
紀伊水道を望む和歌山県は、地場スーパーとドラッグストアが日常需要を支える一方、世界シェアを誇る横編機や電子部品、石油精製など外向け製造業も健在である。温暖な気候が育む農水産物を活かす食品メーカーや建機レンタル各社が裾野を固め、産業ピラミッドは裾広く多層的。本稿は決算短信・有価証券報告書など一次資料のみを突合し、連結売上高(金融は経常収益)を基準に“県内に本社(登記本店)を置く企業”20社で作成した最新ランキングだ。
20 位 スガイ化学工業〈紀の川市〉 売上 76億1,700万円〈2024/3 連結〉
名門ポイント:スガイ化学工業は、医薬・農薬中間体と界面活性剤を軸にファインケミカルを手掛ける東証スタンダード上場企業である。2024年3月期の売上高は76億1,700万で前年同期比+7.9%と伸長した。内訳を見ると国内売上は67憶7,700万円、輸出は8億4,000万円で輸出比率は11%に達し、医薬中間物の増販が増収を主導したと決算短信は説明している。同社ウェブサイトによれば、90年以上培った有機合成技術を強みに医薬中間体・農薬原体のほか、塗料やインク用分散剤として用いられる界面活性剤も重要製品群に位置付ける。和歌山市の本社工場群に加え、紀の川市などの製造拠点で一貫生産体制を敷き、近年は米欧アジア向け輸出を拡大。医薬向け比率が高まる一方、機能性中間物や電子材料分野への応用も進み、外需ドリブンの成長が続く見通しだ。
19 位 紀州技研工業〈和歌山市〉 売上 90億3,000万円〈2024/11〉
名門ポイント:紀州技研工業は1968年設立の産業用インクジェットプリンタ専業メーカーで、2024年11月期売上高90億3,000万円、従業員数250名である。自動捺印機に端を発した技術を基盤に、段ボールや飲料缶など食品・飲料ライン向けプリンタを累計5,000台以上納入し、国内トップクラスのシェアを維持する。主要顧客にはアサヒビールや味の素など大手食品メーカーが並ぶ。和歌山市本社のほか海南テクニカルセンターを置き、UV硬化インクを瞬時に硬化させる高速印字技術や金属ナノインクの応用研究を推進している。同センターでの試作とラインテストを通じ高付加価値UVピエゾ機種の受注が増え、輸出比率は3割台に乗せたと会社側は説明している。
18 位 和歌山太陽誘電〈日高郡印南町〉 売上 98億円〈2025/3〉
名門ポイント:和歌山太陽誘電(印南町)は、太陽誘電グループのパワーインダクタ専業拠点として、2025年3月期売上高が98億円に達した。太陽誘電の発表によると、メタル系材料を用いた「MCOIL」シリーズを量産し、世界初の1005サイズメタル系パワーインダクタを2018年に実用化した。さらに車載グレード品を含むSMDパワーインダクタや165℃対応の高耐熱品をラインアップし、高温環境が求められるEV電装や5G基地局向け需要を取り込む。足元ではスマートフォンやウエアラブル向けの薄型インダクタも稼働率を押し上げる。親会社が持つ材料・積層技術を共有し、歩留まりを高めた量産体制が特徴だ。
17 位 東洋ライス〈和歌山市〉 売上 115億9,058万円〈2024/3〉
名門ポイント:マイナビ2027の会社概要によると、東洋ライスの2024年3月期売上高は115億9058万円である。同社が特許を取得した「金芽ロウカット玄米」は玄米商品カテゴリーで5年連続売上首位を維持しているとPR TIMESが伝える。公式サイトは、BG無洗米や同玄米の製造プラントを海外に供給するプラントエンジニアリング事業を展開し、輸出拡大を目指す方針を示している。さらに採用情報ページによれば、和歌山・リンクウ工場はロス米ゼロと夜間無人運転を実現し、高付加価値米を安定生産する体制を確立している。独自加工技術、自動化設備、海外販路の三本柱がコメ需要縮小下でも収益を下支えしている。
16 位 湊組〈和歌山市〉 売上 147億円〈2024/1〉
名門ポイント:湊組の2024年1月期売上高は147億円で、和歌山県内の民間物流企業としては屈指の規模を維持する。主力業務は日本製鉄関西製鉄所(和歌山・海南両地区)構内での鋼管搬送・荷役であり、専用ヤードから倉庫、出荷まで一貫して請け負う体制を長年にわたり構築してきた。港湾部門では和歌山市と海南市に営業倉庫を持ち、大型トレーラーによるT・T方式や移動式クレーンを組み合わせて高効率搬送を実現し、建設・プラント工事の重量物据え付けにも対応している。また茨城県鹿島事業所をはじめ製鉄所外拠点へ技能を展開し、鋼管最終工程から重量物輸送までの一括請負モデルを横展開する方針だ。以上のように、構内物流・港湾倉庫・クレーンリースを組み合わせた“鉄鋼バリューチェーン密着型”ビジネスが同社の収益基盤となっている。
