
今年4月、ついに自転車の交通違反に対しても「青切符(交通反則通告制度)」が導入された。長年、野放しにされてきた危険な自転車運転にメスが入った形だが、現場からは「命の危険」を訴える悲鳴が上がっている。
朝日新聞が実施した全国世論調査によれば、この青切符制度の導入について「よかった」との回答が67%を占めた。一見すると国民の多くが歓迎しているように思えるが、その内訳を見ると不気味な“分断”が浮かび上がる。
「よかった」と答えた割合は、70代以上で77%、60代で79%と高齢層で圧倒的だ。一方で、日常的に自転車を通勤・通学や子育てで利用する現役世代の40代は50%、20代以下に至っては47%と半数を割っている。つまり、「車道を走る自転車や、歩道を猛スピードで走る自転車を危険だと感じる高齢者」が賛成票を投じている側面が強いのだ。
「轢き殺してしまいそうで怖い」ドライバーたちの本音
今回の義務化により、悲鳴を上げているのは自転車ユーザーだけではない。日々ハンドルを握る自動車のドライバーたちもまた、予期せぬストレスと恐怖に直面している。
都内を営業車で走り回る40代の男性ドライバーは、疲労困憊の表情でこう語る。
「正直、毎日生きた心地がしませんよ。車道をフラフラ走る自転車、特に子どもを乗せた電動アシスト自転車が、歩道から急に車道に降りてくると本当にヒヤッとします。 今回から『自転車を追い抜く時は1.5m空ける』と言われていますが、都内の狭い道でどうやって空けるんですか?対向車線にはみ出すわけにもいかないし、結果的に自転車の後ろをノロノロ走るしかなく渋滞ですよ。
ルールだからと無理に車道を走らされて、万が一接触でもしたらこっち(車)が重過失にされる。たまったもんじゃないです」
車道を共有するには、あまりにも道路幅に余裕がない日本の現状が、ドライバーたちを追い詰めている。
歴10年のロードバイク通勤者が語る“無法地帯”
一方で、法改正以前から車道を日常的に走ってきた層からは、また違った視点の怒りが聞こえてくる。都内へロードバイクでの通勤を10年以上続けている30代の会社員男性は、現在の車道を「カオス」だと切り捨てた。
「僕らスポーツバイク乗りは昔から車道の一番左を走ってきましたが、ここ最近の無法地帯っぷりは異常です。ルールの急な押し付けで、後方確認の癖もハンドサインの知識もない一般の自転車が、突然車道になだれ込んできたんです。ルールや車の動きを理解していない人が車道を走るのは、はっきり言って『動くシケイン(障害物)』です。その上、車道が詰まることでドライバーのイライラもピークに達していて、僕らまで無理な幅寄せをされることが増えました。
インフラ整備も交通安全教育もまったく追いついていないのに、現場にだけ『車道を走れ』と丸投げされている感覚ですね」
自動車の違反激減で、新たなターゲットは自転車?
ネット上では、このインフラを無視した厳罰化に対して警察の“思惑”を疑う声が後を絶たない。
あるユーザーはSNSでこう吐き捨てる。
- 「交通警察が『自動車やバイクが近年は交通違反してくれないからノルマ達成できません』と言っているようなもの。国民なんて違反切符を切りまくって金を徴収するだけの金ヅルとしか見てない」
事実、警察庁の統計データを見れば、その疑念も頷ける。平成に入ってから、速度超過や酒気帯びをはじめとする交通違反の取締件数(総数)は、ここ十数年で右肩下がりに激減しているのだ。優良ドライバーが増え、車の安全性能が向上した結果だが、反則金という“財源”が細っているのも事実だ。
その一方で、自転車の検挙件数は平成27年から右肩上がりに増加し、令和5年には約5.4万件と急増している。全体の取締件数が減る中、「自転車」が新たなターゲットにされていると勘繰られても仕方がないデータだ。
「法律を守っていれば死ぬ時代」
そして最も深刻なのが、原則義務化された「車道走行」に伴う命の危険だ。日本の道路インフラは、自転車が安全に車道を走れるように設計されていない場所が圧倒的に多い。
「法律を守っていれば死ぬ時代になってしまった」 SNSに投稿されたこの言葉は、決して大げさではない。交通ルールを熟知していない中高生や子どもたちが、トラックがビュンビュン行き交う車道に放り出されればどうなるか。
「学生や子どもが車道で自動車と事故になり、大きく報道されてから、日本の道路環境と今の法律のジレンマが改めて議論される気がする。人が死ぬ前に整備できたらいいんだけど……」
切実な声は国や警察に届くのか。自転車専用レーンの整備という根本的なインフラ問題を放置したまま、「反則金徴収」と「ルールの押し付け」を先行させる交通行政。このままでは、悲惨な事故が起きてから「だから言ったじゃないか」と嘆く未来しか見えない。



