
9月19日に全国公開された妻夫木聡主演の映画『宝島』が、早くも厳しい船出となっている。製作費25億円、主演級俳優を総動員し、全国キャラバンまで打つ入魂作だったが……公開3日間の興収は約1.6億円で初登場7位。
同日公開の『劇場版チェンソーマン レゼ篇』が12億円超を叩き出すなか、目立たないスタートとなった。さらに監督・大友啓史氏のSNS対応が炎上を招き、作品そのものの評価を揺るがしかねない状況だ。
『国宝』の成功を追った東宝の誤算
『宝島』は直木賞作家・真藤順丈による小説を原作に、米統治下から返還までの沖縄20年を描く青春群像劇。妻夫木聡を筆頭に、広瀬すず、窪田正孝、永山瑛太ら豪華キャストが揃う。
25億円の製作費は、2025年6月6日に公開され大ヒットを記録した『国宝』の倍にあたる。
『国宝』は公開当初こそ動員が鈍かったが、観客の口コミが火をつけ、最終的には200億円を突破する“歴史的ヒット”へと成長した。東宝はその成功体験を再現しようとしたに違いない。しかし現状『宝島』は同日公開の『チェンソーマン』に蹂躙され、さらにロングラン中の『国宝』にまで数字で負ける屈辱を味わっている。
191分の“超長尺”に観客が尻込み
観客動員が伸び悩む大きな理由のひとつが、191分という上映時間だ。175分の『国宝』でさえ「長すぎる」と敬遠された前例があり、今回はさらに16分も上積み。映画ライターは「観客にとって“3時間超え”は心理的ハードルが高い」と冷静に分析する。
さらに不運なのは、東宝が『国宝』『8番出口』といった既存ヒットを抱えているため、TOHOシネマズの大スクリーンがそちらに割かれ、『宝島』は公開初週から小規模上映に追い込まれた点だ。せっかくの大作も、観られる環境そのものが限られていた。
沖縄では絶賛、全国では賛否両論
舞台となった沖縄では上映回が満席続き。《この時代を描いてくれた勇気に感謝》といった声がSNSに並び、県民からは歴史を映画化したことへの評価が高い。長らく触れられてこなかった地域の記憶を作品化した意義は確かに大きい。
しかし全国的な評価は真っ二つだ。
《191分の長尺にしては飽きずに観られたけど、話が薄い》
《原作にあった狂熱とサスペンスを削いだ191分》
絶賛と酷評の両極端に分かれ、話題性こそ十分だが、興行の数字は酷評に引っ張られている。
大友啓史監督の“ふーん騒動”が波紋
映画公開初日から世間をざわつかせたのは、作品の中身以上に監督のSNSでの一挙手一投足だった。大友啓史監督は、自身のX(旧Twitter)で『宝島』を称賛する声を積極的にリポスト。一見すれば“手応えあり”と受け取れるが、問題は批判的な感想への対応だった。ある一般ユーザーが辛口レビューを投稿した際、監督はわざわざ《ふーん》とだけ返信。素っ気なく、挑発的とも映る一言が瞬く間に拡散され、炎上の火種となった。
このやり取りにより、映画ファンの間では「観客を見下しているのでは」という不信感が広がり、《観るつもりだったが監督の態度で気が失せた》という声まで出る事態に。せっかく初日に駆けつけた観客の好意を、監督自らが踏みにじった格好だ。
皮肉なのは、過去の実績との落差である。
大友監督といえば『るろうに剣心』シリーズで実写アクションの金字塔を打ち立て、日本映画の新境地を切り開いた人物。『プラチナデータ』『3月のライオン』など多彩な題材を手がけ、観客との信頼を築いてきた。そんな名匠が、いまや一観客を相手に“うざ絡み”する姿を見せたことに、失望するファンは少なくない。
X上では《剣心の監督がこれじゃ夢が壊れる》《プロの自覚が足りない》と批判が殺到。先日チョコレートプラネット松尾の「素人はSNSをやるな」発言が物議を醸したが、それをもじり《むしろプロこそSNSをやるな》と揶揄する声まで飛び交った。監督の不用意な一言が、作品に冷や水を浴びせてしまったのである。
意欲作か、赤字の悪夢か
沖縄を舞台にした大規模映画化という試みは、間違いなく意義深い。だが、現時点での興収1.6億円スタートと、監督の炎上騒動が重なり、今後の展開は不透明だ。奇跡的な口コミ拡大で再浮上する可能性もあるが、このままでは25億円の巨額投資が“赤字の象徴”と語られるリスクが濃厚である。
皮肉にも、作品の未来を左右するのは、監督が《ふーん》と軽んじた一般観客の声にほかならない。