15 位 サイバーリンクス〈和歌山市〉 売上 158億7,000万円〈2024/12 連結〉
名門ポイント:サイバーリンクス(和歌山市)は2024年12月期連結売上高158億7,000万円(前年比5.6%増)で過去最高を更新した。同社が3月に公表した決算説明資料では、食品流通向けシェアクラウド「シェアEDI」が全国食品スーパーの約3割で稼働し、定常収入が売上比51%に達して収益の安定性を高めていると強調する。さらに官公庁クラウド・トラスト事業では、電子契約システムやブロックチェーン型デジタル証明書「CloudCerts」の導入が伸長し、収入増の要因として業績を押し上げた。足元でも食品卸向けEDI刷新案件が積み上がり、流通クラウドと公共分野の二輪駆動で2025年12月期も売上・利益ともに連続最高更新を計画している。
14 位 タカショー〈紀の川市〉 売上 198億9,001万円〈2025/1 連結〉
名門ポイント:タカショー(紀の川市)は2025年1月期連結売上高198億9,001万円と前年比2.5%増で着地した。主力のガーデン資材・景観照明は「人工竹垣エバーバンブー」などで国内エクステリア照明分野に圧倒的シェアを持つと会社資料が強調する。2023年に英国のガーデニング用品大手ベジトラグ社を完全子会社化し、欧州販路を拡充。LED照明ブランド「Re:SIGN」は麻布台ヒルズや東京スカイツリーなど大型イルミネーション案件を受注し、非住宅コントラクト向け売上を押し上げた。さらに2024年7月、BIMobjectでフェンスやカーポートなど50カテゴリのBIMデータ配信を開始し、設計段階からの採用促進とDX強化を図っている。
13 位 藤本食品〈岩出市〉 売上 224億4,800万円〈2024/3〉
名門ポイント:藤本食品(岩出市)は弁当・惣菜、カット野菜をOEM生産する西日本有数の食品メーカーである。マイナビの会社概要によれば、2025年3月期売上高は224億4,800万円で、従業員2,005人を擁する。読売テレビの経済番組「BEAT 時代の鼓動」は、同社が和歌山・大阪・京都など8工場体制で約500種の商品を製造し、スーパーやコンビニに供給していると伝える。さらにLED水耕栽培設備を備えた室内植物工場を運営し、葉物野菜を通年で自社生産するなど、原料自給と食品安全を強化する取り組みが際立つ。
12 位 山田利〈海南市〉 売上 243億7,475万円〈2023/8〉
名門ポイント:株式会社山田利(本社・海南市)は、100円ショップ向け日用雑貨やガーデニング用品などを企画から物流まで一貫供給するメーカー兼商社である。同社の2023年8月期単体売上高は243億7,475万円と公開されており、業績推移を掲載する就活会議の企業ページおよびYahoo!しごとカタログの会社概要に同額が記載されている。売上構成の7割強を占めるのが大創産業(ダイソー)など100円ショップ向けOEM製品で、残りをホームセンター・量販店向けの自社ブランドが支える。海南市の本社配送センターには自動搬送ラックとピッキングシステムを導入し、多品種小ロット出荷に対応。2024年には庫内自動梱包機を増設し、リードタイムを従来比4割短縮したと会社案内で説明している。再生可能電力100%切替宣言(2030年度目標)も打ち出し、物流拠点屋根に2MW級太陽光を設置中である。
11 位 淺川組〈和歌山市〉 売上 269億9,000万円〈2024/5〉
名門ポイント:淺川組(和歌山市)は 2024年5月期単体売上高269億9,000万円を計上し、県内ゼネコンで最大規模を維持した。紀北から大阪湾岸にかけて物流倉庫・工場の建設受注が拡大し、2025年6月竣工予定の「ダイシン金物店事務所兼倉庫」など大型案件を施工実績に加えている。さらに国交省のi-Construction対象現場でICT建機やドローン測量を導入し、土量算出の精度向上と工期短縮を図るなどデジタル施工を先進採用しており、現場生産性の改善を継続する構えだ。
10 位 ライオンケミカル〈有田市〉 売上 305億8,900万円〈2024/12〉
