
親の扶養に入っている子どもや配偶者が、アルバイトなどで収入を得る際には、「扶養の範囲内」に収めるべき年収額に注意が必要である。いわゆる「年収の壁」を超えてしまうと、税金や社会保険料の負担が増え、手取りが大きく減ってしまうケースもあるためだ。
特に高校生や大学生などが繁忙期の勤務増加によって収入が想定を上回ることも珍しくなく、うっかり「130万円の壁」を超えてしまうこともある。本稿では、扶養に関わる年収の壁について、その種類と影響、一時的に壁を超えてしまった場合の対応策について、最新の制度改正も交えて詳しく解説する。
税金・保険・手当に関わる「3つの年収の壁」
年収の壁は、以下のように大きく3つの領域に分けられる。それぞれが異なる制度に関係しており、扶養や手取りに与える影響も異なるため注意が必要である。
- 税金
- 100万円の壁:住民税の支払いが発生する。
- 103万円の壁:所得税の支払いが発生し、親の扶養控除の対象から外れる。
- 社会保険
- 106万円の壁:従業員数が51人以上の企業で、週20時間以上などの条件を満たすと、健康保険・厚生年金の加入義務が生じる。
- 130万円の壁:社会保険上の被扶養者から外れ、自身で国民健康保険・国民年金に加入する必要がある。
- 配偶者手当
- 103万円・130万円の壁:企業独自の配偶者手当・扶養手当などの支給対象から外れることがある。
130万円の壁を超えるとどうなるのか?
扶養に入っている子どもが年間収入130万円を超えると、原則として社会保険上の被扶養者から外れることになる。これにより、健康保険や年金の保険料を自分で負担する必要が生じ、実質的な手取りが大きく減る可能性がある。
たとえば、親が会社員で健康保険組合に加入している場合、子どもがその被扶養者として扱われるには、年間130万円以下の収入に抑える必要がある。
一時的な超過ならセーフ?政府の新制度とは
2023年10月から始まった「年収の壁・支援強化パッケージ」によって、一時的に130万円を超えても扶養を外れずに済む制度が導入された。たとえば、12月の繁忙期にアルバイトのシフトが増えて一時的に収入が上がった場合などが対象となる。
この対策を利用するには、勤務先が「一時的な収入増加」であることを証明する書類を作成し、親が加入する健康保険組合などに提出する必要がある。ただしこの制度は原則として2年連続までしか適用されず、毎年の収入確認においても制限がある点には注意が必要である。
103万円の壁は「扶養控除」――所得税負担の境目
103万円の壁は主に所得税の課税最低限に関わるものである。年収がこの額を超えると所得税が発生し、同時に親の扶養控除の対象から外れるため、親の税負担が増えることになる。
ただし、2025年の税制改正により、この103万円の壁が160万円まで引き上げられる見通しとなった。すでに衆議院では改正案が可決されており、今後はこの基準の引き上げによって扶養内で働ける範囲が広がることが期待される。
それでも130万円を超えると社会保険の扶養から外れるため、税金の壁と保険の壁は分けて考える必要がある。
扶養を外れないために注意すべきポイント
扶養内で収入を抑えながら働くためには、事前の見積もりと定期的な確認が鍵になる。以下に具体的な注意点を示す。
- 年間収入を早めに試算する
時給・月の勤務時間・月数から年間収入を事前に計算。夏休みや年末年始の繁忙期なども想定に入れる。 - 130万円の手前で余裕を持つ
想定外の残業や時給増があることを考慮し、年間120万円程度を目安に抑えるのが安全。 - 月ごとの収入管理とシフト調整
収入推移を毎月チェックし、必要ならシフトを調整。収入が急増しないようにコントロールする。 - 一時的な収入増は証明書で対応
130万円を超えた場合でも、勤務先が「一時的な増加」と証明すれば扶養を継続できる制度がある。 - 最新制度の動向に敏感になる
税制改正などにより扶養の基準が変わる可能性があるため、常に最新の制度を確認しておく。
まとめ
親の扶養に入って働く子どもや配偶者は、「103万円」「106万円」「130万円」といった年収の壁を意識する必要がある。特に130万円を超えると社会保険料の支払いが発生し、扶養を外れるリスクが高まる。
ただし、2023年以降は一時的な超過であれば扶養を継続できる支援制度も始まっており、柔軟な対応が可能となった。今後、税制改正などによる扶養条件の緩和も期待される中で、最新の制度と自分の働き方を照らし合わせて判断することが求められる。