
従業員が出勤しているのに業務効率が低下する「プレゼンティーズム」、欠勤が続く「アブセンティーズム」。これらが企業の利益を圧迫していることをご存じだろうか。生産性向上のカギは、健康経営にあった。データと事例を交えながら、その対策とメリットを解説する。
健康経営で注目される「プレゼンティーズム」「アブセンティーズム」
企業が抱える「見えない損失」の代表格が「プレゼンティーズム」と「アブセンティーズム」だ。これらは従業員の健康問題が原因で発生し、企業の生産性や利益に直接的な悪影響を与えている。
1. プレゼンティーズムとは?
「プレゼンティーズム」とは、出勤しているにもかかわらず、体調不良や心身の問題でパフォーマンスが低下する状態を指す。花粉症、頭痛、腰痛、うつ状態、睡眠不足などが主な原因であり、表面的には就業していても、成果や効率が大きく落ちている状態である。厚生労働省の「データヘルス・健康経営を推進するためのコラボヘルスガイドライン」によると、企業の健康関連コストのうち77.9%がプレゼンティーズムに起因するという。
2. アブセンティーズムとは?
「アブセンティーズム」は、欠勤や休職など、業務に参加できない状態を指す。たとえばうつ病による長期休職などが含まれる。こちらは欠勤という形で目に見えるため対応がしやすいが、企業活動に与える影響も少なくない。
「プレゼンティーズム」と「アブセンティーズム」が発生する原因
1. 職場文化の影響
日本では「体調が悪くても出勤するのが美徳」とする風潮が根強い。このため、従業員が無理をして出勤し、プレゼンティーズムの状態に陥るケースが少なくない。
2. 生活習慣の乱れ
睡眠不足や運動不足、偏った食生活は、体調不良を引き起こし、プレゼンティーズムやアブセンティーズムの原因となる。
3. ストレスやメンタル不調
過度な業務負担や人間関係のストレスは、集中力の低下や意欲の減退を招き、結果的にプレゼンティーズムやアブセンティーズムの要因となる。
4. 不適切な職場環境
温度や湿度が適切でないオフィス環境、デスクや椅子の配置が身体に負担を与える環境では、従業員のパフォーマンスが著しく低下する。
プレゼンティーズムとアブセンティーズムが企業に与える影響
1. 生産性の低下
厚生労働省のデータでは、健康リスクが高い従業員の損失コストは年間平均172万円、一方で低リスク群は約59万円にとどまるという結果が示されている。1,000人規模の企業では、年間5億円を超える損失につながる恐れがある。
2. 経済的負担の増加
プレゼンティーズムやアブセンティーズムが発生すれば、医療費や保険費が増加するだけでなく、欠員補充のための採用コストがかさむ。
3. 退職リスクの上昇
体調不良が続くことで、従業員が退職するリスクが高まり、結果として企業の人材流出につながる可能性がある。
健康経営による「プレゼンティーズム」「アブセンティーズム」対策
1. 健康診断の受診率向上
従業員の健康状態を把握し、リスクの早期発見と予防策を講じるために、健康診断の受診率向上が不可欠だ。
2. 生活習慣改善のサポート
食事の改善や運動習慣の定着を促す取り組みが、従業員の健康増進につながる。具体的には、健康的なメニューの提供や運動プログラムの導入が有効だ。
3. メンタルヘルス対策
ストレスチェックの実施やカウンセリング窓口の設置など、メンタル不調の早期発見と対応が重要である。
4. 職場環境の整備と「健康経営オフィス」の推進
経済産業省が推進する「健康経営オフィス」では、健康を保持・増進する7つの行動(快適性を感じる、コミュニケーションする、休憩・気分転換する、体を動かす、適切な食行動をとる、清潔にする、健康意識を高める)を誘発する環境づくりが重視されている。これにより、プレゼンティーズムやアブセンティーズムの予防につながることが「健康経営オフィスレポート」によって明らかになっている。
健康経営の実践例に学ぶ
以経済産業省が出している「健康経営オフィスレポート」内に開示されている健康経営の実践企業の一部を紹介する。
アマゾンジャパン株式会社
アマゾンジャパンでは、オフィス内にボルダリングウォールを設置し、従業員が仕事の合間に気軽に体を動かせる環境を整備している。これにより、長時間の座り作業による身体への負担を軽減し、リフレッシュ効果が得られる。また、社員食堂では栄養バランスを考慮した健康的なメニューを提供し、食生活の改善を支援している。さらに、従業員の声をもとにしたオフィス改善を定期的に実施しており、働きやすさと快適性の向上を図っている。
伊那食品工業株式会社
「会社は人のためにある」という理念を実践する伊那食品工業では、企業敷地を公園として整備し、地域住民にも開放している。従業員は毎朝、敷地の清掃活動に自主的に参加しており、地域とのつながりを育んでいる。また、社員食堂では化学調味料や農薬を抑えた食材を使用し、健康的なメニューを提供。社内の健康パビリオンでは骨密度や血圧などの測定が可能で、従業員の健康意識を高める取り組みが実施されている。
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