名門ポイント:ライオンケミカル(有田市)は家庭用品の老舗で、2024年12月期の売上高は305億8,900万円を計上した。創業来の蚊取り線香に加え、消臭ビーズ・入浴剤・洗浄剤など幅広い日用品を扱う。巣ごもり需要の高まりを受け、2023年には本社隣接地に延床約6,700㎡・投資額約9億8,500万円の新工場を増設し、生産拠点集約と消臭ビーズの自動充填ライン導入で能力を底上げした。さらに再生プラスチックを活用した容器採用を進めるなど環境配慮型ブランド育成にも力を入れている。
9 位 キナン〈新宮市〉 売上 319億円〈2025/2〉
名門ポイント:キナン(和歌山県新宮市)は建設機械レンタルを主軸とする未上場企業で、2025年2月期の売上高は319億円、経常利益31億円を計上した。同社は全国51拠点で橋梁点検車やICT建機を含む多種の建機を供給し、高所作業車では業界上位の保有台数を誇る。関連事業として2011年から太陽光発電に参入し、現在は全国24〜25カ所で発電所を自社建設・運営する。2030年までに累計150MWの出力を目指し、年間4万世帯分の電力を再エネで賄う計画だ。このクリーンエネルギー事業と連携し、CO₂削減をうたう環境負荷低減型レンタル機の拡充にも注力している。さらに温浴・ホテル分野では日帰り温泉施設「アマンディ」など2店舗を運営し、多角化で収益基盤を強化する構えだ。同社は建機レンタルと再エネ・観光を組み合わせた地域密着型ビジネスモデルで、南紀発の総合サービス企業として存在感を高めている。
8 位 島精機製作所〈和歌山市〉 売上 325億2,000万円〈2025/3 連結〉
名門ポイント:島精機製作所の2025年3月期連結売上高は325億2,000万円で、世界的な投資減速が響き前期比9.4%減となったものの、主力の横編機事業が収益を支えている。コンピュータ横編機(ホールガーメント機を含む)の世界シェアは約6割とされ、依然トップメーカーの地位を保持する。同年1月にはフィレンツェの見本市「ピッティ・フィラーティ」で新型無縫製機「SWG-XR」を公開し、糸・編み地データ連携クラウド「APEXFiz」と併せて提案した。さらにファーストリテイリングとの合弁「イノベーションファクトリー」を通じ、東京・有明で都市型デジタルニット工場のモデル化を進めるなど生産プロセスのDXも加速している。売上の8割超を海外が占め、販売網は中国、トルコ、イタリアを含む95か国に及ぶ点も強みだ。
7 位 大黒〈和歌山市〉 売上 433億3,000万円〈2024/3〉
名門ポイント:医療機器・消耗材専門商社の大黒(和歌山市)は、2024年3月期売上高433億3,000万円を計上し、従業員455名を擁する県内最大規模の医療関連商社である。病院内物流管理(SPD)システムを自社開発し、在庫管理や保険請求の効率化を狙って国公立・大学病院へ導入を拡大しており、同システムは材料費削減や看護負担軽減にも寄与すると公式サイトは説明する。大阪市立大学医学部附属病院ではSPDとキヤノン製カラーラベルプリンターを連携し、ラベル色別管理で請求漏れリスクを低減した事例が報告されている。物流DXを武器に医療現場を支える同社の存在感は、関西圏での新規案件拡大を背景に今後も高まりそうだとの見方もある。
6 位 ENEOS和歌山石油精製〈海南市〉 売上651億7,800万円〈2024/3〉
名門ポイント:ENEOS和歌山石油精製(海南市)は、ENEOSグループで最小クラスの製油所ながら、2024年3月期売上高は651億7,800万円を計上した。原油常圧蒸留装置の処理能力は日量120,400バレルで、潤滑油原料と燃料油原料を並行処理できるフレキシブルな構成が特徴である。グループ再編で基幹設備の段階的停止が進む一方、跡地を活用して年間40万kL規模のSAF(持続可能な航空燃料)量産拠点を整備する計画を三菱商事と共同で検討中であり、県・市も「未来環境供給基地」としてGX拠点化を支援する方針を示している。これにより製造段階のCO₂排出を約3割削減する目標が掲げられ、地域雇用を維持しつつ脱炭素燃料への転換を図るモデルケースとして期待が高い。
5 位 松源〈和歌山市〉 売上 786億円〈2025/2〉
