
2025年上半期(1〜5月)、企業活動の実態を映すPR TIMESのプレスリリースランキングが公表された。発表件数は過去最多となる17万6625件に達し、社会や経済の変化を反映したキーワードが軒並み上位にランクインした。ランキングでは「AI」「人材育成」「海外出店」などが急伸し、企業の課題意識と投資の方向性が鮮明となっている。
生成AIからAIエージェントへ、キーワードは“行動”へ進化
総合ランキング2位に浮上したのは「AI」。件数は7261件(前年比+53.5%)に達し、5月単月では1位となった。「生成AI」(8位、4022件、+64.4%)に加え、「AIエージェント」は前年の87倍となる870件を記録。注目すべきは、その内容が「対話」から「行動」へと軸足を移している点だ。
カスタマーサポートや業務自動化、教育などにおいてAIエージェントの実装事例が増加。企業は単なる“導入アピール”ではなく、事業変革の中核としてAIを捉え始めている。6月4日に公布されたAI新法もその流れを後押しし、企業発表のトピックは技術の社会実装段階へと踏み込んでいる。
人材育成に光 「研修」や「組織開発」キーワードが上昇
人的資本経営の影響は広報にも及んでいる。「研修」は前年同期比1.6倍の799件に達し、「人材育成」「組織開発」も増加傾向にある。研修支援サービスの発信だけでなく、自社の育成制度を対外的にアピールする企業が目立つ。

とくに新年度を迎える4月には「入社式」関連のリリースが156件と過去最多に。人手不足対策と人的資本開示の制度対応という2つの背景が、こうした発信を後押ししている。並行して「業務効率化」(+1.6倍)や「DX」(6367件、前年比V字回復)も伸びており、人材確保と生産性向上の両立が広報トピックに表れた形だ。
新店舗ラッシュ 地方と海外、再開発と体験価値に焦点
企業の成長意欲は出店戦略にも見て取れる。「新店舗」関連のリリースは前年比2.1倍の1005件。とりわけ東京都(+1.8倍)、大阪府(+2.4倍)に加え、宮城県(+7.5倍)、広島県(+4.3倍)など地方都市でも伸びが目立つ。
出店業態では“体験型”や“専門特化型”の店舗が台頭。モノ消費からコト消費へ、店舗そのものを「伝える価値」と捉える企業が増えている。加えて海外展開も活発で、アジア圏を中心に「初出店」や「現地協業型」のリリースが前年比3倍に。公的支援や円安効果を追い風に、ブランドプレゼンスの確立を目指す動きが加速している。
“老舗の挑戦”と“包摂性”への関心の高まり
特筆すべきは「老舗」「アクセシビリティ」の急伸だ。老舗企業による新規事業やコラボ商品など、2025年は前年の2.1倍の122件を記録。あわせて「伝統工芸」も約1.7倍に増加し、既存資産を活かした新たな価値創出への試みが広報にも表れている。

また、「アクセシビリティ」は前年比2.4倍の114件。製品やサービスのユニバーサルデザイン対応など、誰もが使いやすい社会を目指す姿勢が企業のブランド価値向上と結びついている。広報の現場でも“社会的包摂性”を可視化するキーワードとして定着しつつある。
“世の中の動き”を投影する広報の進化
こうした傾向について、PR TIMESのPR・IRチームで分析を担当した杉本秋氏は次のように述べている。

杉本さん
「今年の上半期キーワードランキングでは、世の中の動きがプレスリリースにより明確に投影されていることが見て取れました。発信する側が社会の変化をどう捉え、どんな文脈で伝えるのか。その視点がますます重要になっています。プレスリリースはもはや報道関係者だけでなく、ステークホルダー全体に語りかける“対話の入り口”になってきていると感じています」
この言葉からも、プレスリリースが単なる情報伝達ツールを超え、企業の戦略や哲学を社会に可視化する役割を担っていることが分かる。
今後も社会の動きがどのように企業広報に反映されるのか、キーワードの変遷を通じて読み解いていく意義は増していくはずだ。