
子ども服大手「バースデイ」の公式Xアカウントが、我が子の「面白い変顔」写真の投稿を呼びかけた一件が、思わぬ波紋を広げている。子どもの顔写真を安易にネットへ公開することへの危うさ、とりわけ生成AIによる悪用リスクへの不安が社会的に高まるなか、「大企業がそれを呼びかけるのか」という批判が殺到した。
一方で、呼びかけに応じて我が子の顔をそのまま投稿する親も現れ、議論はさらに複雑な様相を呈している。
バースデイ公式Xの「変顔見たい」投稿に批判集中
しまむらグループが展開するベビー・子ども用品店「バースデイ」。全国に約300店舗を構える子育て世代の定番ブランドだが、その公式Xアカウントが2026年10月8日に投稿した一文が、批判の的となっている。
投稿は「すみません、お子様の『めちゃくちゃ面白い変顔』が見たいです。」という呼びかけで、ハッシュタグとともにフォロワーに我が子の写真投稿を促す内容だった。表示回数は約469万回に達し、リプライ欄には短時間で100件を超える反応が寄せられた。
しかし、集まったのは企業が期待したであろう微笑ましい写真ばかりではなかった。大半を占めたのは、子どもの顔写真をネット上に公開することへの強い懸念と、それを公式アカウントが呼びかけたことへの批判である。
ある利用者は「子ども服企業がネットに赤ちゃんや子どもの顔画像をのせるのを推奨するのはやめたほうがいいと思います。犯罪目的で使われる可能性もあります」と投稿。別の利用者も「ディープフェイクが蔓延してる昨今に子供の顔写真をネットにアップさせるよう促す企業どうかしてる」と、企業姿勢そのものを問題視した。
なぜ批判が集まったのか 子どもの顔とディープフェイクという現実
今回の反応の背景には、子どもの顔写真をめぐる、もはや無視できない水準に達したリスクがある。
警察庁が2026年8月に公表した数字は、その深刻さを端的に物語る。報道各社の伝えるところによると、生成AIなどで実在する子どもの画像を性的に加工した、いわゆる性的ディープフェイクについて、警察が2026年上半期(1〜6月)に対応した件数は123件にのぼった。前年同期の60件からおよそ倍増し、2025年の年間件数114件を、わずか半年で上回った計算になる。被害者の9割超を中高生が占めるという。
特別な技術や高額な機材は、もはや必要ない。無料で使えるツールと、ネット上に公開された一枚の写真さえあれば、こうした加工は成立してしまう。親が何気なく投稿した我が子の写真が、悪意ある第三者の「素材」となり得る時代に入っている。
リプライ欄でこうした懸念が繰り返されたのは、こうした現実を多くの保護者が肌で感じているからにほかならない。「安易に顔や特定されやすいものはネットで晒さない、我が子なら尚更、と今まで学んできました」という投稿は、その学習の積み重ねを端的に示している。
さらに利用者の不安を増幅させたのが、顔写真を無断で性的な動画や画像に加工してしまうサービスやアプリが、現実に出回っているという事実だ。SNS上でも、2026年に相次いだこうしたサービスへの懸念が改めて共有された。本記事ではサービスの詳細には触れないが、他人の顔写真一枚から本人の同意なく性的コンテンツを生成する手口が、法規制の整備を待たずに広がっている点は、看過できない問題である。
「載せる親もどうか」 呼びかけに応じた投稿にも波及する議論
議論は、企業への批判だけにとどまらなかった。
批判が渦巻くリプライ欄に、呼びかけ通り我が子の顔写真をそのまま投稿する親が現れたことで、矛先は一部の保護者にも向かった。「『そーだそーだー載せてる人全然いないわ』ってスクロールしてったら、どうぞと載せてる人普通に頭抱えた」という投稿に象徴されるように、リスクを指摘する声が大勢を占めるなかで実際に投稿する保護者の存在は、別種の戸惑いを呼んだ。
なかには投稿者を強い言葉で揶揄する反応も見られたが、こうした保護者批判は、企業が投稿を呼びかけたという構図を抜きには語れない。公式アカウントという信頼性を背景に促された行為である以上、責任の所在を個々の保護者だけに帰すのは一面的だろう。
また、生成AIをめぐる皮肉な指摘も目を引いた。ある利用者は、AIが生成する子ども画像は整った顔立ちのものに偏りがちだとしたうえで、「食わせる用の素材欲しいのかも」と、実在する多様な表情の写真が学習データとして収集される可能性に言及した。真偽はともかく、企業の呼びかけがそうした疑念と結びつくほど、AIと顔写真をめぐる不信が社会に根を張っていることがうかがえる。
繰り返される「バースデイ」炎上 企業に問われる感度
バースデイをめぐっては、近年SNS上での炎上が続いている。
2024年7月には、現代美術作家の加賀美健氏とのコラボ商品で、子ども向け衣料に「パパはいつも寝てる」「パパは全然面倒みてくれない」といった文言を印字し、父親への性差別を助長するとの批判が殺到。ファッション専門メディアのFashionsnapによると、同社は発売からわずか1日で販売中止を決定し、公式Xで謝罪に追い込まれた。
子どもを顧客の中心に据えるブランドでありながら、その子どもをめぐる感度が問われる事態が、形を変えて繰り返されている。今回の件も、担当者に悪意があったとは考えにくい。むしろ、フォロワーとの親密な交流を狙った、ごく気軽な投稿だったのだろう。だが、その気軽さこそが問題の核心にある。
子どもの顔写真が置かれた環境は、数年前とは様変わりした。Grokなどの生成AIに実在女性の画像を性的に加工させる指示が相次ぎ、著名人の顔を使った加工画像が社会問題化したのも、記憶に新しい。被害は著名人にとどまらず、同級生の写真を加工する中高生の摘発も現実に起きている。そうした時代に、子ども向けブランドが我が子の顔出しを広く呼びかけることの危うさは、企業側の想像を超えていたと言わざるを得ない。
作り手の善意と、受け手のリスク感覚の乖離
今回の騒動が浮き彫りにしたのは、企業のSNS運用における善意と、ユーザーのリスク感覚との間に横たわる、埋めがたい溝である。
親しみやすさを身上とするブランド公式アカウントにとって、フォロワーとの双方向のやり取りは生命線だ。子どもの可愛らしい写真を募る企画は、これまでなら温かな交流を生む定番の手法だったかもしれない。しかし、その前提は確実に崩れつつある。顔写真というきわめて個人的なデータが、本人の与り知らぬところで悪用され得る以上、企業がその公開を促すこと自体に、慎重な配慮が求められる段階に入った。
本稿執筆時点で、バースデイおよびしまむら側からの公式な見解は確認できていない。今回の投稿を企業がどう受け止め、どのような対応をとるのか。一過性の炎上として流れていくのか、それとも、企業がユーザーに顔写真の公開を促すことの是非を、業界全体が見つめ直す契機となるのか。子どもを守るべき立場にあるブランドだからこそ、その対応が注視されている。