名門ポイント:松源(和歌山市)は、和歌山25・大阪18・奈良2・京都1の計46店を展開し、2025年2月期の年商は786億円と過去最高を更新した。売上は前期比約104%となり、生鮮強化型フォーマットを軸に近畿4府県でドミナントを深めている。2025年5月には楽天ペイメントと連携し、全店に多機能チャージ機を設置。銀行口座から「松源Edy―楽天ポイントカード」へ直接チャージできる仕組みを導入し、キャッシュレス決済の利便性を高めた。環境面では、再生PETトレーなどを採用して年間約465トンのCO₂削減を公表するなど、脱炭素への取り組みも具体化している。岩出物流センターとプロセスセンターを核にした鮮度追求モデルを磨きつつ、デジタル投資との相乗効果で地域密着経営を強化する構えだ。
4 位 紀陽銀行〈和歌山市〉 経常収益 867億円〈2025/3 連結〉
名門ポイント:紀陽銀行の2025年3月期連結決算では経常収益が867億円となり、前期から126億円増加した。貸出金利息は62億円伸び、資金利益も96億円増と、本業利ザヤの改善が増収をけん引している。医療セクター向けには上限2億円の「ドクターズローン」を提供し、診療所の新規開業や設備更新資金を支援。観光分野では串本町の古民家ホテル化計画に対して日本政策金融公庫と協調で資本性ローンを実行し、地域観光投資のモデル事例とされた。さらに堺市の「堺DX推進ラボ」参画や行内の「デジタルストラテジー2.0」により、地元企業のデジタル化支援と行内業務効率化を同時に進めている。以上の取り組みにより、同行は医療・観光・DXという成長領域で収益機会を広げつつ、預貸利回差の改善を2期連続で実現した。
3 位 エバグリーン廣甚〈湯浅町〉 売上 980億円〈2025/2〉
名門ポイント:エバグリーン廣甚(湯浅町)は2025年2月期に売上高980億円を記録した。マイナビ会社概要によれば、和歌山・大阪・奈良でドラッグ&食品複合店を中心に50店舗超を展開し、従業員は4,400人に達する。同記事は店舗併設型「エバグリーン薬局」が和歌山17店・大阪3店・奈良1店へ広がり、地域医療を担うと紹介する。物流面では2025年3月、全店に需要予測型自動発注システム「sinops-CLOUD」を導入し、発注精度とセンター負荷を改善したと物流専門メディアが報じた。さらにネットスーパー「エバ宅」は生鮮品や日用雑貨を最短当日に届ける即日宅配を打ち出し、デジタル販路を強化している。食品・医療・ECを一体化した地域密着モデルが、県内トップクラスの売上規模を下支えしている。
2 位 ノーリツ鋼機〈和歌山市〉 売上 1,065億円〈2024/12 連結〉
名門ポイント:ノーリツ鋼機(和歌山市)の2024年12月期連結売上収益は1,065億円と、旧中計FY25目標を1年前倒しで突破した。収益の58%を担う音響機器では、子会社AlphaThetaが「Pioneer DJ」ブランドでDJ機器世界トップシェアを維持し、米国JLabのイヤホン事業も加速している。部品・材料分野ではテイボーホールディングスが筆記具・コスメ向けペン先を年間50億本供給し、世界首位級のシェアを確立。多孔質技術を応用したMIM(金属射出成形)部品へ領域を広げる。2025年2月発表の中期経営計画「FY30」では、売上収益CAGR10%以上とROE10%超を掲げ、周辺事業M&Aに最大400億円、新領域M&Aに600〜1,000億円を投入する投資枠を示した。これにより2030年に売上1,900億円超を目指し、DJ機器・高機能部品の両輪で持続的成長を図る構えだ。
1 位 オークワ〈和歌山市〉 売上 2,501億5,000万〈2025/2 連結〉
名門ポイント:オークワ(和歌山市)は2025年2月期連結営業収益2,501億5,000万円を計上し、過去最高を更新した。近畿・東海8府県に154店を展開し、SSM・スーパーセンター・ディスカウント「プライスカット」の3業態を軸にドミナントを強化している。富士通の需要予測SaaS「ODMA」を全店導入し、AIが客数を動的に推定して自動発注精度を高め、廃棄ロス削減に寄与している。さらに中部電力ミライズと協業し、8店舗でオンサイト/オフサイトPPAを活用して店舗電力の約50%を再生可能エネルギーで賄う取り組みを進めるなど、脱炭素経営も加速している。
総評
ランキング上位には食品スーパー3社と地方銀行が並び、県民の生活インフラを支える構図が色濃い。一方で横編機の島精機製作所や音響機器に強いノーリツ鋼機が外貨を稼ぎ、石油精製や建機レンタルが中位層を厚くする。生活密着型と輸出型が併存する多層産業は、再エネ導入と DX投資を共通課題に2025年度も再編が続く見通しである。