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マンジャロ“痩せ薬”ブームに潜む落とし穴 キャバ嬢・ホスト界隈で拡大する使用実態とその代償とは

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売れすぎてライバル企業ノボノルディスクCEOは更迭!

マンジャロ

マンジャロの勢いが凄まじすぎて、ついに5月16日、ライバル企業・ノボノルディスクのCEOが更迭される事態にまで発展した。肥満症治療薬をめぐるグローバル競争は、いまや経営トップの命運すら左右する苛烈な様相を呈している。

そんな世界の製薬市場を揺るがす注射薬「マンジャロ(一般名:チルゼパチド)」が、いま日本の夜の街でも異変をもたらしている。糖尿病治療薬として開発されたこの薬が、キャバクラ嬢やホストなど接客業の若者たちの間で“痩せ薬”として流行しているのだ。

SNSでは「マンジャロで5キロ痩せた」「注射1本で食欲が消えた」といった投稿が相次ぎ、美容クリニックでも自由診療での処方が急増中だ。だが、その裏では、思わぬ代償を払う人々の声が聞こえてくる。

 

痩せるけれど、売上が落ちる 華やかな水商売の裏で広がる“注射ダイエット”

「確かにマンジャロを打ってから食欲は落ちました。太らないのはいいんですけど、お酒が全然飲めなくなったんです」

そう語るのは、都内・歌舞伎町で働く23歳のキャバクラ嬢・Aさん。以前は1日5〜6杯のシャンパンを笑顔であおっていたが、マンジャロ使用後は「一口で吐き気がして、盛り上げ役すらできなくなった」と言う。

「売上は月100万円以上あったのに、半分以下になりました。痩せても意味がないじゃん、って思いましたね」

ホストクラブで働く25歳の男性・Bさんも、同様の経験を語る。

「顔がシュッとしてイケメン度が上がったって言われたけど、マンジャロ使ってるとマジで酒が入らない。俺らにとって酒は武器だから、客が盛り下がるんですよ」

現在は使用頻度を月1から2か月に1回に減らし、「見た目の維持」と「接客のバランス」の狭間で揺れているという。

 

医師も警鐘「もともと糖尿病の薬。副作用もある」

美容目的でのマンジャロ使用について、都内の糖尿病専門医は次のように語る。

「マンジャロはれっきとした糖尿病薬であり、本来は厳密な血糖コントロールの一環として使われるべきものです。吐き気、下痢、便秘などの消化器症状に加え、まれに低血糖や膵炎を引き起こす可能性もあります。体重減少はあくまで副次的効果であり、美容目的での長期使用は推奨できません」

また、食事摂取が著しく減ることで、身体に必要な栄養素が不足し、肌荒れやホルモンバランスの崩れといった二次的な健康リスクも報告されている。

 

SNSで知り、クリニックで入手 “痩せ薬ルート”の実態

では、キャバ嬢やホストたちは、マンジャロをどのようにして入手しているのか。

多くは、TikTokやInstagram、X(旧Twitter)などSNSでの“ビフォーアフター投稿”を見て知り、都内の美容クリニックに駆け込むケースが多い。特に「GLP-1ダイエット」や「週1回の注射で痩せる」と謳う広告が頻繁に表示され、ハッシュタグ「#マンジャロダイエット」で検索すれば、劇的な変化を見せる投稿が次々と現れる。

実際、歌舞伎町のキャバクラで働く20代女性によると、こう語る。

「同伴の後にお客さんが美容クリニックを紹介してくれて、“これ絶対いいから”ってマンジャロをすすめられたんです。周りの子もみんな打ってるから、ちょっとでも太ると“今週打った?”って会話になるくらい」

美容目的の処方は保険が適用されないため、自由診療となる。都内のあるクリニックでは、初診料・採血込みで初回が約2万円、2回目以降は1本2万5000円前後が相場だ。施術はなく、医師の問診と簡単な健康チェックののち、ペン型注射が処方される。使用方法は自宅で週1回、腹部などに自己注射する形式で、「慣れれば簡単」「ボトックスより楽」といった声も見られる。

さらに最近では、オンラインでマンジャロを処方してもらえるサービスも急増している。「DMMオンラインクリニック」「スマルナ」「イーライフ(eLife)」といったプラットフォームでは、スマートフォンから問診票を入力し、医師の遠隔診察を受けた後、自宅に薬剤が配送される形式をとっており、対面診察を受けることなく手軽に“痩せ薬”が入手できるようになっている。

中には、SNSで処方クリニックを紹介し合う“口コミルート”も存在し、「紹介コードを使えば割引になる」といったPR的な要素も混ざっており、薬剤の医療的価値が軽視されている現実もある。こうした流通の簡易化が、“打つことのハードル”をますます下げてしまっている。

グローバル市場でも激化する“痩せ薬”競争 ノボノルディスクCEOが更迭

 

その結果だろうか、キャバ嬢やホストのトレンドとはバタフライエフェクトばりの薄い因果かもしれないが、デンマークの製薬大手ノボノルディスクは16日、ラース・ヨルゲンセン最高経営責任者(CEO)の退任を発表した。取締役会との双方合意に基づくものであり、「市場環境の課題」「株価低下」「ノボノルディスク財団の要望」などを理由に挙げた。理由は明白だ。世界的に、マンジャロやゼップバウンドを要するイーライリリーの勢いに負けているからに他ならない。

ヨルゲンセン氏は1991年からノボノルディスクに在籍し、2017年にCEOに就任。時価総額を3倍以上に成長させた実績がある一方、肥満症治療の新薬候補が十分な治験結果を出せなかったことや、米イーライリリーとの競争激化により、同社の株価は過去1年で53%も下落した。

ノボノルディスクは、糖尿病治療薬「ウゴービ」や姉妹薬「オゼンピック」を市場に先駆けて投入していたが、現在はイーライリリーの「ゼップバウンド」や「マンジャロ」に市場シェアを奪われている。BMOキャピタル・マーケッツの予測では、「マンジャロ」は2026年8月までにオゼンピックの販売規模に並ぶと見込まれている。

一方、イーライリリーの株価は、ニューヨーク市場の時間外取引で一時1.4%上昇した。

「流行ってるから」は危険 自己責任の落とし穴

 

現在、マンジャロの美容使用は健康保険が適用されない自由診療扱いで、1回あたり2〜3万円前後の価格で提供されている。高額な自己負担であっても、「SNSでバズってる」「痩せたい」という一心で手を出す若者は後を絶たない。

だが、安易な使用はビジネス面にも健康面にも影を落とす。美しさの追求が逆に職業的パフォーマンスを損ね、メンタルにまで悪影響を与えるケースもある。

「マンジャロは魔法の痩せ薬じゃない。飲食を伴う接客業の人間にとっては、むしろリスクになる」と語る現場の声を、今こそ重く受け止めるべきではないか。

痩せるための“近道”が、人生の遠回りに

 

短期的な外見の変化に惑わされることなく、自分自身の身体と仕事とのバランスをどう保つか。マンジャロの流行は、美容と健康の境界線の曖昧さを突きつけている。「打つ」前に立ち止まり、必要な情報とリスクを十分に理解することが今、求められている。

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ライター:

株式会社Sacco 代表取締役。一般社団法人100年経営研究機構参与。一般社団法人SHOEHORN理事。株式会社東洋経済新報社ビジネスプロモーション局兼務。週刊誌・月刊誌のライターを経て2015年Saccoを起業。 連載:日経MJ・日本経済新聞電子版『老舗リブランディング』、週刊エコノミスト 『SDGs最前線』、日本経済新聞電子版『長寿企業の研究』

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