
薄曇りの金沢駅から車で15分。倉庫のように無骨な本社ビルのエントランスで、社員が両腕を使って抱えるほど厚い報告書を配っていた。第三者委員会が4月18日付でまとめた121ページの調査報告書だ。ページをめくると循環取引を示す図表は確かに並んでいる。
だが、肝心の金額欄はことごとく黒塗り。数字の“心臓部”だけがごっそり抜け落ちていた。公表版には「プライバシー及び機密情報等を保護する観点から、部分的な非開示措置を施した」とある。
“数字だけが回る”古典的在庫スキーム
委員会が摘発したのは、グループ会社ディーズセキュリティ(DSS)と取引先が同日に商品を売買し、月末に売上と仕入を同時に計上する古典的な在庫スキームによる循環取引だった。日本経済新聞も「商品の受け渡しを伴わず売り上げに計上した」と報じ、会計基準として採用していた“出荷基準”を踏み外していた点を指摘する。深夜2時、「あと○○億回せ」。LINEで飛び交う短い指令が、倉庫を動かさずに会計ソフトの数字だけを走らせた。
経営陣の「認識」と動かなかった取締役会
日経は「一部取締役が事実を把握しながら必要な対応を取らなかった」と報じた。報告書も、社内チェック機能の形骸化と“成長プレッシャー”が粉飾を温存したと結論づけている。トップの沈黙は、そのまま監視不在の証拠になった。
金額非開示が孕む“ブラックボックス”
ダイワ通信の連結売上高は2024年3月期で51億5,981万円。薄利体質の同社にとって、数億円規模の水増しでも純利益を一変させる。それでも委員会は金額を伏せたまま、「決算短信を訂正する時点で開示する」と述べるに留めた。投資家は比率すら試算できず、企業価値を測る定規は宙づりになった。
再発防止策“人事評価に順法精神”という日経の追加情報
委員会は内部監査の強化やIT在庫管理の一元化を提言したが、日経はさらに「ルール順守の姿勢を人事評価項目に加える」「暫定措置として社外人材を受け入れる」案が盛り込まれたと報じている。黒塗り決算を正すと同時に、組織文化そのものを作り替える手術が求められている。
黒塗りが外れる日
修正額の算定には監査法人との突き合わせが不可欠で、過去数期にさかのぼる恐れもある。時間が延びれば、格付けや仕入先の与信が締まる。黒塗りが外れ、“真水”の損益計算書が示された瞬間、初めて市場はダイワ通信を値踏みできる。逆に言えば、それまでは疑念が株価チャートに居座り続ける。
数字はいまも回り続けている。倉庫が静かなままなら、その音を止めるのは、塗りつぶされた金額を明かすことしかない。