、不動産取引などと同様に、将来的には代理人(FA:フィナンシャルアドバイザー)を立てる世界水準の「片手取引」へ近づけていくべきだという批判は根強い。

 

「両手取り」の仲介がいなければ、小規模M&Aは回らない現実

しかし、ここで日本のリアルな実情が立ちはだかる。それは「片手のFAでは、小規模な中小企業の案件はビジネスとして成立しにくい」という現実だ。

企業価値が数百万〜数千万円規模の小さな案件では、片方からしか手数料をもらえないFAのビジネスモデルでは、どうしても採算が合わず手を出せないケースが多い。皮肉なことではあるが、売手と買手の双方から手数料をもらう「両手取りの仲介」業者が全国を駆け回っているおかげで、日本の中小M&Aや事業承継がなんとか前に進んでいるという側面も決して否定できないと言われている。というか仲介の事業者の言い分は大抵こうだろう。

ただ、検討会の資料にはM&A手数料を巡る現場の生々しい悲鳴が記録されている。

 

「当初、2,000万円の手数料が提示されたため、納得できない旨を業者へ話したところ、500万円に減額してきたため、不信感を覚えた」 「仲介業者としては早くこのディールを終わらせたいという動機が強いため、補助金や税制の話をしてくれる人があまりいなかった」

有資格の宅建士と比較してもサービス品質が低く、対応が遅いという苦情も寄せられている。成約さえすれば巨額の「成功報酬」が転がり込む仕組みゆえに、顧客の利益よりも自社の手数料とスピードを優先する悪質な実態だ。

理想は世界水準のFA化だが、それを強行すれば街の小さな企業のM&Aが減少してしまう。このジレンマの中で、国は「まずは悪質な仲介業者を資格制度でふるいにかける」という苦肉の策に打って出たと言える。

 

難易度は“ITパスポート級”、しかし「倫理」には容赦なし

では、その新資格はどのような内容なのか。検討会の資料によれば、試験の難易度は「一般的な社会人が一定期間の学習を行えば合格できる水準」を想定しているという 。業界関係者の間で「情報処理試験でいうITパスポートのような位置づけ」と囁かれている通り、すでに実務を行っている人間にとっては決してハードルの高いものではない。

しかし、注目すべきは「倫理観」への強烈なメスだ。試験科目には「倫理・行動規範」が組み込まれ 、悪質なトラブル事例を参考に、ガイドラインに明らかに違反するような行為を「禁忌肢(選んだら一発アウトの選択肢)」として設定することが検討されているようである。

さらに、弁護士や公認会計士といった国家資格を持つ者であっても、M&A関連の全知識に精通しているわけではないとして、試験の免除は一切行わない方針で一致している。

 

致命的な弱点「独占業務の不在」で、まともな業者が馬鹿を見る?

基本の基本を押さえ、倫理観の欠如した業者を排除するという方向性自体は評価できる。しかし、この新資格には致命的な弱点がある。

それは、この資格が「既存の業法に基づく独占業務の実施を可能とするものではない」と明記されている点だ。「この資格がなければM&A仲介をしてはいけない」という法的な縛りがない以上、無資格でも業務は可能であり、悪徳業者を根絶する効果は限定的にならざるを得ない。

結果として、コストと手間をかけて新資格を取得し、定期的な講習を受講して規律を守る“まともな業者”ばかりが負担を強いられ、「正直者が馬鹿を見る」ディストピアになりかねないとの懸念は現場からすでに噴出している。さながら難関資格であるわりにはそれでお金が生み出せるわけではない中小企業診断士の資格みたいなものなのだろう。

 

国が無法地帯の浄化に動き出したことは一歩前進だ。しかし、仲介という利益相反の構造的矛盾を抱えたまま、独占業務のない資格だけを導入して、本当に中小企業の未来は守れるのか。

事業承継が円滑に進まないことで、公器性の高い企業も消えていく時代。中小企業にサクセッションを考える余裕はないなかで、M&Aの活性化が最適解なことは明白なわけで、今後の制度設計の行方が、日本経済の足元を左右することになる。

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寒天 かんたろう

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ライター歴26年。月刊誌記者を経て独立。企業経営者取材や大学、高校、通信教育分野などの取材経験が豊富。

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